いよいよ時間に猶予がない
嬰児9体目の遺骨で、魂を引き出せる大きさのものがようやく見つかったとのこと。魂の確保のために俺と千歳は本白神社に赴いた。本白神社では、緑さんと金谷あかりさんが待っていた。緑さんが言った。
「千歳ちゃん、気をつけてね」
千歳はきょとんとした。
『何かまずいことあるのか?』
『堀江桃香さんを確保したでしょ。和束みやびは堀江さんが捕まったってわかってるだろうから、いよいよ追い詰められてることは理解してると思うの。だから、9体目で何か仕掛けてくるかも』
ああ、それは確かに。
「千歳、いつもより相手が強くても大丈夫?」
『多少なら強くても大丈夫だと思うけど……うん、がんばる』
千歳は真剣な顔になり、遺骨に相対した。守り刀を取り出し、吸血鬼の王からの手鏡を持ち、和束ハルの術式に触れる。遺骨から黒い球体が飛び出し……大きい! いつもの倍くらいある!
『こっちだ!』
千歳は球体を受け止めたが、ちょっとよろめいた。体勢を立て直して、守り刀を球体に刺そうとして……球体がものすごい勢いで震えだした。
『な、なんだ!?』
「千歳!」
すると、遺骨に黒い点が生じた。点はみるみる広がり、昏い穴となる。その穴から、巨大な手がぬっと出てきた。
鬼のように赤く、爪の尖った手。それが千歳に迫った。
『……!』
千歳はとっさに守り刀で斬りつけた。しかし弾かれてしまい、巨大な鬼の手は千歳の傍らの物を狙った。
これまで確保した魂8体を収めた、閻魔大王様からの小箱。
「千歳! まずい!」
『こいつ! この野郎!!』
千歳はまた手に斬りつけようとしたが、9体目の玉が千歳にぶつかってそれを防ぐ。緑さんとあかりさんが何か白いものをたくさん飛ばした。
「式神!」
「拘束して!」
和紙でできているらしき式神は鬼の手に巻き付き、動きを妨げようとしたが効かなかった。鬼の手は小箱を掴んだ。
「効かない……!?」
『クソッ! 返せ!!』
しかし、鬼の手は一瞬で穴に引っ込んでしまった。
千歳は穴に飛び込もうとしたが、9体目の玉が千歳にどーんとぶつかって千歳をよろめかせた。その隙に、玉は穴に飛び込んでしまい、そして穴は閉じた。
俺はうめいた。
「やられた! 完全にやられた……」
これまでの努力が水の泡。子ども工場で生まれ、殺された9人の魂は和束みやびのもとに戻ってしまった。
千歳が『失敗しちゃった……』とうつむいた。緑さんが言った。
「でも、式神はついていかせたわ。これで居場所を特定できるはず」
俺はつぶやいた。
「でも、早く行かないとアタリの子が危ないかも……」
和束みやびは、自分が追い詰められていると気づいている。アタリの子が育つまで千歳を模した複合体を作る気はなかっただろうが、予定を早めるかもしれない。
そのことを話すと、その場全員の顔が引き締まった。あかりさんが言った。
「急ぎます。式神の居場所は改めて術をかければ特定できるので」
「わかりました」
失態だ……しかし居場所、おそらくは清流村のどこにいるかは特定できる。いよいよ大詰めだ。




