とにかくすぐに保護したい
緑さんとあかりさんはびっくりしていた。
「どういうことです!?」
「今の声、和泉さんのファンの人ですよね!?」
俺は思い当たった。あの5歳くらいの子を怒ろうとすると、家でポルターガイストが起こる。つまりあの子が家で暴力を振るわれそうになると、ポルターガイストが起こる、そういうことだったのか!
と、とりあえず助けに行かなきゃ!
「千歳! おっきい男の人になってついてきて!」
『わ、わかった!』
俺は千歳を伴って、すっ飛んで地下駐車場に向かった。スピーカーにしてあるスマホが叫ぶ。
[駐車場で収納されている車が来るのを遅らせている! 時間を稼ぐから!]
「ありがとう!」
地下駐車場につき、辺りを見回しながら駆け抜けると、さっきの西尾家族がいた。西尾氏はなんかスッキリした顔をしていて、さっきの男の子は尻もちをついていて、鼻血を出してべそをかいていた。
俺は思わず「どうしたんですか!!」と叫んだ。西尾氏がこちらを見た。
「なんだなんだ、一体」
「その子! どうしたんですか!?」
「あ、あー、こいつ今転んじゃって、何でもねえ、もう帰るから」
とにかくこの子の安全確保が第一だ、なんとでも理屈をつけて父親から引き剥がさないと。
俺は口から出任せを言った。
「そのっ! 家についてる霊なのは確かなんですけど、その子が引き金な可能性があるので、ちょっとその子しばらくこちらで預からせていただけませんか!」
西尾氏も奥さんも困惑した。
「はあ?」
「え、ええ……?」
俺は重ねて言った。
「この子が家にいるとポルターガイストが起きる可能性が高いので! 皆さんが安全に家で過ごすために、しばらくこの子を預からせていただけませんか!」
奥さんのほうがおろおろしだした。
「い、いきなり言われても……着替えとか……」
「まとめておいてくださればあとで取りに行きます! 千歳、連れてって!」
『う、うん、ほら、おいで』
千歳は男の子のそばに行き、抱き上げた。
『ほーら、痛かったな、大丈夫だからな』
「うん」
男の子は千歳にしがみつき、鼻をすすりつつも頷いた。西尾氏は微妙な顔をしたが、千歳がでかくてゴツいので手が出せない感じだ。千歳は5歳の子に語りかけた。
『とりあえず、上で鼻血どうにかしような』
俺は西尾家族に「そういうわけで! すみません!」と叫び、千歳を促して急いで上階に上がった。
篩建築事務所分所に戻り、緑さんたちに迎えられる。
「どうしたの!? 鼻血!」
奥にいた事務の人が「救急箱ありますよ!」と箱を出してきてくれた。ありがたく使わせてもらい、男の子の涙を拭いて鼻に脱脂綿を詰める。
「痛かったね、もう大丈夫だからね」
緑さんが男の子に「僕、お名前は?」と聞いた。
「やまと!」
千歳が大和君の頭をなでた。
『よーしいい子だ大和、まだ痛いか?』
「ちょっと痛い」
俺も大和君の頭をなでた。
「怖かったね、でも、俺たちが大丈夫にするからね」
「うん、おじちゃんありがとう!」
「お、おじちゃん……」
そ、そりゃ32じゃお兄さんは厳しいが、わかっちゃいるが、いざおじちゃんと呼ばれると普通に傷つくぞ!
千歳は元の二十歳の姿に戻って言った。
『ワシは千歳っていうんだ』
「ちーちゃんって呼んでもいい?」
『いいぞー』
「おじちゃんは和泉って言うよ。大和君あんまり思い出したくないかもしれないけど、大和君のお父さんはいつも大和君のことを蹴るの?」
「うん、たたくのもある。お酒飲むといっぱいたたく」
「そうか……今のおうちになってからは?」
「ちょっとたたかれたけど、そしたら家がガタガタっていうようになっちゃって、物が落ちてきたり、お父さんの頭に当たったりして、お父さんがたたこうとしたらガタガタするようになっちゃった」
「そうなの……」
千歳が言った。
『大和君、とりあえず、今日はうちに泊まるか?』
「お泊まり!?」
大和君の目が輝いたので、俺はホッとした。
「千歳がそう言ってくれると助かる」
とにかくすぐ大和君を保護しないとと飛び出してしまったから、保護した後のことを全然考えてなかった。うちで面倒見るしかないわけだが、俺がそう思っても千歳がそう思わないかもしれなかったから。
その後、俺のファンから虐待の証拠画像が送られてきた。監視カメラの映像と、西尾氏のスマホからの音声だそうだ。映像では、西尾氏は大和君を蹴り飛ばした後「何だ! 家じゃなきゃ何も起きないのか! やっぱこれからもこいつ殴っていいんだ!」と喜んで言っていた。緑さんがつぶやいた。
「これだけで証拠としては十分ね……」
『ひどいな……』
俺は言った。
「俺のファンの人、こういうことで嘘つかないので、すぐ行ってよかったです」
あかりさんは流石に怯えていた。
「私、こんな人がいる家に明日行かないといけないんですか……?」
『怖かったら、ワシごつい男になってついてくよ』
「お願いします……」
救急箱を出してくれた事務の人が、西尾氏宅に大和君のお泊りセットを取りに行ってくれるとのことだったので、俺たちはあかりさんの運転で大和君を家に連れていくことになった。




