素直な気持ちを伝えたい
おばあちゃんにバラの写真を送って退院を伝えたら、「退院したならビデオ通話したいわ」と言われたので、タブレットでビデオ通話することにした。頭のハゲを見抜かれないように、しっかり医療用帽子被らないと。
画面越しのおばあちゃんは元気そうだった。
「ひさしぶりねえ、あら、おしゃれな帽子ねえ豊ちゃん」
「ありがとう」
「もう大丈夫なのお? やせちゃったみたいだけど」
「あ、うん……」
おばあちゃんは少し眉を寄せ、それから少し表情を和らげて、優しく俺に聞いた。
「ねえ、骨折じゃないでしょう? それだったら、もっと早く退院するはずだもの」
それは、小さい頃の俺が何かした時に、声を荒げることはしないものの、きっちり叱る時の声音だった。
「うっ……」
「おばあちゃん、嘘つかれたら悲しいわあ」
あ、あわわわわ。思いっきり気づかれてる。
俺は、嘘を突き通すことを諦めた。
「あの、その、今は治ったから落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「やっぱり、悪い病気だったのお?」
「その、治ったから本当に落ち着いて聞いてほしいんだけど、今はもう大丈夫だから落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「なあに?」
「がんで……入院してた」
おばあちゃんは目を見開いた。
「ええ!? がん!? あのがん!?」
「あのがん。あのさ、精巣がんって言って、その、たまたまが片方がんになっちゃって、片方取って、あと肺に転移があったから抗がん剤で2か月入院」
「まあ、まあ、まあ……」
おばあちゃんは口に手を当てて、呆然の表情だ。そりゃそうだろう。俺は重ねて言った。
「でも今は治ったから。本当に大丈夫だよ」
「なんていうこと……そんな、若いのに……」
「若い男に多いがんなんだって。今は本当に大丈夫だから」
「そうだったの……」
おばあちゃんはうつむいた。俺は言い訳した。
「心配かけたくなかったんだ」
「でも、嘘をつかれたのは悲しいわあ」
「ごめん、心配させると思って……」
おばあちゃんは首を傾げた。
「入院中、千歳さんとはどうしてたの?」
「千歳? ああ、ずっと何くれとなく俺のこと世話してくれて……もう本当に、頭が上がらない」
「そうなの……そうね、豊ちゃんはおばあちゃんじゃなくて、千歳さんがいれば大丈夫なのね」
「うん、大丈夫大丈夫。入院中いろいろあって、千歳、一生一緒にいるって言ってくれたし」
「あらあらまあ」
おばあちゃんは、驚きつつも嬉しそうにした。台所仕事してた千歳がすっ飛んできた。
『ず、ずっと一緒にはいるけど! 誤解されるような言い方はちょっと!』
おばあちゃんは千歳の姿を認め、そして微笑んで頭を下げた。
「本当にねえ、豊ちゃんをよろしくお願いしますねえ」
『う、は、はい……』
俺が前に強めにお願いしたこともあって、千歳はおばあちゃんに強めに言えないのだろう。
後は、おばあちゃんといろいろ近況を伝え合って終わった。相変わらず、栗田さんとラブラブだそうだ。
午後、緑さんと九さんがうちに来た。退院祝いを持ってきたとのことだが、話もあるそうだ。
緑さんは高いブランドの水出しライム紅茶、九さんは回復作用のある自家製柿の葉茶をくれた。
緑さんが言った。
「本当に退院おめでとうございます。病み上がりで申し訳ないんですけど、和束みやびの件の現状を軽くお伝えしようと思って」
「はい、お伺いします」
緑さんが話す所によると。
遺骨についてはどの遺骨が誰か整理が進み中、時間はかかるがあと一人の魂を引き出せる程度には整理できるのではないかということ。吸血鬼軍団は各地の宅配営業所に出入りする人間を監視しているが、和束みやびも和束美枝さんも見当たらないそうだ。第三の協力者の可能性も含め、どの宅配所にも現れる人物がいないかデータを突き合わせて確認中とのこと。和束みやびの新たな動きは、なし。
「そんな感じです。調べは進めてますけど、特に何も進展してませんね」
『ワシも知らなかった』
「千歳ちゃんも大変だと思ってね、大きな動きがなければこの件に関してあんまり触れないようにしてたの」
『そっかあ、ありがとう』
九さんが口を開いた。
「妾は別の用事での。前に見舞いに行った時も言ったが、うちに湯治に来んか?」
「あ、そう言えばそういうお話をくださいましたね」
「体が早く治るぞ。3、4日逗留せい」
「それは助かります、お伺いしたいです」
だいぶ消耗してるし、回復効果のある九さんちのお湯に浸かれたら本当にありがたい。こんな願いはよこしまだが……下半身に対しても何らかの効果あるかもしれないし!
千歳が九さんに聞いた。
『ワシも行ってよかったよな?』
「もちろんじゃ。お主も気疲れしたじゃろ」
九さんは優しく笑った。
『ありがとう!』
それから、九さんは首を傾げて俺たちに聞いてきた。
「緑に少し聞いたが、結局お主らどうなったんじゃ?」
ああ、俺が千歳に告白したこと、話広まってるのか。
俺は苦笑して言った。
「フラれました」
九さんは「おや」と言い、緑さんは「あら」と口を開けた。千歳が怒った。
『ハイっていう訳ないだろ! ワシじゃ子供産めないんだぞ!』
「知ってて言ったんだよ、俺は」
俺は九さんと緑さんに改めて説明した。
「千歳、私が他の人と子供持つより千歳といることが大事ってなかなか信じてくれなくて……なら、私が一生独身でいたら信じてくれるかなと思って、今それを実行中です」
九さんはぽかんとした。
「はあー、なんとまあ」
緑さんは「情熱的……」とつぶやいた。千歳はまたぷんぷんした。
『絶対させないからな! いい女見つけて子供作れ!』
「無理だなあ」
俺は千歳に微笑みかけた。
『諦めるな!』
九さんが少し安心したように言った。
「まあ、お主らの仲が良いままでよかった」
緑さんが頭を下げた。
「これからも千歳ちゃんと二人で一緒に、よろしくお願いします」
「はい」
『一緒にはいるけど! ワシ諦めないからな!』
千歳は吠えたものの、九さんにも緑さんにも「仲良くするがいい」「ずっと仲良くね」と笑顔で返されて、むくれていた。
俺の下半身は、相変わらずどうにもならない。しかもフラれてる。でも、千歳を好きな
気持ちを隠さなくて良くなったのは、本当に気が楽だ。
これからも、折に触れて好きだよって言い続けても、いいかな?




