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第150項「線香花火」

花火を見終わった人達が会場に停めていた車に乗り込み後にしている様子を見ながら俺は線香花火を完全に消すために水を張ったバケツを両手に抱えながら待機する。


今日最後の仕事は、読モの人達は着ている浴衣の色と線香花火から放たれる光が合わさる瞬間を写真に収めてこのデータがどこかの機会で世の中に解禁されるのであろう。


アシマネの人は光を失った線香花火を回収し全部一度水に浸してから処分するところまでが今日の最後の仕事らしい。


俺は線香花火を1ダースとライターを右手に水を張ったバケツを左手で抱えて舞美さんが待っている所に行く。


駐車場は朝来た時は太陽の光があったので周りも良く見えたのだが、現在は空は暗いし電灯もその場所の端にあって意外と本数が無いので照らされている場所が少ないので舞美さんがどこに居るのかが分からないので必死に探す。


彼女の浴衣は光がある場所では輝きを放つエメラルドグリーンの色使いである生地であったが、暗闇に混ざってどこに居るんだ…。


俺は舞美さんが浴衣以外で何か特徴が無かったか思い出す。


巾着袋は携行していたか…。いや、撮影の時は所持していなかったなぁ…。


髪飾りは何かつけていたか…?


思い出せ…。

派手な髪飾りは付けていなかったけど珍しく黄色い髪留めをしていたような気がする。

本人にはいつもとは違う髪留めであることを伝え忘れたけど…。


あの人はどこだ?


「お~い!高島君~?どうしたの?そんな必死な顔をして」

誰かに左肩を突っつかれたのを感じて声をかけてきた人の方へ首を回す。


「あ…。せせらぎさん…。ま、舞美さん見ませんでしたか?俺が線香花火セットを取りに行く前にここら辺に居た気がたんですけど」


「舞美ちゃんって確かエメラルドグリーンのような色の浴衣だよね?私はさっき見たけど、どっかお手洗いとかにでも行っているんじゃない?数分待っていれば現れるわよ。きっと」


「ああ、それはあるかもしれませんね。そういえば、せせらぎさんは線香花火ショットの撮影はしないんですか?」


「うん。私は午前中のBBQのショットとさっきの打上花火デートシーンの撮影で仕事は終わって線香花火カットは別のカメラ操作の人にお願いしているわ」


「そうだったんですね。朝から仕事お疲れ様です」


「それは高島君もでしょ?熱中症で倒れるまで仕事に励んでさ、仕事に対して勤勉なのは評価するけどさっき医務室でも話したかもしれないけど、自分の体調を管理できるのは自分自身なんだからしっかり頼むよ?あれから、ちゃんと水分補給して時々休憩とっている?」


「それ、はるなさんや舞美さんにも言われましたよ?俺は熱中症を少し侮って居ましたけど今日をもって怖い病気である事が分かったのでこれからの仕事では気を付けますよ。」


「それがいいね。今気づいたけど、高島君、私を“せせらぎさん”と呼んだけど下の名前。前に紹介したことあったっけ?」


「いや、さっきはるなさんと話している時に娘さんが居ることを耳にしまして。大学には行かず独学で起業方法や経営の勉強をしてファッション会社の社長として経営陣のトップに居ると聞いてその時に下の名前も教えてもらったんですよ」


「なるほど。あの人は勝手に私の下の名前を話すなんて言語道断だわ。なんで他人に話しちゃったんだろ…。私はこの名前を気に入っていないし“せせらぎ”という名前のせいで過去に揶揄われて嫌な思いをしてきたのに…」


「確かに名前でせせらぎって珍しい名前ですけど、逆に取って周りの典型的な名前とは違う事を証明できて良いと思いますけど」

「君って意外とポジティブなの?私はこの名前で何度も嫌な思いをしたのに」


「いや、せせらぎって何か和音で清涼な水の音が感じられてとても良い名前だと思いますよ。俺の推測でしか無いですけど清楚で美しい名前をつけようと思ってこういう綺麗な名前にしたと思うんですよね。実際どういう気持ちでつけたかは俺には分かりませんけど。だから、別にそこまで卑下しなくても良いんじゃないですか」


「あ、うん…。確かに私以外にせせらぎという名前は聞いたことが無いし、私だけに付けられた名前みたいで高島君に言われて周りとは少し異なる自分の名前の良さに気づけたかも…。ありがとう」


「それに今後の人生に名前について馬鹿にされたとしても自分の心の中でその名前の意味を思い出して受け流せば良いと思いますよ?そんな人にいちいち構っている必要は無いですから」


「そうだね!!今まで試験の時とかも名前を書く瞬間とかでもわだかまりとかあったけど今日を持って溶かすことができた、明日からは親につけてもらった名前に感謝して胸を張って頑張れるよ」


「それは良かったです。はるなさんから聞きましたけど、独学で勉強してファッション会社を起業するなんて凄い行動力ありますね。その話を聞いた時も俺自身ももっと頑張った方が良いなと思いましたよ」


「ああ、その話も漏れてしまったのね…。母さんはベラベラ話しすぎなのよ…。まったく…。私はね元々ねファッションモデルになりたかったのよ?」


「え、そうだったんですか?確かにせせらぎさんって舞美さんよりも身長高いですし痩せているからモデルっぽく見えますけど…。どこかでその夢を諦めたんですか?」


「そうだね。結論から言うと母親にモデルで食べ続けるのは難しいと言われてね。私は一度何かに出てみてそれでも無理なら諦めようと思ったんだけど、結局受けてみて結果は芳しくなくて諦めて大学に行く事を決めたんだけど、自分が興味ある勉強や分野が無かったからさ、モデルの側に転がる仕事を検索したらファッション関係が出てきてさ、それで自分で経営とかを勉強してファッション会社を設立しようと思ったのよね」


「自分がモデルになることを諦めたけどそこから何ができるかを調べて目標が決まってからそれに向かって独学で勉強して会社を立ち上げるなんて凄いですね…。さらに言えば、会社のトップをやりながらも読モの撮影もこなしているなんて凄いですね?」


「うん、私は綺麗で可愛い女の子を彼女らのアシマネ以外の中で一番近くの場所で眺めてフレームに収めたいからね?私にとってこの仕事はほぼ趣味みたいなものだよ」


「他の時のせせらぎさんがどういう表情をしているのかは分かりませんけど、カメラを抱えて撮影している時は良い表情をして自分の中で満足が行くまで撮影していますもんね」


「人間誰でも好きなものを前にしたらよだれが出てしまうじゃん?それが私の場合は綺麗で可愛いモデルような女の子であるというだけだよ」


「好きなものを仕事に出来るのは良いですね」


「(せ~ん~ぱ~い~~)」

後ろの方から舞美さんの声が聞こえる。


「高島君の後ろから舞美ちゃんの声が聞こえているよ。やっと見つかったね?これで線香花火出来るね」

「せせらぎさんに話しかけられて途中で舞美さんを探すのを放棄してしまいましたけどね」


「私が当社の代表取締役社長でカメラ操作の方も兼任しているという事や普段私が他人に話すことは無い苦労話が聞けたんだから良いじゃない?それに言い忘れたけど、私はさっき可愛くて綺麗な女の子が好きと言っていたけど、ちゃんと男の子も好きだからね」


「はぁ」


「ああ~?本当かよという顔をしているな…。ちょっと耳を貸して」


「何ですか?近づけて突然大きい声をあげるとかという幼稚なドッキリは勘弁してくださいよ?」

「ははは。そんな幼稚な真似は20歳を超えている社会人がする訳ないじゃない?私が好みの男の子はね、君のような仕事に対して人一倍努力で読モへのサポートも決して緩めないけど時々弱い部分が現れる人が好きなんだよ?それは誰だと思う?」


「さぁ、誰ですかね」

この人いきなり耳元で何を言っているのだろう…。


「でもたぶん私の想いというか好意は全然受け取ってくれないみたいだし、けじめをつけて次の恋に移るつもりだから別に君が後になってからもここ数カ月の私との会話の様子の意味が分かったとしてもそれに関しては今後触れなくても良いからね」


会話の様子の意味ってどういうことだ?

確かにこの人は俺に話しかけてくる時はやけにテンション高かったりフレンドリーだったよな…。


おいおいまさか好意を隠すためにそう振舞っていたという訳では無いよな…。


「何を言っているのか分からないですけど、例え後に俺がその意味について分かるか自信無いですけど、理解できたとしても触れないでおきます」


「それじゃあ、舞美ちゃんが後ろ1mに立っているから線香花火楽しむと良いよ、じゃあね」


ふっと軽い息が俺の頬に当たっているのを感じながら舞美さんを3秒ほど黙って見つめながら暗闇に消えていった…。


「先輩、あの人と何を話していたのですか?」

「別に何も話していないさ…。それよりも舞美さんはどこ行っていたんだ?探したのに全然見つからなかったし」


「すいません。お手洗いに…。その後に線香花火のオフショット撮影分は撮っちゃいましたよ」

「え、そうなの…。この線香花火どうしようか」


「オフショットでの撮影では写真の指示に従って撮ってもらうのに必死だったので線香花火自体の香りや一瞬見せてくれる表情を楽しんでないので、捨てるのももったいないですしこの12本を足元に照らして2人で遊びましょうよ?」


「分かったそうしよう。半分渡すから火つけるよ」

「はい。ありがとうございます」


火をつけるとその先から零れる火花が短い時間だけど俺らの心を癒してくれる…。


「大きさは打ち上げ花火と違うけど綺麗だな」

「ええ、打ち上げ花火も線香花火も同じ花火という言葉がついていますけどどちらも人の心を動かせるから良いですよね」


暗い空の下で膝を丸めて線香花火から放たれる光から舞美さんの表情姿が見える。


こういう楽しみ方も面白いし火花を観察し続ける時間というのも普段過ごしている時にはあんまり行わない事だ。


「俺も今日一日仕事漬けで大変だったけど、火花を見ると何か心の中まで洗浄されていく気分になるなぁ…。」


「先輩。今日一日お疲れ様でした」


「ああ。舞美さんもな」


俺らは使い切るまで線香花火を黙々と楽しむのであった。

【2022年6月29日一部改訂】

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