第149項「花火大会デートショット撮影②」
次々と俺の視線の先に休む間もなく打ち上げられる花火の音を感じながら、舞美さんの浴衣での花火デートシーンの撮影は引き続き進んでいる。
今は舞美さん1人を被写体としてデートシーンの撮影をしているようだ。
この写真がどこでどう使われるのかは俺にも分からない。
先月初めて撮影をした分が今月発売のファッション雑誌に掲載されて世間に拡がってからSNSでも評価が高かったと言っていたので、このデートシーンのカットが今後どういう媒体で販売されるとしても彼女を推すファンは増えてくれるだろうと思いたい…。
それにしても舞美さんの側でアシマネとして働き始めてから数カ月ほど経つが、仕事の度に気さくに話しかけてきたカメラウーマンがこのファッション会社の社長で、しかもはるなさんの娘さんであることをついさっき知って未だに俺は状況の整理が飲み込めていない…。
自分と同年代で、会社を立ち上げる際に必要な事項を独学で勉強して、組織のトップに立ち従業員や読モを数人雇って会社全体を動かしていて更に読モの撮影の方も並行して仕事をこなしているというのは尊敬してしまう。
俺に話しかけてくるときはふざけたりからかってきたりとテンションが常時高いなど明るい女性であることはここ数カ月で分かっては居たが、まさかあの人が会社で一番偉い人だなんて想像を超えていた。
花火の終了時間まであと30分というところで打上花火の際の浴衣デートシーンの撮影が終了し舞美さんは俺がいる元へやってきた。
「せ~ん~ぱ~~い。もう体調の方は大丈夫なんですか?」
「ああ。休みながらも仕事も進めたし大丈夫だ。それより撮影お疲れ様だな。夜になってだいぶ涼しくなって過ごしやすくなったたけど、ずっと撮影指示に従って撮っていて頭と体力どっちも使っただろうからまずは水分補給としてこれを飲めよ?」
俺は露店でりんご飴などを購入した帰り道に自動販売機で買っておいたスポドリを渡す。
「あ、はい。ありがとうございます。先輩もあの後からちゃんと水分補給していますか?」
「ああ。もちろんだ。アシマネが足を引っ張ってもしょうがないから午前中の事を今後忘れないように肝に銘じて適宜水分補給はしている」
「先輩って自分の事をとりあえず後回しにするんで心配なんですけど、本人がそう言うなら大丈夫なんでしょう。それで今日の私の浴衣はどうですか?こんな宝石みたいな色をあしらった生地を身につけたことが無かったので、似合っているか凄い不安なまま撮影に望んだので顔が死んでいないか心配なんですよね?」
「俺もエメラルドグリーンを主な色として使っている浴衣は初めて見たけど、舞美さんは素材がすごく良いし何を着ても魔法にかかったかのように似合うから心配することは無いよ。むしろもっと自信を持って良いと思うよ」
「先輩がそんなに私を褒めちぎるなんて、もしかしてあなた先輩に似たそっくりさんですか?」
「俺がアシマネとして舞美さんを褒めるのはそんなにおかしい?」
「いや、そうは思っていませんけど、今まで私が先輩に強く迫っていってほんの少し感想とかを言ってもらっていたので、先輩からはっきり私を評価してもらって嬉しいのと同時にあの先輩がこんなことを言うのはおかしいと思って疑ってしまいました。ごめんなさい」
「うんうん。俺が今までちゃんと感想を述べてこなかったのが悪いから舞美さんが謝る必要は無いよ。それで次の撮影は何時からだと言っていた?」
「この花火の打上が終了するのが20時なのでその時間まで休憩ですね。その後に駐車場近くまで戻って線香花火をやってそのカットを撮影して今日の全タスクが終了です」
「分かった。つまり30分くらいは休憩時間があるんだな?露店で買ってきた軽食を花火を見ながら食べる?」
「そうですね。お腹空きましたね~」
俺らは一度控室に戻り再び花火を良く見渡すことが可能なベンチに座る。
「最初に謝るんだけどさ、杏飴は無かったから代わりにりんご飴を買ってきたからそれで許してくれ」(リクエストは「杏飴やりんご飴」でしたから代わりとはいえないかと)
「ええ。そんな謝らなくても良いですよ?こちらから頼んで買ってきてもらった上に文句は言えませんしりんご飴も好きなんで問題ないです」
「それと、りんご飴だけだと物足りないだろうから焼きそばとか買ってきたよ?塩焼きそばとソース焼きそばどっちが良いとかある?」
両手に買ってきた焼きそばを並べて選んでもらう。
「う~ん。どっちも美味しいですけど、今日は塩焼きそばにします」
右手にあった塩焼きそばを受け取って食べ始めようとプラスチックの蓋を開こうとする。
「言い忘れたけど、ソース焼きそばの方はトッピングとして目玉焼きが乗っているけど?それでも塩焼きそばにする?」
「せ、先輩…。なぜそれを先に言わないんですか?ソース焼きそばにトロトロ目玉焼きとかB級グルメの黄金コンビネーションですもん…!!うわ~、凄いそれだったらソース焼きそばの方が良いです!!」
「はいはい。そう言うと思ったよ?舞美さん。意外と食い意地が張っているよね」
「私はそんな食い意地は張っていませんよ?先輩が読モである私をからかうなんて良い身分ですね?アシマネなのに」
急に素に戻るなよ…。
「買ってきたのは俺なんだから良いじゃん?それにいっつも俺をからかってくるし、やられっぱなしは嫌だからね?たまにはやり返さないと」
「じゃあ、私は先輩にからかわれたのでソース焼きそば目玉焼き乗せいただきますね。」
右手に塩焼きそばを返却し右手のソース焼きそばを奪われる。
左手に返された塩焼きそばのパックを開封し俺も遅めの夕食を食べ始める。
「目玉焼きの黄身のトロトロが麺や具材に絡んでとても美味しいですね…。それにこうして打ち上げ花火を前にして浴衣を羽織り先輩と夏の夜の時間を仕事で来ているとはいえ楽しいです」
「そうだな…。やっぱり夏と言えば花火だよなぁ」
焼きそばを食べ終えた舞美さんはりんご飴を食べ始める。
俺はまだ完全には体調が回復できていないので、夕食は軽めにして残りわずかの打上花火を見入る。
実家近くで見ていた時よりも花火の大きさがけっこう違っていて規模の大きさとこの日のために準備してきたという気迫が最後の連続打ち上げ花火にも感じられる。
「先輩、花火終わってしまいましたね」
「打上の方はな…。でもこの後線香花火をやるんだろ?」
「打上花火も良いですけど、線香花火って自分でできるというのと同時にどこか感情を持っていかれますよね」
「そうだなぁ。あの短い時間だけ光が灯りそして消え落ちるのがなんか切なさを覚えるんだよなぁ」
壁のように彩りある花火が並んでいるのを空の向こうに消えていくのを見つめながら俺らは公園近くの駐車場へ戻る為に歩くのであった。
【2022年6月29日一部改訂】




