第147項「医務室と外での会話」
俺は光が差し込んで目元に刺激があるのを感じながら、目が覚めた。
どうやらあの時芝生で倒れてしまいこのベッドまで運ばれたみたいだ。
でも天井や壁の色が自分の家の部屋と異なる事から、現在居る場所は家ではない事が伺える。
じゃあ、ここはどこなんだ…。
かけ布団を剥ぎ起き上がろうとするが、重くてそれができない。
カーテンの隙間から漏れている光線から日差しの傾き方からして15時過ぎくらいかなと思い腕時計を見ると丁度の時刻を指していた。
ベッドの側には舞美さんの穏やかな寝顔が見え部屋に入り込む光が彼女の栗色の髪を一層美しく輝かせて照らしていた。
おそらくだが、俺が急に倒れ込んでびっくりし周りの人に協力を求めながらこの医務室のようなところまで連れてきてくれたのだろう。
俺は彼女のアシマネなのに面目ないな…。
アシマネが読モに助けてもらってどうするんだよ。
そう心の中で謝っていると、フレンドリーカメラウーマンが部屋に入ってきた。
「あら。高島君。目が覚めたんだね。もう~。急に倒れて心配したんだからね?それに舞美ちゃんがすごく君の事を心配していてずっと看病に付きっきりできっと疲れて自分も寝てしまったんだろうね…。彼女にもあとで謝っておきなさいよ?」
寝ている俺を見下ろすようにせせらぎさんの顔が映る。
「本当にすいません。まさか自分が倒れるなんて思わなかったんで…。」
「たぶん、軽い熱中症だと思うわ。最近仕事とかで忙しすぎて休日とか取れてていなかったの?」
この場所に来てから、立ち眩みをする時があった気がしたから、熱中症だったのか…。
喉乾いたな。ほんのり口の中には野菜ジュースの味がうっすらと残っている。
「いや、休日はありましたよ」
「高島君はいま私に嘘をついたわね。あなたが嘘をつくときは大体メガネの鼻の所を持って返事つのよ。本当は休日なんてこの夏休みに入ってから1日も無かったんじゃないの?まさか大学の授業がある時からほとんど休日を取っていないことは無いわよね?」
過去何ヶ月かの休日の記憶を思い出そうとするが、すぐには出てこないので恐らく仕事の時間の出来事と1割くらい大学の事が現れる。
でも一日くらいはここ数カ月の間ではあった気がする。
それにしても、俺の癖を簡単に見抜くとかこの人何者なんだろ…。
「それはさすがに無いです。今日まで休み無しだったらさすがの俺でも死んでいますよ」
「そう…。さっき私は君の事を社会人にしか見えないと話したけど、君はまだ大学生なんだからもう少し学生らしい夏休みを謳歌しなさいよ?どっか旅行行ったりとか遊園地行くとかさ~。あるでしょ。色々」
「はぁ」
俺は溜息をつきながらもまだ計画段階で不透明なところもある華南さんとのお出掛けをする事を思い出して今年こそは大学生らしい休日を過ごすことを決めたんだと思い出す。
年齢は同じくらいのはずなのに俺よりもすごくしっかりしていて、4つくらい歳が離れた人に怒られているというか注意されている気分になる。
「それとも君は仕事しか興味ないの?又は毎年夏休みに限らず長期休暇中は仕事をしなくてはならないという親の方針なのかしら?」
この人に言うと収集がつかなくなる可能性があるので述べないが、高校1年生になってから長期休暇中に遊んだという記憶は全くないのが現状だ。
「そうではないですけど、そもそも友達が居ないというのと自分1人で遊ぶのもたまになら良いですけど毎日だと飽きるし遊ぶにもお金がかかるじゃないですか?だったら稼げるだけ稼いでみようという事で自分の意志で仕事を始めたんです」
「ふ~ん。なるほど。まずは親の教育方針では無くて良かった。でもさ、君は見た目は社会人にしか見えないけど年齢的にはまだ大学生でそれを迎えていないんだからさ、せっかく人生の春ともいえる大学生の長期休暇を仕事だけで終わりにするのは時間の使い方としてどうなんだろうって私は思うよ」
「おっしゃることは分かりますが、たぶん俺は今の考えや行動を曲げるつもりは無いですね。ただ、炎天下での活動において自分自身の体調管理を厳重にする必要があるなとは思っています」
「じゃあさ。単刀直入に聞くけどさ君は何のために学生のうちから仕事をしているの?」
「ボディーガードって歳を重ねれば重ねるほど自分の体力が衰えていきます。そうなるとその時に自分が今まで普通にできていた仕事がそれを理由に出来なくなり生活をする事が難しくなります。生きる為にはお金が無いと難しいので。だから、一番若くて活発的に動ける今から少しでも稼いでおけば後々苦労することは無いかなと思いますね」
「なるほど。自分の老後の人生まで現時点で考えて逆算して今を生きているのは素晴らしいと思うし私は今を生きるので精一杯だから若い時からそれを考えているのは凄いなと思うけどさ、もう少し今この瞬間も楽しんだ方が最期に自身の人生を振り返った時にこういう楽しい事もやったなと思い出せるんじゃない?」
「そうかもしれませんね。考えてみます」
「それで話は戻るけどあなたは軽い熱中症の影響で倒れたみたいだから、まずはこのスポーツドリンクをよく飲んで塩飴を舐めてね」
できるだけ、この会話を始める前に渡して欲しかったけど、この女性は普段は調子が良い感じだけど今はまともなことを言っていてびっくりした。
「はい。ありがとうございます」
「それとこの後の仕事の事だけど、母さ…。じゃなかった。はるなさんから預かっている伝言で自分の体調と相談しながら無理せず業務に当たってくれだとさ。だから、自分の体力を過信せずできる範囲で朝説明された流れでやってくれれば良いからね?」
俺は500mℓのペットボトルの清涼飲料水を飲みながらそちらに耳を傾ける。
塩気がある水分が自分の身体の隅々に広がっていくのを感じる。
「それと舞美ちゃんに16時50分に駐車場の所に集合するように彼女を起こして伝えておいてね。じゃあ、私はこれで失礼するからね。本当にもっとあらゆる点で自分の事をもっと考えた方が良いわよ?自分の人生の主人公は自分なんだから」
そう言ってせせらぎさん(フレンドリーカメラウーマン)は医務室から出ていった。
彼女の口から名言がさらっとこぼれたし。
「はい。スポドリと塩飴有難うございました。」
俺は彼女の背中に向かってお礼の言葉を飛ばす。
さてと、舞美さんを起こすかと思って肩に触れようとすると互いの両目の焦点が重なった。
「おはようございま~す…。って、せ~ん~ぱ~い!!私が質問したら急に芝生に倒れこんで声をかけても返事は無いしすごくすごく心配したんですからね!!」
「あ~。悪いな…。迷惑というか心配かけてしまって」
「いえ、先輩もきっとお疲れだったんですよ?ここ最近色々あったんでしょうし…。それに仕事に関しても毎日私達姉妹のどっちかの仕事に付き添いをしたり手伝っていたりしてさっきあの人がこの部屋を出ていく時に言っていた“自分の人生の主人公は自分なんだから”という言葉の通りもっと自分の事を考える時間をとった方が良いですよ?身体的にも精神的にも」
ていうか、あの人と俺の会話聞いていたのか。
「ああ。分かっている。今後自身を考える時間を取るつもりだ」
俺は頂いた塩飴を開いて口の中に放り込む。
「それで体調の方がいかがですか?」
「おかげさまで、数時間眠ってだいぶ気怠さや疲れは取れたよ。あ。そうだ。確認したいんだけどこの後花火大会じゃん?露店も出るみたいだけど、何か購入してきた方が良いものある?」
「先輩、まだ完全に回復していないんですから、今日くらい仕事を忘れても良いと思いますよ?」
「大丈夫だ。最近寝不足だったからそれも熱中症になった要因だろうからこの数時間横になれただけでも十分体力の方も回復したから仕事に復帰するよ?それで何を買って来れば良い?」
「先輩ってさっきあの人が言っていたように本当に仕事人間ですよね?そうですね~。杏飴やりんご飴が食べられればあとは先輩の裁量に任せますよ?」
「その任せますというのが一番難しい問題なんだよなぁ。はっきりこれとこれが良いと教えてくれた方が助かるんだよな。」
「先輩が選んでくれたものであれば私は何を貰っても嬉しいですよ?それと私の分だけでは無くて先輩自身の分も買ってきてくださいよ?私達は読モとアシマネという関係ですけど、同じ人間なんですから先輩も必ず食べてくださいよ?」
「分かってるよ。それと既に盗み聞きしているから分かっているかもしれないけど16時50分に駐車場に集合するようにあの人に言われたから把握頼む。」
「承知です。それじゃあ、外に出て少し歩きましょうか?」
「ああ。そうだな。外の空気を吸って落ち着きたいしな」
ベッドから起き上がって医務室で一声かけて後に建物の外に出る。
建物の外を出ると、「臨時医務室」と記された看板が立てかけられていた。
この場所は、毎年この地域で花火大会が開催される時に臨時で開設される医務室のようだ。
「先輩、今年初めてのこの医務室でお世話になった患者になりましたね」
「ああ。情けない話だけど、ピンポイントで今日というこの日に臨時で開設されていたから本当に助かったなぁ。熱中症ってバカにできないな」
「本当ですよ?先輩って出会った時から少し無理をしているように見えたのでいつか体調を崩してしまうのではないかとても心配だったんですよ」
「読モに心配されているアシマネってなかなか問題児だなぁ。本当に面目ないわ」
「まぁ、私は普段はしっかりしている先輩が体調が悪くなると急にダウンする時の寝顔が楽しめたので、大満足ですけど…。それに先輩だって私が寝ているふりをしている時に一瞬私の顔を見ていましたよね」
「いや、見ていないけど、看病してもらってまじですいませんでしたって感じだった」
俺らはあの人に言われた通り一番最初に着いた駐車場近くまで戻ってきた。
既に太陽は夕焼けの景色を作り出すために西に向かって傾きつつある。
露店の方は準備が着々と進み打上花火を見ようと来園した若いカップルが歩いている。
「じゃあ、先輩。私。浴衣に着替えてくるからあとで感想述べてもらうから宜しくお願いしますね」
そう言って読モの人達が着替えるための専用のバスの方に吸い込まれていった。
俺は西に向かって進んでいく太陽をしばらく見ながら花火デートシーンを取る撮影場所に先に向かうのであった。




