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第146項「BBQデートシーン撮影②」

設置したBBQコンロの上に俺が持っている箸によって網の上に寝転がらされている薄く切られた野菜やお肉の匂いが充満し俺の腹の虫を刺激してくる。


用意されたお肉ははるなさんが言っていた通り断面を見ると良いサシが入っているのが俺でも分かった。


目の前にBBQコンロが頭上には太陽の日差しが直撃して自分の身体全体が普段の活動の時と比べて遥かに暑くて汗が噴き出す。


Tシャツの上に着ていた薄い羽織ものを脱ぎTシャツ自体の袖についているボタンを外し腕まくりをする。


「先輩がここまで薄い服姿になっているのを見られるなんて珍しいですね。今まではあまり思わなかったですけど、腕とか太いですし腹筋・背筋とかも磨きあげられていてちょっとびっくりです」


網の下で燃え続ける火の様子をまじまじと見つめながらぼそっと言う。


「舞美さんのような読モの人達と同じように俺らの業界の人も身体が労働をする上での資本だからな」


「でもその体つきは余程普段のスポーツとかをやっていないとなれる体ではないでしょうし何かスポーツを長くやっていたんですか?」


「空手と柔道を昔やってた」


「武道の両方を極めるなんて凄いですね?実際に成績の方はどうだったんですか?」


なんで人間ってすぐに成績や結果を最初に聞くんだろうね…。


「空手は全国大会、柔道は関東大会まで出場経験があるくらいだけどね」


「軽い感じで言っていますけど、中々というか相当高いレベルの功績ですね?」


「運が良かっただけだよ…。それよりだいぶ肉とか野菜とか焼けてきたからもう食べ頃だよ」


話を出したのは俺の方だが、あまりこの話はしたくないので、別の話へ促そうと試みる。


「運を引き付ける力が先輩は強いのかもしれませんね。そうですね。いただきましょうか。先輩は食べないんですか?頬が赤くなっていますし何か飲み物でも持ってきましょうか」


「ああ。大丈夫。自分で持ってくるから」


「先輩というかアシマネ一人が仕事している時に読モである私がただ待っていたら感じ悪いというか周りから見たら失礼じゃないですか?」


「ああ、まぁそうだけど。雑用や事務的処理が俺らの仕事だから別に舞美さんは本業である撮影の瞬間だけに集中してくれれば十分だと思うけど?」


「そうですか…。じゃあ、逆に“アシマネとして私の指示に従ってちゃんと仕事やれよ”って罵った方が良いですか?」


「いや、それは絶対に嫌だ。世間の男共は現役読モに罵られて喜ぶかもしれないけど俺は求めていない。この世間という言葉は場合くどいかもしれないけど()()()()()()()()()から。ただ、自分の持ち分の仕事に全力集中してもらって心に余裕があれば手伝う程度で良いから」


「なるほど。了解です。でも先輩が罵られるのが不得意というか好きではないのがちょっと残念です。一度だけで良いから先輩を罵ってみたいですね」


「現役読モが言う台詞では無いな。ファンが聞いたら泣く人と歓喜の声をあげる人と半分程度の比率で居そうだな。飲み物は何にする?あっちにあるから取ってくるよ」


「そうですね。先輩が好きな同じもので良いですよ」


「お、分かった。俺が好きな物になると野菜ジュースになるがどうする?」


「BBQ中にそれとの組み合わせは微妙なのでやっぱりお茶でお願いします」


俺は準備された油性ペンで名前が記された紙コップを取り出しそこにお茶と野菜ジュースを注ぎ入れる。


自分のテントの方に戻ると名無しフレンドリーカメラウーマンが舞美さんを被写体にして撮り始めた。


俺は紙コップを両手にその撮影の一部始終を見る。


指示された通りに既に焼けたお肉を箸で持ち上げて食べ始めようとしているシーンや燃え尽きた炭を加えるシーン、新たに網の上にお肉と野菜を並べるシーンといったカットを次々と撮り終えていく。


読モの人達も細かい指示のもと動くので大変だなと思うが、重いカメラを複数台抱えて読モに注文をする撮影する側の人達も暑いなかお疲れ様だなと感じる。


これが彼らのにとっては何気ないいつも通りの仕事風景なのだろうけど…。


「あ、ごめんね。高島君。あと数枚で終わるからキュートで可愛い舞美ちゃんの姿をしっかり焼き付けておくと良いよ?」


舞美さんが追加した炭が微妙に足りていないのを感じたので俺は更に炭を足していく。


「キュートと可愛いって意味同じですけどね?」


「そういう突っ込みは募集していないのよ…。高島君。それよりこんなに綺麗でどんな服でも似合う女子大学生ってそんなに居ないものよ?私も女の子だけどこういう美人な女子を仕事として被写体で撮れてわくわくしているんだからね」


「はぁ…。それはなによりです」


突っ込みを入れたら冷たい返事が来て急に美人を目の前に複数枚も撮り続けて顔がにやけ始めるこの女性の姿を見ていると新しい世界への扉が見えた気がした。


「高島君。これで舞美ちゃんのBBQシーンの撮影は終わりだよ~。そうだ、私お腹空いているんだよね?ここで少し食事を恵んでくれないかな?」


こんな炎天下の中でカメラを複数台も抱えていたらエネルギーなんてすぐに欠乏するだろうな…。


「え、ああ、良いですけど」


周囲の熱によって涼しさを完全に失い温くなってしまった紙コップの中の野菜ジュースを口に含みながら俺はさっき舞美さんが並べたお肉や野菜の手早く順番にひっくり返して行く。


「やったぁ!!ありがとう~助かる」


この人が誰よりも一番BBQを楽しんでいるように俺は見えた。


「先輩。私がお肉食べるんで先輩は野菜担当でお願いしますね~!」


「ええ、野菜だけはしんどいな。野菜なんてほぼ水分じゃん。腹に溜まらないな」


「だって。私が撮影中に全然こっち見てくれなかったじゃなかったですか?それに先輩の紙コップの中に入ってる飲み物ってどうせ野菜ジュースですよね、いいじゃないですか?一食くらい野菜尽くしで」


俺に肉を食べて欲しくない理由はそんな理由かよ。


液体化でも固形化した野菜でもどっちも好きなのは確かだけど炎天下の中でこれだけしかありつけないのはしんどい。


休憩時間にエネルギー補給ドリンクでも買うとするか…。


「そうだったのか?高島君?こんなに美人な読モを前にして君は何も感じなかったのか?」


この感じだとこの2人ってそこまで親しい間柄ではないのかな…。


「いや、見ていましたけど。普段からどこか周囲の読モさんと比べて美貌が強いのは感じていますけど今この瞬間に改めて思うことは無いですね」


「これが今の若い男性の無関心で草食系男子が増え続ける要因なのか…。私の時代は男の方がもっと積極的だったのにな」


いや、いつの時代に生きていた人の設定だよ。

年齢知らないけど俺と同じくらいの世代だよね?


「しょうがないですよ。このアシマネは仕事は完璧なんですけど、全然女性の気持ちに気づかない鈍感バカみたいな男性でこういう人が他にも日本国にいるんだと思います」


「なるほどな。政府も役人の不祥事みたいなしょうもないことに時間を割いていないでもっと話すべきことがあるのに。“草食系禁止法”とかさぁ」


「それ良い案ですね?これからの日本を支えていく為にもそういう法律の整備は早めにした方が良いかもしれませんね。」


この状況で初めて来た人が見ると政府や国の問題について話し合っている勤勉な女性2人という図であるが、中身を横で一部始終を聞いている俺の場合はそんなことを話してどうするという気持ちしかない。


「はい。お肉と野菜出来上がったのでどうぞ食べてください。2人とも」


俺はこの会話を聞いて居るのも疲れてくるので水をさすように2人に食べるように促す。


「うわ~。このお肉。本当に美味しいですね」


「ほんとよね~。夏休みと言えばBBQという感じがして私もこれが仕事であることを忘れてしまいそうだよ。アルコールが欲しいわね。でも我慢しなければ」


「アルコールならさっき飲み物が揃っている所に並んで置いてありましたよ?」


俺は誘惑に勝てるのか試すように言う。


「え、そうなのか…。飲みたいけどこの後もまだまだ仕事が続くからね~。昼間からお酒を飲むとそのあと動くのが辛くなるから家に帰ったら絶対にビール飲もうっと」


どうやらお酒の誘惑を断ち切れたようだ。


「ほらほら。先輩も食べてくださいよ?」


「いや。食べているから」


あ、何か気分悪いな…。頭が痛い…。


「せ~ん~ぱ~い。私とBBQデートしている気持ちになれてますか?」


「どうだろ。あまりの暑さでたおれ…そぅ…。うっ…。」


「って先輩、先輩。大丈夫ですか?(せせらぎさん)先輩が倒れました~。」


あのフレンドリーカメラウーマンの名前を舞美さんが呼んでいたような気がしたが、俺は余りの暑さとここ最近の疲れが一気に来襲し自分の顔が芝生に当たっているのを感じながら眠りに落ちたのだった。

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