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【  Even if your dream is fleeting even  】


 ‡


 女の人の泣く声が聞こえる。誰が泣いているのか分からないけれど、聞いている方が悲しくなるほど、つらい泣き声だった。

 カジは暗闇の中で目を覚ました。そこはどこだかわからなかった。

――……ここ、どこ?

 女の人の泣き声は止まない。頭に響くような泣き声に、こちらまで泣きそうになってくる。カジは、同時に自分の声が出ていないことに気付いた。

 ――どうして? なんで?

「俺は、お前のことが好きだ」

 不意に男の声が聞こえた。

 いったい何なのかとカジが声のした方を振り返ると、そこには自分が乗っ取った男がいた。

 もっとも、カジに乗っ取ったという意識はない。ただ、南街幹に会うためにその手段を取っただけだ。

 男は、一人の少女に告白をしていた。

 ――え?

 カジは驚愕した。

 男が告白しているのは、南街幹だったからだ。

 黒い髪をポニーテールにして、幼い顔立ちをしているが、彼女はまぎれもなく南街幹だった。だが、良く見てみると少女は南街幹とは纏っている雰囲気が違いすぎた。それは、子供にも分かることだった。

 ――なんだ、違う人か。このお兄ちゃんの恋人が『なんがい』なのかと思ってびっくりした。

 ほどなくして泣きだしてしまった幹に似た少女を、男が抱きしめる。そして、二人は愛を誓い合ってキスをした。あまりにも二人の展開が速すぎてカジは目を白黒させ、二人がキスをしている時は思わず両手で目を隠しながらも指の隙間から二人を見た。

 そして、幹に良く似た少女が、花のような愛らしさで、攸貴に笑いかける。

 ――あれ。

 その笑顔に、カジは一瞬どきりとさせられた。

 あの夜見た、東井の笑顔とあまりにも違い過ぎていたからだ。

 ――おかしいな、東井お姉ちゃんも、綺麗、だったんだけど。

 寧ろ、顔の造形だけで言ったら東井の方が上の様だとも思う。けれどそれを感じさせないのは一体なぜだろう。どうして、自分は東井の笑顔に疑問を抱いてしまったのだろうか。

 場面がまた暗闇にもどり、今度は男が正真正銘、本物の南街幹とともに戦っているところが映し出された。

「っ、やめろぉおおおお!」

 まるで大切な何かを守るように、男が化物の前に躍り出る。南街幹は、なにか必死な様子で男を止めようとしていたが、男はそんな事はさせないと彼女の手をしっかり握り、しかし怖いのだろう左手で化物を押し戻そうとした。

 ――あぶない、お兄ちゃん!

 耐えられず、思わず目をつぶる。

 怖いもの見たさで恐る恐る目を開けると、そこには南街幹にとどめを刺された化物が転がっていた。

 ――え、なんでなんで!?

 あまりにもついていけない展開に、カジは目を白黒させる。しかし、自分のことを認識しない世界は瞬く間に過ぎて行く。

「南街幹よ。よろしくね、木偶」

 幹が、笑って男に手を差し出してた。この男は木偶と言うのだろうか。とても変わった名前だと思った。

 ――あれ、このお姉ちゃん……?

 先ほど見た南街幹に良く似た少女は、花のように笑っていた。しかし、いま目の前に居る南街幹は、美しく笑ってはいるのだが、どこか寂しそうで、つらそうで。

 意味のわからない焦燥感にカジはかられた。何故、東井の笑顔はあんなにも能面的で、表情がなかったのか。

 ――僕は、何を見ていたんだろう。

 体の中を、ぐるぐると渦巻く気持ち悪さが、吐きだし口を求めてさまよい始める。

 カジは、頭を抱えてうずくまってしまった。

 女性の泣き声は、まだおさまらない。

 良く聞くとその泣き声は、南街幹のものであると分かった。

 余計にカジは分からなくなってしまった。どうして、彼女が泣いているのだろう。きっと望めば外の景色を見ることはできるはずなのに、それがどうしようもなく怖かった。

 けれど、見なければ意味がない。怖がっていたところでどうしようもない。その現実を知ったカジは、恐る恐る視界の先を見始める。

 そこでは、泣きじゃくる仇敵が、男に抱きしめられていた。


 ‡


 男は村を全て見下ろせる、高い山に登ってその様子を見ていた。普段土砂崩れが多く、村人すらも立ち入らない山の上で、巨大な望遠鏡と、何か大きなアタッシュケースを持ってその様子を見ている。

「感度良好って感じだねぇいいねぇさすがだねぇ俺!」

 爆破されて崩れて行く山々に、ニヤニヤと笑うルーディ。薄緑色のサングラスの下からのぞく瞳が、悪戯っ子のように歪められていた。

 能力者ではない彼は、しかし世界的に有名な爆弾魔だ。彼の使う爆弾はそこら辺の異能者とほぼ大差ない。時としてはこのように面倒なほど厄介な武器となる。

「こいつで南街の体もッパーンとしてやりてぇんだけどなぁ……」

「それは僕の仕事ですから、三下は下がってくださって大丈夫ですよ」

「……ルヴィア」

 絶好調で独り言をぼやいていると、後ろから小さな着地音とともに一人の女性の声が聞こえて振り返る。

 そこに居たのは緑髪の美女だ。ルーディはあからさまに嫌そうな顔をして、ルヴィアも不本意そうにこの場所に居た。

「出来そこないさんはどうぞそこら辺でのたうちまわっていてください。邪魔ですから」

「黙っとけよ、『フェンリル』の能力増幅がなけりゃ他隊大部隊の平隊員にも追いつかない力しか持ってない癖によ」

「その力を最大限生かせるかと言うのが僕ら異能者の宿命なんですよ。なんで分からないんですかねぇ」

「アホらし。何が異能者の宿命だよ。結局はなんもできない奴らの寄せ集めじゃねぇか」

「ただの人間のうえに何時も接近戦で足引っ張る奴に言われたかないですよ」

「はい、差別発言ー。そう言うのって差別だと思いますー」

「思うじゃなくて確信に変えて下さって大丈夫ですよ、事実ですから」

「まァまァ落チつコウよMr.GreenにMrs.Green。」

「その名前で呼ぶな!」

「その名前で呼ばないでください!」

 だんだんとヒートアップしてきた二人の口論(と言えるかどうかもわからない幼稚な言い争い)に、面白半分で黄優がそう言うと、二人同時に食ってかかる。

 緑髪緑目のルヴィアと、ワイシャツや眼鏡に緑を使っている二人は、任務上での相性が良く、この名称を使われることが多い。結婚なんてしていないのだが。

「相変わラず仲ガ良いネェ」

「それ本気で言ってるんですか……?」

「もし本気ならここでおめーを爆破すんぞ黄優」

「安心シてよ。本気だカラ」

「へぇ……?」

「ほぉ……?」

 ルヴィアが『フェンリル』を起動して能力の増幅を図り、ルーディが辺りにしかけた爆弾の起動スイッチを押す。

 黄優は四肢に取り付けられた器具で自身を浮遊させ宙に逃げる。

 同時に、黄優がいた場所から爆炎が上がってルヴィアが跳躍をする。空中で彼女の渾身の蹴りを受け流し、黄優はニヤリと笑った。

「そラ見ナよ。君達仲良しジゃなイか」

「言ってろ!」

「絶対にボコしてやります!」

 せせら笑う黄優に今度こそ堪忍袋の緒が切れたのか、全力で向かってくる二人に、黄色のゴーグルの下で黄優は愉快そうに笑った。

 ルーディは、アタッシュケースから武器を取り出して即座に組み立てると、それを迷うことなく黄優に発射する。

 オレンジ色の閃光が、闇夜を焼いた。普段ならば、【ワイバーン】が厳重に管理していなければいけないその武器に、黄優は冷や汗を流す。

「超電磁圧縮砲……! 酷イね、仲間ニそンな武器ヲ使ウなンて。ていウか、どこデ手にイれたノさ」

「誰が仲間だっつーの! これはなぁ、アヤセの研究結果を借りておれが地道に作り上げた逸品だぁ! そう簡単にゃぁ負けねーゼ!」

「ルーディ、もう一発お願いします!」

「おう、任せとけ!」

 ルヴィアの声に、意気揚々と返事をしたルーディは充電を始める。アタッシュケースの底の部分は、発電機になっていた。ルヴィアは黄優を蹴りとばし、山に叩きつける。

「やっば……!」

「死ね黄優ぅうううう!」

「いっけぇえええ!」

「洒落になんないって!」

 命からがら逃げ出した黄優のいた場所に、先ほどよりも鮮烈な光が放射される。それは山をひどく揺らした。



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