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【  Even if your dream is fleeting even  】

 通信端末が使えなくなったことに、幹は苛立ちをどうにか押さえこんでいた。

 アヤセからの事前の説明で、【毒の雨】にはアヤセの端末を無効化する力があると知っている。その現象がいまここで起きているのだ。

「おい南街? どうしたんだよ」

「何でもないわ、ルーディ。あとどれくらいで着けそう?」

「2、3分ってところだねぇ。流石にこの俺がイカした改造したナイスカーでもこればっかりはどうにもならねぇってもんだぜ隊長さんよ」

「そ。それなら許容範囲内よ。あんたに守備の地図渡しとくわ。これ見て行動して頂戴」

「はぁ? それなら端末でいいだろーがよぉ隊長さん」

「良いから」

 渋るルーディの胸ポケットに、一枚の紙切れを差し入れる。彼はそれを横目で見ると、一瞬の真顔の後ににやりと笑顔になり、ハンドルから手を離してぱちぱちと叩き始めた。

「恋文なんて今時しゃれたことするねぇ隊長さん! 俺ァそういうあんたの恋愛に置く手でちょっと時代遅れなところ嫌いじゃないぜ!」

「あんたに恋をするならあたしはホルマリン漬けにされたアヤセの被検体にラブレターかくわよ」

「良いねぇ可愛いねぇ冷たいねぇ、さすがは隊長さんだ!」

「はいはい、分かったからハンドル握ってくれる?」

「しょうがねぇなぁ握ってやるよあんたが俺の息子を握ってくれるならな!」

「握りつぶす方向になるけどいいかしら?」

「ノーセンキュー!」

 若干焦ったようにルーディは言ってハンドルを握り直しアクセルを更に踏んだ。黒の車体が、闇に融けて行く。




「きぃーゆぅーさぁーん、そっち何人いましたぁ?」

「十五人ッてとコだねェ」

「そうですか、こっちは八人です。先行隊はこれで全員ですねぇ」

 暗闇に緑と金が浮かび上がる。異能者の力を底上げする『フェンリル』と呼ばれる器具を身につけて黄優とルヴィアは先行隊の救助に駆け付けていた。

 異能者の力を注ぐと硬化する『フェンリル』で作られたニーハイで増幅された脚力で高く跳び上がると、ルヴィアは黄優の隣につく。そこは高い木の上だった。

「合計二十二人。間違いないねぇ」

「人数は、ですけどね」

「まァ、葬式クらいハアげられルでしョ」

 ドサリとルヴィアが抱えていた二人を人の山に放る。

 そこには先行隊が二十二人いた。しかしながら誰の顔も土気色で呼吸はかけらもしていなかった。

 体のいたるところにはアスクリアによる重傷があり、そのどれもが致命傷であることを示していた。

「アスクリア五体は?」

「ちゃァンと片づケタよォ。でモ……なァンかおかシいンだ」

「そういえば、今回アスクリア全部黄優さんに流れちゃったんですよねー。立地に偏りありすぎですよぉ。で、なんかあったんですか?」

「いやァ……なンと言ウか……」

 言いにくそうに黄優がポリポリと頬をかく。ルヴィアはゲームが手元にないため機嫌が悪く、そのもったいぶった様子に苛立った。

「なんですか、その新作超大作RPGゲームの出る出る詐欺みたいな」

「そレハ微妙に違うンじャなイかな……?」

「いいから。で、何なんですか?」

「あー……うン、なンかねェ、『同じ』なンだヨねェ……」

「同じ? 能力が、ですか?」

「ちがクて。形……ガ」

「形ぃ? 報告ではアスクリアの大きさは大小さまざまだったって……」

「だカら、そウイう形じャなクてね……なンか……大キさハ違うノに、見た目ガ同ジとイうか……」

「見た目が? それ、おかしくないですか」

 アスクリアは、それぞれ個性が出やすい。何百もの成体を見てきたことのあるルヴィアだが、まだ出来たばかりの幼体ならまだしも成体で同じ形、しかも大きさの違うものなんてのは見たことがなければ聞いたこともない。

「うン、だカら、おかシイと思ウんダ……。もシかシたら、東井ノ罠かモしれナい」

「……朱影もかかわっていますかね」

「多分ネ」

 ルヴィアが言った言葉に、黄優が即答で、しかし重く答える。途端に二人の間に流れる空気が重くなると、ルヴィアは伸びをするようにして木の上でごろんとなった。

「あー! やだやだ! なぁんでこんな暗い気分にならなきゃいけないんですかねぇ! 早く【ワイバーン】の連中呼びましょうよ! 死体だって持ってってもらわないといけませんし」

「だねェ。じゃ、今カら連絡スるよ」

「……なんですか、それ」

 黄優が取り出したのは、黒い一つの塊だった。今まで見たコトの無いその物体に、ルヴィアが怪訝そうな声を出す。

「あァ、こレ? ゆゥ君の助言デ作ラレた『トランシーバー』ッていウ通信機器ー」

「普通にアヤセさんの作った通信機器使っちゃえばいいじゃないですか。それってえらく音質が悪いんでしょう?」

「【ワイバーン】ガねェ、大部隊ノ力を借りタくなイッて言ッてゆゥ君に現代日本でなンカ原始的な通信術なイかッて聴イたラしくッて、向こウもこの通信機器しカ持ッてなインだよ……」

 黄優は人を独特の名前で呼ぶ。ゆぅ君とは攸貴のことだろう。この間「なんでそんな女の子みたいな名前で呼ぶんですか!」と怒鳴っていた若き大部隊隊員のことを思い出す。ちなみにルヴィアはルったん、ルーディはルッくんと呼ばれていて紛らわしいことこの上ない。

「攸貴さんも第零大部隊っていう大部隊の一員なんですがねぇ……あの子はやたらと人に好かれますね、隊長以外の」

「そウだね、みィちゃン以外の人ニ良く好かレるネ」

 喋りながら黄優はトランシーバーを起動して【ワイバーン】に連絡をとる。

「こちラ黄優、こちラ黄優、応答せヨ」

 しばらくの間当然のように雑音が響き、

『こちら【ワイバーン】状況報告を頼む、星屑隊員』

 当然のように応答があった。


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