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第5話 悪役令嬢は、断罪を見世物ではなく責任の最終手段として扱いますわ

王宮からの招待状は、簡潔だった。


改めて、話がしたい。

差出人は、王太子アレクシス。


リリアーナは一度だけ目を通し、

静かに封を閉じた。


「行かれますか」

マルティナが問う。


「ええ」

「よろしいのですか?」

「責任の話から逃げるのは、

 悪役令嬢の流儀に反しますもの」


王宮の小広間。

前回とは違い、見物人はいない。

側近も最小限。


(形を変えましたわね)


アレクシスは立っていた。

だが、前回のような威圧はない。

どこか、言葉を探している顔だった。


「来てくれたか」

「招かれましたもの」

「その言い方は変わらないな」

「変える理由がございませんわ」


短い沈黙。

やがて、王子が口を開く。


「先日の件だが」


その声は、わずかに硬い。


「私は、君を断罪すれば、すべてが整理できると思っていた」

「……」

「エミリアを守るためには、それが一番早いと」


リリアーナは何も言わない。


「だが、違った」

「ええ」

「私は、場を整える前に結論を出そうとした」

「そうですわね」


王子は息を吐いた。

逃げない。

そこは評価できる。


「結果として、エミリアを守るどころか、さらに追い詰めた」

「ええ」

「……悪かった」


言い切った。

前回よりも、はっきりと。


リリアーナは頷く。

だが、それで終わらせない。


「殿下」

「なんだ」

「いまのは、半分ですわ」


王子の眉が動く。


「半分?」

「ええ。ご自分の誤りを認めた半分」


「もう半分は、残した責任をどうするかです」


アレクシスは黙る。


逃げたいのが分かる。

だが、逃げてはいけない場だ。


それも、彼自身が選んだ。


「……どうすればいい」


ようやく出た言葉だった。

リリアーナは、わずかに満足する。


「まず、断罪の意味を誤解なさっています」

「断罪とは、相手を悪と決める儀式ではありません」

「……」

「責任の所在を明らかにするための、最終手段です」


王子は目を伏せた。

思い当たる節がある顔だった。


「見世物にした瞬間、それは断罪ではなく、感情の処理になります」

 そして感情は、弱い者から潰します」


静かに、だが逃げ場を与えない。


「……あの場は」

王子が言う。

「間違っていた」

「ええ」


短く肯定する。


「では、次です」


リリアーナは続ける。


「誰に責任があり、何を戻すべきかを整理します」


そのとき、扉が叩かれた。


マルティナがエミリアを案内して入る。


王子の体が、わずかに強張る。


だが、目を逸らさない。


「エミリア」

「は、はい」


少女は緊張していた。

だが、以前のような崩れそうな立ち方ではない。


「私は」

アレクシスは言う。

「君を守るつもりで、余計に傷つけた」

「……」

「王宮でも、あの場でも」

「……」

「……悪かった」


エミリアは、しばらく言葉を探していた。


やがて、ゆっくりと頭を下げる。


「……分かってくださって、ありがとうございます」


その声は、小さいが、はっきりしていた。

リリアーナはそれを見て、静かに頷く。


「殿下」

「なんだ」

「これで終わりではありません」

「……」

「場を整え直しただけです」


「その先は」

「維持なさい」


王子は苦笑する。


「簡単に言うな」

「ええ、簡単ではありません」

「……そうだな」


だが、その顔はどこか軽くなっていた。

初めて、正しい立ち方を知った顔だった。


帰り道。


エミリアがぽつりと言う。


「……怖くなかったです」

「何がですの」

「殿下と話すのが」

「そう」

「前は、ずっと怖かったのに」

「それは結構」


短く返す。


「リリアーナ様は」

エミリアが続ける。

「やっぱり、すごいです」

「何がですの」

「人を、ちゃんと立たせてる」


リリアーナは少しだけ考えた。


(立たせる……)


言い得て妙だ。


だが。


「当然ですわ」


いつもの調子で言う。


「悪役令嬢ですもの」


エミリアは一瞬きょとんとし、そして笑った。


王宮では、その後、静かに噂が広がっていた。

-あの場は、やり直されたらしい-


もう、軽く扱う者はいなかった。


その夜。

リリアーナは秘伝書を開く。


責めて終わるな。

正しく立たせてこそ、責任は完了する。


「……ええ」


静かに本を閉じる。


正しく実行できている。


それでよい。


リリアーナ脳内秘伝書

責めて終わるな。

正しく立たせてこそ、責任は完了する


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