ショートストーリー(9) つかのまの幕開け
ユリウスは、クラブの中でも浮いている
演劇のことになると、周りが見えなくなるためだ。
演劇についての知識は、プロ顔負けだ。
演劇論、演劇史、作品研究などの理論だけでなく
実技である、演技、発声法、身体表現の知識
裏方である舞台製作技術など、
ありとあらゆる分野を収めている
「なのに…… どうして脚本がだめなんだ?」
それが、まわりの者の口癖だった。
「俺は悪くない。あの舞台がおもしろくないからですよ」
いかにも心外だというようにヴォイドが、抗議した
彼は毎回眠っているのだが、この前は、いびきまでかいてしまい
レイナードに回収されてしまったのだ
「まあ、おまえばかりを非難は、……まあ、できないな」
アレクシスの歯切れは悪い。
「確かに、おもしろいとは言えなませんからね」
レイナードはばっさり切り捨てる
「で、でも、お話はいいですよ、台詞だって、すてきなのがありましたし」
エミリアが、かばうように言う
「自分の伝えたいことを前に出しすぎてるのですわ。
あのときも指摘しましたのに、いっこうに直っておりませんわ」
リリアーナが追い打ちをかける
「あんたたち、本人のまえで、言いたい放題だな」
そう言ったのは、ユリウス本人だ。
ヴォイドのいびきの件で、生徒会室まで抗議にきていた。
「だけど、本当のことだからなあ」
思わず出た本音の言葉に、すかさず注意がとぶ
「殿下!」
リリアーナの強い非難の目つきに、
アレクシスは理不尽という名のため息をついた
「そ、そういえば、ユリウスさんって、ああいうものばかり書かれるんですか?」
すっかりむくれてしまったユリウスの機嫌をとるように、エミリアが尋ねた
「いや、いろんなものは書いてはいるんだけど、
やっぱしああいうのが俺のやりたいことだから」
「ユリウスは、本職を目指しているのか?」
「ああ」
「じゃあ、自分の伝えたいものばかりやるのは、よくないぞ」
「そ、それは、分かってるんだけど……」
痛いところを突かれてたじろぐ
エミリアが、いいことを思いついたように手をぽんとたたいた。
「ユリウスさん、春の学園祭で、劇をやりましょう!」
「えっ、クラブはいつも劇をやってるけど」
「クラブとは別にやるんですよ。そうだ!生徒会で劇をやりましょう!」
「なっ!」
思わず声を出したのは、リリアーナだった。
他の生徒会の面々も、エミリアの提案に驚き抗議しようとしたのだが、
その一言で固まる。
当のリリアーナは、すでに何事もなかったようにたたずんでいる。
「え、えっとエミリア嬢、劇って——」
「ユリウスさんに、自分を出さない練習をしてもらうんですよ。
経験が少ないだけで、いろいろやれば良くなりますよ。
あれだけ言ったんですから、生徒会も協力しないと」
「そう言われると——」
言いかけてアレクシスは服の袖が小さく引かれるのを感じた。
見るとリリアーナがうつむいて、指で自分の袖を引いている
その驚きに、思考が止まったアレクシスの口は
「まあ、いいんじゃないか」
と思わず口走っていた
袖の引きが強くなった気がした
「いいんですか! そうだ、生徒会だけでは人数が少ないから、
部屋のみんなにも声をかけていいですか?」
うなずくアレクシス。さらに引きが強くなる袖
「ユリウスさん、いっしょに部屋まで来てください。
ユリウスさんが劇に出したい子がいるかもしれません」
興奮したエミリアは、ユリウスを連れて出て行ってしまった。
「えっと、いいんですか殿下?」
やっと気を取り直せたレイナードが尋ねてきたが
アレクシスには、もう、どうでもよかった。




