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第14話 悪役令嬢は、善意を労働にかえますわ

エミリアが管理する部屋の訪問者が増えた


サイラス、ルイーズ嬢、ニコラス、そして以前からのアリシア


それだけではない、平民・貴族問わず、少しずつだが顔を出す者もいる。

もちろん、顔を出したが、あと来なくなったものもいる。


だが、確実に生徒たちには、その部屋の存在が知れ渡っていった。



裏方業務記録が始まって、

学園の空気は、一見、静かに変わり始めているようだった。


朝の教室。

いつも通り机は揃い、黒板は拭かれている。


だが、その「いつも通り」が、誰の手によって成り立っているのか、

今は誰もが知っていた。


「サイラス、今日もありがとう」


「い、いえ……!」


小柄な少年は、顔を真っ赤にして逃げるように去っていく。



中庭の掃除当番。

アリシアは、以前よりも落ち着いた声で指示を出していた。


「石畳は二人で。

 水場の周りは私がやります。

 備品箱は先に確認しておきます」


「了解」


「はいはい」


返事は雑だが、反発はない。


アリシアは、昨日よりも自然に笑っていた。


しかし――


その日の午後。

備品置き場の前で、レイナードが記録帳をめくりながら言った。


「……偏っているな」


「偏り?」


アレクシスが覗き込む。


「ええ、

 教室整備はサイラスと同じで、各クラスでほぼ同じ者がやっている。

 

 共有卓片づけはルイーザ。

 備品補充はレオン

 修繕報告はニコラス。

 清掃仕上げはアリシア

 ほとんど固定されている」


エミリアが眉を寄せる。


「でも、みんな自分からやってくれているんですよね?」


「それが問題なんだ」


レイナードは淡々と言った。


「気づいた者がやるは、善意が偏る構造だ」


リリアーナは静かに言う。


「偏った善意は、続きませんわ」


「では、どうする?」


アレクシスが問う。


リリアーナは迷いなく答えた。


「善意を分散させますわ」


「分散?」


「ええ。裏方仕事を役割として正式に割り振ります」


エミリアが目を丸くする。


「でも、それって……強制になりませんか?」


「強制ではありませんわ。

 選べる役割を提示するだけです」


レイナードが頷く。


「なるほど。

 今は気づいた者だけがやる構造だから偏る。

 なら、誰でも選べる役割にすれば偏らない」


「ええ。役割は、選べる形にしてこそ価値がありますわ」


アレクシスはその横顔を見つめた。


学園長室。


「裏方仕事の選択制役割化とな?」


学園長は書類を読みながら言った。


「ええ。偏った善意を、構造として整えますわ」


「ふむ…… 善意を制度に組み込むか」


学園長は目を細めた。


「善意は、制度に組み込んだ瞬間に労働へと変わる。

 それでもよいのですかな」


リリアーナは迷いなく答えた。


「ええ。続く形にするためには、善意を労働に変える必要がありますわ」


学園長は羽ペンを置き、興味深げに眼鏡を拭き直した


「君は本当に、善意を信仰しておらぬのだな」


「信仰は危ういですもの。形にして渡す方が、よほどましですわ」


「よかろう。条件付きで許可する」



翌日。

掲示板に一枚の紙が貼り出された。


『裏方業務・選択制役割化 試行開始』


・教室整備

・備品補充

・共有卓片づけ

・清掃仕上げ

・修繕報告

・行事準備補助


ざわ……と周囲がざわつく。


「……は?」

「なんで裏方に選択制なんて」

「やりたい奴なんていないだろ」

「生徒会、何考えてんだ」


冷笑、無関心、反発。


エミリアが不安げに言う。


「誰も、選ばないかもしれません」


リリアーナは揺れない。


「最初はそうですわ。

 続く形は、最初から人が集まるものではありませんもの」


「それでは、どうすれば……」


言いかけたエミリアは、何かを思いついたのか言葉を止め、

リリアーナを真剣な目で見た。


「リリアーナ様、私、少しおそばを離れますがよろしいでしょうか?」


「……そう。かまわなくてよ」


何事もなく、リリアーナは答えた


だが、アレクシスは、その声に揺れを感じた

誰も気が付かない、わずかな揺れ。


それを確かめるすべはなかった



次の日、生徒たちは、いつもと違う光景を見て驚く


教室整備を、アリシア、ルイーザ、ニコラス、レオンが行っていた

備品補充や共有卓片づけには、教室整備をやっていた何人かが

清掃仕上げには、エミリアが

修繕報告、行事準備補助なども今までとは別のものが行っていた。


「これは」


どういうことかと言おうとしたアレクシスに、リリアーナが答えた


「エミリア様のお部屋の人たちですわね」


(そうか、あの部屋の人たちか……)


リリアーナの声に、いつもと違うものを感じながら、アレクシスはエミリアたちを見つめた。


遠目に見守るもの、声をかけようとするもの、彼女たちのまわりには多くの生徒がいた。


「おれ、修繕得意なんだ」

「あたし、計算得意よ」

「力仕事はまかせろ」

多くの声と動きが、あちらこちらで起こった。


一緒に水の入った清掃用バケツを運んでいたエミリアが顔を上げ、

リリアーナを見てはれやかに笑った。

リリアーナもまた微笑んだ


夜。


学園長は提出された記録帳を閉じ、

研究ノートに一行書き加えた。


『善意を保存する術を、この子は知っている』


そして、秘伝書の一節を思い返す。


『善意は偏る。

 偏った善意は、続かない。

 だが、整えられた場所では、

 善意は形となり、次へ渡る。』


「……さて。

 いよいよ本番となるか。はたして、どうなるかの」

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