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ショートストーリー(7) 春遠からじ

村の中央に置かれた、小さな屋根付きの棚。

それが交換所だった。


ただの木の棚に、簡単な帳面と、

置かれた品があるだけ


けれど、その前には人がいた


「それ、いくつだ?」

「三つ」

「こっちは?」

「半分でいい」


短いやり取りが、続いている。


少女は少し離れたところで立ち止まる。


(いいのかな)


前なら、入れなかった。


持っているものがないから

ここは、そういう場所だ


だが、背中から声がした。


「入れ」


振り向くと、若い農夫が立っている。


「でも」

「いいから行け」

「……うん」


少女は小さく頷いて、棚の前に歩いていく。


帳面を見る。


よく分からない。

けれど、横にいたおばあさんが覗き込んで言う。


「どれ欲しいんだい」

「……これ」

「干し野菜かい」

「うん」

「じゃあ、ここに印をつけな」


少女は言われるまま、小さく印をつけた。


それだけで、干し野菜は渡された

手に乗せると、軽かった。

軽いのに、少しだけ重かった。


「……ありがとう」


誰に言ったのか分からないまま、そう言った。


夕方。


少女の家で、干し野菜が煮られている。


湯気が立つ。


それを見ながら、少女がぽつりと言う。


「ねえ」


祖母が顔を上げる。


「なあに」

「きょねんより、いい?」

「……そうだねえ」


少し考えてから、答える。


「楽ではないけどね」

「うん」

「でも、去年よりは——」


言葉を選ぶ。


それから、ゆっくり言う。


「少しだけ、ましだねえ」


少女は、その言葉を聞いて頷いた。


「うん」


火の音が、ぱちりと鳴る。


外では、まだ冷たい風が吹いている。


春は来ていない。


畑も、まだこれからだ。


明日がどうなるかなんて、誰にも分からない。


それでも。


「……ねえ」

「なんだい」

「あのひと、また来るかな」

「さあねえ」


祖母は、火を見つめたまま答える。


「来ないかもしれないね」

「そっか」


少女はうつむいた


「でもね」


顔を上げる


「来なくても、困らないようにするんだろうさ」


少女は、その言葉の意味を全部は分からなかった。

けれど、頷いた。


「うん」


火は消えず

鍋は回る。


まだまだ足りない。

まだまだ苦しい。


それでも——

前よりは、少しだけ生きやすくなっている。

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