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ショートストーリー(8) 学園にて

王立学園の春は、生徒と共にやってくる。


だが、その中で――

ひときわ異様な空気をまとった集団があった。


生徒会の五人である。


「なんだか、まわりの雰囲気が異様な気がするんだが」


アレクシスが首をかしげる。


「あなたが、それを言いますか」


レイナードが呆れたように言う。


「うん? どういうことだ?」


誰も答えない。

本人に言える話ではない。


だが、一人だけ無遠慮に言い放つ者がいた。

アレクシスの護衛でもあるヴォイドだ。


「殿下が、リリアーナ嬢に婚約破棄を言い渡したからでしょう」


全員の足が止まる。


アレクシスの首が、摩擦係数最大値でヴォイドへ向く。


「ヴォイド。お前、今なんて――」


「はいはい撤収」


レイナードが素早くヴォイドの口をふさぎ、

ずるずると引きずっていく。


エミリアは真っ赤になって俯いた。

リリアーナだけが、風の音でも聞いたかのように平然としていた。


「殿下、急ぎましょう。今日中にまとめなければなりませんわ。」


アレクシスはため息をついた。

だが、これだけは言っておかなければと勢い込んだ。


「ひとつだけ、はっきり言っとくぞ。

 おれは、婚約破棄なんて一言も言ってないし。

 思ってもいないからな!」


やけくそ気味に言った瞬間、ふいにアレクシスは

リリアーナの表情が少し揺れたような気がした。


思わず、見直したがリリアーナはすでに歩き出していた。


エミリアを見ると、こちらは今のセリフに

熱い目で二人を見ている


「はぁ―― 急ごうか」


学舎内に入る手前で呼び止められる


「リリアーナ様、お久しぶりですわ」


柔らかな声がかかる。

落ち着いた所作。華美ではないが質の良い装い。

そして、視線がまっすぐだった。


侯爵令嬢ヴェロニカ・エルドレイン


学園ではリリアーナと双璧と言われる才女だった。


「最近、いろいろなことをなさっているとか」

「ええ、少しばかり」

「読書室や、仕立ての支援も」

「そうですわね」


ヴェロニカの目が一瞬細くなる。


「……それは、本当に誰かのためですの?」


エミリアが息をのむ。


リリアーナはすぐには答えなかった。


ヴェロニカは続ける。


「読書室を開けば、感謝されるでしょう」

「仕立てを支援すれば、頼られるでしょう」

「けれどそれは——」


一度だけ、言葉を選ぶように間を置く。


「ご自分が、そうありたいからではなくて?」


静かな声だった。

だが、逃げ場を与えない問いだった。


「ええ」


あまりにあっさりとした肯定に、数人が目を見開く。


「そう見えるのも当然ですわ」

「否定なさらないのね」

「必要がありませんもの」


「では、偽善だと言われても?」

「結構ですわ」


迷いなく、リリアーナは言った。。


「続かない善意より、形の残る偽善の方が価値がありますもの」


ヴェロニカの視線が、わずかに鋭くなる。


「……強い言い方をなさるのね」

「事実ですもの」


「そこまでにしてくれないか」


アレクシスが割って入る。


「我々は、生徒会の用事で来ているんだ」


ヴェロニカが優雅に礼をする。

「失礼しました、殿下

 それでは皆様、ごきげんよう」


去って行く姿を見ながら、エミリアが小さく言う。


「……怖い方でしたね」

「そうかしら」

「はい。間違っていないことを言っている気がして」

「ええ」

「だから、怖いです」


生徒会室へ向かいながらリリアーナは言った


「正しい問いは、だいたい怖いものですわ」


その言葉は、どこか遠くを見ていた。


その光景を学舎内から見ている者がいた。


「今度は、学園を整えるか…… どうなるかの」


学園長アルフレッド・グランヴェルは、小さく笑った。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!


以前からお伝えしていた通り、次回からは新章「学園編」が開幕します。

登場人物も一気に増え、これまで以上に賑やかで濃密な物語をお届けするため、少しだけ準備期間をいただきます。

今、一生懸命に構想を練り直していますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければ幸いです!

再開をお見逃しのないよう、よろしければブックマークをしてお待ちください。

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