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ショートストーリー(6) 領民という人として

冬の終わりは、静かにやってくる


雪が解けたのかどうかも分からないうちに、

地面の色だけが、少しずつ変わっていく


空気はまだ冷たい

吐く息は白い

けれど、凍りつくような夜は、もう来ない


納屋の中。

乾いた土の匂いと、古い木の匂いが混ざっている


若い農夫――あの日、納屋で声を荒げた男は、

手にした帳面を見下ろしていた


「……増えてるな」


ぽつりと呟く。

横から、年配の男が覗き込む


「何がだ」

「交換の数だよ」


帳面の端には、小さな印がいくつも並んでいる。


干し野菜、一束。

塩漬け、半樽。

種芋、貸し出し。

農具、共同使用。


どれも大した量ではない。

だが、それが積み重なっていた。


「前は、こんなこと書かなかったよな」

「書かなかったな」

「書かなかったから、覚えてる奴しか分かんなかった」

「だな」


二人とも、少しだけ笑う。

笑う余裕など、なかったはずなのに。


納屋の外では、誰かが声を上げている。


「それ、先に使っていいか?」

「いいぞ、夕方には返せよ!」

「分かってる!」


怒鳴り声に近い。

けれど、以前のそれとは違う。


言い争いではなく、やり取りだった。


納屋の隅。


あの日、リリアーナの裾を引いた少女が、しゃがみ込んでいた。


小さな手で、土をいじっている。


そこには、小さな畝が作られていた。


「それ、芽は出たのか」


若い農夫が声をかける。


少女は顔を上げた。


「あのね、ちょっとだけ」


指で示す。


土の表面に、ほんの少しだけ、緑がのぞいている。


「……出てるな」

「うん」

「世話、ちゃんとやってんのか」

「うん。おばあちゃんが水のやり方教えてくれた」


少しだけ誇らしそうに言う。


若い農夫は、何も言わずに頷いた。


あのときを思い出す


「食べるもの、持ってきてくれたの?」


あの声。

あの目。


あのとき、自分は怒鳴った。

ぎりぎりの本音だった


間違ってはいなかった。

だが、あれで何かが変わったわけでもない。


「なあ」


農夫は少女に言う。


「腹、減ってるか」

「……ちょっとだけ」


正直な返事だった。


「そうか」


「あとで交換所行け」

「こうかんじょ?」

「干し野菜出てるはずだ」

「でも、うち……」

「知ってる。だからだ」


少女は少し迷って、それから頷いた。


「うん」


立ち上がる。


その足取りは、以前より少しだけしっかりしていた。


その後を追いながら、農夫は思う


施しを受けるだけなら


あいつの家畜と同じだ


領民として、人として生きるなら


施しではだめだ


俺たちへの支援でなければ


だから、歯を食いしばる

寒さも飢えも


この土地で、自分の力で生きていられることを見せる


「後は、あいつがどうにかしてくれる」


そうつぶやくと、男は少女を追いかけた

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