ショートストーリー(5) 夢がかたちになるとき
ミナは目の前の、光景に息をのんだ
リリアーナから渡されたドレス
それは、気が遠くなるほど上質なシルクだった
「解体なさい」
その一言に、ハサミを握る手が、
目に見えて震えてきた
一太刀入れれば、もう後戻りはできない
高価なものを損なう恐怖
身分をわきまえない夢の報い。
実体のない「怖さ」が、背中に冷たく張り付く
「無理なら結構」
リリアーナの突き放すような声
ミナの心臓が跳ねた
壊すのが怖かったのではない
この布を扱う価値がないと決めつけられること
それが、怖かった
震えながら、最初の糸を切る
プツン、という小さな音。
それは、何かが、割れたようだった
ドレスをほどいていく作業は
初めてのことなのに
ミナを虜にした
ドレスが
どんなふうに結ばれ
どうなふうに力がかかり
どんなふうに支えているのか
リリアーナの体躯に合わせて
どれほど細やかでな丁寧な作業が行われ
この形が成されているのか
(……すごい。ここは、こうなっていたんだ)
ミナは、解体がどうゆうものか初めて分かった
それは、「形を知る」ための最短距離の作業だった
いつしか、恐怖は消えていた
代わりに胸を満たしていたのは
仕立て作業への圧倒的な「情熱」だった
「では、作りなさい」
次に渡されたのは、針と青い糸。
針を刺すたびに、
布が応えてくれる
リリアーナの気高さ
凛とした佇まい。
それを支えるための「形」を
ミナは、一針一針で組み上げていく。
始める前には、
(わたくしの名誉に泥を塗ることになりますわね。
ですが、それがどうしましたの?)
その冷ややかな微笑みが、脳裏をよぎっていた
失敗しても、リリアーナ様が引き受けてくれる。
だが、その圧倒的な「責任」に守られてもなお、
ミナは自分の夢を、つかむ自信が持てなかった
だが、今は、そんなことすら、どうでもよかった
だから、できあがった時
「これでは、まだですわね」
と言われても、打ちのめされることはなかった
「次を用意しなさい」
リリアーナがマルティナに言ったその言葉に
喜びすら感じていた
(まだ、やれる……)
ミナの夢は、もうミナ自身になっていた
笑われようと嘲られようと
繰り返すこと数度
「見事です」
リリアーナが言った
完成したドレスの、
胸元の青い刺繍を見つめた
それは、洗濯屋の娘が、「仕立て手」を
夢ではなく、本物の形にした証だった




