ショートストーリー(2) 正解はなくても
人の目に触れないところで、物事は静かに動いています。
誰かが指示を出さなくても、回るものがあります。
「……これ、どうするんですか」
ルークは小さく言った。
布の束の前で立ち止まっている。
数は合っている。
だが、質が違う。
混ざっている。
「どうする、って?」
横にいた年長の使用人が返す。
「いや……これ、そのまま出していいんですか」
少しだけ間があく。
「よくないね」
短い答え。
「……ですよね」
ルークは布を持ち上げて、また下ろす。
どうすればいいか分からない。
怒られるかもしれない。
でも、出したら後で困る。
「……帳面、見たか」
「はい」
記録はある。
間違ってはいない。
だから余計に分からない。
「……どうするのが正解ですか」
思わず聞く。
年長の使用人は、少しだけ考えた。
それから言う。
「正解は、たぶん無いね」
「え?」
「でも、“後で困る方はやらない”って決めてる」
ルークは黙った。
それなら分かる。
完全じゃなくても、選べる。
「……じゃあ、戻します」
「そうだね」
二人で布を分け始める。
時間がかかる。
面倒だ。
でも、止まらない。
途中で、廊下をリリアーナが通った。
何も言わない。
こちらも声をかけない。
ただ、通り過ぎる。
「……報告、いりますか」
ルークが小さく聞く。
「どう思う?」
逆に返される。
「……いらない、気がします」
言いながら、不安になる。
間違っていたらどうする。
「うん、いらないね」
あっさりと返ってきた。
「……いいんですか」
「見てたからね」
ルークは顔を上げた。
「え?」
「気づいてないの?」
年長の使用人はそれ以上言わなかった。
ルークはもう一度、布を見る。
(見てた……?)
実感はない。
でも。
「……じゃあ、やります」
そう言って、手を動かす。
誰に言われたわけでもない。
誰に褒められるわけでもない。
それでも。
止める理由はなかった。




