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ショートストーリー(1) 居場所を得て

本編第10話までお読みいただき、ありがとうございます。


ここから少しだけ、本編の流れを離れます。


これまでの話の中で描ききれなかった、

リリアーナの周囲にいる人々の小さな時間や、

表には出ていない出来事をまとめた短いエピソードになります。


大きな出来事は起こりません。

ですが、このあと続く物語を読むうえで、

どこかで残っていくものになればと思います。


数話分だけ、お付き合いください。


あの日のあと、すぐに何かが変わるわけではありません。

けれど、少しずつ変わっていくものがあります。

朝は、少しだけ怖い。


目を開けたとき、

もとにもどっていたら

何も変わっていなかったら


今でも、ほんの少しだけ思ってしまう。


けれど、


(……大丈夫)


そう思えるまでに、

時間はかからなくなった。


以前は

何かひとつ歯車がずれると、

全部が崩れていくような感覚があった。


誰かに頼ることもできず、

頼ること自体が怖かった。


今は違う。


支度を整え

朝食をとり

自分に任された仕事をこなす

これも、自分の居場所となっている


昼食の後は

自由に過ごす


なにをするかは自分が決めていい

誰かが口を出すこともない


本館を出て離れに向かう


近づくと、誰かが声を上げている。


「それ、先に見ていい?」

「順番守れよ」


小さな揉め事。

止める者はいない。


(止まらなくていい)


そう思える。


全部を整えなくてもいい。

崩れない形があれば。


読書室の扉を開ける。


もう何人もがいて、

思い思いの事をしている。


その中に、自然に入っていく。


(ここにいていい)


そう思える場所があることが、

どれだけ心を軽くするか。


席に着く。


ふと、あの日のことを思い出す。


「座るだけでいいんです」


そう言われて、初めて座った日。


あのときは、何もできなかった。


ただ座って、震えていた。


それでも。


「それでいい」と言われた。


(……あれが始まりだった)


今なら分かる。


助けられたのは、あの一瞬じゃない。

“座っていい場所”をもらったこと。


それが、残った。


エミリアは本を開いた。


指先は、もう震えていない。


それでも、完全に消えたわけじゃない。


少しだけ、残っている。


だが、


(全部消えたら、たぶん忘れる)


ページをめくる、乾いた音。

窓から差し込む冬の陽だまり。


ここには、誰にも奪われない

私だけの時間が流れている。


誰かがいなくても、

この場所は回る。


でも。


(それでも)


ふと、思う。


「……リリアーナ様は、今日も忙しいのかしら」


いなくても回る。


けれど——


いてほしいと思う気持ちは、消えなかった。


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