第八話「ソレイユの剣」
リア・ソレイユの対戦相手は、攻撃科の三年だった。
名前はカルロ・ヴェイン。
単発の出力は高い。
ただ、連続展開に入ると術式の精度が落ちる。
そのことは、二日前の時点でユウトには見えていた。
リアにも伝えてある。
グラウンドに二人が出てくる。
右にカルロ。
背が高く、体格もいい。
構えを作る動きに無駄がない。
左にはリア。
金髪が光の中で揺れた。
視線は最初から前だけに向いている。
◇
試合が始まった。
カルロは最初から距離を詰めてきた。
単発の出力が高い相手は、近いほうが強い。
それを分かった上での入り方だった。
リアは下がる。
慌てた感じはない。
距離を測っていた。
カルロが術式を展開する。
一発目。
出力が高い。
リアは横へ跳んで避けた。
二発目。
今度は角度を変え、リアの動いた先を狙ってくる。
単発の精度は高い。そこは本物だった。
リアは模擬剣で受け、横へ流した。
三発目。
カルロが連続展開に切り替える。
単発で仕留めきれないと見たのだろう。
(ここだ)
ユウトは息を止めた。
たぶん、リアも分かっている。
三発目の瞬間、リアが前へ出た。
連続展開の射程に、自分から入る。
逆の動きだった。
カルロの四発目が来る。
近い距離からの連続展開は、精度が落ちる。
術式の軌道が、わずかにぶれた。
その隙間に、リアの模擬剣が入る。
打ち込みの音がグラウンドに響いた。
重い音だった。
カルロの体勢が揺れる。
リアは止まらなかった。
二撃、三撃と続ける。
勢いが切れない。
五撃目で、カルロの体勢が完全に崩れた。
審査教師がポイントを記録する。
観覧席がざわついた。
「ソレイユ、速い」
「攻撃科の三年を崩した」
「先月と全然違う」
◇
カルロはすぐ立て直した。
そこはさすがに三年だ。
今度は距離を取る。
連続に誘われると厄介だと分かったのだろう。
単発に戻した。
そこから、似た流れが続いた。
リアが詰める。
カルロが連続に切り替える。
リアがその隙間に入る。
カルロが崩れる。
二度、三度。
同じ形が続くうちに、観覧席も静かになっていった。
何が起きているか、見えてきたからだ。
カルロも当然気づく。
表情が変わった。
焦りというより、苛立ちに近かった。
同じ崩され方を何度もしている。
このまま終わるのはまずい。
そう思ったのだろう。
カルロが動きを変えた。
連続展開の中に、単発の高出力を無理やり混ぜ込む。
精度を削ってでも、出力で押し切るつもりだった。
格上の意地と言えばそれまでだが、冷静な判断には見えなかった。
近距離でその単発を受けるのは、リアの模擬剣でもきつい。
リアが一歩下がる。
カルロが追う。
術式が、リアの左腕をかすめた。
審査教師がポイントを記録する。
同点だった。
観覧席がどよめく。
リアはそこで立ち止まった。
一度だけ左腕を見て、それからまた前を向く。
その顔が、遠くからでも分かった。
怒っているのか、集中しているのか、そのあたりは読めない。
でも、迷ってはいなかった。
◇
(リアが考えてる)
ユウトは息を詰めた。
教えたことを使い切った先は、自分で動くしかない。
そこから先まで、他人が決めることはできない。
リアにそれができるかどうか。
次の瞬間、リアが動いた。
今度は距離を取らない。
カルロの術式が来る前に、横へ大きく動く。
正面を外し、そこから斜めに踏み込んだ。
カルロが術式の向きを変えようとする。
でも、間に合わない。
リアの踏み込みが、カルロの展開の隙間に食い込む。
打ち込みの音が、さっきより重く響いた。
カルロが大きく後ろへ下がる。
体勢が崩れた。
リアは逃がさなかった。
そのまま追い、連続で入れる。
カルロも術式で防ごうとしたが、近距離では精度が足りない。
間に合わない。
最後の一撃で、カルロが膝をついた。
審査教師が試合終了を告げる。
◇
グラウンドが静まる。
そのあとで、観覧席が大きく揺れた。
「ソレイユが勝った」
「攻撃科の三年に」
「誰かが裏で動かしてるんじゃないか」
「ロンドの件もあるし、これは偶然じゃない」
その声を聞きながら、ユウトはリアを見ていた。
リアは模擬剣を下ろし、審査教師のほうを向く。
特別な表情はなかった。
やることをやった、という顔だった。
退場しかけたところで、リアが一度だけ観覧席を見た。
補助科の生徒が固まっている、このあたりを。
金髪が光の中で揺れる。
視線が、一瞬だけユウトのところで止まった。
それから前を向く。
何も言わない。
でも、それで足りた。
(伝わった)
ユウトはそう思った。
ミハイルのときとは違う。
負けたけど粘れた、ではない。
今回は勝った。
リアは、ユウトが渡したものを使った。
その上で、自分で考えて勝った。
教えたところまではユウトの仕事だった。
でも、その先は違う。
そこから先は、リアが自分で動いた。
その部分は、ユウトにも見えていなかった場所だった。
けれど、リアには届いた。
(見えていることは、使えばいい)
少し前から、そう思い始めていた。
今日はそれが、ちゃんと形になった気がした。
それだけで十分だった。
観覧席の向こうでは、次のブロックの準備が始まっている。
掲示板に、レオ・グランドの名前が出た。
二回戦だ。
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それでは、また次話でお会いしましょう。




