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第八話「ソレイユの剣」

リア・ソレイユの対戦相手は、攻撃科の三年だった。

名前はカルロ・ヴェイン。


単発の出力は高い。

ただ、連続展開に入ると術式の精度が落ちる。


そのことは、二日前の時点でユウトには見えていた。

リアにも伝えてある。


グラウンドに二人が出てくる。


右にカルロ。

背が高く、体格もいい。

構えを作る動きに無駄がない。


左にはリア。

金髪が光の中で揺れた。

視線は最初から前だけに向いている。



試合が始まった。


カルロは最初から距離を詰めてきた。

単発の出力が高い相手は、近いほうが強い。

それを分かった上での入り方だった。


リアは下がる。

慌てた感じはない。

距離を測っていた。


カルロが術式を展開する。


一発目。

出力が高い。


リアは横へ跳んで避けた。


二発目。

今度は角度を変え、リアの動いた先を狙ってくる。

単発の精度は高い。そこは本物だった。


リアは模擬剣で受け、横へ流した。


三発目。

カルロが連続展開に切り替える。


単発で仕留めきれないと見たのだろう。


(ここだ)


ユウトは息を止めた。

たぶん、リアも分かっている。


三発目の瞬間、リアが前へ出た。

連続展開の射程に、自分から入る。


逆の動きだった。


カルロの四発目が来る。

近い距離からの連続展開は、精度が落ちる。

術式の軌道が、わずかにぶれた。


その隙間に、リアの模擬剣が入る。


打ち込みの音がグラウンドに響いた。

重い音だった。


カルロの体勢が揺れる。


リアは止まらなかった。

二撃、三撃と続ける。

勢いが切れない。


五撃目で、カルロの体勢が完全に崩れた。

審査教師がポイントを記録する。


観覧席がざわついた。


「ソレイユ、速い」

「攻撃科の三年を崩した」

「先月と全然違う」



カルロはすぐ立て直した。

そこはさすがに三年だ。


今度は距離を取る。

連続に誘われると厄介だと分かったのだろう。

単発に戻した。


そこから、似た流れが続いた。


リアが詰める。

カルロが連続に切り替える。

リアがその隙間に入る。

カルロが崩れる。


二度、三度。

同じ形が続くうちに、観覧席も静かになっていった。


何が起きているか、見えてきたからだ。


カルロも当然気づく。

表情が変わった。

焦りというより、苛立ちに近かった。


同じ崩され方を何度もしている。

このまま終わるのはまずい。

そう思ったのだろう。


カルロが動きを変えた。


連続展開の中に、単発の高出力を無理やり混ぜ込む。


精度を削ってでも、出力で押し切るつもりだった。

格上の意地と言えばそれまでだが、冷静な判断には見えなかった。


近距離でその単発を受けるのは、リアの模擬剣でもきつい。


リアが一歩下がる。

カルロが追う。


術式が、リアの左腕をかすめた。

審査教師がポイントを記録する。


同点だった。


観覧席がどよめく。


リアはそこで立ち止まった。

一度だけ左腕を見て、それからまた前を向く。


その顔が、遠くからでも分かった。


怒っているのか、集中しているのか、そのあたりは読めない。

でも、迷ってはいなかった。



(リアが考えてる)


ユウトは息を詰めた。


教えたことを使い切った先は、自分で動くしかない。

そこから先まで、他人が決めることはできない。


リアにそれができるかどうか。


次の瞬間、リアが動いた。


今度は距離を取らない。

カルロの術式が来る前に、横へ大きく動く。


正面を外し、そこから斜めに踏み込んだ。


カルロが術式の向きを変えようとする。

でも、間に合わない。


リアの踏み込みが、カルロの展開の隙間に食い込む。


打ち込みの音が、さっきより重く響いた。


カルロが大きく後ろへ下がる。

体勢が崩れた。


リアは逃がさなかった。

そのまま追い、連続で入れる。


カルロも術式で防ごうとしたが、近距離では精度が足りない。

間に合わない。


最後の一撃で、カルロが膝をついた。

審査教師が試合終了を告げる。



グラウンドが静まる。


そのあとで、観覧席が大きく揺れた。


「ソレイユが勝った」

「攻撃科の三年に」

「誰かが裏で動かしてるんじゃないか」

「ロンドの件もあるし、これは偶然じゃない」


その声を聞きながら、ユウトはリアを見ていた。


リアは模擬剣を下ろし、審査教師のほうを向く。

特別な表情はなかった。

やることをやった、という顔だった。


退場しかけたところで、リアが一度だけ観覧席を見た。

補助科の生徒が固まっている、このあたりを。


金髪が光の中で揺れる。


視線が、一瞬だけユウトのところで止まった。

それから前を向く。


何も言わない。

でも、それで足りた。


(伝わった)


ユウトはそう思った。


ミハイルのときとは違う。

負けたけど粘れた、ではない。

今回は勝った。


リアは、ユウトが渡したものを使った。

その上で、自分で考えて勝った。


教えたところまではユウトの仕事だった。

でも、その先は違う。

そこから先は、リアが自分で動いた。


その部分は、ユウトにも見えていなかった場所だった。

けれど、リアには届いた。


(見えていることは、使えばいい)


少し前から、そう思い始めていた。

今日はそれが、ちゃんと形になった気がした。


それだけで十分だった。


観覧席の向こうでは、次のブロックの準備が始まっている。

掲示板に、レオ・グランドの名前が出た。


二回戦だ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし続きが気になった方は、ブックマーク・いいねをいただけると励みになります。

更新のモチベーションに直結しますので、ぜひよろしくお願いします。

それでは、また次話でお会いしましょう。

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