断章③「レオの欠陥」
完璧を目指していた時期がある。
今でも目指してるつもりだが、
あの頃とは少し意味が違う。
昔の完璧は、欠点をなくすことだった。
今の完璧は、欠点ごと制御することだ。
同じじゃない。
全然違う。
その違いに気づくのに、
けっこう時間がかかった。
◇
物心ついた頃から、
術式の出力は高かった。
才能があると言われた。
期待されると、応えたくなる。
応えると、もっと期待される。
そういうサイクルだった。
別に嫌じゃなかった。
期待に応えることが、
普通のことだと思ってた。
◇
中等科の終わり頃、
初めて壁にぶつかった。
出力を上げると、術式が乱れる。
第三層の接続部分が、
高負荷になると干渉を起こす。
技術的な問題だった。
解決策を探した。
接続の順番を変えた。
展開の速度を調整した。
何パターンも試した。
でも、根本は変わらなかった。
先生に相談した。
「精度を上げれば解決する」と言われた。
精度を上げた。
変わらなかった。
別の先生に相談した。
「出力を抑えれば問題ない」と言われた。
出力を抑えたくなかった。
それじゃ意味がないと思った。
◇
しばらく、そのことで頭がいっぱいだった。
完璧な術式を組もうとするたびに、
そこで詰まる。
欠陥がある。
その事実が、ずっと引っかかってた。
欠陥があるやつが、首席でいていいのか。
期待に応えられないんじゃないか。
そういうことばかり考えてた。
ある日、試合の最中に気づいた。
欠陥が出た瞬間に、動きが止まった。
止まったのは、欠陥のせいじゃなかった。
欠陥を意識しすぎたせいだった。
欠陥があると分かってるから、
出る前に構えて、
出た瞬間に焦る。
その焦りで、止まってた。
欠陥は確かにある。
でも、負けてたのは欠陥のせいじゃなかった。
欠陥を怖がってたせいだった。
◇
それから考え方を変えた。
欠陥をなくすのはたぶん無理だ。
でも、欠陥が出るタイミングは分かる。
出るタイミングが分かれば、
出た後の立て直しを速くできる。
完璧な術式じゃなくていい。
欠陥込みで、それでも制御できればいい。
そういう考え方になった。
欠陥があっても勝てる。
それを証明する方が、
欠陥をなくすより速いと思った。
実際、そうだった。
◇
アーセルに声をかけられたのは、
対抗演習の前だった。
補助科のやつが、
俺に話しかけてきた。
第三層の接続点の話をした。
第二層が安定してから接続しようとするから、
そこに負荷が溜まる。
同時に展開して、
接続のタイミングをずらせば
干渉が減るはずだ、と。
聞いた瞬間、正直驚いた。
観覧日に一度見ただけで、
そこまで見えてたのか、と思った。
試してみた。
最初は崩れた。
何度かやって、
少しずつ感触が掴めてきた。
完全には治っていない。
でも、立て直しが速くなった。
癪だった。
補助科のやつに言われて、
変わった部分がある。
認めたくはなかった。
でも、認めないのは嘘になる。
◇
対抗演習で、ソレイユに一点取られた。
欠陥が出た瞬間を、突かれた。
あの一瞬を捉えられるとは
思っていなかった。
驚いた、というより、腹が立った。
アーセルに接続点の話を聞いた。
その同じ情報を、
ソレイユにも渡していた。
俺に言っておきながら、
同時にソレイユの武器にもしていた。
それが引っかかった。
試合のあと、直接聞いた。
なぜソレイユに教えたのか、と。
「迷いました」と返ってきた。
迷って、それでも渡した。
そういう話だった。
俺だったら迷わない。
見えたことは使う。
それだけだ。
でも、あいつは迷った。
迷いながら、それでも渡した。
渡した理由を最後まで言わなかった。
聞かなかった俺も俺だが。
変なやつだと思う。
補助科のくせに、
余計なことを考えすぎる。
◇
欠陥は今もある。
なくなってない。
でも、立て直しは前より速い。
悔しいが、
あいつに言われて
見え方が変わった部分もある。
認めたくはない。
でも、認めないのは嘘になる。
◇
戦えない者に価値はない。
それは今も変わらない。
ただ、
戦う者を狂わせずに済む力があるなら、
話は少し別かもしれない。
まだ認めるつもりはない。
でも次に会ったら、
たぶん俺はあいつの目を見る。
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それでは、また次話でお会いしましょう。




