表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

第十二話「三回戦」

対抗演習の三回戦は、午後の早い時間に始まった。


グラウンドに人が集まっている。

一回戦や二回戦より、明らかに多い。


リア・ソレイユ対レオ・グランド。

その組み合わせが広まっていたからだろう。


それだけじゃない。

「補助科が裏で動いている」という話も、もう広まっていた。


ユウトは補助科の生徒たちの端に立っていた。

今日もいつも通りの場所だ。


でも、視線が来る。

こちらを見ている生徒が、昨日より明らかに多かった。


気にしないようにして、グラウンドを見る。



二人がグラウンドに出てきた。


リアが右側に立つ。

金髪が、午後の光の中で揺れた。

前を向いている。

表情は読めない。


レオが左側に立った。

いつもの据わった目で、正面を見ている。


でも、ユウトには分かった。

今日のレオは、最初から少し違う。


構えを作る前の、静かな準備の段階で、何かが張っていた。


(警戒してる)


レオはリアの変化を知っている。

二回戦までの試合も見ていたはずだ。

誰かが裏で動いている、という話も耳に入っているだろう。


だから今日のレオは、最初から読もうとしている。

相手が何をしてくるかを。


審査教師が開始の合図を出した。



リアが動いた。


最初から前には出ない。

距離を取った。


一回戦とも二回戦とも違う入り方だった。


観覧席がざわつく。


「ソレイユ、下がった」

「いつもと違う」

「待ってるのか」


レオが少し止まる。

一瞬だけ。

リアの動きが想定と違ったのだろう。


でも、すぐに動いた。


術式を展開する。

出力は抑えている。

様子見だった。


リアが横へ動く。

避ける。

でも、前には出ない。

また距離を取る。


(待ってる)


ユウトには分かった。

リアは今、高出力を引き出す前の段階にいる。

焦っていない。

昨日の踊り場での会話を、体で実行していた。


二発目。

三発目。

レオが連続展開に入る。

でも、出力はまだ抑えていた。


リアが後退し始める。

一歩。

また一歩。

少しずつ、グラウンドの端に近づいていく。


「ソレイユ、押されてる」

「グランドの方が上か」

「やっぱりか」


観覧席からそういう声が聞こえた。


ユウトはグラウンドを見ていた。

息を止めたまま。


(まだだ)


レオの出力は、まだ上がっていない。

欠陥が出る段階には届いていなかった。


リアは今、本当に追い込まれながら、それでも待っていた。



五発目。

六発目。

レオの連続展開が続く。


リアの後退が止まった。

グラウンドの端が近い。

これ以上は下がれない。


レオが見た。

リアの逃げ場がなくなっていることを確認した。


その瞬間だった。


レオの出力が跳ね上がる。

終わらせるための出力だった。


七発目の術式が展開される。

光の奔流が、リアに向かった。

さっきまでとは桁が違う圧だった。


(来た)


ユウトは息を止めた。


リアが動く。


後退じゃない。

横へ。

大きく、右へ跳んだ。


術式が、リアのいた場所を通過する。


レオが向きを変えようとした。

高出力のまま展開方向を変える。


その一瞬、第三層の接続点に負荷が集中した。


レオの展開が、止まる。


コンマ数秒。

でも、たしかに止まった。


リアの体が、その止まりを感じ取った。


理屈じゃない。

積み重ねてきた実戦の感覚が、相手の一瞬の停止を拾った。


前に出る。

迷いがなかった。


レオの正面へ、全力で踏み込む。

模擬剣を構えたまま、止まった一瞬の隙間に体ごと入った。


打ち込みの音が、グラウンドに重く響く。


グラウンドが静まり返った。


審査教師がポイントを記録する。


それから一拍置いて、観覧席が割れた。


「入った」

「ソレイユがグランドから一点取った」

「グランドが止まった、今の」

「何が起きた、今の」

「前代未聞じゃないのか」


声が重なって、グラウンドを包んだ。


ユウトはその声の中で、リアだけを見ていた。


リアは審査教師の方を向いている。

表情は変わっていない。


でも、その目には昨日の踊り場とは違う何かがあった。


届いた。

そういう目だった。


それだけで、ユウトには十分だった。



レオが立て直す。

速かった。


一点を取られたことへの動揺は、表情には出ていない。

でも、構えが変わった。


(修正してきた)


レオは今、全力で欠陥と向き合っている。


第三層の接続点を意識しながら、出力を上げ続ける。

そういう戦い方を、今この瞬間に体の中で作り上げていた。


八発目。

さっきと同じ出力で来る。

でも今度は、止まらなかった。


ぶれた。

一瞬だけぶれた。

でも、止まるほどじゃない。


リアが突こうとした。

間に合わない。


九発目。

今度は、ぶれすら出なかった。


レオが、欠陥を抑え込みながら出力を維持している。

その両立を、試合の中でやり遂げていた。


それがレオだった。


欠陥を抱えたまま、それでも頂点に立つ理由が、今ここにある。


(克服した)


ユウトは静かに息を吐いた。


昨日、リアに言った言葉が頭に戻ってくる。


「その先は、リアさんが勝つしかないです」


その段階が来た。


十発目。

十一発目。

レオの連続展開が続く。


欠陥を抑え込んだレオの出力は、さっきより重かった。

制御しながら全力を出している。

そういう圧があった。


リアが後退する。

今度は戦術的な後退じゃない。

押されている。


十二発目の術式が、リアの右肩をかすめた。

審査教師がポイントを記録する。

同点だった。


観覧席がまたざわついた。

でも今度のざわめきは、静かに広がる種類のものだった。


どちらかが、これで決まる。

そういう空気だった。



リアが構えを立て直す。


消耗が出ていた。

でも、前を向いている。


(まだ諦めてない)


ユウトには見えた。

リアの体は限界に近い。

でも、その目に諦めはない。


昨日の踊り場で「届くところまで行く」と言ったとき、

その意味はこれだったのかもしれない。


勝つことじゃない。

届くことを決めていた。


レオが動く。

今度は最初から出力を上げてきた。


欠陥を抑え込みながら、それでも頂点の出力で攻める。


十三発目。

リアが受ける。

弾こうとして、弾ききれない。

後退した。


膝が揺れた。

でも、倒れなかった。


十四発目が来た瞬間、リアが動く。


後退ではなく、横へ。


消耗した体で、最後の踏み込みをした。


模擬剣を構えたまま、レオの側面へ入ろうとする。

あと少し。

ほんとうに、あと少しだった。


レオが向きを変えた。

今度は間に合った。


術式がリアを直撃する。


リアが後退した。

膝をつく。


審査教師が試合終了を宣告した。



グラウンドが静かになった。

今日一番長い静けさだった。


リアが立ち上がる。

ゆっくりと。

審査教師の方を向く。

退場の確認をした。


それからグラウンドを出ていった。


歩き方は重い。

でも、うつむいてはいなかった。


その背中を見ながら、観覧席から声が上がる。


「グランドから一点が入った」

「剣術科が、グランドから一点を取ったのか」

「去年も一昨年も、グランドは全試合無失点だったぞ」

「補助科のアーセルが絡んでる、あれは絶対そうだ」

「補助科が、グランドを止めたのか」


声が重なって、広がって、グラウンドを包んだ。


ユウトはその声の中に立っていた。

補助科の端で。

いつもの場所で。


でも今日は、その声が全部こちらに向かってくる感じがした。


レオが退場しようとした。

その足が止まる。


観覧席の方を見る。

補助科の生徒が固まっている方向を見る。

ユウトを見る。


据わった目だった。

でも、今日の目には昨日とは違う何かがあった。


怒りじゃない。

軽蔑でもない。


「分かった」という目だった。


何が分かったのかは、ユウトには判断がつかなかった。


でも、その目が一秒だけここにあった。

それからレオは前を向いて歩き出した。



ミハイルが隣に来た。

いつの間にか、そこにいた。


「見てたか」


「はい」


「ソレイユ、一点取ったな」


「はい」


「グランドが修正してきたのも見えてたか」


「はい」


「お前はどう思った」


ユウトは少し考えた。


「予想していました。でも、リアさんが最後まで前を向いていたのは、予想していなかったです」


ミハイルが少し黙った。

それから「そうか」と言って、グラウンドを見た。


「俺、今日初めて分かったことがある」


「何ですか」


「お前がやってることは、戦術とか情報とか、そういう話じゃないんだな」


「……どういう意味ですか」


「見えてるものを渡して、あとは相手が動く。それをずっとやってる。でも結果として、誰かが届いたことのない場所に届く」


ミハイルが観覧席を見た。

まだ声が続いていた。


グランドから一点を取った剣術科の話が、あちこちで繰り返されている。


「それって、お前の力じゃないか」


ユウトは返す言葉が見つからなかった。


自分の力なのかどうか。

まだよく分からない。


でも、何かが今日変わった気がした。

それだけは分かった。


次のブロックの試合が始まろうとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし続きが気になった方は、ブックマーク・いいねをいただけると励みになります。

更新のモチベーションに直結しますので、ぜひよろしくお願いします。

それでは、また次話でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ