第十一話「欠陥の在処」
踊り場の灯りは、夜になると一段暗くなる。
ユウトはそれを知っていて、ここを選んだ。
ノートを広げていた。
レオの術式の動きを図に落とそうとして、うまく線にならなかった。
見えているものと、書けるものとの間に、いつも少し隙間がある。
足音が来た。
リアだった。
夕練のあとだろう。
金髪が少し乱れている。
踊り場に入って、ユウトを一度見て、窓枠に背を預けた。
「待ってたのか」
「はい」
「珍しいな、お前から呼ぶの」
それだけ言って、外を見た。
グラウンドはもう真っ暗だった。
◇
「グランドさんの術式に、欠陥があります」
リアが外を見たまま、少しだけ動いた。
「聞く」
「第三層の接続部分です。高出力を使うたびに、そこに負荷が集中する。一瞬だけ、展開が止まる」
「どのくらいの一瞬だ」
「コンマ数秒。普通は気づかない」
「あんたは気づいた」
「はい」
リアがようやくこちらを見た。
「それを俺に渡す気か」
「はい」
少しの間があった。
「あんたはそれでいいのか」
「まだ答えが出ていないです」
正直に言った。
リアは何も言わなかった。
「ただ、見えているものを使わない理由も、まだ見つけられていない」
リアが窓枠から体を離した。
「勝つために使えるものは使う。それだけだ」
グランドのことも、ユウトのことも、それ以上は足さなかった。
◇
「欠陥が出るのは、高出力の瞬間です。グランドさんに高出力を使わせないといけない」
「どうやって」
「リアさんが、本当に追い込まれることで」
リアが首を傾けた。
「演技じゃ通じないです。グランドさんには」
「本当に追い込まれながら、待つということか」
「はい」
「自信がない」
「そこが一番難しいと思っています」
ユウトは続けた。
「来る、と分かっていれば、少しだけ耐えられる。でも確証はないです」
リアが黙った。
しばらくそのままでいた。
「危ないな」
「はい」
「他に方法はないのか」
「今の段階では、これしか見えていないです」
リアが窓の外に視線を戻した。
暗いグラウンドだった。
「やってみる」
静かに言った。
◇
「一つ聞く」
リアが言った。
「グランドがその欠陥を直してきたら」
ユウトは一拍置いた。
「その先は、リアさんが勝つしかないです。俺が渡せるのは、ここまでです」
リアがこちらを見た。
青紫色の目が、灯りの中でまっすぐ向いていた。
少しの間があった。
「それでいい」
即答ではなかった。
でも迷いはなかった。
「欠陥が使えなかったとしても、やることは変わらない。あんたが設計した動きで、グランドに届くところまで行く」
ユウトは返す言葉が見つからなかった。
リアは最初からそういう人間だった。
渡したものを使いながら、その先は自分で行く。
◇
翌朝、組み合わせが出た。
ユウトは掲示板の端から確認した。
剣術科代表・リア・ソレイユ。
対戦相手、攻撃科代表・レオ・グランド。
周囲がざわついた。
「ソレイユ対グランドか」
「勝負にならないだろ」
「でも二回戦まで誰も崩せなかった相手を崩してきてるぞ」
「補助科が裏にいるって話、聞いたか」
声を聞きながら、掲示板を見ていた。
設計した動きが、本番で機能するかどうか。
見えているものを渡した。
でも試合は設計通りにならない。
そのときリアが何をするか、ユウトには分からなかった。
「ソレイユ対グランドか」
ミハイルが隣に来ていた。
「はい」
「お前が絡んでる試合だな」
「絡んでいる、というより」
「どっちにしろそうだろ」
ミハイルが掲示板を見た。
「ソレイユは勝てると思うか」
「分かりません」
「そうか」
しばらく黙った。
それからぼそっと言う。
「俺はグランドに一点取った。ソレイユも一点くらいは取れると思う。根拠はないけど」
ユウトはその言葉を聞きながら、掲示板を見ていた。
リアとレオの名前が、同じ枠の中に並んでいた。
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それでは、また次話でお会いしましょう。




