Ⅹ 私のこれからの物語
「まぁ、そんなこんなでのらりくらりと生きてきたって感じかな」
話がひと段落したタイミングで、話を聞いていたステラの言葉を待つ。
バリスタのバーは今日も賑やか。コーヒーの味も悪くない。
目の前にいる彼女はオレンジジュースを飲み終えると、目を細めて私を見つめていた。
「……アンタ、結構性格変わったのね」
「ミステリアス美少女的なのはかなり変わってる自覚はあるよ。前よりお話得意になったし」
「それも旅の影響ってやつ?」
「そうとも言えるね。なんていうか、人生経験を積んで変わったから最近こうなった可能性もある」
「……随分前にあたしと初めて会った時にはもういい加減だった気がするけど?」
「さぁ、どうだったっけ」
「そういうとこ、適当よね」
「難しく考えすぎないようになったからね。マスター、新しく注文追加するね。次はお茶とチョコケーキ」
「あっ、あたしもお茶をお願いします。ええっと、甘いものはイチゴが乗ったケーキで」
マスターに注文を追加しながら、ステラと一緒にくつろぐ。
のんびり背中を伸ばしていた時、彼女はさらに言葉を重ねてきた。
「まぁ、話を聞いてある程度は魔法少女を名乗ったりする理由はわかったわ」
「それはよかった」
「けどね、やっぱりあたし的にはあんたが魔法少女だーっていうのはまだ納得しきれないところもあるわ!」
指をびしっと向けながら宣言するステラ。
納得はできないとは言いながらも、否定はしない。それくらいの絶妙な声色を感じる。
「人助けはよくしてるけど」
「リベラはそこそこ性格いいし、あたしの見てないところでもやってるのはわかる」
「魔法みたいな力も使えるし」
「『魔の法律』の力ってやつよね。まぁ……うん、屁理屈ではあるけど魔の法で魔法ではあるわね。それもアレだけど」
「そうなると、納得できない部分はどこになったりする?」
「はっきり言ってあげる」
姿勢を正して、私の目を見つめながら彼女が言葉にする。
「キラキラした魔法少女らしい変身や身のこなし! そういうのが足りない!」
「……今の服装じゃ駄目?」
黒コートに青いスカート。
主張しすぎないくらいの衣装は魔法少女として相応しくないのだろうか。
「ちょっと黒すぎる! なんていうか、煌びやかな感じが欲しいの!」
「そんなに」
「いや、レクチャーしたいくらいよ、ほんとに……あたしは魔法少女として活動してる時ならもうちょっとキラキラしてるわよ?」
そういう彼女の今の衣装は素直なフリルが付いたワイシャツとミニスカートといったものだ。
しっかり活動している時の彼女はより派手な衣装になっているのはある程度覚えている。
「だから、過去のことを知ったとしてもアンタのことは魔法少女として認めない。これはまだ変えるつもりはないわよ!」
「急に変えてきたらそれはそれで怖いかも」
「安心しなさい、そうそう心変わりするつもりはないから」
のんびりと話している間に、注文が届きデザートとお茶がテーブルに用意されていく。
どれもしっかりとした味わいで美味しそうだ。
「ところで、リベラ」
「なに?」
「旅とかしててさ、自由とはなにかー的なものって見つかったりしたの?」
ステラがケーキを味わいながらも純粋な疑問を問いかけてくる。
その質問に対して、私は少し考えたのちに答える。
「その答えはそうそう見つからないものだって思ってるよ」
「じゃあ、見つかってないってこと?」
「そういうこと。そもそもの話、今でも考えてるからね、自由について」
「へぇ、意外。てっきり旅してるから自由だーとかそういう感じになってるのかと思った」
「なかなか自由って難しいんだよ?」
私もチョコケーキをひと口味わう。甘さの中にある少しの苦みがとても美味だ。
「次に行く街とか考える時だって、自由に考えすぎちゃうと似たような街に行きがちだし、逆にアレコレ決めちゃうとガチガチな感じになって満足に動けなくなっちゃう。旅をするときに自由に行動したいってなっても、なかなかうまくいかないことだってあるもので」
「なかなか難しいのね……」
「うん。だからこそ、自分の意志で考えるっていうのはずっとやってるつもり」
かつてのポピーさんがやってきたように、そしてあの日の旅人が願っていたように。
私も、自分の選択を決めるということはずっと続けてきている。
「ブバルディアからもそう教わったからね。私なりに歩き出す道標はしっかりと作っていかないと」
「話を聞いてる限りでも、かなりいい人よね、ブバルディアさんって。ちょっと会ってみたかったけど、なかなか難しそうかしら」
「うーん、案外難しくはなかったりするとは思うけど」
「そうなの?」
「ブバルディアって結構お酒好きだし、酒場とかには顔を出す方って言ってたからね」
そこまで言葉にすると、ステラが困惑の表情を浮かべた。
「まさか、今日やってくるとか思ったりしてるの?」
「うん」
「……最近会ったりしてた?」
「してないけど」
「連絡は?」
「してなかったね」
「でも来ると」
「思ってるよ?」
「根拠は」
「魔法少女的な直感」
「変身してから言ってほしい台詞ね、それ」
「そうだったらいいなって思うのは、魔法少女らしいと思わない?」
「ぐっ、それは否定できない」
お茶をお互いに味わいながら、入口付近を何回か見つめる。
急に誰かがやってくることはない。
しかし、視線がふたりで入口に集まっていることは間違いない。
「旅人の中にはこういう時、来るか来ないかで賭けをする人もいるらしいよ」
「魔法少女は賭け事しない!」
「まぁ、私もそういうのはやらないかな」
「なんかちょっとは堅実そうだもんね、リベラって」
「よくわかってる」
「昔話を聞いたからっていうのもあるかもしれないわね」
「真面目に聞いてくれてありがとね」
「どういたしまして」
やってきたらいいな。
そういう気持ちを伝えた後から、どうにもそわそわしてしまっている。
ステラもどうやら同じみたいで、入口方面に視線を向ける回数が増えている。
なんていうか、お互いわかりやすい。
「もし会えたらどんな話するつもり?」
「ありのまま話すんじゃないかな」
「具体的には?」
「……うーん、なかなか思い浮かばない」
「そこはしっかりしときなさいよ」
落ち着かない時間が続いていく中、ふと入口に顔を向けた時。
扉の向こう側からノックする音が響いてきた。
トン、トン。
刻みよいリズムを奏でたのちに、扉が開く。
「さぁーって、今日は呑むぞー!」
そこにいたのは長身で赤髪の女性。
鋭いキリっとした目とドレス姿のよく似合う、記憶のままのあの人。
「あれって、もしかして……!」
「ブバルディアだね。本当に、ここに来たんだ……」
私を助け、導いてくれたブバルディア。
その彼女が目の前に現れたのだった。
悠々とお店を歩く彼女の姿からは一仕事を終えたという雰囲気を感じさせられる。
「ど、どうする? 話しかけるの?」
「どうしようかな、こういう時の対応考えてなかった」
「考えなさいよ、そこは! 気が付かれなかったら悲しいわよ!」
「そう言われても……」
迷惑にならないように小さな声でステラと相談しあう。
どうするべきか、お酒を呑みに来たのなら迷惑をかけない方がいいか。
どうにも、言葉が思い浮かばない。
ふたりで悩んで、悩みまくる。
「そうだ」
その中で、ひとつだけ私は閃いた。
しかし、時間が足りない。少なくともステラに話すタイミングはないだろう。
閃いた私は即座に覚悟を決める。
私が座っている席はマスターがいるカウンター席のやや近くにあるテーブル付近だ。
ブバルディアが通ってカウンター席に座ろうとする可能性はある。
だから、そこを狙う。
ブバルディアが近づいてきて、カウンター席に座ろうとする。
今だ、このタイミングしかない!
「お疲れ様、ブバルディア」
昔っぽい私の声を極力再現して、彼女に伝える。
その声にハッとした彼女は振り向いて、私の方を見つめてきた。
「アンタ……まさか、リベラ!?」
「久しぶり、ブバルディア。私は元気にしてたよ。ブバルディアは?」
「アタシもバリバリまだまだ現役だし、しっかり魔法少女してるよ! こうして会えるなんて運がいいねぇ!」
「うん、私もそう思う」
意気投合して、ふたりで話し合う。
ふとその様子を見つめていたステラにブバルディアの視線が移る。
「彼女は?」
「ステラ・クォーレ。リベラの友達で、正真正銘の魔法少女です。……本気の本気で魔法少女だからね!」
そう言葉にしながら、彼女は小さく変身した。
落ち着いた衣装からフリルがいっぱいの衣装に切り替わる。
魔法少女としてのプライドなのだろうか。煌びやかな衣装に切り替えたのちに彼女は主張していた。
「本当の魔法少女さんと友達になったのかい!? いやぁ、アタシの目に曇りはなかったよ」
「今日、たまたまリベラが昔話をしてましたので、会いたかったなぁと思ってました、ブバルディアさん」
「へぇ、あのリベラがねぇ。面白いこともあるもんだ!」
そう言って豪快に笑う彼女。
……なんだかそう言われると少しだけ恥ずかしい。
「久しぶりに振り返りたくなっちゃってね。色々話してた」
「話し方も変えたんだね。表情も豊かになっちゃってぇ」
「旅で得た経験が私を常に進化させてくれてるからね。それくらいはできるようになった」
「硬い口調を再現してても、柔らかさがにじみ出てるぞ?」
「うぅ……まぁ、とにかく! 私は今、私らしく生きていけてるよ!」
びしっとそう言葉にする。
ずっと同じように生きることは難しいし、きっとできないことかもしれない。
でも、変わり続ける自分も悪くはないし、好きになれる。
だからこそ、前向きに生きていきたい。
私の近くの席にブバルディアが座り、三人でテーブルを囲む。
以前の自分では考えられなかった、気の知れたみんなと行うことができる雑談。
かつてはなにもなかった私が、今は確かな繋がりを得ている。
「人生は旅みたいなものさ。同じ道なんて存在しない。だから、この出会いにも乾杯をしようじゃないか!」
「後悔のないように、これからも旅を続けていくからね、私は」
「あたしも魔法少女としてしっかりこれからも人助けしてくから!」
マスターからそれぞれ飲み物を受け取り、みんなでグラスを構える。
私とステラは当然、お酒ではない。ブバルディアはきっとお酒だ。
「乾杯っ!」
グラスの音が響きあう。
その中で、ブバルディアは微笑みながら言葉にする。
「よかったら、アタシにも聞かせてくれよ。これまでの旅路のこと、そしてこれからやってみたいこと」
「リベラ、いけそう? これも長い話になりそうだけど」
その言葉に対して、私は笑顔で受け止める。
「当然! 私が歩んできた道や街、そしてこれからのこともいっぱい伝えていくよ!」
過去の選択もこれからの私も、全部大切なものだ。
だからこそ伝えたいし、伝えられるような旅にしたい。
私のこれからの物語も素敵だと胸を張って言えるように、まっすぐ進んでいく。
そうして旅人は自由に生きる。
自由の意味もまだ完全にはわからないし、これからわかる日が来るかも未知数だ。
だからこそ私は私なりのリズムでこれからも胸を張って生きていきたい。
それが、あの日から始まったリベラリズム。
ビギニング・ザ・リベラリズム。
これからも、私の旅は私なりの歩幅で続いていくのだ。




