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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル
中編『ビギニング・ザ・リベラリズム』

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Ⅲ 瓦礫の山で見つけた感情

「アタシがやっている仕事、それは価値のあるものを探し出すことさ」


 そう言葉にしながら行動を起こす魔法少女ブバルディア。

 私より背丈の高い、少女というには大人びた体格の彼女は瓦礫を退かして物品を探していく。


「所有権問題に繋がる可能性があると思う」


 とりあえず私も腕を動かしていく。一応仕事を手伝う立場になっている以上、行動を起こさないのも不義理だと思ったからだ。

 ……とはいえ、勝手に所有物を盗むようなことになればトラブルが発生するのではないか。

 そう感じた私は彼女に疑問をぶつける。


「気にする必要はないさ。この街はもうずいぶん前に滅んでるからね」

「数年単位?」

「いいや? 少なく見積もっても百年は経過してるだろうさ」


 小さな宝石を見つけたブバルディアはその品質を確認して、予め用意してあった荷物袋に取り入れていく。

 その手際はかなり慣れた様子であり、普段の仕事にしているというのも頷ける。


「もう生存者はいないと」

「そうさね。ま、運よく生き延びた子孫ってやつは他の街でのんびり暮らしてるかもしれないけどね」

「再利用の為に探っている部分が強いと」

「そういうことさ。利用できるものが埋もれたままになってるというのはもったいないだろう?」

「なるほど」


 金銀財宝が埋まっているというわけではないものの、ある程度使えるものは発見できるようだ。

 役に立つものを探す、という点ではブバルディアは社会貢献を行っている存在なのかもしれない。


「あぁ、そうそう。使えそうだと思ったものはアタシに見せておくれよ。判断してあげるからね」

「了解」


 彼女の言葉を受け止め、自分の判断で使えそうなものを探っていく。

 ひとつ、私が封印が解かれた際にバラバラになったクリスタルで形がある程度保たれているものを渡してみる。


「おや、綺麗なクリスタルじゃないか。これはアクセサリー屋が求めてくれそうだ」


 どうやら魔力を帯びたクリスタルの断片は再利用できるらしい。

 次に、土に埋もれていた手鏡を見つけたので、彼女に渡してみる。


「状態がいいね。これなら文化的価値とかなんとか言ってくる人に渡せそうだ」


 手渡したものを分析するブバルディア。様々な人との連携を考えている様子から察するに、どうやら彼女の顔は広いようだ。

 その後も仕事を手伝いながら、私と彼女は瓦礫の街の探索を続けていった。




 荷物袋が少しずつ膨らみ、仕事の小休止に入った時、彼女は私に疑問をぶつけてきた。


「ところでアンタ、いったいどうしてこんな珍しい場所にいたんだい?」

「最初に言った通り、だと思う」

「わからないって言ってたやつだね?」

「そう。今日、クリスタルから目覚めただけだから」

「クリスタルから目覚めた? 詳しく聞いてもいいかい」

「了解」


 私が目覚めた状況について説明していく。

 ……とはいっても、記憶が断片的に抜け落ちているような感覚もあるため、あまりうまく説明できた自信はない。

 話を聞いたブバルディアは、頷き、そして考え込んでいた。


「不思議な力が使えるって言ったね? ちょっとアタシに見せてほしいわ」

「すぐにできそうなこと……」


 少し考えて、魔力を自分の身に纏ませる。


「『魔の法律の力を使いて、一時的な法を刻む。我が身体は魔力を消費することによって浮遊を執り行うことができる』」


 その言葉に反応し、自分の身体に一時的なルールが刻まれる。

 それは、『魔の法律』の力を利用した条理の変更。

 私の不思議な力の正体だ。

 宙に浮かんだ私は空中で座りこむ。風を利用するというわけでもない。純粋に浮遊するという法を自らに刻んでいるだけだ。


「魔の法律……!」


 その言葉を聞いたブバルディアは、驚きの表情を隠せずにいた。

 まるで、なにかを知っているかのような反応だ。


「なにか知っている?」

「かつて存在してた魔法の形のひとつさ。もう滅んじまった街で活動していた人が使っていた力ともいうね」

「滅んだ街?」

「絶対的な法を厳守する街……つまり、この街のことさ」


 そこまで話したブバルディアは、私に近づき、強い眼差しで見つめてくる。


「なるほど、もしかしなくてもアタシはとんでもないお宝を見つけちまったのかもしれないね」

「お宝?」

「アンタの存在そのものさ」


 私に指を指しながら、彼女は言葉を繋げる。


「アンタのような『宝物』は需要がある。歴史的背景の為に調査するだとか、当時の情報を知る生き証人になるみたいな話まで繋がる可能性だってある。存在の価値だってきっと今のアタシより計り知れないだろうね」

「過去のことを知る為に使えるということ?」

「あぁ、歴史的な存在意義という観点でいうなら『使える』っていってもいいのかもしれないね」


 彼女の口ぶりだとそういう話のようにも聞こえてくる。

 過去の情報がない私が過去を知るきっかけを得られる。それもまた悪くないのかもしれない。

 なにもわからなくとも、人の役に立てるのなら貢献するべきなのだろう。

 そこまで考えて、彼女に協力の言葉を投げかけようとした時だった。


「けど、アンタはどうしたいんだい?」

「私?」


 彼女の問いかけに言おうとしていた言葉が止まる。

 ブバルディアは、今まで見た中で一番真剣な表情で私に語りかけていく。


「状況に流されて、こうすればいい、ああすればいいという言葉を聞いて、選択していくのも悪くない人生さ。でもね、アタシはそういうのが好きじゃない。だから、アンタ自身の言葉が聞いてみたいのさ。我儘かもしれないけどね」

「私自身の、言葉」

「今のアンタは自由だ。なんにも縛られていない状態で、アタシに協力しているだけのただの人なのさ。だから、選ぶ権利はアンタにあるんだよ」

「選ぶって、どうやって」

「そりゃあ、アタシの口からは言えないね。自分で考えな!」


 無茶を言っているような気がする。

 ただ、それでも彼女は彼女なりに私のことを尊重してくれているのは感じられた。

 私が意志を持っているからこそ、その行動を尊重したい。そういった優しさを感じられる。


 そうして、私は改めて考える。

 私はなにがしたいのだろうか。

 私は、なにができるのだろうか。


 漠然とした意識の中、頭の中に繰り返し思い浮かぶ言葉がひとつ。

 それは、『自由』という言葉だった。

 気になる、興味がある。そういった感情が頭をよぎり、気が付いた頃には私の口は動いていた。


「私は『自由』が知りたい」

「自由? 今のアンタは自由じゃないのかい?」

「わからない。でも、違う気がする。だから、知りたい」


 不思議と探求心が止まることはなかった。

 漠然とした不安が好奇心になる。

 知らないことを知ってみたいという感覚が少しずつ湧いてくる。

 それは意識を持って初めての感覚だった。


「ここで、ぼんやり生きていたとしてもきっと私は『自由』にはなれない。ただ、流されるまま生きるだけになってしまうと思う。だから、なにかをやってみたいと思った」

「大抵の人間は自由なんて気にしないよ。何かに縛られて生きる方が快適だし、きっと、流されるがままに生きる人は多い。アンタもそういう生き方もできそうだけど?」

「もしかしたら、縛られたくないのかもしれない。こういう時にどういう説明をすればいいのかわからないけれど……私にできる生き方を模索してみたい、というのが言葉として相応しいのかもしれない」


 うまく言葉で表現できているのだろうか。不安になりながらも話してみる。

 そんな私の言葉を聞いたブバルディアは、大きく笑い、どこか満足そうな表情を浮かべていた。


「いいねいいねぇ! ほんっとうにいい! 最高だよアンタ!」

「……変なことを言った?」

「あぁ、変だね。普通の人はきっと言わないような変なことさ。でもね。だからこそ……気に入った」


 にやりと笑う彼女。

 その顔にはさっぱりとした爽やかさがあった。


「アンタ、しばらくアタシと行動しな。そして、アンタがやりたいことを見つけるんだ」

「迷惑にはならない?」

「ならないさ! ただ、夢は見つけることだね!」

「夢……」


 漠然としたものを考える日々になりそうな気がする。

 だけれども、なんだか悪い気はしない。

 きっと、私が追い求めているものはそういったとりとめのないものなのだから。


「さぁ、荷物を持ってアタシが住んでる街に行こうか! アンタのことはいい感じに言っておくよ!」

「ありがとう、ブバルディア」

「礼はいらないさ。ただ、アンタはアンタらしい生き方を見つけられたらいいね!」

「努力はする」

「さぁって、魔法少女ブバルディアは今日もいいことしたよーって報告しなくっちゃね!」

「……ふと、気になったことがあった」

「なんだい?」

「ブバルディアはどうして魔法少女って名乗っている?」

「好きだからに決まってるじゃないか」

「そうなんだ」


 知らないことも、わからないこともまだまだ多い。

 ただ、新しい生活の中でなにかを見つけることもできるのかもしれない。

 そう考えると、少しだけ期待のような気持ちが膨らんでいた。


 廃墟の街を抜け出して、私とブバルディアは夜の道を進んでいく。

 満月の空。

 澄んだ空気が、なぜだか心地よかった。

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