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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第37話【ポテトの街】

 たまには美味しいものを食べたくなるというのは旅人あるあるだと思う。

 そう考える理由には、美味しいものがいつも食べられるという保証がどこにもないというのは大きい。

 旅の最中では保存のしやすさを考慮して、味を求めるより長持ちするものを用意することも多い。

 そういった事情は私の食欲に影響を与えるのだ。


 美味しいものを味わう手段は考え付くだけでも多い。

 評判のいい街のレストランに入る、同じように旅をする料理人からなにか作ってもらう、自分で創作する。

 しっかりとしたものを食べるということだけを考えるなら、すぐに実行できることもあるだろう。しかし、今日の私の気持ちはちょっとだけそれだけでは解決できないような珍しい方向に傾いていた。


「同じ食材を使った食べ物で美味しいものが食べてみたい……!」


 そう、そんな感じの少しだけ捻くれた気分だったのだ。

 主食として使う食材があって、そのひとつひとつが異なった味わいになるとかそういうものを求めている。


「なかなか欲張りな発想だけど、なにかないかな」


 そう思いながらぼんやりと道を歩いていく。

 今日の空も比較的快晴。雲は出ていても太陽がまぶしい。

 そんな中、食事を求めて歩いている私はそれなりの空腹感を抱いている。

 まだお昼前だけれども、朝に食べたものはパンひとつのみ。ちょっと質素だったのは否めないのだ。


「っと、看板発見」


 マイペースに歩いていくと、賑やかに飾りつけされた看板が目に映る。

 その中央に描かれている文字に私は心を惹かれていた。


「ポテトの街……!」


 なかなか興味を惹かれる街の名前だ。

 ポテトの街。

 今の私が行くとなかなかよさそうな出会いがありそうな予兆を感じる。

 看板の案内を見る限り、比較的すぐに街に到着することができそうだ。


「よし、行ってみよう」


 ポテトの街ではどんなものを食べることができるのだろうか。

 期待に胸を膨らませながら、私は歩いていくことにした。





 ポテトの街。

 その外装はかなり愉快な光景になっていた。


「建物のバリュエーション、凄い」


 まず第一に驚いたのは建物の構造だ。まるで遊園地のように様々な形がある。

 細長なフライドポテトがいっぱい入った袋を再現したお店に、マッシュポテトのような形の家。

 ジャーマンポテトのように飾りつけられた公園の建設物なんかもある。

 なんていうか、その様相だけでもポテトに特化した空間なことが伺える。


「よーうこそっ、親愛なる旅人っ! ポテトの街へ!」


 テンションの高い男性が私に話しかけてくる。

 シルクハットと紳士服の姿をしているのもあって、ちょっと変わった人のようにも思える。


「僕の名前はミスターポティト! 旅人案内なら任せてくれたまえ!」

「よ、よろしく。私はリベラ。ちょっと気になったからポテトの街に入ったんだ」

「気になった。ふむ……どういうことに対してかい?」

「本当にポテトがいっぱいあるのか、ポテトが主食のものでどれだけ満足できるのかなって」

「ほうほう、それならこのポティト! かなりの力になれますよぉ!」


 手を合わせて笑顔で言葉にするミスターポティト。

 やる気に満ち溢れた彼は、私をしっかり案内してくれそうだ。


「お昼とかおやつとか、いっぱい今日は食べてみたいな」

「はい、わかりましたよぉ! それでは行きましょう! ポティトカーニバル、開っ幕です!」


 パン、と音を鳴らすと突如空に花火が打ちあがった。

 夜ではなくとも、閃光は輝く。花火の模様はそれぞれチップスやフライドポテトなど、様々なポテトの形を表現していた。


「ささ、着いてきてください、リベラさん」

「わかった」


 ポティトの案内に従って、一つ目の建物に入る。

 最初の建物。その中には数多くの植物が植えられていた。


「ここは?」

「ポテトの街、最大級の栽培施設でございます」

「そうなると、多種多様なポテトがある場所ってこと?」

「左様。里芋、山芋、ジャガイモなんてものも存在するのです」

「普段私が食べてるようなポテトもある?」

「当然です。この街では異世界のポテトすら簡単に入手できるのです。世界流通してるポテトだって当然しっかり育てられています」

「流石」


 それぞれ植えられているポテトの中には成長していて、立派な葉っぱがあるものもあった。

 気になって近づいてみると、ポティトが指を指しながら言葉にした。


「収穫、してみませんか?」

「いいの?」

「はい。この際、グイっといっちゃいましょう!」


 ポティトから説明を受けて、私はポテト堀りを開始していく。

 私が収穫しようとしているポテトは異世界ではジャガイモとも言われているものだ。

 しっかり支えられながら私はジャガイモをスコップを利用して傷つけないようにしながら掘り当てる。

 それぞれの大きさはかなりのもので、こってりとした味わいが楽しめそうな印象を感じさせられる。


「おぉ、センスがいいですね」

「ありがとう。このポテト、随分しっかり大きいね」

「はい。土壌もしっかりしているのはこの街の強みなのです」

「こういう建物以外でも栽培してるの?」

「それは当然です。天然の自然によって作られたポテトもとても大切ですから!」


 くるりと回り、彼が新しい行動先を指差す。


「では、次に調理場に向かいましょう。美味しいジャガイモの料理をいっぱい提供しようではありませんか!」

「今収穫したのを使って食べる感じ?」

「はい、その通り! ふふふっ楽しみになってきませんか?」

「そうだね、かなり楽しみっ」


 ポティトの言葉に笑顔で微笑み返しながら、私は次の場所まで案内してもらうことにした。

 ジャガイモを使った料理。

 どんなものがやってくるか楽しみだ。

 意気揚々と歩くポティトの背中を追いながら、私はワクワクした気持ちでいっぱいになっていた。




 ポティトが案内した個人経営のお店。

 調理場が見えるカウンター席に私は案内された。

 ポティトは私の隣で店員さんに色々注文を頼んでいた。


「では、よろしくお願いします」

「かしこまりました。取れたてのジャガイモも有効に使わせていただきます」


 ベテランらしい雰囲気があるシェフが真剣な表情でポテト料理を作成していく。

 私はお腹を空かせてその様子を見つめていた。


「さて、ポテトの街の由来について説明しましょうか」

「街の法とかと関係あるの?」

「それはもちろん。この街のルーツはひとりの青年の喜びから始まったのですから!」

「喜び……美味しかった的な感じかな」

「左様でございます」


 指を上にあげて、ポティトは雄弁に語っていく。


「ある日、お腹を空かせた青年がこの街にたどり着きました。なにか、食べるものが欲しいと彼は願い出ます。そんな中、街は不作が続いていました。街の住民が食べるものも少ない状況。あまりにも自分勝手な願いとも捉えられたのかもしれません。しかし、街の住民は自らの事情を割り切りつつ、青年にポテト料理を振る舞ったのです。『せっかくやってきた旅人さんを見殺しにすることはできない』と」

「大変な状況があったんだね……」

「えぇ、苦難が多かった時期もありました。しかし、青年との出会いによって大きな変化を迎えるのです」


 一呼吸おいて、彼が昔話を続ける。

 その語り方には暗い様子を感じられない。明るい未来のことを話している。


「青年は助けてくれた住民に感謝を伝えたいと思いました。その時に作られたのが街の法だったのです。『心優しき、ポテトと共に生きる住民に数多くの祝福を願う。芋の農作物の成長を天は見守り、生活がポテトと共にあらんことを』という願いにも似た法律を作ったのです」

「街の支えを用意してくれたんだ」

「はい、法律を作成する時、青年は調べた上でしっかり用意してくれたのです。現在この街ではポテト以外の農作物は育たない代わりに、ポテトや芋といったものは育つようになっています。その恩恵を我々は享受しているのです」


 話がひと段落したタイミングで、ポテト料理が届けられる。最初に届けられたのはポテトサラダだった。

 いっぱい使われたポテトに、きゅうりやニンジン、ハムが使われているシンプルながら美味しそうなものだ。


「こちら、ポテトサラダになります」

「ありがとう、いただきます」


 一口味わうと、ほくほくした味わいが口いっぱいに広がってくる。

 主役としてのポテトに添えられた野菜たちが優しい味を作り出してくれて美味しさが伝わってくる。


「美味しいっ」

「ふふ、とれたての味わいはよろしいものでしょう」

「きゅうりとかは別の街から貰ってるんだよね」

「はい、特産品の交換によって入手しています。街との交流もうまく行っています故」


 料理がどんどん用意されていく。

 ポテトグラタン。ジャーマンポテト、マッシュポテト。

 それぞれ大きなサイズではないものの、まるでフルコースのように運ばれるその料理をひとつひとつ私は美味しく味わっていく。


「全部風味が違うのもあって、楽しいかもっ」


 ホクホクした食感があっても、その味わいはどれも違う。

 しょっぱい味わいがあったり、甘かったり、チーズと絡んだ味わいが斬新だったり、それぞれの味に飽きがこない。

 私の当初の目的にいい感じに合致している。


「チリソースを使ったものや、ポテトの中に様々な詰め物をする料理もありますよ」

「ポテトって凄いんだね」

「えぇえぇ、この街では主食なのも頷けますでしょう?」

「うん、納得できる」


 それから私は様々なポテト料理を味わって、満足行くままに堪能するのだった。





 食事が終わり、テーブルにはおやつとしてフライドポテト、ポテトのチップスが置かれていた。

 それぞれ違うフレーバーの味わいのものを味わいながら、私はポティトに感想を述べるのだった。


「満足感凄いね、ありがとう。ポティト」

「いえいえ、旅人さんにはおもてなしするというのがこの街の礼儀なもので」

「それは昔からの習わし?」

「そうでもあります。ただ、魅力を伝えたいという本心もあります」


 ポティトが微笑みながら続ける。


「一つの食材でも、様々な顔がある。人間だって似たようなものだって伝える為のね」

「私もポテトのように、色んな魅力があるってこと?」

「はい、誰かを支えるような存在にも、魅力的な主役にもなれるような素敵な存在です」

「そういうの、素敵かも」


 カリっとしたポテトを味わいながら、私も釣られて笑う。

 食感も、味わいも、満足感も違うポテト料理。

 それでもどれも印象的な味わいで、私もある意味見習いたいと思えた。


 それぞれ違う魅力を引き出しながら、私らしく生きてみたい。


 ポテト料理を食べてそう思うのはちょっと不思議なのかもしれない。

 でも、私は本心からそう思った。


「リベラさんに、よい旅路があらんことを」

「ポティトとポテトの街に祝福がありますように」


 街は今日も優しく生き続ける。

 きっと過去にたどり着いた青年の旅人もこんな気持ちだったのかもしれない。

 温かい気持ちに包まれながら、幸せな時間を過ごしていった。






「よし、元気もいっぱいだし、次の街はどこに行こうかな」


 翌日。

 購入したポテトパンを食べながら私は旅路を移動する。

 次の目的地も当然決まっていない。


「色んな魅力を引き出す為にも……うん、今日も頑張るぞっ」


 前向きな気持ちで、一歩ずつ進んでいく。

 これからも、きっと私は新しい自分を見つけていくはずだ。

 様々な味わいがあるポテトのように。


 本日も青空快晴。すっきりとした気分のまま、私は足を進めていた。

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