第36話【熱気がある街】
「想像の数段、暑い!」
それが今回訪れた街の第一感想だった。
「熱気があるっていうから活気があるとかそういう意味合いだと思ってたけど……」
滴り落ちる汗を拭き、熱を逃がせるような軽装に着替えておいても熱気が伝わってくる。
ここでいう熱気は純粋な暑さの方の熱気だ。
「まさかダブルミーニングだったなんてね」
ただ、暑いだけがこの街の姿ではない。活力に満ち溢れている『熱』を持った人もいっぱいいる。
そう、盛り上がりを示すような意味合いでの熱気も確かに存在している街となっている。
改めて街の様相を確認していこう。
『熱気がある街』は文字通り熱気に満ち溢れた街だ。
それは、目の前に広がる景色からも伺える。
街のエネルギーを支えているのは蒸気機関。発生した蒸気を利用して街全体の動力を支えている。
激しい蒸気を噴き出している建物からもよくわかる。
熱気を利用して動く装置もいくつか存在している。街全体から自然発生している熱気を利用してタービンを回している空間もいくつかあった。
動力不足に陥ることはなさそうなくらい、多くの施設が循環しているのだ。
「でも、純粋な意味での熱気もあるのが凄いところだね」
街のいたるところでイベントが繰り広げられているのも特徴と言えるだろう。
野外ライブで人を集めて熱唱しているミュージシャン。
多くの屋台が並んで、多種多様な肉を焼いているお祭り会場。
街全体が活動的なイベントを盛り上げるという意思があるからか、他の街から訪れてくる人も多い印象だ。
「でも、色々考えると不思議になってくるかも」
なんで熱気がここまで凄い街になっているのだろうか。
街全体が暑い状況そのものは『街の法』で発生しているものだというのはわかる。
それでも、街が人が集まるという意味合いで『熱い』という状態については説明しづらい。
人がいなければ、街はやがて廃れていく。
この熱気の中で集まるというのは、本来はかなりしんどいはずだ。それでもイベントに集まる人がいる。
その状況が不思議だった。
「……こういうときは、調査していくのが一番!」
気になったら、聞きこんだりするのがいい。
そう思った私は、街で盛り上がっている人にそれぞれ話を聞いてみることにしたのだった。
「熱気がある街で、イベントに参加する理由ってなにかあったりするの?」
上半身が裸の、日焼けした男性にまずは声を掛けてみる。
筋肉質な身体がエネルギッシュな印象を感じさせる。
「オレ? オレがここでイベントに参加する理由は、いつでも暑さを堪能できるからだな!」
「暑いのが好き……ちょっと珍しいかも」
「ふっふっふっ、暑いっていうのは悪い話だけじゃないんだぜ? ほら、あの店を見な」
そういって男性が指を指してきたのは、魔力でできた氷をかき氷にしているお店だった。
街の熱気に負けないように魔力で冷気を維持しているのだろう。そこはかとなく冷たい風が伝わってくる。
「じわじわくる暑さの中、味わうかき氷。……これは、ヤバいぜ?」
恍惚とした表情を浮かべながら、ゆったりと私をかき氷屋に誘う男性。
……確かに、これはアリかもしれない。暑いなか食べるかき氷というのはそれだけでなんだか強さを感じる。
「旅人さんなんだろ? おごるぜ。ギャップによって発生する精神的な熱さをお前にも感じてもらいたいからな」
「ありがとう。……じゃあ、私はシロップにイチゴを」
「ふっ、オレはメロン」
店員さんからその場で作ってもらったかき氷を貰う。
ひんやりした氷のそれを、私と男性は一口ずつ味わう。
「くー! これこれ! 最高だぜ!」
「……うん、いいね。確かに、気持ちいいかも」
全身が暑さに包まれてるからこそ感じられる、口の中に広がる冷たさの爽快感。
突き抜けるような美味しさがシャリシャリと伝わってきて、心地よい幸せを感じさせられる。
「あと、お祭りとかもよくやってるわけなんだが、ああいうところで屋台が出してる氷水の中に入れられた飲み物もうまいんだ、これが」
「つまり、キンキンに冷えたものを味わいたいから、この街で楽しんでるってこと?」
「はは、そういうこった! オレはスッキリするような爽快感を求めてるからな!」
「うん、素敵だと思う」
その後もちょっとした雑談をしたのち、私は男性と別の道を行くことにした。
次に話を聞いてみたのは、モデルのような体型をしたお姉さんだ。
「あら? わたしになにか用事かしら?」
優雅なその姿からは、余裕も感じられる。
少なくとも、暑さを気にしてはいなそうだ。
「この街で、どんなことをしているか気になって」
「ふふっ、わたしは体の調子を整えるために来てるの」
「調子を整える? ……ええっと、肌の健康をよくする、とか?」
「あら、あなたも美容に興味があるのかしら?」
「いえいえ、なんていうか、そんな感じなのかなぁって思っただけ」
「だったら、なかなかいいセンスをしてるわよ? だって、わたしがこの街によく行く理由はサウナの為だもん」
「サウナ?」
「ちょっと、着いてきて? 体験するのが一番よ」
「わっ、わっ」
積極的に私を案内するお姉さん。
気が付いたころにはもうお風呂に入っていた。
「お風呂で身体を綺麗にした後にサウナって感じなんだ」
「それはそうよ。汗を流す以上、身体を綺麗にしとかないと」
「あんまり入らないから、勉強になるね」
「ここの街のサウナは凄いのよ? 天然の熱気だから、ほかの場所よりかなーり暑さもあるの」
「のぼせちゃいそうかも」
「ふふっ、水分はしっかりとってるかしら?」
「それは大丈夫。お風呂前も飲んどいたから」
「それなら、よしっ」
次はお風呂から上がってサウナの部屋にバスタオルを巻いて入る。
……壮絶な熱気だ。
汗がいっぱい出てくる。
「サウナってね、血行がよくなるし、汗で汚れも洗い流せるの」
「でも、ちょっと後々乾燥もしちゃいそう」
「そこはしっかりケアしないと駄目よ? 化粧水とかでしっかり潤いを取り戻して、乾燥肌にならないようにしないと」
「……なんだか、お姉さんの話を聞いてると私も綺麗になることをちょっと意識した方がいいのかなって思ってくる」
「可愛いんだから、もっと拘ってもいいのよ?」
「あはは、私は旅人なんで……」
それでも、綺麗になるという目標を持って行動したりするのもたまには悪くないのかもしれない。
サウナでゆったりしていても様になっているお姉さんを見つめて、そう思った。
「あとね、最後の水風呂はやりすぎに注意よ?」
「やりすぎ?」
「人によってはすっごーく冷たい水風呂に入る人もいるけど、あれはちょっと心がキュってなっちゃうから自分に優しくね?」
「キュってなるとどうなるの?」
「人によっては整うっていうけど……うん、お姉さん的にはちょっと変に病みつきになりそうな刺激だからオススメしないわ」
「な、なるほどね」
「とにかく、今日はすっきりするくらいの冷たさで体験してもらうから、安心してね?」
「ありがとう」
水風呂にのんびりと入っていく。
身体の熱がすっと冷めていく感覚がなかなか心地よい。
これ以上の冷たさを求める場合、それこそさっきの筋肉質の男性が言ってたヤバいとかそういう表現になったりするのかもしれない。
……うん、私は健全に行こう。そう思ったひと時だった。
お風呂とサウナを味わった後は、私はマッサージを体験しながら身体の色んなケアをしてもらった。
簡単なケアしか普段はしてないから、こうやってくつろぎながら保湿とかしてもらうタイミングはありがたく思える。やっぱり時には女の子らしいこともした方がいいとも感じられるくらいだ。
お姉さんにお礼を言ったのち、私はまた汗をかかないように、少し涼しい場所へと向かうことにした。
「熱気にも色んな形があるけど……」
楽しみ方は人それぞれなのかもしれない。
そう思えてきた。
独特な暑さを楽しむ人。熱気と共に美容を楽しむ人。
そして、お祭りごとに生きる人。
色んな形で熱気と向き合っている。それがなかなかどうして面白い。
「どれも特色があって楽しいね」
私が選んだ場所。
それは街の中の高台だった。
色々体験していたら、気が付いた頃にはもう夜になっていた。
空には夜空の青が広がっている。
「熱というのは、伝達して伝わっていくものさ」
ふとした時、私の隣で着物を身に着けた青年が立っていた。
凛とした表情とその仕草から、街の有識者らしい雰囲気を強く感じさせられる。
「熱気だって同じ?」
「あぁ、そうだな。人が集まることによって賑わいを増していく。とても、幸福なことだ」
名前も知らない彼に対して、私は質問を続けていく。
「この街の法って、人が集まるような仕組みになってるの?」
「まさか。この街の法律はもっとシンプルだよ」
空を見つめながら、彼は静かに言葉にする。
「『我等、熱気と共に生きる者。熱を抱きて街を発展させよ』というのが街の法律さ」
「イベントがいっぱいになったのは、街の人の頑張りってこと?」
「それだけでもない。熱気がある街だってことで、行動を起こした酔狂な人だっていたのさ」
小さく笑いながら、それでも感慨深く彼は続ける。
「そうだな……『最高のステージになる』って言ってライブを決行したミュージシャンがいた。『思い出作りに繋がる』といって祭りの基礎を創り上げた人だっている。様々な想いが、熱気を繋いでいるのさ」
「なんだかいいね、そういうの」
「だから、俺たちは繋いできた熱を冷まさないように生きていくのさ」
その言葉を耳にした瞬間、空に花火が打ち上がる。
綺麗で、儚くて、それでも心に熱を宿すような花火。
そのひとつひとつが空に咲いていく。
「旅人くん、熱を持って生きたまえ。きっと君の旅はもっと素敵なものになる」
「うん、忘れないようにするよ。私の、私だけが持っている熱を」
幻想的な景色を見つめながら、私は静かに誓いを胸にするのだった。
「よし、次の街はどこにしようか」
肌もつやつや。やる気も十分。
後日、私は新たな旅路に向かっていく。
「私なりの熱もよし、心の燃料もバッチリだから……」
指をさして、新しい道を見つけていく。
「今日は遠くに行ってみよう!」
私のペースで、まっすぐ進んでいく。
私だけの旅は、まだまだこれからも続いていくのだ。
カラッとした爽やかな青が続く空。
私の心には確かな熱が宿っていた。




