旅路エピソード【魔法少女の矜持】
旅の道中、ふと見かけた喫茶店で休んでいる時。
甘くしたコーヒーを味わいながらのんびりしていると、しょんぼりとした様子の少女が店に入ってきた。
「いらっしゃい!」
店員が明るく声を掛けても、その少女は俯いたままだ。
金色の髪の少女は学生服を着たまま静かに移動していく。
「……金色の髪、まさかね」
私の知人にも金色の髪の子はいるのだ。もしかしたら彼女かもしれない。
気になって確認する。
飲み物を受け取る時に、少しだけ俯いた顔が上がり、その時に私は少女の正体を理解した。
「やっぱりステラだった」
魔法少女ステラ・クォーレ。普段は星を模ったアクセサリーがいっぱいの魔法少女服を着て、輝いているような存在だ。
でも、なんで彼女がこんなにどんよりとした雰囲気になっているのだろう。
気になって目で追いかけていると、席を探しているステラとばったり目が合った。
「……リベラ?」
「こんにちわ。ステラ。なにかあったの?」
私の問いかけに対して、彼女は少し考え、返答する。
「……まぁ、少し」
「よかったら話してみてよ。楽になるかもよ」
「うん。今日は……言葉に甘えてみようかしら」
沈んだ様子の彼女が、私の目の前の席に座る。
彼女が頼んでいた飲み物は苦みが強い紅茶。なんとなくだけど気持ちが沈んでいるのが伺える。
「失敗したの?」
「そんなところ。文化の違い……というか、ギャップにちょっと潰されそうになってた」
「なるほどね」
街によっては行動を起こすという行為がリスキーなことになるというのも少なくはない。
善意によって動いたとしても、街の人からしたら文化的によろしくなったというのもありえる話だ。
きっと、ステラもそういうトラブルに合ってしまったのだろう。
静かに彼女の次の言葉を待つ。
「あたしがお昼頃に行ってた街は、魔法禁制の街だったの」
「……相性悪そうだけど」
「否定しないわ。ただ、街の法律については意識してるつもりよ。だから、そこで魔法を使うつもりは一切なかった。人助けだって魔法抜きでやってたわ」
「でも、それなら気持ちが落ち込む理由がないよね。ということは……」
しっかりと行動している彼女が落ち込む理由は絞られるだろう。
間違いを犯した、誰かの気分を損ねた。そういったものが考えられる。
私が次の言葉を言おうとした時には、もうステラの口は動いていた。
「うん。魔法禁制の街で魔法を使っちゃったの」
罪を告白するように、静かな言葉で彼女がそう告げる。
街の法律を破った時の罰はその街の中で償われるものだ。だから、魔法禁制の街ではないこの場においてはもう過去の話になる。
それでも、気にしているということは、まだ心境的には引きずっているのだろう。
「街の法律に従わないと大変なことになる可能性が高いっていうのは知っててやったんだよね」
「あたしだって世間知らずじゃないわ。それくらいはわかってるつもり」
「……聞いてもいい? 魔法を使ってはいけない街で、魔法を使った理由」
「構わないけど、その前にひとつリベラに聞きたいことがあるの」
「私に聞きたいこと?」
紅茶を少し味わったのち、ステラは少し悩みながらも、言葉にする。
「罪を犯してでもやるべきことがあるって思った時、ステラはどう動くの?」
まっすぐ私の目を見つめながら彼女が問いかけてくる。
それは、法に関連する能力を持っている私だからしている質問だというわけではなく、純粋に意見を聞きたいという意思を感じさせられる。
「私は法を変える力を持ってる。それを考慮しない、私自身の意見を言うとするなら……」
私なりに考えて、想いを伝える。
「自分の中で正しくて、後々思い返しても後悔しない行動だと思ったなら、私は動くと思うよ」
私ひとりの考えで何かが変わるというのなら、未来の自分に恥じない行動をしたい。それが私の行動理念だ。
過去を振り返った時に『どうしてあんなことをしてしまったんだろう』と考えてしまうより、『あの時に動いてよかった』と思えるような生き方をしたいのだ。
私の言葉を聞いて、ステラはほんの少しだけ、小さく笑った。
「あんたらしいわ」
「そういう質問をしたってことは、ステラも似たような場面に遭遇したってことなんだよね」
「……そういうところ」
「ステラは、どうしたの?」
私の言葉に対して、一瞬俯いた彼女は、それでも覚悟を決めて言葉にした。
「あんたと大体一緒。ただ、あたしの場合は魔法少女として相応しい行動を取りたいって思ったから魔法を使ったの」
「魔法少女としてのプライド、みたいな」
「そう。魔法少女って煌びやかで、かっこよくって、誇れるものだから、後悔だけはしたくなくて」
「どんな魔法を使ったの?」
「私の手が届かない位置で落下事故が起きてね。魔法を使わないと大怪我してしまう状況だったから、衝撃を緩和するクッションを魔法で召喚したの」
「その人は無事だった?」
「うん。怪我もなかった。でも、魔法を使った私に対してかなりの怒りの声が向けられてね」
「……それで、気持ちが沈んじゃったんだ」
「そういうこと」
紅茶を深く味わいながら、彼女が遠くを見つめる。
「非常事態による魔法の使用だったから酌量の余地があるとはされて、罪には問われなかったけど……人助けをしても、みんなから冷たい目をされるのはちょっとキツかったかな」
後悔のない選択を選んだとしても、気持ちが付いていかないことだってあるのかもしれない。
少なくとも、今のステラは自分のしたことには後悔はしていないものの、人の目を気にしてしまっている部分はある。
魔法少女として明るい立ち振る舞いをしている彼女からすると、大きな負担になっているのだ。
「その、助けた人は冷たい目をしてた?」
「そんなに冷ややかな感じはなかった。でも、言葉に詰まってた」
「……魔法で助けられたから?」
「うん、だからお礼は貰ってないの」
そう言葉にしながら静かに息を吐く彼女。
ステラだってわかっているからこそ、悩ましいのだろう。素直にお礼を言えるような状況ではないということを。
だから、私が言うべきなのかもしれない。
彼女に対しての、まっすぐな言葉を。
「私は自分の意志で行動したステラのこと、凄いって思うよ」
「誰にも褒められなくっても?」
「うん。魔法少女としてのまっすぐとした姿、私も参考にしたいくらいだもん」
「……あんた、正真正銘の魔法少女じゃないのに?」
「人に優しくできるステラみたいになりたいってことだよ」
「……はぁ、落ち込んでる私みたいになっても意味がないと思うけど」
「なら、明るくならないとね」
「励まし方が強引」
「ステラが暗い顔してると、私だって寂しいからね」
なんだかんだで再開した時に笑顔を見たいというのは私の本音だ。
もちろん、落ち込んでいる時は相談には乗るけれども、どんなときだって笑顔でありたい。
そういう気持ちは強いのだ。
「……そうね、ならあたしも元気を出さないと」
そういってステラが顔を上げた時だった。
「すみません! ここに金髪の女の子の方が来たと聞いてやってきたのですが!」
見知らぬ男性がお店に入ってきた。
その問いかけに対して、店主は爽やかに答える。
「金髪の女の子ならあそこにいるぞ」
「あぁ! お会いしたかった!」
金髪をしているのはこの場においてはステラだけ。
その為、彼女の姿はすぐに確認できた。
「あ、あなたは……!」
「あの時の、落下してしまった人です! お礼の言葉を言いたくて、ここまで来ました!」
「わ、わざわざここまで来なくてもよかったのに……」
「いいえ! 周囲の目が怖くて、命の恩人様に言葉を伝えられなかったこと、我慢できなかったので、言葉にしたく、ここまで来ました!」
そこまで言葉にすると、彼は頭を大きく下げた。
「助けてくださり、ありがとうございます! 恩人様の覚悟のお陰でなんとか生きていけてます!」
その言葉を受け止めていたステラの顔は少しだけ赤くなっていた。
……少し、目も潤んでいる気がする。
「あ、あたしは別に見返りは求めてないから大丈夫。無事でいてくれたなら、それで十分よ」
そこまで言葉にして、顔を下げながらステラが続ける。
「でも……ありがとう。その言葉は、本当に、本当に、ほっとした」
彼女の目元が潤んでいる。
でも、それを指摘するのはご法度だろう。
こういう時は、感情を自由に動かすのがいいものだ。
喫茶店。嬉しそうなステラの姿を見て、ほっとした。
「じゃあ、また今度。リベラも元気でね」
「うん、ステラもいい時間を!」
喫茶店から出た私たちは、それぞれ別の道を進んでいく。
手を振って別れた私の心にあるものは爽やかな気持ちだった。
「私も私なりに、後悔のない行動をしていこう」
荷物を持って、新しい街へ。
きっとこれからも素敵な旅が待っているはずだ。
「よし、出発」
青空は快晴。すっきりとした時間が流れていた。




