第34話【掘り続ける街】
陽の光が眩しい午前。
いつも通りに旅を続けていると、私は大きな穴を発見した。
穴の大きさはかなりのものだ。私が両手を広げても余裕があるくらい広い。それどころか、ため池が作れそうなくらいの幅は存在している。
ふと、気になって大穴に近づいてみると、しっかりと柵が作られていることに気が付く。間違って落っこちたりしないように警戒しているのだろう。
大穴の入口には丁寧に整備された階段がグルグルと地下まで続いている。気になって階段付近から顔を下に覗かせてみても、その底は見えなかった。
「……これは、なかなか怖いかも」
しかし、恐怖の感情と同時に、興味も惹かれてしまうのが私という旅人だ。
こういう未知との出会いは旅をしていると刺激にもなるし、新しい見解にも繋がるから好きなのだ。
念のために階段の状態を確認する。
古びている様子はない。丁寧に整備された階段には手すりが用意されていて、高級な素材で作られたかのようにがっちりと作られている。
安全面は問題ないと認識していいだろう。それくらい、古さを感じない階段になっている。
「よし、行ってみようか」
一歩ずつ私は謎の大穴に侵入するべく、階段に足を踏み入れていった
カツ、カツと鉄の足場を踏む音が響く。ぐるぐると穴を周回するように回る階段を進んでいき、地下へと潜っていく。
不思議な空間には、それ相応の出会いもあるものだ。
そう信じて、私は進んでいく。
何回も階段を回った時、ふと上を見つめてみると、太陽が遠くなっていることに気が付いた。
一体、この穴の先にはなにがあるのだろうか。
私の胸は期待と好奇心に膨らんでいた。
ぐるぐる回る階段が止まった先。
洞窟のような空洞の場所には、太陽の光とは異なる、青白い光が周囲を照らしていた。
「魔力を帯びたクリスタルを明かり代わりにしてるんだ」
階段から離れて、道なりに進んでみると街灯らしきものがみつかった。
本来明かりが付けられているところには、青いクリスタルが使われている。地域によってはあまり見ない技術だ。
「クリスタルって結構貴重だから、使われてる量は少なめな印象だけど……」
魔力を貯められるクリスタルは土壌の良い土地で入手することが可能という話を聞いたことがある。
条件が揃った地域というのはそうそうないのもあって、そうしたクリスタルは高級品として扱われることも多い。
貴族の嗜みでクリスタルを身に着けている人がいたとしても、その大きさは控え目なものが多い。
「ここはちょっと特殊な感じなのかな?」
街灯に使われているクリスタルの大きさも、外で見かけるものより大きめに感じる。
そもそも、街灯にクリスタルをがっつり使っている場所をあまり見たことがない。
そういった事情もあり、私自身この空間に対してどこか特殊な印象を覚えていた。
のんびりと歩いていくと、空洞はさらに広がっていき、洞窟の中に建物があるような場所までたどり着いた。
いくつもの家のような建物がある場所。まるでそこは『街』のようだった。
……街?
「そっか、この場所は街だったんだ」
魔法の法律が存在している、人の生活圏。
それぞれの街の法によって独特な文化が形成されていくのもあって、私は街を巡ることを続けている。
好奇心に従って行動してみてよかった。
街を歩いていくと、炭鉱夫のような筋肉質な男性を見掛けたので尋ねてみる。
「ここはどういうところか聞いてもいいかな」
私の質問に対して、男性は豪胆な態度で応えてくれた。
「ここは掘り続ける街だ。シンプルでいい街だろう?」
「掘り続ける街……」
「ほら、あっちをよく見な」
男性が指を指した先では、ピッケルを持った人たちが壁を力強く掘っている光景があった。
掘っている人々の隣には荷車が置かれていて、そこには多くの鉱石が乗せられていた。
「男たちはロマンを求め、どこまでも掘り進めていくのさ」
「じゃあ、女性はどんな暮らしをしてるの?」
「力仕事をしていなくても、逞しく生きているものさ」
そう言って、別の場所を彼が指し示す。
そこでは、声をあげて商売に取り掛かる女性たちの姿があった。
細かく加工された鉱石やクリスタルを売っているみたいだ。
大きな声をあげながら宣伝している市場では、先ほどの光を放つクリスタルも売られていた。
「太陽が届かないような地下暮らしだとしても、明るく生きていくのが俺たちってわけさ」
豪胆に笑う男性。
さっぱりしたその態度はまるで太陽のようだ。
「でも、太陽と無縁の生活って少し寂しくも感じるけれど……」
「俺たちひとりひとりが熱量を持って生活してるんなら、気にならないものさ」
「掘り続けることによって、熱が生まれていくみたいな」
「そうだ、俺たち炭鉱夫はこの街を作った人の願いによって支えられている」
男性は胸元に手を添えて、静かに言葉にする。
「俺は歴代8代目の炭鉱長。そして、初代炭鉱長の願いを受け継ぐものでもある」
「願いって?」
「幻の鉱石探しさ」
男……もとい、炭鉱長が遠くを見つめながら言葉にする。
「七色に光り、見つけたものの夢を叶えるという魔法結晶。それを求めて俺たちは掘り続けている」
「まるで魔法の道具みたい」
「魔法も独特な法律もある世界なんだ。そういうのがあっても変じゃないだろう?」
「それは言えてるかも」
この世界にはまだまだ未知と不思議がたくさん存在している。
どんなことがあっても、どんな鉱石があってもおかしくはないだろう。
夢を語る炭鉱長は優しい表情で語り続ける。
「各々が持っていた夢は違うが、魔法結晶をみんな求めているのさ」
「……それは、ロマンがあるから?」
「そうだ、果てない夢。見つからないかもしれないものを探し当てるというロマン。それを求めてみんな生きているのさ」
「なんだか夢追い人みたいでいいね」
「無論、大変な日も多いけどな。怪我したり、体調崩したり……時には苦しいこともいっぱいある」
「それでも、掘り続けるんだ」
「あぁ、俺たちには夢があるからな」
目を輝かせながら言葉にする炭鉱長の瞳には、どこか少年のような眩しさを感じさせられた。
「もしも、生涯かけて見つからなかったとしても、次の世代に引き継がせるつもりさ」
「見つからない人生っていうのも少し辛そうだけど……それはどうなのかな」
「そうでもないさ。今まで歩いてきた道が無駄になるなんて考えたことはないだろう? 旅人さん」
「うん、それは確信を持って言えるね」
旅には色んな出来事がある。
さっき炭鉱長が言っていたように怪我したり、体調を崩したりすることだってある。でも、過ぎてしまえばそれも思い出語りできることもある。
それに、嫌なことばかりがあるわけでもない。楽しいことも生きていればいっぱいあるものだ。
「全力でやることやっていけば、人生のマイルストーンは見つかるものだし、満足行く生き方だってできるってものさ」
「……もし、見つからなかったとしても後悔したりはしない?」
「しないさ。やれることをやったなら、後継がなんとかしてくれるって信じてるからな」
「やっぱり太陽みたい」
「ここには太陽がないのにか?」
「うん」
炭鉱長の姿勢に態度。
そして、ずっとあり続ける姿。すべてに眩しさを感じる。
「ずっと輝き続ける太陽は、誰かの道標にもなるからね。それぞれが心に太陽を宿してるような、そんな力強さを感じさせられるんだ」
「ははっ、そりゃあ嬉しい言葉だな。前向きに生きている意味があるってもんよ」
豪胆に笑う炭鉱長に対して、私もつられて微笑む。
きっと彼らはこれからも、掘り続けるのだろう。果てない夢を目指して、ロマンを求めて。
「さてと、俺たちはまた作業していくとするか。旅人も旅を続けるんだろう?」
「うん、まだまだ見たいものがたくさんあるからね」
「なら、ちょっとしたお守りを渡してやろう」
「いいの?」
「せっかく話ができたんだ。そういう縁はあった方がいいだろう?」
「ありがとう」
そういって手渡されたお守りは小さな宝石が散りばめられていた。
キラキラと光る輝きを見ていると元気がもらえる。
「女房が作ったのさ」
「なんだか素敵かも」
「自慢の嫁さんさ」
「……なら、こっちもちょっとしたプレゼントを」
ふと閃いて、旅先でメモした用紙の写しを私は炭鉱長に渡す。
「これは?」
「いつも旅先で作ってる料理のレシピ。アレンジして使えば、きっとここでも使えるやつがあると思うから、嫁さんに渡すといいかも」
「なるほど、なかなかよさそうだ。いい繋がりにもなりそうだ」
「じゃあ、私はそろそろ行こうかな」
「あぁ、無事に旅を楽しんでいけよ!」
「そっちも、素敵な日々が送れますように!」
手を振って炭鉱長から離れていく。
掘り続ける街は今日も、明日も、これからもきっと地下を掘り続けるのだろう。
その先に夢が掴めるかどうかはわからない。
だけれどもきっと、歩んできた道、そして行ってきた行動には意味があるというものだ。
彼らの街のこれからの未来と、祝福を願い、私は貰ったお守りを強く握りしめる。
掘り続ける街。それは太陽が届かない場所であっても、太陽があり続けるような眩しさを感じる街だった。




