旅路エピソード【シャカシャカ道】
ある天気のいい朝。
山を下る道に出た時にふとした異変に気が付いた。
「なんか、変な音がする?」
一歩進むごとにシャカ、という音が聞こえてくる。
もう一歩進むとまた音が聞こえて、繰り返し歩く旅にシャカシャカと音が響く。
どこから音が流れているのだろうか。
「……気になる」
足を止めずにのんびりと歩く坂道。
ふと強い風が吹き、山の森林が揺れていく。
シャカシャカ、シャカシャカ。
四方八方からシャカシャカとした音が響いてきた。
「発生する音が全部シャカシャカって感じになってるのかな?」
具体的な音で例えるならマラカスを振った音というべきだろう。
あの、独特な軽快さも感じる音が空間全体から聞こえてくる。
「……いや、でもそれだと私の声もシャカシャカ音になっちゃうか」
気になりながらも進んでいく。
私が歩く度にまた音が響いていく。
マラカスを鳴らしたかのような軽快な音が私の歩く速度に合わせて聞こえてくる。
「もしかして、そういうことなのかな」
気になって手を振ってみる。
上に、下に、思いっきりブンブン振ってみるとそこからマラカスのようなシャカシャカした音が聞こえてきた。
「なるほどね。納得いった」
空間ごとの法則というのはこの世界においてはよくある話だ。
この場所にいる限り、なにかが振ったり揺れたりするとシャカシャカと音が鳴るみたいだ。
「なんだか面白いかも」
私が歩く度に、リズムよく音が流れる。
ちょっとした演奏会だ。
シャカ、シャカと音が響く度になんだか気持ちも上がっていく。
なんとなく手をいつもより振りながら歩いていたときだった。
「よう、そこの姉ちゃん! 俺たちのリズム聞いてみてくれよ!」
花が飾り付けられた衣類を身に纏った青年たちが坂道の下の方からひょっこりと姿を現した。
青年たちは4人くらいの集まりで、各々が異なる色の花の衣装を身に着けている。
「演奏できるの?」
「そうさ、俺たちはシャカシャカロード! 派手に奏でて踊るのさ!」
ウェイ、と声を上げながら盛り上がるダンサーズ。
陽気な雰囲気の坂道なのもあって、ここで活動している彼らも元気なのかもしれない。
明るい気持ちになれる音楽というのはなんだか気分転換によさそうだ。
そう思った私は、彼らの音楽を聞いてみたくなった。
「見てみたいかも」
「オッケー! じゃあ行くぜ、お前ら!」
「イェイ!」
指を鳴らして、彼らが楽器を用意する。
ボンゴにギター。フルートに準備体操をする青年。
なるほど、身体も楽器になるということか。
「レッツ、シャカシャカロード!」
そう言葉にした瞬間に演奏が始まる。
ボンゴの音が響き、小刻みいいリズムが響く。
その上に軽快なフルートが響き渡り、ギターが滑らかに旋律を奏でる。
そして、軽装の男性が手を振り、足を動かし、マラカスの音を響かせていく。
時々吹く風が空間全体にマラカスの音を響かせていき、その瞬間にアドリブのようにボンゴの音などが盛り上がっていく。
そっか。空間全体を音楽にしている人たちなんだ。
ギターを奏でている人も身体から発せられる音を利用する為に跳ねたりしている。
ボンゴ担当も大きく動かした腕から時々マラカスの音が鳴る。
フルート担当はのんびりと演奏していて、ダンサーの人は時々声をあげて、みんなのリズムとあった踊りを見せる。
少し変わっている。だけれども真剣に音楽に向き合っている青年たち、シャカシャカロード。
なかなか素敵な人たちだ。
「フ―ッ!」
仕上げの掛け声と共に音楽の演奏が終わる。
満足げな表情の青年たちからはやりきったという意思が強く伝わってくる。
私はよかったことを伝える為に、拍手をしっかりとしていた。
「すっごいよかった」
「ここは俺たちのホームベースだからな!」
「ふふふ、シャカシャカ道の魅力にぞっこんなのさ」
「音楽の形式も研究してるが、基本的にはマラカスを意識した音楽を演奏してるぜ!」
「なにかいい感じの楽器があったら使ってみるけど、なんか案ある?」
ひとつの演奏が終わっても音楽に対する追求は続いているみたいだ。
彼らに対してなにか、いい感じの楽器を提案しようとして閃いたのはひとつあった。
「ホイッスルとかどうかな」
「あの吹く奴か!」
「そうそう、手足を自由に動かしながら、演奏できるし相性よさそうな気がする」
「いいね! そいつはなかなか楽しそうだ! 採用!」
私の言葉に否定することもなく、即座に対応してしまった。
なんていうか判断が早い。
「さ、採用早いね」
「音楽家は追及する心が大切だからな!」
「この坂で音楽やってるのもそれが理由さ!」
彼らのスタイルはすっきりしていていい。まずはやってみる。
こういう気持ちは旅をするのにも大切だからだ。
ふと気になったことがあったので、彼ら……シャカシャカロードに尋ねてみる。
「そういえば、この道でシャカシャカって音が鳴る理由について考えたことはある?」
私の質問に対する回答は早かった。
「いや、ないな」
「原理についても気にしてない」
「気になったりはしない?」
「しないな」
「それは意外……」
理屈をわかった上でやっているかと思ったけれども、違うというのはビックリだった。
そんな私に対して彼らは続ける。
「振ったり揺れる瞬間にシャカシャカ音がなる。それ以外の理由はいらないだろう?」
「音楽に理屈はいらない。ただ、楽しくって聞いてて幸せになれるんならそれでいい」
「純粋に俺たちがこの坂と一緒に音楽を奏でてるのは音楽が好きだからなのさ。坂と俺たちと、観客のみんな。どれも揃ってるこの空間が俺たちのホームなのさ」
「なるほどね」
音楽に理屈はいらない。
奏でたい音に真剣に向き合って、人々に幸せを届けたい。そういう世界もある。
やっぱりいい感じだ。こういうすっきりとした態度はとても好みだ。
「だから俺たちは心に残る音楽を刻んでいくのさ」
「この不思議な坂でな!」
彼らの笑顔が眩しく光る。
私が坂を下りていく最中もずっと彼らが奏でた音楽は響き続けていた。
坂道だから気持ちが下がるのではなく、逆に気持ちが上がっていく。
シャカシャカ音が鳴る不思議なシャカシャカ道はきっとこれからも音楽と共に存在し続けるのだろう。
そう思うと、なんだかやっぱり心が弾むような気持ちになっていた。




