第32話【刀の街】
文化というのは街に応じて様々な姿を見せていくものだ。
街によって違う法が存在して、いつも新鮮な世界が広がっていく。
私は、知らない文化と向き合いたいからこそ、旅をしているのだ。
「……なんだかちょっと珍しいかも」
ぼんやりと歩いていく旅先で、私はちょっとだけ斬新な光景を目にしていた。
腰に刀を携えている人が妙に増えてきているのだ。
目の錯覚というわけではない。次に行くことになるだろう街から移動している人を見かける度にどうにも刀を持っている人が多くなっていると実感できる。
それくらいに、刀を持っている人が多い。
「刀由来の文化がある街、といったところかな?」
気になってきたので、私と反対方向から歩いてきた人に話しかけてみる。
身なりのいい、着物を着た男性だ。当然のように腰には刀を装備している。
「すみません、この先の街ってどんな場所なんですか?」
「む、旅人か。俺が暮らしている街、刀の街に興味を持ってもらえるのは嬉しい限りだ」
「刀の街……」
その名前があるからこそ、刀が必要になるとかそんな感じなのだろうか。
気になったので積極的に質問していく。
「法律とかどんな感じですか?」
「ふむ、刀の街では刀を持参することが義務付けられている。街に暮らすものは刀を必ず持っているな」
「旅人にもその法律は適応されます?」
「旅人には適応されん。とはいえ、用心棒を雇っておいた方が心強いであろう。あの街は刀と関連するトラブルは少なくないからな」
「それってどういう……」
「あぁ、すまん! 俺は急ぎの用事があったんだった! すまんが、そのことは他の人から聞いてほしい!」
「あっ、すみません。どうぞ気を付けて」
それだけ言うと彼は去ってしまった。
話しにくい内容があったというわけではないだろう。ただ、単純に急いでいただけに見える。
……とはいえ。
「刀に関連するトラブルがあって、用心棒がいた方がいい、かぁ……」
ちょっと悩ましいところだ。
荒事があまり得意じゃない私は刀の扱いなんてちんぷんかんぷんだ。
自衛のためにある程度の魔法は使えるけれども、刀や剣を使う動作やったことはない。
そうなると、なにかしらの対策は練った方がいいだろう。
旅用の備蓄も少しずつなくなってきている。そろそろ補充した方がいいというのもあるし、街に入るのは確定していることだ。
だからこそ、街に入る為のなにかを用意する必要がある。
「どうしようかな……」
私は、悩みながら街に向けて歩いていくことにした。
街が近づいてきても、状況が変わるわけではなかった。
刀を持っていそうな人が見つからないのだ。刀の街から出てきたであろう人は帯刀しているけれども、そうでない人は刀を持っていない。
そもそも、刀を持ち続ける状況というのが普段だと珍しいというのも大きいのかもしれない。
改めて、どうするべきか。
旅人だからなにもないだろう。そう思いながら街に入るべきか、それとも誰かが助けてくれるのを待つか。
旅の荷物を動かしながら考える。当然私の手持ちには刀らしきものは存在しない。
刃物として存在しているのも調理用のナイフとかそういうものくらいだ。刀はない。
「そろそろ街に到着しそうだけど……ううむ、困った」
忙しくなさそうで、気軽に話しかけられそうな人とかいればいいのだけれども。
そう思いながら少しずつ前に進んでいく。
ぼんやりと歩いていった先、ふと遠くを見つめるとなにやら目立つ人影が目についた。
フリルがいっぱいの衣装を身に纏った、金髪の少女。
容姿全体から見える印象、正真正銘の魔法少女。
時々見かけたりする、私の友人。
「ステラ? どうしてまたこんなところに」
「リベラこそ! ……って言いたいけどあんたはこういう場所にはよく赴くわよね」
そう、魔法少女ステラ・クォーレが街の入口付近に立っていたのだ。
偶然とは言え、友人に会えたりするのはやっぱり嬉しいものだ。
「あたしがここにいる理由は単純。お祭りに興味があったからよ」
「お祭り?」
「そう、刀を通じて様々な祝福を祈願するっていうやつ。気分転換によさそうって思ったから来てたの」
「ご利益とかありそうだね」
「あと、案外屋台とかも美味しいらしいから、それにも興味があったわね。なんていうか、形とかが面白いらしくってそれ本当なの? って気になってて、食べてみたくなったのも大きいわね」
色々説明する彼女は興味に基づいて動いているからか、少し早口になっている。
お祭り前にテンションが上がっているというのもなんとなく伺える。
「……ステラも旅、結構好きなんじゃ?」
「旅人のあんたほどじゃないわ。けど、お祭りとかは好きよ? みんな笑顔になってるのを見るのは楽しいし」
「なるほど、魔法少女らしいかも」
平和主義、笑顔を見るのが好き。
そういうところからもステラの優しさみたいなのが伺える。
「そうだ、ステラ。街の法律については知ってる?」
「ん? 街の住民は刀を持つべきとかそんな感じじゃないの?」
「それで会ってると思うし、旅人にはその法律は適応されないらしいね」
「なら、問題ないんじゃない?」
「でもね、なんだか用心棒を雇ったりしておかないと刀でのトラブルが起きた時に困るらしいんだよね」
「まさか、これから用心棒を雇うつもり? なかなかそれは大変そうじゃない?」
「雇うつもりはないよ、ただ……」
「ただ?」
きょとんとした表情でステラが見つめてくる。
そんな彼女に対して、私はまっすぐお願いした。
「ステラ、今日は用心棒になってほしいな」
「……はい?」
困惑した、彼女の声が響いた。
刀の街に入った私たちは、その独特な風景に驚いていた。
和風、というべきなのだろうか。社やお屋敷みたいなものが多く見える。
レンガを使った建物よりは木造建築のものが多い。
全体的に落ち着いた雰囲気の空間が印象的な街になっている。街ではあるものの、雰囲気としては里とか村とかの方が近い感じもある場所だ。
街を歩く人は刀をしっかり携えたまま歩いている。それには老若男女も関係ない。
みんな、各々刀を持っている。
「言っておくけどね、リベラ」
そんな中、ステラは口を尖らせていた。
「あたしは日常系魔法少女だって自分のことを認識してるのよ? 正直、刀を用意してもそれが役に立つかは別問題だからね」
彼女の衣装の腰の部分には控え目な長さをした刀がひとつ。
そう、ステラは用心棒としての役割を一応請け負ってくれたのだ。
……わりかし文句は言ってくるけど
「でも、私より強い気がするし」
「そうね、あんたよりは強いと思う。……けど、あんた独自の魔法でなんとかならなかったかは気になるわね。なんだっけ。『マギアロアの法』ってやつ」
ステラに指摘されて、私も反論する。
なかなか魔法というのは便利なわけではないのだ。
「あれ、知識がそこそこいるんだよね。この街の法律を知ることももちろん、刀のことを理解しないことにはしっかりとしたものは用意できないんだ」
「……つまり、この街に入ったばかりのリベラの場合、なまくら刀しかつくれないってこと?」
「付け焼刃ともいうかも。とにかく、模造することができても、それは刀としての役割は果たせないものだから、不安だったんだよね」
「なるほどね、魔法少女の空想を現実にするタイプの魔法とは違うわけね」
「残念ながら私は正真正銘の魔法少女じゃなくて、魔法の法律の力を利用する存在なわけだからね……」
「……まぁ、頼られるのは嫌いじゃないからある程度は用心棒してあげるわよ」
「ありがとう、ステラ」
「素直に感謝されると少し照れくさいわね……」
彼女と共に、街を歩いていく。
お祭りの時間まではそこそこ時間があるのだろうか。
街では、屋台を準備している人が歩き回っていた。
邪魔にならないようにゆっくりと歩いていると、突然目の前で謎の青年がぶつかってきた。
「いたっ」
どん、と当たったから少し肩をぶつけてしまった。
ここは謝るべきだろう。そう思いながら頭を下げる。
「すみません、不注意でした」
こういう時は穏便に済ませる為に先に謝ったりする方がいいだろう。
そう思って、こちらに非があるのを認める。
「不注意だぁ? なら、誠意を示してもらわないとなぁ!」
ん?
もしかして、結構変な人とぶつかってしまったのだろうか。
目の前の青年は刀を突然構えだした。
周りの人がざわつきと、どこか歓喜の声をあげている。
……ええっと、歓喜の声ってどういうことだろうか。なんでトラブルが起きてるのに、盛り上がっているのか不思議だ。
「このぶつかりは決闘の合図と俺は見たァ! さぁ、構えろ! 負けたやつは勝ったやつのいうことを聞くっていう条件のなぁ!」
歓声が上がる。
……な、なるほど? この街独特の文化みたいなものか。突如発生する決闘。それがトラブル。
確かに用心棒を雇わないと厄介ごとに巻き込まれそうだ。それをいま実感している。
「……ごめん、ステラ。お願いできる?」
「はぁ、今日は一応用心棒だからね。やるわよ」
彼女が魔法の刀を構えて、男性の前に立つ。
体格差は頭一つと半分くらい。かなりの差だ。
「用心棒のあたしが相手になるわ。決闘、受けて立つ」
「ほう、用心棒を雇っていたか。命拾いしたな旅人の嬢ちゃん」
また賑わう人々。
……ある意味、これもひとつのお祭りなのかもしれない。
「フン、おチビちゃんが俺に勝てるかなぁ?」
「ふん、油断してると痛い目みるから」
街の中央から人が離れていく。まるで、そこで決闘を行ってほしいといわんばかりに。
「来な」
「シンプルでいいわね」
男性とステラは道の中央で刀を構える。
少し不安になった私は観客になっている人に話しかける。
「その、これ、大怪我とかにならないよね」
もし、ステラに怪我とかされたらと考えると不安しかない。
そんな私の問いかけに、街の住民は笑いながら答えた。
「大丈夫だよ。街の加護があるから、決闘してもケガにはならない!」
「そうそう、あくまで己の信念をかけた戦いになるだけ!」
「勝負は一瞬、刹那の一太刀で決着が着くのさ!」
わーわーと盛り上がる人々。
……ひとつのイベントみたいに成り立っているのならきっと安心だろう。
街の法の力によって支えられているというのを聞いて私もほっとする。
こういう厄介ごとの時に、頼れるのは法律なのだから。
「最初の一太刀を先に加えた方が勝ちだ。シンプルでいいだろう?」
「合図はどんな感じなのかしら」
「ふっ、刀がぶつかり合う音が合図さ。審判の刀が音を発した瞬間に戦いは始まる」
観客のひとりが審判として名乗り出て、二刀流の刀を用意する。
なるほど、あれで音を鳴らすのか。
緊張した空気があたりを包み込む。
体格差が違う相手に、ステラは一歩も怯まない。
むしろ、キリっとしたいつもの表情を崩していない。
「いざ」
「勝負!」
キィン!
刀がぶつかる音が聞こえ、その瞬間に決闘が始まる。
ステラの姿は見えない。いや、見えなくなった。
「なっ」
「マジカル抜刀術、ワールウィンド!」
そう発言したステラは男性の後ろに移動していた。
刀をしまう動作を行った瞬間、風の斬撃が男性を襲い、強烈な一撃を加えた。
「ぐ、ぐぅ……!」
男性はたちまち膝をつく。
先に一手を加えたのはステラだった。
「あたしの勝ちね、少し反省すること」
歓声が響き渡る。
まさかの強者に驚きと歓迎の声が上がっていた。
「ステラ、凄い」
「……こういうの、少しやってみたかったからうまくできてよかったわ」
私の前に戻ったステラは微笑みながらそう言葉にした。
「申し訳ねぇ、お祭りの用意で鬱憤が溜まってて、つい決闘しちまったんだ」
反省した男性は私たちに頭を下げながらそう言葉にしていた。
「お祭りってそんなに大変なの?」
「いや、なんていうか厳かにやるべきってところで俺に合わないっていうか……真面目にやるのめんどくせぇって思っちまって……」
「真面目になるのも大切よ、そこは気を付けなさい」
「はい……」
しゅんと顔を下げる男性。
なるほど、決闘の影響力は絶対だ。
「決闘とはまた違う文化ってことかな」
「そうだな。普段のお祭りごとは決闘だが、今日やるやつは宝刀祭だ。神に祈りを捧げるお祭りごとになる」
「戦いに使わない刀もあるんだね」
「あぁ、豊穣を願う刀だって存在する。ここは刀の街だからな」
男性は立ち上がり、やる気を出し始めた。
さっきまでのちょっとイライラしていたかもしれない彼の姿はもうない。
「反省したよ、嬢ちゃんたち。俺もしっかり働くとするよ」
「私たちもお祭り楽しむよ」
「無理はしないようにね、気を付けなさいよ」
「はは、気を付けるさ」
そういうと彼は去っていった。
トラブルはあったものの、一難は去ったみたいだ。
「お祭りまでのんびりしよっか」
「それも悪くはないわね、行きましょ」
そうして私はお祭りの前のちょっとした楽しみを堪能するのだった。
「へぇ、食べ物も刀っぽい形を意識してるんだ」
「ポテトの形が刀なのはなんだか旅人ウケがよさそうね?」
「うん、私的にも好印象」
ステラと一緒にお昼を味わったり……
「しっかりと熱を加えて、鍛えていくんだ」
「水をかぶせる音が豪快ね。こういう職人芸は見てて凄いって思うわ」
「本当にね。まさに匠の技を感じる」
刀鍛冶の場を見学もして……
「瞬間的に居合をしない場合、決闘って長く続いたりするんだね」
「あたしの場合、体格差もあったから即座に決めないと負けそうって思ったからあの戦法を取ったんだけどね」
「……やっぱり意外と戦えるよね、ステラって」
「少なくともあんたには負けない自信はあるわ」
「それはそうかも」
他の人の決闘も見つめていき、時間は夜まで流れていった。
夜。
街の中央にある広場では大きな焚き木が用意されていた。
バチバチと燃える火の近くには、神官が刀をゆったりと振り儀式を行っている。
今までの街とは違う静かで、厳かな時間が流れていく。
「我等、刀と共に生きる者。いついかなる時も刀の祝福と繁栄が続くことを願わん」
丁寧に舞う神官はひとりではない。
火の周囲を五名ほど動いていく。
観客は手を合わせて、祈りを捧げる。
私たちも静かに手を合わせていく。
「我等、刀に願いを託す者。宝刀に誓わん。永久の願いを未来まで届けていくことを!」
枝分かれした独特な形をした宝刀を高く神官が掲げ、願いの呪文を捧げる。
街の住民も言葉を重ねて、繰り返す。
幻想的な風景。そして切なる願いを導きたいという姿に私たちはただただ息を飲んでいた。
「刀との向き合い方は色々あるんだね」
「ちょっとファンタジーな感じの雰囲気があたし好みだったかも」
「うん、私も文化的な感じがいいと思ったな」
儀式が終わり、屋台に人が戻っていったのち、私とステラはゆっくりと歩いていた。
特に行きたい場所は決まっていない。ただ、祭りを楽しみたいという気持ちがあった。
「大切に使われた刀には魂が宿るっていう話も聞いたことがあるわね」
「この街の場合、愛着と一緒に色んな感情も湧いてきそうだよね。相棒とか」
「一日を一緒にしているんだもの、それくらいはあってもおかしくはないわ」
ふと私はあることを閃き、屋台に向かうことにした。
せっかくだから思い出になるものを買おう。
そう思ったのだ。
「何をするつもり?」
「お土産を買うつもり。ちょっとした刀みたいなものをね」
「……アクセサリーとかよね?」
「それはそう。流石に大きい刀は買えないから」
たどり着いたお土産の屋台では小さな刀のアクセサリーが売られている。
それぞれ宝刀を意識しているのか、ご利益についても書かれている。
「好きなものを選ぶといい。きっと、君たちに祝福があるよ」
「じゃあ、私はこれで!」
「あたしもこれ」
私とステラが一緒に選んだもの。
それに書かれたご利益は『友情』だった。
「ふふっ、仲良しじゃないか」
「こういう時は波長が合うのかもね」
「そうね、ある意味似た者同士なのかも」
ふたりで『友情』の小さな宝刀を購入して、離れていく。
お祭りの夜、打ちあがる花火に私たちは目を惹かれていた。
「さて、また新しい出発!」
次の日、私は旅支度を整えて街から移動していく。
「あんたも好きよね、旅」
「知らないものを知るのは楽しいからね」
「ま、あたしも人助けは好きだから、どこかでまた会うかもね」
「その時はまた色々話したいね」
「まぁ、そうね。お互い自由に楽しみましょ」
「うん、じゃあまた!」
手を振って彼女と別の道を進んでいく。
ふと、手に持ってみた小さな宝刀を見つめる。
友情はどこにいても変わらないもの。
思い出話も色々できるし、時々悩みを打ち明けたりするのもできる仲。それが友情。
寄り添い、支える関係となると、刀も似たような存在なのかもしれない。特に刀の街においては。
「きっと、刀にはいっぱいの願いが込められているんだろうな」
それぞれの文化があって、大切なものはそれぞれ異なる。
他人にとってはただの道具でも、自分にとっては大切な存在というのも素敵な概念だ。
より一層、私も文化を知っていきたくなった。
快晴の空は澄み渡り、今日もまた旅は続いていく。




