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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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旅路エピソード【壊されたい祠】

 街を巡って旅をする日々。

 ぼんやりと進むことになった樹海の奥地で、私は珍しいものを見かけた。


「……祠だ」


 岩が積み重なって作られている祠はしっかりとした存在感を発揮している。

 祠の中心部には青い水晶のようなものが付いていて、なにかを祭っているようにも思える。


「あんまり失礼がないようにした方がいいのかな」


 祠で奉られている存在というのはかなり超常的な力を持っていることが多い印象がある。

 下手に気を損ねるようなことをしてしまうと、バチが当たってしまいそうだ。


「お供えとかしといた方がいいのかな」


 こういう樹海の奥地にある祠を無視すると、奉られている存在になにかされそうだ。

 そう思いながら、荷物の中からお供えによさそうなものを探していく。

 しばらくの間悩んでいた時だった。


「おっ、こんなところに人が来たってのか? いいねぇ、俺の願いも叶いそうだ」


 気さくな感じの男性の声が祠から聞こえてきた。

 空間全体に響き渡る声。人間ではないのは間違いない。


「願い?」

「そそ、俺のたった一つの、すっげーやられたいこと。君なら叶えてくれるかなぁ?」


 ……正直なところ、あまり神様っぽい印象ではない。

 それどころか、なんていうか俗っぽさすら感じる。


「願い次第かな」


 断る理由もないので、祠の声に聞いてみる。

 すると、シリアスな声のトーンで祠は言葉にした。


「俺……壊されたいんだ」


 かなり真面目な態度。

 深刻な願いなのかもしれない。

 そう思った私は、意識を改める。


「なにか、不条理があった?」


 壊されたい祠というのは相当な事情を抱えてるに違いない。

 厄をため込みすぎたとか、そういう話になってくると私も力を入れて対応しないといけないだろう。

 私に対して祠は切々と語る。


「……あぁ、そうだな。確かに不条理かもしれない。俺が俺である限り、壊されるっていうのは難しいからな」

「祠を壊すって相当覚悟がいるからね……」

「あぁ、だから困ってる」


 風習、文化、そういうものを破壊するという覚悟が必要になる。

 どんな時であっても、祠を壊すというのは難しい話になるだろう。

 それでも壊されたいというのには、深い事情があるのかもしれない。


「厄をため込んだりとか、そういう事情なら手伝うよ」

「……ん? なんか誤解されてるな?」

「誤解?」


 突然、祠の声が軽快なものに戻っていく。

 てっきり悪いものをため込みすぎて壊されないといけないところまで行ったのかと思ったのだけれども、違ったのか。


「俺は純粋に壊されたいんだ。それには別に悪い憑き物があるとかそういうのはない」

「じゃあ、なんで壊されたいか聞いても?」

「いや、壊されるってどんな感覚なのかなぁって気になって」

「……うん?」


 話が見えなくなってきた。

 困惑する私を置いて、祠の話が進んでいく。


「悪戯で壊された祠仲間がいてな? そいつが自由に動ける時に言ったんだ。壊されるって開放感あっていいぞって。それ聞いてからな。俺、結構気になって仕方なくなっちまったんだよ」

「色々と変な話でついていけてないかも……」

「法律が人の形を取ったりすることもあるだろ? あれみたいなもん」

「あぁ、それで少し納得」


 街によっては魔法の法律が会話をすることもある。そうした話であると考えると不思議なことではない。

 ……つまりこういうことか。

 別のところにいる祠の化身が壊された時に、樹海の祠まで遊びに来て、色々話し合っている間に破壊されることに興味を持ってしまったと。

 なんていうか、奇天烈な話だ。


「だから、俺は壊されたくなったんだ。開放感を味わいたくってな」

「祠の破壊って覚悟がいることだと思うけど……?」

「俺だって覚悟してる。だから壊されたい。思いっきり、派手に」

「ええっと……」


 どうしよう、流石にこれは断りたい。

 モラルの問題というべきなのだろうか。意図して祠を破壊するのは、ちょっと反道徳的だし、私的にはちょっと勘弁してほしい。

 でも、好奇心を持っている彼が報われないのも気の毒のように思える。

 どうするべきか。


「私はあまり壊す側にはなりたくないから、ちょっと断っていいかな」

「そうか、残念だ……鬱憤は溜まってしまうな」


 しょぼくれる祠の声。

 その態度を見ていると、やっぱり何かしらはしてあげたい。

 せめて、ちょっとした贈り物はあってもいいだろう。


「……壊されてもいい法律くらいならプレゼントできるよ?」

「えっ、それって大切にされなくなるんじゃ」

「こういうルールで作ってみるとかどうかな。『この祠は壊してもよい。ただし一日一回限定。破壊されたのちしばらくしたら復活するが規定回数以上破壊したら罰が当たるだろう』的な……」

「それでうまくいくかぁ?」

「規則があれば、それに従う人増えるよ、きっと」


 そうして私は祠にちょっとした法律を創り上げて、樹海から去っていくことにした。

 祠はほどほどに嬉しそうに私の『贈り物』を受け取っていた。




 数日後。

 私のところに光の玉がやってきた。

 ふよふよ浮かぶその玉の中には言葉が込められている。

 魔力反応を確認。調べてみたところ、あの樹海の祠のものだった。

 言葉を聞いてみる。


『あの法律のお陰で、無事に破壊されるようになったぜ! この手紙は破壊された後に書いたものだが気持ちいいな! ぶっ壊れる感覚! たまんない! 今度お前も遊びに来いよ!』


 その言葉からはテンションの高い雰囲気が伝わってくる。

 なんていうか、喜びが伝わってくる。うまく行くかは心配だったけど、どうにかなったみたいだ。


「……壊すかどうかは別問題だけど、また機会があったら寄ってみようかな?」


 破壊されたい祠は今日もきっと破壊されるのだろう。

 不思議な存在への出会いはなかなか面白い体験だったと感じられた。

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