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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第30話【イカしたセンスの街】

 自由気ままに旅をしていた時だった。

 荒野のような道を進んでいると、謎の看板を見かけたのだ。


「イカしたセンスの街?」


 看板にはカラフルな塗装がされていて、その中心には大きな文字でイカしたセンスの街と表記されている。そしてその文字の周囲には吹き出しがいくつもあって『楽しいぜ!』とか『旅人歓迎! かかってこい!』など、なんだかエネルギッシュな言葉がいくつも記載されている。

 ……どういうことなのだろう。まるで街がまるで主張しているみたいだ。俺たちはイケイケだぜ、みたいなテンションすら感じる。


「街である以上、法律は存在すると思うけど……どういう法の下で暮らしてるんだろう」


 普段行く街とはちょっと雰囲気が違う気がする。定められた法律の中で生きているというより、自由気ままな雰囲気を感じるというか、面白い光景が広がってそうみたいな印象を覚える。

 意外と行ってみると楽しいことが起きるかもしれない。


「よし、行ってみよう。イカしたセンスの街に!」


 興味を持ったら積極的になる。旅人にはそういう姿勢も大切なはずだ。

 私は荒野の道をまっすぐ進んで、街へと赴いていくことにした。






 街の入口もかなり荒野に寄り添っている雰囲気だった。

 街の門には律儀にも『ウェルカム! イカしたセンスの街!』と書かれている。

 木でできた建造物が並んでいて、そこで人が暮らしている感じだ。酒場や露店もいくつか見受けられる。談笑している人も多くいて、最初の印象を素直に言葉にするのなら、賑やかな街と感じられる。


 よし、早速街のことを理解していこう。

 そう思いながら門から街に入ろうとした時、私は近くにいた男性に止まるような仕草で手を広げられた。


「おっと、あぶねぇぞ嬢ちゃん」

「何が危ないの?」


 飄々とした態度を取りながら、男性はそっと指を動かしていく。

 その先には蛇がいた。……荒野に蛇がいるのは不思議ではない。とはいえ、街に蛇がいるのはちょっと怖くも感じる。

 蛇の大きさはそれなりのもので、私の指の2倍以上の太さをしている。長さは少し分かりにくいものの、両手を広げたときよりも広いのは間違いない。

 ……蛇には気を付けた方がいい。彼はそう言いたいのだろうか。

 次の言葉を待っていたら、彼はニヤリと笑いながら言葉にした。


「アイツのスネークダンスの邪魔になる」

「す、スネークダンス?」


 彼の言葉に困惑する。

 ええっと、私の記憶が正しいのなら、スネークダンスは人が踊るものなはずだ。

 蛇のようにうねうねした動きをして、身体をしなやかに使う形式のダンスのことで、蛇が踊りだすことに対して使う言葉ではないはずだ。

 しかし、目の前では……


「ほぉら、始まった」


 蛇が機敏な動きで胴体を上にあげて、しゅっしゅっと私を見つめながら動いていく。

 攻撃の意志は感じない。それどころか、『俺のダンスを見ろ!』と言わんばかりに元気に動き回っている。

 蛇使いが音で蛇を導くというのはそれなりに聞いたことがある話ではあるけれど、ひとりでに蛇が踊りだすというのはなんだか斬新だ。


「お前たち、出番だぜ!」

「へいっ、待ってましたぁ!」


 男性が指を鳴らすと、街の中から少し焦げ肌のダンサーがふたりほど蛇の斜め後ろに集まって来た。中心にいかないあたり、蛇が主役ということなのだろう。


「さぁ行くぜ、歓迎ダンスだ!」


 私の目の前の男性がマラカスをどこからともなく取り出すと、シャカシャカと音を鳴らしていく。

 それに合わせて、蛇もダンサーも一緒に身体をくねくねと動かして踊っていく。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。

 マラカスの音が賑わい、蛇が踊る。

 そんな不思議な瞬間は、マラカスが響き終わると賑やかな余韻を残しながら終わっていった。


「改めてようこそ、イカしたセンスの街へ! ここじゃフツーの間隔じゃあ味わえない独特な体験が味わえるだろうから、楽しんでいけよ!」


 それだけ言葉にすると、蛇とダンサー、そして男性は去っていった。

 ……なんていうか、不思議だけど楽しい街なのかもしれない。

 そう思いながら、私は街の中に進んでいった。





「ロシアンルーレットで賭けをしねぇか? 銃声が響いた方が負けのシンプルなルールさ」

「おいおい、弾が入ってたら死んじまうぜ?」

「ふっ、安心しろ。弾なしの銃さ。音はそれなりに響くがな!」

「じゃあ生きていけるな。じゃあ俺はチキンを賭けるぜ」

「ならオレは縁起も兼ねて豚にするか。真珠と相性良さそうだしな!」

「なるほど、頭いいな!」


 街の中。荒野での劇のように会話する人がいたり、やっぱり愉快だ。

 ……豚に真珠って、確か価値がわからないことの例えとかそんな感じだった気がするけれども、本人が楽しそうに言葉にしているのに指摘しにいくのも無粋だろう。そう思いながら、通り過ぎていく。


「さて、どうしていこうかな」


 悩みながら移動していく。

 街の動向を見守っているだけでも楽しそうだけれども、やっぱりなにか行動を起こしてみたい。

 イカしたセンスというのをもっと知りたいと思うのはきっと当然のことだろう。


 何かある場所と言えば、人が多くいる場所。つまり酒場だ。

 そう思った私は、酒場まで足を運んでいくことにした。



 酒場。

 そこでは荒くれのような厳つい顔つきの男性がいっぱいいた。


「ふぃーっ! 二日酔いも冷めちまう運の無さだぜ!」

「笑うしかできねぇなぁ! はっはっは!」


 彼らも賭け事をしているのだろうか。

 遠目で見つめてみる。


「ほい、激辛フライドポテトを堪能するんだな!」

「これでもう6回目だぜ? そろそろ激辛の神様に褒められちまうなぁ!」


 そう言葉にしながら真っ赤なフライドポテトを味わう男たち。

 罰ゲーム付きの遊びで賑わっている感じだ。なかなか健全。

 賑やかな雰囲気にほっこりしながらも、私はカウンター席に移動していく。


「嬢ちゃんみてぇなかわい子ちゃんが酒場に入ってくるたぁ珍しいな」


 酒場のマスターは筋肉質でかなり渋い印象だ。テンガロンハットとジャケットがよく似合っている。


「旅人だからね、どこにでも現れるものだよ」

「いいね、オレ好みの答えだ。何を飲む? 出せるものなら出すぜ」


 こういう街ならば、試すようなことを言ってもいいかもしれない。

 そう思った私はちょっとだけ茶目っ気を出して話してみた。


「マスターのオススメみたいなものが飲んでみたいかも」


 その言葉を聞いたマスターはニヤリと笑った。


「いいのか? それともこの街がイカしたセンスの街だってこともわかっての行動だったりするのか?」


 警告しているマスターではあるものの、その表情はまるで子供のように無邪気な笑みを浮かべている。

 好きにやってもいいなら、自由に暴れてやる。そんな気概すら感じさせられる顔だ。

 当然私は臆せずに言葉にする。


「当然。むしろ、この街のいい思い出として覚えておきたいから派手になにかやってみたいんだ」

「ははっ、その豪胆さ、気に入った!」


 そこまで話したマスターはカウンターの上にそれぞれ5つのボトルを用意する。

 それなりに大きいボトルの中には様々な色の飲み物が入れられている。


「こういうルールはどうだ? オレの目の前には今、5つのボトルがある。この中のひとつにオレが大好きなジュースが入っているのさ。飲み比べをして、そいつを見事に当てることができたのなら、豪華な食事と飲み物を提供する」

「もし失敗したら?」

「ふふ、そりゃあイカした食事を堪能させてやろぜ」

「無粋なことを聞くけど、料金はどんな感じかな?」

「ふっ、それは不公平なしで同じ価格にする。それでいいかい?」

「おっけー」

「よし、注いでいくぞ」


 小さなグラスにそれぞれジュースが注がれていく。

 しゅわしゅわしているもの、お茶っぽいもの、多種多様な種類が集まっている。


「さぁ、飲んで当ててみろ! お酒はないから安心しな!」

「いただきます」


 ひとつめの緑色ジュースを味わう。

 ……うん、お茶だこれ!


「お茶だね。心が落ち着くかも」

「茶葉はお茶の街から仕入れているものだ。なかなか美味だろう?」

「いいね、お茶の街。今度行ってみたいかも」


 ほどほどの渋さも相まって、まっとうに美味しい味わいだ。

 小さいグラスに入れられているのも相まってすぐになくなってしまった。


「次はこの茶色っぽいやつ」

「おう、グイグイいけ!」


 ふたつめの味わいをじっくり堪能する。

 ……甘い。すっごい砂糖っぽい甘さを感じる。


「これもお茶だな」

「お茶なんだ」

「あぁ、紅茶のひとつだな。チャイティーという」

「結構の色んな種類があるんだ」

「炭鉱夫の男どもは糖分を求めてこのお茶を求めることも多いのさ」

「なるほど、私は男の人ではないけどわかる気がする」


 疲れた時には甘いもの。それはきっと老若男女問わず変わらないものだろう。

 そういう落ち着いた感じも大切だ。


 満足に味わいながら次の飲み物を味わっていく。

 次は緑色でしゅわしゅわしてる。


「おっ、そいつは異世界由来の飲み物だ! 味わうといい!」

「異世界由来ね、面白そう」


 じっくりと味わってみる。

 味わいは素直な炭酸のもの。ちょっと強めだからかぱちぱちした食感が味わえる。

 ただ、味は少し説明しずらい。メロン……っぽいって感じでいいのだろうか。


「そいつはメロンソーダ。風味がいいだろう?」

「なんだかちょっぴりメロンっぽくないような気もするけど……」

「そうかぁ? そう思うのは甘いからかもしれないな! ま、緑だしメロンだろって俺は思うがな!」

「……今度、メロンを食べてみながら検証してみようかな。異世界系の街なら結構あるんだよね」

「あぁ、今度そういう街に行ってみたら挑戦してみるのも面白いかもな!」


 次の飲み物。

 すっごい黒いもの。

 ……わお、なんていうか禍々しい。


「そいつはいいぞ」


 それ以上の言葉をマスターは口にしない。

 ただ、肯定する言葉を言って私の覚悟を試しているみたいだ。

 なんていうか、威圧感を感じる飲み物だ。


「いただきます」


 静かに、覚悟を決めて飲む。


「う、こ、これは……!」


 口に入れた瞬間に分かった。

 これはコーヒーだ。

 それも、特製の豆を使ったやつ。

 間違いなくかなり高級そうなやつを使ったコーヒー……!


「に、にがい」

「はっはっは! どうだ、一気に目が冴えるだろう。この前取引した商人がくれた『出来立てでもなくても鮮度が落ちないコーヒー』なのさ」

「な、なんていうか、すごいね、これ」


 舌がかなり苦みに包まれている。

 なんとか少しずつ味わうことで飲み干すことはできたものの、これは大変だ。


 最後の飲み物。

 それはシンプルなオレンジジュースだった。


「これはお子様の味ってやつだな」

「好き好んで飲む人が気にしちゃう気がするよ、その言い方」

「それもそうか。ははっ」


 笑うマスターには悪気はないように思える。

 これもこれで、みんなが楽しめるタイプの味だからお子様の味って表現したに違いないだろう。

 

 オレンジジュースの味わいはすっきりした柑橘類の爽やかな味わいが口に広がって美味しいさを感じさせれる。

 うん、なんていうか満足感が高い飲み物だ。


「さて、全部味わったわけだが、オレのイチオシのオススメはわかったかな?」


 改める形で言葉にするマスター。

 私はその答えを考える。


 ……最初の二つのお茶はないような気がする。なんていうか、お試し感覚で用意された感じがある。

 メロンソーダもなんだかそこまで興味の無さそうな印象。

 そうなると、コーヒーかオレンジジュースになるだろう。

 特にコーヒーはいいぞと念押しを喰らっているのが怪しい。

 逆にオレンジジュースはすっと出されたのもあってそんなに印象に残らなかった。


 そうなると、答えはこれになるか。


「マスターのオススメはあのすっごい苦いコーヒー!」

「本当にそれでいいんだな?」

「そうだと思った」


 一瞬の静寂。

 私とマスターの間に緊張が走り、彼の口が静かに動いた。


「……残念!」

「えっ、嘘!?」


 思わず変な声を出してしまった。

 あんなに仰々しい態度をしていたのに、違うなんて。

 ちょっと想像していなかった。


「答えはオレンジジュースだったのさ」

「絞れてはいたんだけど、意識外だった……!」

「ふっふっふ、この街がイカしたセンスの街だということを忘れたのか?」


 彼は得意げに言葉にする。


「イカしたセンス。それは人によって違うもの。お子様の味だって普遍的に変わらない信頼のおける味だって考えると納得はいくだろう?」

「その説明には納得できるかも。でも、コーヒー飲んでるイメージもあったから」

「ふっふっふ、オレは子供舌なのさ。苦いのは苦手だ」


 そう言いながら微笑むマスター。

 なるほど、一本食わされた感じだ。

 これは見事な誘導だった。


「さて、外れてしまったからにはあのコーヒーを味わってもらうことになるが……」

「うっ、しんどそう」

「そうだな、ここは仲良く俺も道連れになりながら食事を取ろうじゃないか。せっかくだから甘いクロワッサンとかでも用意しよう」

「荒野の酒場だけどちょっとおしゃれな感じかも」

「ふっ、そういう独特なセンスがこの街を生きる秘訣になるのさ」


 マスターはそう言葉にすると、奥の厨房に入っていった。

 しばらく待っているとパンのかぐわしい匂いが漂ってきた。

 それが完成すると、あのやたら黒いコーヒーと一緒にいくつかの菓子パンが運ばれてきた。


「苦いものには甘いものもあるといい。そういうものだろう?」

「実はマスターが甘いものを食べたかっただけだったりして」

「そ、そんなことはない! なんでそう言い切れる!」

「子供舌ってさっき言ってたから」

「いくら子供舌でも苦いのが死ぬほど駄目ってわけじゃないぞ? ほら」


 マスターがコーヒーを恐る恐る味わう。

 しかしその顔は即座に歪んだ。


「にげぇ」

「砂糖を入れよう、私の手持ちがあるよ」

「いいのか? じゃあ、ドボドボにやってくれ!」

「センスのある行動かはわからないけど……」

「こういうのは自分気ままにやれてりゃあイカしたセンスになるのさ」

「……そういうことにしておこっか」


 マスターと味わう菓子パンとコーヒーの味わい。

 それらは独特な甘さと苦さを堪能させられるいい時間になった。

 センスがある行動とかは正直わからないけれども、自分気ままに生きる人は人生楽しそうだ。

 そう思える瞬間だった。


「ところで、私に対応してばっかりで他の人の対応は平気なのかな」

「……多分、大丈夫だろ」

「えっ」


 まぁ、抜けてるくらいがちょうどいいというのもあるし、ガチガチに考えすぎるのもよくないのだろう。きっと。








 イカしたセンスの街を抜け出して、次の街まで歩いていく。

 行き先は今日も、当然わからない。

 自由気ままな旅だ。


「イカしたセンスの街……どんな法律で成り立ってる街かはきけなかったけど……」


 私が感じた街の法律の在り方はこんな感じだった。


『各々が思うがままに自分を磨けば、イカしたセンスに繋がる。よりよく生きよ!』


 ……法律としてはちょっと柔らかすぎる印象があるけれども、街の雰囲気からはこんな感じを覚えた。

 マイペースに生きているものの、エネルギッシュな感じもある。

 独特な力を感じる街。

 そういう場所があってもいいだろう。

 街の在り方というのはそれぞれ違うものなのだから。


「よし、準備万端。次はどこに行こうかな」


 青空快晴。

 すっきりとした太陽は、私の歩む道をどこまでも照らしているようだった。

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