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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第29話【温泉の街】

 旅をする感覚と旅行に行く瞬間というのは言い回し以外にも、絶妙に感覚が違うものだと感じたりする。

 旅をするという言い方よりも、旅行するという言い回しの方がなんだか特別なものを求めている雰囲気があるからだ。

 最近はなんだか暑い日が多いような気もするし、気分転換する日も大切だろう。

 そう思った私は、旅行に赴く感覚で有名な街に赴くことにした。





「おぉ、流石に人が多い」


 有名な街にはやっぱりお客さんというのはたくさん来るものだ。地図を見ても、わかりやすく行き方がガイドされているくらいには知名度がある。

 私の目の前では浴衣姿の男女が談笑したりしている。靴の代わりに下駄を履いていて、いかにも雰囲気が出ている。

 私のように外から来た人は、浴衣ではなく普通の服を着ている人が多い。こっちの人たちは受付に向かって移動している。当然私も含めて。


「疲労回復には、やっぱりこういうところがイチバンなのかもね」


 私が今日の旅先……いや、旅行先として決めた場所。それは『温泉の街』と呼ばれる場所だ。

 町全体に天然温泉が存在している街であり、他の街から旅行でやってくる人が多いと言われている観光地らしい空間となっている。

 街の根幹を創り上げる法律についても、至ってシンプルな仕組みで記載されている。


『全ての湯は平等に幸福を授けるものである。湯を汚し、場を乱してはならぬ。温泉を汚すようなものには罰が下るだろう』


 硬い言葉で書かれているものの、その内容はわかりやすい。『マナーを守って温泉に入ろう』というものだからだ。

 風の噂によると、故意に事故を起こした旅人は罰として温泉のマスコットに変えられてしまった、なんて話も聞いたことがある。

 とはいえ、そうなった人というのはそうそういないのもこの街の魅力と言えるだろう。自然と法が守られるほどに治安がいいということなのだから。


「よし、行こう」


 他人に迷惑をかけず、温泉を楽しみ、疲れを取り除いていく。

 それが今日の目標だ。今日の私は旅行感覚で楽しむと決めているのだ。

 受付で本日中の滞在を申し込み、温泉の街をたっぷり楽しむ準備を整えていく。


 バスタオル、持参済み。

 浴衣はレンタル。

 身体を洗うのに必要ないくつかのものは街側で用意してくれている。

 ドライヤーだってしっかり存在している。


 色々な説明を受けている中で、受付の人に気になったことをいくつか聞いてみる。

 対応する受付のカウンターが多いので、私ひとりに話しかけられても余裕がありそうだと思っての判断だ。


「私が入るかは置いておくとして、混浴できたりするんです?」

「当然です! ふふふ、温泉の街には大浴場として混浴できる場所もあれば、カップルさん同士で使える場所だってあるのです。多種多様な温泉の種類! それこそがこの街の魅力でもありますからね!」

「そんなに温泉いっぱいあるんだ……」

「ふふっ、不思議な温泉もありますよぉ? 素敵な動物さんと一緒に入れる温泉、魔法が使えるようになる温泉、身長など、身体的な変化を一時的に味わえるものだってありますので! あっ、パンフレットを見てみると細かい温泉の位置はわかるかもです」

「ありがとう」


 パンフレットを受け取って、その中身を確認する。

 ……なるほど、言葉で説明された以上にたくさんの温泉がある。


「でも、これだけ位置が遠いと移動するのが大変な気がするけど、そこは平気そうなのかな」


 行きたい温泉が離れた位置に存在している場合、温泉をそれぞれ選んだりするのも大変そうだろう。

 そう感じながらも聞いてみた。


「大丈夫です、温泉の街の加護がありますので!」

「街の加護?」

「ふふふ、『温泉街式空間湾曲式移動地点』です」

「ええっと……それは?」

「端的に言えば、温泉と温泉の間を瞬間移動できるんです。旅人さんの間では『温泉ムーブポイント』という名前でよく言われてるので、そのように呼称するといいかもですね」

「瞬間移動は便利そうだね。法律の力で成り立ってる感じ?」

「はいっ、街の法律のパワーで温泉の清浄化と一緒に瞬間移動の機能も付いています!」

「特化してるだけあるね」


 温泉間を移動するならば、温泉ムーブポイントを使えばいい。

 気になった温泉も色々調査することができそうだ。


「色々ありがとう、楽しんでくるね」

「えぇ、是非とも満足いく温泉旅行を! あっ、最後にひとこと!」

「どうしたの?」

「パンフレットは水に強くできてますので、いつだって見ることができます! 参考にしてみてください!」

「色々便利……流石、温泉の間」

「ふふふっ、楽しんでいってくださいね!」


 受付の人との会話も終わり、私は奥へと進んでいく。

 旅館のようなロビーを抜けた先で、荷物を預かり所に送る。部屋まで荷物を運んでくれるサービスだ。

 しっかりと自分の部屋番号を確認したのち、温泉に向かっていく。

 男性・女性と書かれたのれんをしっかりと女性の方で潜り抜ける。

 お客さんは私以外にもいっぱいだ。

 それぞれが服を畳んで、温泉に入る準備をしている。

 私も邪魔にならないことを意識しながら温泉に浸かれるように状態を整えていく。


 髪はそこまで長くないから結ばなくても問題ないだろう。

 バスタオルもそれなりに大きめなものも用意してある。

 着替えを入れたロッカー用の鍵もしっかり用意できている。

 準備は万端だ。

 私は早速、扉を開けて最初の温泉を見つめていった。


『始まりの温泉』


 そう書かれた温泉の空間には、大量のシャワーと鏡。そしてシャンプーやボディソープといった身体を洗う用の道具がたくさん置かれていた。

 場所の中央部分には大規模な温泉が存在していて、壁際がシャワーと鏡で身体を綺麗にできる空間になっている感じだ。この場所はまだ露天風呂のような空が見える仕組みにはなっていないらしく、対規模な温泉部屋みたいな感じになっている。

 公共の場でいきなり身体を洗わずに温泉に入るのはよろしくないだろう。

 そう思った私はシャワーと鏡がある温泉の壁際に移動し、そこにある温泉椅子に座った。


「意外とないんだよね、シャンプーとかボディソープって」


 身体を濡らして、ボディタオルでしっかり泡立せていく。

 製法が少し特殊なのもあってか、石鹸やシャンプーといったものは多くの街で見かけることはない。

 馬油シャンプーとかを作っている街もあったりするけれども、異世界由来の技術として用意されたりすることも多い。

 製法が確立している以上、ある程度の自給自足ができる街もあるものの、街によっては技術の発展の仕方も独特だから、作れなかったりするところもあったりするのだ。

 ……長々と頭の中で考えてしまってるけれども、私が言いたいことははっきりしている。


「うん、身体や髪がつやつやになるのって、やっぱりいいね!」


 そう、これに尽きる。

 長旅をしているとどうしてもお風呂に入れないタイミングというのは出てくるもので、そういう時はなかなか心苦しい想いになったりすることもあるのだ。

 特に、髪や身体がベタベタになってると感じる時はとても気落ちする。それで旅をする余裕がなくなってくると滝とかで水浴びするくらいだ。

 ……私だって旅人である以前に女の子だ。清潔感や綺麗さというのはこれでも結構意識しているのだ。


 ボディタオルで身体をしっかり綺麗にしていき、シャンプーで髪をつやつやにしていく。

 温泉に入る為の下準備は完全に整ったと言えるだろう。

 ボディタオルを畳み、温泉に向かっていく。

 混浴じゃないから、今はバスタオルを巻かないで入っても問題ないだろう。

 準備が整ったので私はのんびりと温泉に浸かる。


「心地よい温かさ……」


 多くの人が入ることを考えられているからか、お風呂の温度が心地よい。

 あまり暑すぎるという感じにならない、ほどほどの調整だ。なかなかに心地よい。


「ベーシックなのもやっぱりいいよね……」


 のびのびと身体が伸ばせる空間があるのもちょうどいい。

 チャレンジ精神旺盛じゃない人なら、ここだけでも満足できてしまいそうなくらいしっかりしている。

 温泉の街は伊達ではない。


 のんびりと温泉を堪能しながら、次に行く場所を考える。

 パンフレットを見てみると、空間ごとに特色が違うのは感じられる。

 ……そういえば、『動物と一緒に入れる温泉』というのがあったっけ。どういうのか気になる。


「ちょっとそっちにまずは行ってみようかな」


 しっかりとある程度温泉をを楽しんだのちに、私はパンフレットに従って行動することにした。

 私が向かった先の空間の名前は『動物混浴ゾーン』というもの。

 なんていうか、凄い空間な感じになりそうだ。






 温泉の隅にある『温泉ムーブポイント』を操作して、移動した先。

 私の目の前には凄い光景が広がっていた。


「猿がお酒を浮かべてる!?」


 三匹の猿が優雅にお酒を温泉の上に浮かべて乾杯している猿温泉。


「あっ、あっちだとカピバラがくつろいでる……!」


 幸せそうなカピバラがのんびりとくつろいでいるカピバラ温泉。


「……ペンギンが温泉入ったらのぼせるんじゃ?」


 何故か存在しているペンギンがぐてーっとしているペンギン温泉。


 そこは様々な生き物が自由に温泉に入っているという、動物と混浴するという空間においては圧倒的な自由さを感じる場所になっていた。


「存在感的にちょっとプレッシャー感じるかな……」


 流石にくつろいでいる動物たちの隣に入って、私も仲間のようにふるまうというのは勇気がいる。

 そう感じながら、温泉を見つめてみると、また風変わりな温泉が見つかった。


『マスコットキャラと一緒に入れる温泉』


 そう書かれた温泉の中にはまだ誰もいない。

 どういうことなのだろうか。

 気になって、温泉に足を運んでみる。


「どうどう、温泉の街は楽しんでる?」

「わっ」


 温泉に入った瞬間に、キラキラ輝く妖精みたいなマスコットがタオルを巻きながらやってきた。

 なるほど、そういう仕組みか。


「個性的な温泉もいっぱいあって面白いかも。見てて飽きないっていうか、もっと見たくなるっていうか……」

「よかったよかった! ところで、この『マスコットキャラと一緒に入れる温泉』って実は罰と一番近い場所なんだよ!」

「さらっと物騒なことを言ってる気がする……!」

「そうでもないよ? だって、悪いことした子にしっかり反省してもらう為に、マスコットキャラとしてはたら……ううん、頑張ってもらう場所なんだから!」

「……こわー」


 ふふんと笑う妖精さん。

 ……さらっと働くという言葉が聞こえた気がするのは聞かなかったことにしよう。

 なんていうか、妖精らしい純粋さを言葉の節々から感じる。


「ええっと、妖精さんは普通にここにいる感じだよね」

「そうだね! マスコットキャラになった人がいなければ、基本的に対応してるのはわたしになるよ!」

「ひと月にどれくらいの人がマスコットキャラに変身させられたりするのかな」


 こうなると逆に気になってしまう。どれくらいの人がマナーを守らないのかが。

 私の問いかけに少し悩んだ妖精さんは、はっと気が付いた表情を浮かべて話してくれた。


「うーん、本当に多いって月で2回かな? 最近は平和だから0が続いてるよ」

「みんなマナーを守ってくれるんだね」


 観光地なのもあって、みんながマナーを守ってくれるというのはありがたい話だ。


「ふふふ、私の教育のたまものかもしれないけどねー」

「……きょ、教育?」

「ううん、なんでもなーい。強いていうなら、噂はしっかり聞いてるかもって話」


 ……なんだか時々この妖精さんが腹黒いのかもしれないという気持ちになるけれども、そっとしておこう。

 なんていうか、個性的な従業員がいることも魅力なのかもしれないし。


「あっ、そろそろ次の温泉行きそうだね? じゃあ、わたしのオススメ教えてあげる!」

「おすすめ?」

「『不思議温泉ゾーン』! 魔法が使えるようになったり、身長とかが少しの間だけ変化する変わった温泉いっぱいの場所!」

「名前が潔いかも」

「お姉さんは魔法が使えるから、魔法の温泉は関係なさそうだけど、身長とかは楽しいと思うよ!」

「……せっかくだから行ってみようかな。ありがとう」

「楽しんできてね!」


 温泉から上がると、妖精の姿は消えていた。

 さて、次の場所ではどんな体験が待っているのだろうか。

 私はのんびりと移動していくことにした。





『不思議温泉ゾーン』


 そこは個性的な温泉がたくさんある変わった場所だった。


「た、体重が一時的に増える温泉?」


 効能としては発汗作用が刺激されてお風呂あがりにより一層痩せられるという仕組みらしい。

 ……らしい、けれど。


「……ちょっと、勘弁、かな」


 なんていうか、その、ええっと、自分から太ることを選択できるほどの技量は私にはないみたいだ。

 乙女としてのプライドとかそういうのになるのだろうか。いや、私は自分が思っているほど自分のことを乙女だとは思ってないけれども、最後の壁が阻止してきた感じだ。


「逆に体重が減るみたいなのもちょっと怖めだし……」


 私は自分のことをそれなりに細い方だと思っている。

 そんな私が入ったら凄いげっそりしそうだから回避した方がいいかもしれない。


「童子温泉」


 一時的に幼い気分を味わえる温泉。

 どういう仕組みでやっているかはわからないけれども、街の法律の力でそうなっているのだろう。

 ……ちょっとだけ入ってみようか。


「わー、あったかーい! ぽかぽかー!」


 なんだかぼんやりしてくる。

 ぽかぽかおふろで、ずっとのんびりしたい!

 あとあと、ともだちとあそびたい!

 みずかけあそびして……


「いやいやいやいや!」


 意識を強く持って脱出する。

 いや、これは危険だ。恐ろしい。

 一瞬で感情とか理性を持ってかれた気がする。

 それこそ、なんていうか、少女を通り越してもっと幼い感じになってた気がする。

 ……知人に遭遇したりなんてしてたら笑い種になってた気がするレベルで変になってた気がする。


「いや、怖いね、本当に怖い」


 ここが観光の温泉である以上、ある程度のセーフティーというのはあるだろう。

 とはいえ、びっくりするほど不思議温泉ゾーンは変化球なものが多い。

 改めて入口を確認すると、注意書きが書かれていた。


『この温泉は性質上、精神に作用するようなものがいくつか存在します。不慣れな方はくれぐれも気を付けてください』


 うん、なるべくこのあたりの温泉は入り方を考えた方がいいかもしれない。

 そう思いながら、私は入る温泉を考える。


「身長が一時的に伸びる温泉とかが無難かな」


 一瞬だけ入って出る温泉だけで体験が終わるのは悲しすぎる。

 そう思った私は、のんびりと身長が伸びる温泉に入ることにした。


 ……少しの時間が経過する。

 温泉の隣に鏡があったので、そこに映った私の姿を確認する。


「ちょっと大人びてるような……」


 いつもより美人要素が増してる気がする。

 肌もつやつやで、なんだか魅力的な女性っぽい。


「ふふっ」


 鏡に向かって微笑みかけてみる。

 うん、悪くない。こういう姿もいいと思う。

 しばらくのんびりしていても、これ以上身長が伸びる気配はない。

 一定の長さで止まる仕組みになっているのだろう。


「隣、いいですか?」

「うん、大丈夫」


 金色の髪の少女が私の隣に座る。

 キリっとした表情がどこかあどけなさを感じさせる。


「大きくなりたいの?」

「う、うん。ちょっと身長が気になってて……」

「そっか」


 彼女もきっと背伸びしたい感じなのだろう。

 そわそわした雰囲気になりながらも座り続ける。

 しかし……


「なんで!? 身長が伸びない!」


 私が身長が伸びていた3分くらいが経過しても彼女の身長は伸びなかった。

 そのままの姿が維持されるままだ。


「魔法が使えると魔法の温泉の効力は得られなそうって感じの話はあったけど……」

「身長も駄目ってこと!? 魔法少女だったら」

「魔法少女……?」


 その一言でふと、気になって彼女の方を改めて見つめる。

 そういえば、たまに会ってたりする知人の魔法少女もこんな感じの目をしていた。


「その、もしかしてステラだったりする?」

「えっ、なんであたしの名前知ってるの? って……」


 私の顔をまじまじと見て、彼女が叫ぶ。


「うわああああ!? リベラがいつも以上に大人っぽくなってる!?」

「うん、その反応だとやっぱりステラだったんだね」


 私の腐れ縁的なところもある友人魔法少女のステラ・クォーレ。

 彼女もまた、温泉の街に入っていたのだ。


「ななななな、なんであんたがこんなところにいるのよ!?」

「知的好奇心」

「そうだとは思った! 温泉の街にいるのは!?」

「まぁ、旅行感覚で休息が取りたかったからかな?」

「な、なるほど……」


 少しクールダウンしたのちに、彼女はまた会話をヒートアップさせていく。


「あ、あたしがここに来たのは秘密にしてね! もしあたしのことを知ってる他の人とか旅で見かけても内緒にしてよね!」

「それはどうして?」

「は、恥ずかしいんだもん。大きくなりたいって願ってたの知られたら」


 そう言葉にしながら顔を赤くする彼女。

 だが、残念なことに身長は伸びない。

 ……でも、ちょうどいい感じに頭に手は伸ばせるかもしれない。

 そう思った私は、なんとなく彼女の頭を撫でてみた。


「大丈夫、ステラは頑張ってるよ」

「えっ、えぇ……?」

「だから、気にしなくてもいいんだよ」


 彼女の頭をぽんぽんする。

 これで落ち着くといいのだけれども。

 そう思っていた時だった。


「リベラ、温泉から出るわよ!」

「えっ、どうして?」

「いいから!」


 温泉から出てきて、私の身長が元通りになる。

 ……そして、ふと自分が無意識にやっていたことを思い出す。

 ステラの頭を撫でていた。

 お姉さんっぽく、優しい感じに。


「……これって、温泉の効力になるのかな」

「姿も変われば心も変わるってものだからね。面白い話だけど、ちょっと怖くもあるわね」

「なんだか不思議」

「あ、あたしは変だなって思ってたけどね! 不思議温泉だし!」

「でも、こういうのを求めてる人は進んで入りそうだし……なかなか奥深いね、ここ」

「あっ、リベラにおすすめの温泉知ってるわよ? 童子温泉っていってね」

「それはもう勘弁!」


 なんだかんだ不思議な出来事に遭遇しながらも私は温泉を楽しみ、最終的にはステラと一緒に露天風呂で穏やかな瞬間を過ごしていた。




「次に行く場所とかは考えてるの?」


 夕食時。

 浴衣姿のステラが聞いてくる。


「考えてないかな」


 私も浴衣姿のまま、のんびり食事して彼女に返答する。


「珍しいわね。アンタが次の場所考えてないなんて」

「そうかな。いつも結構適当だと思うけど」


 食事として出されているものはさっぱりとした海鮮が多く、味わい深い食感に私とステラは思わず微笑む。


「ま、こういう場所でくつろぐのも悪くないんじゃない?」

「ステラも休みたかったの?」

「そんなところ。ベタベタする日が多いからさっぱりしたくって」

「なるほどね、おおよそ似た理由かも」

「……アンタと一緒っていうのはちょっと複雑ね」

「それはなんで?」

「あたしは正真正銘魔法少女。あんたは自称魔法少女だから」

「やっぱり気にしてる」

「まぁでも、別に嫌いなわけじゃないから、そこは覚えておいて」

「それは忘れないよ」


 穏やかな時間が流れていき、談笑も盛り上がっていく。

 色んな所に旅をしている私だけれでも、こういう時間もやっぱりかけがえのないものだと感じられる。


「ステラ、体調には気を付けてね」

「なに? またお姉さんぶってる?」

「まさか。本心だよ」

「それもそっか。気を付けるわよ。アンタも気を付けなさいよね、リベラ」

「うん、元気じゃないと旅できないからね」


 友達との時間に、温泉でのくつろぐ瞬間。

 どれも、心を癒すひとときとして素敵なものだと感じられた。


 次の旅への気力にも繋がるだろう。

 笑顔の友人と活気ある温泉旅館を見つめながらそう思えた。

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