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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第28話【手札が配られる街】

『自分の手札をうまく使うことによって人生を有意義にしていくべきだ』


 そういった言葉を耳にすることは多い。

 使える手段は有効活用する、できることを考える。そういった意味でも手札というのは大切になってくるものなのかもしれない。

 私は不思議な街の仕組みを見つめながら、そのようなことを考えていた。





「なんなんだろう、このカード」


 ある日の午前。ふと休憩がしたくて街に入った瞬間、私の目の前に5枚のカード空からが降ってきたのだ。

 よくわからずカードひとつに触れると、そのカードは光り輝き、近くの人が話しかけてきた。


「『会話』のカードを使ったね?」

「そうなの? ……あっ、本当だ。そう書いてある」


 宙に浮かぶカードには『会話』という文字が記載されていて、そのフレーバーテキストには『情報収集は会話から始まる』と書かれている。


「君がこのカードを使ったから、僕と君は会話できるってわけさ」

「そうなると……カードに記載されている行動を起こせる街ってことになるのかな?」

「惜しいね、ここは『手札が配られる街』さ。いつも5枚の手札を握りながら生きるという法律の下に成り立っている街なのさ」

「なるほど、どういう街の法律なのか聞いても?」

「構わないさ。『人の運命は手札によって定められる。手札を信じ、最善を尽くせ。手札にない行動を起こしたものには罰が下るだろう』というものだよ」

「なかなかにシンプル……」


 つまり、手札にある行動以外のことを行うと罪が襲い掛かってくるという側面がある街なのだろう。

 そうなると、手札にあることしかできないという感じになってしまうか。


「もし、罪を犯したらどうなるの?」

「数日間、カードに閉じ込められるって噂さ」

「こわ……気を付けないと」


 カードに閉じ込められるということは身動きが取れなくなるということでもある。旅が強制中断させられてしまうのは私としても避けたいところなので、これはうまく街に従っていかないといけなそうだ。


「君がカードを使って行動を起こす度にカードが空からひとつ降ってきて補充される。その5枚をうまく使ってやりくりしていくんだ」

「手札が減ることはないんだ」

「ハンデスによる束縛はカードゲームで味わうくらいがいいんだよ」

「はんです……?」

「手札を捨てさせられることさ」

「な、なるほど」


 つまりこの街の中では絶対に5枚のカードを使って行動できるということか。

 素直にありがたい。


「じゃあ、そろそろ僕は行くよ。手札が配られる街を楽しんでくれると幸いだ」

「ありがとう、気を付けながら楽しんでいくよ」


 会話が終了し、『会話』のカードも消え去っていく。

 そして、空から新しいカード降ってきた。

 そこには『祝福』と書かれている。


「……神の加護が得られる的なやつなのかな?」


 イマイチどういう効果があるのかピンと来ない。

 気になってカードに指を添えてみても、反応することはなかった。


「なんかゲームとかによっては、ふたつカードを使うことによってなにか強い効果を得られるみたいなのがあるけど……」


 気になって他の手札を見ながら、『祝福』と一緒に使えるかを考える。

 そんな時、お昼時だからかお腹が空いていることに気が付いた。

 なにか、対処できるカードがあるかと思った時、『軽食』のカードを持っていることに気が付いた。


「これは使えるのかも」


 『祝福』のカードを手に取り、『軽食』に重ねるように置いてみる。

 するとふたつのカードは輝き合い、空に浮かんでは、花火のような閃光を放ち消えていった。


「うまく行ったのかな」


 気になりながら、少しずつ歩く。

 すると、移動店舗が私の目の前に止まり、笑顔を見せながら店員さんがやってきた。


「『祝福の軽食』のコンボを使いましたね! 理想的です!」

「同時に使うとコンボになるんだ」

「はいっ、ものによっては効力が倍増したり、素敵な効果を得られるんですよ!」


 なるほど、いよいよもってカードゲームとかっぽい。

 なんだか街にいるのに戦略的なことを考えさせられそうだ。


「……というわけで、メニューは特別制! 新鮮野菜とお肉が挟まったパンなんていかがでしょう!」


 目を輝かせながら、メニューを見せつけてくる店員。

 ……流石に無料でくれるわけではないのはしっかりしている。とはいえ、比較的安価な値段なので軽食としてはありがたい。


「じゃあ、それを買おうかな」

「はいっ、ではこちらを!」


 受け取ったパンはかなりの満足感のありそうな感じだ。

 レタスにトマト、ハムなどが挟まったシャキッとしそうなパン。

 早速味わってみる。


「……うん、いいね。これは元気になる」


 生き生きとした味わいというべきなのだろうか。

 野菜が元気なのもあって、シャキシャキしている。苦みも感じない。すっきりした味わい。

 こういうのはなかなかに味わって満足感が高い。


「いい手札の使い方をしてますし、きっと旅人さんは満足しながらこの街を出られると思います!」

「……そういえば、街を抜け出す時もカードが必要だったり?」

「はいっ、『旅立ち』のカードが必要になります」


 その言葉を聞いて、自分の手札を確認する。

 いま今持っているものの中には旅立ちは存在しない。

 あるのは、旅立ちとは関係のない多種多様な言葉のみ。


「大切なのは、手札とどう向き合うかですよ! 難しく考えずに、でもしっかりと向き合っていけばいいことあります!」

「ありがとうね、焦らないでのんびり過ごしてくよ」


 いつでも外に出られないというのは不安かもしれない。

 でも、手札という概念がある以上、引ける確率は存在するはずだ。

 慌てず、自分のペースで街を歩いていこう。

 『祝福の軽食』が終わった私の手札には新たなカードは2枚加わる。

 さて、次はどうしていこうか。


 カードの種類には様々なものがあった。

 『猫探し』のカードでは、迷っていた猫を発見できたり、『飛翔』のカードは少しの間だけ魔法も使わずに空を飛ぶことができた。

 『幸運』のカードは落とし物を見つけるのに貢献出来たり、『元気』なカードははしゃいでいる子供と出会うきっかけを得たりした。

 そんなこんなで街を散策していると、時間がどんどん経過していき、気が付いた頃には夕暮れ過ぎになっていた。

 それでも『旅立ち』のカードが来なかったのはまだ楽しむべきという運命の導きとかそういうやつなのかもしれない。


「『珍しい』と『遊び』のカード!」


 せっかくだからやれることを色々やってみよう。

 そう思った私は、積極的にカードを使うことを意識することにした。


「メタルカード投げに興味はないかい?」

「め、メタルカード投げ?」

「ふふふ、金属製のカードを的に向かって投げるゲームさ。うまく決まるとかっこいいぞ」


 気になった組み合わせを使ってみると、変わったゲームに誘われたりしていた。


「えいっ!」


 的に向けてカードを投げようとすると、カードは空気の力で少し曲がって別のところに向かっていった。

 なかなか難しい。

 ゲームを担当するお兄さんが私の目の前に立ち、顔の目の前で金属のカードを構えて、それを投げる。


「ふんっ!」


 風を切る音と共にカードは的に刺さり、綺麗にピタッと止まる。

 まるで怪盗の予告状みたいだ。


「これは斧投げを参考にして作ったゲームなんだが、斧投げはやったことはあったかい?」

「ううん、ないかな。そういうのはなんだか斬新」

「そりゃよかった。『珍しい遊び』として、いい思い出になっただろう?」

「うん」


 いくつか遊んだのちに、満足した私は再び別の場所に移動する。

 そこで、また異なるカードを使っていく。


「『デカい』と『ドラゴン』のカード!」


 正直これを使って、どうなるかわからないな。

 そう思いながらも気になったので使ってみる。


「誰ぞ、我を呼ぶものは?」


 すると街の上空に緑色のドラゴンが現れた。

 バサバサと翼の音が響き渡る。

 凄い迫力だ。私の身長をいくら足しても足りないくらいのサイズ感。

 街の人々は一瞬だけ動揺したものの、カードを見た瞬間に把握し、普段の行動に戻っていった。

 なんていうか、凄い対応力だ。


「カードを一緒に使ったら、どうなるのかなぁって気になったから使ったんだ。リベラっていうよ」

「なるほど、旅人か……であれば、話し相手になってやろう。まぁ、普通の街の輩でも話すがな、我は」

「この街の法律を作ったのってどういう人だったのか知ってる?」


 こういう古典的な感じのドラゴンさんなら知っているかもしれない。

 そう思いながら尋ねてみる。

 すると、ドラゴンは眼を一瞬だけ瞑ったのち、答えてくれた。


「風来坊の旅人が法律を作成したな。それは覚えているぞ」

「風来坊の旅人? ギャンブラーとかじゃないんだ」

「ふふふ、旅も運次第で色々な出来事が起きるというのはお主も理解しておろう?」

「あー、それはわかるかも」


 どんな準備をしていても、予想外のことが起きることもあるというのが旅の特徴であり、醍醐味だ。

 それこそ、今使える方法を考えていくことも求められることだってある。

 そこまで考えて、ふと気が付いた。

 風来坊の旅人もそういうことを思っていたのかなと。


「……もしかして、疑似的な旅を街の中で行わせたいから手札を配る仕組みを作ったとか?」

「冴えてるな旅人よ。流石というべきか」

「なんとなくシンパシーを覚えたってところもあるのかも」


 人生は何事もうまくいくわけではない。

 自分にできることには限界があるし、やれる行動にもある程度の制約はあったりするものだ。

 その中で自分のやりたいことを選択していく。そういう旅の中で私たちは生きている。

 そう考えると、旅をカードを通じて体験させてくれるこの街も素敵な街だと思った。


「あやつは言ってたな。『配られた手札をじっくり見つめると新しい発見を作り出すかもしれない』と。人の希望を信じているような奴だった」

「なかなかにロマンチックだね」

「だが、悪くないであろう?」

「うん、私もそういう考えは好きだから、いいと思う」


 5枚の手札でやりくりする街。

 色んな発想と共に生きられる空間でもあると考えるとなかなか素敵かもしれない。


「ふむ、こういう話ができるのは楽しいものだな。だが、余興も欲しい。今配ったカードを使いながら我に見せてみよ」

「急な申し出……でもやってみるよ」


 さっきの話の流れでできない、とはいえない。

 そう思いながら新しく貰った2枚のカードを手札に加えながら考えていく。

 余興として、新しいことを思い浮かぶ。

 ちょうど文字がひとつだけのカードがいくつかあったので、新しい見解を思い浮かんだのだ。

 そうだ、こういうことができる。そう思った私の行動に迷いはなかった。


「できたよ、ドラゴンさん。いい感じのやつ」

「ほう、やってみよ」

「『花』のカードに『火』のカードを組み合わせて……『打ち上げ』もさらに前に置くことで……!」


 3枚のカードが共鳴しあい、空に向かって大きな閃光が走っていく。

 そう、みっつのカードを組み合わせて作った『打ち上げ花火』だ。

 バン、と大きな音が響き、花火が街中に上がっていく。

 ドラゴンはその様子を感服した様子で見つめていた。


「ふふ……はははっ、まさか言葉遊びで打ち上げ花火を作ってしまうとはな! なかなか想定外だったぞ!」

「なにか大きな仕事を終えた後に行うのも打ち上げだけど、花火だって打ち上げるからね」

「よい、よいぞ! この花火はより街の創造性を豊かにするかもしれぬな!」

「大げさじゃないかな」

「連携というのは徐々に洗練されるもの。作り出す一歩が大切なのだ」

「もっとこの街は発展していくと思う?」

「あぁ、間違いなくな」


 大きな花火をドラゴンと一緒に見つめる。

 ふと、自分の手元に新しく増えた手札を見つめると、そこには『旅立ち』のカードが送られていた。

 なにか大きなことをやったような瞬間に、『旅立ち』が降ってくる。それもまた、いい体験だなと思っていた。






 そして、次の日の朝。

 私は旅立ちのカードを手に取り、新しい旅に向かっていた。


「私自身の手札はいっぱいあるし、足を使ってこれからも頑張っていこう!」


 取れる選択肢はたくさんある。

 いける場所だっていっぱいだ。

 旅は自由で、これからもいっぱいしていきたいもの。

 だからこそ、私は私なりの歩幅で進んでいくのだ。


「素敵な旅がこれからも続きますように!」


 そう思いながら、ふたつのカードを組み合わせて街の外に出る。


『新たな』

『旅立ち』


 そのふたつのカードを組み合わせて、しっかりと進んでいく。

 いつだって新しい気持ちでこれからも旅をしていきたいという願いも込められている。


「次はどこに向かおうかな」


 これからも、私の旅は続いていく。

 のんびりと、そして自由に。

 快晴の空はどこまでも青く澄んでいた。

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