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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第27話【ダイスで行動の結果が決まる街】

「旅人さん、運試しをしてみないかい?」


 ふと立ち寄った街。

 少し怪しい風貌の商人が私に提案をしてきた。


「運試し?」

「そう、品質のいいものが買えるかどうか、サイコロで決めるのさ」


 そう言って私にふたつのダイスを手渡してくる。

 ……なにか、怪しいことをしようとしているのか気になって、問いかけてみる。


「えっと、新手の詐欺とかそういうのじゃないよね」


 詐欺をする本人が詐欺だって言うわけがない。

 そう思いながらも、誠実な人ならば理由を説明してくれるだろうと思って、聞いてみた。

 すると、商人は笑いながら答えてくれた。


「ふっふっふ、この街のルールですよ」

「ルール?」

「えぇ、法律とも言いますね。『街での行動は全てふたつのダイスで決まる。天命を受け入れよ』というね」

「なるほど、それで運試しと」


 街の法で定められているのなら、納得ができる。

 そういう仕組みの街に入ったということを抑えておけば、とりあえずどんなことが起きてもある程度は割り切ることができる。


「そういうことさ。ほら、このサイコロふたつは街の記念として受け取って、振ってみて!」


 商人に促されるまま、私はサイコロに手を伸ばす。


「品質がいいものが買えるかどうか……サイコロで挑戦!」


 私は貰ったふたつのダイスを投げて、その結果を確認する。

 ダイスの出目は1から6まで。つまり合計で12までの数字が出る。

 魔力を帯びたサイコロは空中でくるりと周り、地面に落ちる前に結界を貼り、その上で出目を示した。

 出た数字は5と3。合計の数字は8だ。


「ふむ、まぁまぁな目が出たね。それなら、プレーンなパンをあげよう」


 そう言って商人は特に味が付いているわけでもない、シンプルなコッペパンを渡してくれた。

 商人に代金を支払い、そのコッペパンを口にする。


「……ちょっとぱさってしてるような?」


 ……ほどほどのおいしさだ。

 悪くはないけれども、もっと上も目指せそうな味わい。

 そんな感じのコッペパン。

 私が食べ終わったのを確認すると、商人は軽く微笑み、言葉を繋げた。


「これはほんのお試し体験さ。もしかしたらもっと悪い経験に遭遇するかもしれないし、いいこともあるかもしれない。この街は全ての運命がサイコロによって定められているのさ」


 それだけ言葉にすると、彼は大笑いしながら去っていった。

 ダイスで定められる運命の街。

 どんな出来事が待ち受けているか、まだまだ予想できずにいた。





 街を歩いていると、女性店員が私の目の前にやってきた。


「おっ、お姉さん綺麗ですねぇ。旅人さんですか?」

「え? まぁ、そんな感じだけど……」

「ちょっとした新作衣装の試着会をやっておりまして……もしよろしければ、参加してみませんか!?」

「新着衣装の試着会、ねぇ」


 積極的に迫る店員さんは、やる気に満ち溢れている。

 試着会。あんまりない体験だ。

 ちょっと気がかりなのは、ダイスの結果によって運命が変わるという街の仕組みだけれども、興味はある。

 気になった私は、せっかくだし、挑戦してみることにした。


「うん、やってみたい。どこに行けばいいのかな」

「はい、ではこちらに向かってください! 更衣室の中で試着する衣装が出てきますので!」


 店員さんに案内されて、真っ白な更衣室の中に入る。

 更衣室の中には鏡と5つ宝箱が置いてあった。

 その目の前には、やっぱりダイスが2つ存在している。


『出た目によって、試着できる服が決まる! さぁ、ダイスを投げてみよう!』


 宝箱の目の前にはそれぞれ数字が描かれていて、最低値は2で、最大数は12になっている。

 宝箱には最低値と最高値は特別な装飾がされていて、それ以外はある程度整った装飾という印象だ。


「うまくいくか……」


 そう思いながら私はふたつのダイスを投げてみた。

 その結果、出た目は……


「5と5だから、つまり10かな?」


 最大数ではないものの、高い数字となった。

 置いてある宝箱の中でも高めの数字を示していたものが勝手に開いたので、その中身を確認する。


「黒と白のドレスかぁ、なんかいい感じかも」


 さらっとした触り心地で布の食感がとてもいい感じのドレスだ。服全体にたくさんのフリルが付いていてかわいらしい。

 白のスカートと黒いドレスがある二段構造のドレスになっていて、デザインとしても纏まっている。

 全体的なサイズについても、私に合う形で仕上がっている。

 豪華な印象を感じさせられる、高級感があふれるドレスだ。


「今日はちょっとラッキーだね」


 そう思いながら、私は今着ている衣装を畳み、ドレス姿に着替えるのだった。




「これでよしっと」


 ドレス姿に着替えた私の姿はまるでお嬢様のようになっていた。

 ふわふわのドレスとスカートがパニエによって広がっている。

 上品な感じに仕上がっている全体の黒のイメージ。

 うん、私好みだ。

 着替え終わったのち、外に出てみると店員さんが笑顔で出迎えてくれた。


「いいですねぇ、似合ってますよ! では、ここからまた挑戦してもらいましょう」

「え、挑戦?」

「ふふふ、撮影スポットを定めるのもダイスなのですよぉ」


 そう言って、店員さんはニコニコした表情を崩さないまま、私にふたつのダイスを渡してきた。

 なんていうか、全てが天命に委ねられているような気分だ。


「も、もし出目が悪かったらどうなるの?」

「それはその時のお楽しみっていうことで」


 ……なかなか怖いな。

 内心そう思いながらも、ふたつのダイスを投げてみる。

 出目は2と5。つまり7だ。

 店員さんは私が出した出目を確認して、少し残念そうに言葉を繋げた。


「平均的ですねぇ、つまり無難な感じの撮影スポットになります」


 店員さんが指を鳴らすと、その目の前に全体が木製でできた宿屋風の撮影セットが出来上がった。

 これも街にある法律の力ということでいいのだろう。

 ダイスの結果なのだから。


「ほいほい、撮影していきますよ旅人さん」

「わかった、ポーズとかはどうしようか」

「上品な感じでいいと思いますよぉ? あっ、どうしても決まらないならダイスで考えても……」

「そ、それは怖いからいいかな」


 自分の行動指針がダイスで決まるというのはある意味恐ろしい。

 確かに普段の私の行動はちょっと気まぐれかもしれないけれども、それでもなんだかそこを運に委ねるのは避けたいのだ。


「まぁ、この街でそれができるのは超幸運の男くらいの業運持ちくらいですからね。はいはーい、写真撮りますよぉ」


 店員さんに促されるまま、私は写真をいくつか撮っていった。

 上品な印象を感じさせられる雰囲気のものがいっぱい取れて、個人的に満足が行ったと思う。






「それにしても、超幸運の男ねぇ」


 試着会が終わったので、私はいつもの私服に戻り喫茶店まで移動することにした。

 こういう街の喫茶店がどのように運営しているかが純粋に気になったのだ。

 それに、人が集まるような場所ならあわよくば店員さんが言っていた超幸運の人とも会えるかもしれないなんて、淡い希望も持っていたりした。


「お店の内装はなかなか普通かな」


 落ち着いた印象を感じさせるシックな雰囲気の喫茶店になっている。

 時計や机、椅子なんかは木製。カウンター席があってそこから見えるマスターの棚にはいくつもの飲み物が置かれていた。

 こういう時はカウンター席に座ったりするとよさそうだ。なんとなくそう思った私は、そこまで移動して座っていった。


「この店はダイスで出すものを変える。そのことを分かった上で入ってるな?」


 落ち着いた雰囲気の壮年のマスターが確認を取ってくる。

 私は首を頷かせて、そのことを了承する。


「街の仕組みに従って、提供をしてんだよね。大丈夫。何が来ても文句は言わないよ」

「ふっ、それは心強いな。では飲み物のダイスだ。当然ふたつ。値段は変えない、量も固定だ。違うのは俺が作るものだけ。運を試してみな」

「よし……」


 覚悟を決めて、カウンター席のテーブルに置かれたダイスふたつを振る。

 4と4。つまり8だ。

 ……なんだか平均的な数字が結構出てるような気がする。


「この場合、平均的な飲み物が出てくるって感じでいいのかな」

「いや、俺の場合はサービスするつもりだ。ゾロ目が出てるだろう?」

「同じ数字は確かに並んでるけど……それなら二回目だよ?」

「ほう、ゾロ目が二回。それはいいな。偶然だとしても悪くはない。なら、あのドリンクを手渡そう」


 マスターはいくつかの飲み物をミックスさせた上で、星型に切られた果実をトッピングした。

 ドリンク全体の色合いは爽やかな青と緑。すっきりした印象だ。


「ゾロ目が出た時に出す特別ドリンク『煌めき』だ」

「綺麗な名前……」

「味も煌めいていると思うぞ?」

「いただきます」


 しっかりと味わうように『煌めき』を堪能する。


「これは……!」


 口いっぱいに広がる爽やかな風味。

 酸味が聞いている味わいの中に炭酸のしゅわっとした感じが広がってきて心地いい。

 甘さもあるもののくどさを感じない。

 なかなかのおいしさだ。


「美味しい!」


 素直にそう言葉にできるくらいの食感だ。

 後味もいい。


「俺の友人はいつも嘆いているからな。中途半端な数字のゾロ目が出ないって」

「それって2とか3とかのゾロ目ってこと?」

「あぁ。いつも6のゾロ目しか出せないって嘆いてる。それに2つの数字のゾロ目もあいつは出ないって嘆いてたな。みっつは出るのにって」

「……むしろ、みっつの方がゾロ目にならないんじゃ」

「超幸運の男は違うんだそうだ」


 苦笑しながら、マスターがメニューを私に手渡してくる。


「さて、次の運試しだ。食事のダイスを振ろう。あぁ、そうだ。食べれないものを出すわけにはいかんから、そこはしっかり教えてくれると助かる」

「特に食べてヤバいことになるものはないよ。大丈夫」

「わかった。では、量と値段の確認だ。問題ないか?」

「大丈夫、お腹に入る量だよ」

「了解した、ではダイスを手渡そう」


 すっと渡されるふたつのダイス。

 その結果によって、私の食事内容が変わる。

 どうなるのだろうか。

 また、同じように中間の数字が出るのか。

 緊張しながら私は手渡されたダイスを振ってみた。


 3と5。つまり、8。

 ……また、8!?


「ちょっと待って、あまりにも8が出すぎてる気がする……」

「そうなのか?」

「う、うん。街に来てからこれで5回目のダイスロールだけど、ちょっと偏ってるかなぁって」

「ふむ……」


 少し考えたのちに、マスターが続ける。


「何回出てるんだ?」

「3回」

「なるほど、同じ組み合わせか?」

「3と5のやつはこれで2回目」

「なかなかに運がいいと言えるな。これも考慮して料理を用意しよう」


 そう言葉にして、マスターは厨房に移動していった。

 ドリンクを飲みながら、私は料理が出来上がるのを待っていると、隣に渋い風貌の男性が座ってきた。


「嬢ちゃんも運がいいのかい?」

「正直わからないかな……たまたま同じ数字出てるだけな気もするし」

「まぁ、普通の人はそうだよなぁ」

「それに同じ結果が連続で出たりすると寂しくも思うんだよね、なんだか」

「ははっ、そりゃそうだ。当たりしかない人生なんて詰まらねぇもんな」


 がははと笑って、男性は自前のダイスをふたつ振った。

 その数字は6と6。つまり最高値の12だ。


「マスター、料理作り終わったらいつものくれ! ケチって普通の酒にしても文句は言わねぇ!」


 豪胆そうに見えるその行動には少しだけ寂しさも感じられた。


「オレがダイスを振るといつもこうなのさ。どんなものを使っても最高値が出ちまう」

「……もしかして、超幸運の男って呼ばれてたり?」

「ふっ、そうさ。俺こそが超幸運の男さ。どんな賭け事にも負けたこたぁねぇ」


 控え目に笑う超幸運の男。

 いつも同じ結果しか出ない。この街だとなかなかにもどかしい悩みを抱えてそうだ。


「いつだって最高の人生。それは楽しい。間違いないな。だが、なんていうか……刺激も欲しくなっちまう」

「最高の結果以外も見てみたいと?」

「あぁ、普通の結果に、あまりよくなかった未来。そういうのも面白そうだからな」

「……難しいね」


 最高潮だからこそ、そういった発想になるというのもあるかもしれない。

 けれども、波がない人生が寂しいというのはなんとなくわかる気もする。

 トラブルがない旅と言うのはなかなかに寂しいものだからだ。

 彼の概念的な運の強さは法を調整したところでどうにかなるものではないだろう。

 どうすれば、悩みに向き合ってあげられるか考える。


「贅沢な悩みは尽きないものだよな。超幸運」


 お酒と私の頼んだ料理を運んでマスターが戻ってくる。

 少し甘い香りがする料理だ。鶏肉になにかが塗してある。


「鶏肉のハニーマスタード焼きだ。8に因んで蜂蜜使う料理にしてみた」

「美味しそう……!」

「味わってくれると幸いだ」


 ゆっくりと鶏肉を味わっていく。

 甘い蜂蜜のとろっとした甘さと、マスタードのそこはかとない酸っぱさが素直な味わいから絶妙な食感に底上げしてくれる。

 うん、とっても美味しい。


 私の隣ではお酒を大胆に飲んでいる超幸運の男が、嘆いていた。


「なんとかならないか? マスターさんよぉ」

「俺がどうにかできる問題ではないな……不正防止のために、サービスを提供する側はダイスを代行で振ることはできんからな」

「それはどうして?」

「イカサマが横行してしまうからだよ。街の法律で補足で書かれてる。『サービス提供者は受け取る側のダイスを振ってはならない』ってやつがな」

「よくできてる……」


 まぁ、仮にイカサマできないとしてもある程度調整ができてしまう可能性はあるだろう。

 公平性を考えて、作られたルールというのは大切だ。

 その時、ふと思った。

 これならいけるんじゃないかと


「待って、じゃあ私が代行でサイコロ振るのはどうかな」

「できるのか?」

「ほぼ第三者なわけだし、今日知り合ったばかりだからイカサマも考えつかないし、できそうな気がするけど……」


 そう言いながら、念のため法律の仕組みを私の魔法で確認する。

 ……問題なさそうだ。こういう時には罰が働かないようになっている。


「うん、いける。私があとは超幸運の男さんに影響されてなければダイスの結果が変わると思う」

「マジか? じゃあ、高級系以外のものも食べれるのか?」

「それは私のダイス運次第だけどね」

「……面白そうだな。では旅人くん、投げてみてくれ。超幸運の男が食べる料理を決めるダイスを!」


 緊張の瞬間。

 ここで12が出てしまったらとっても気まずい。

 低い数字を願いながらダイスを振るのは初めてかもしれない。

 そう思いながら、覚悟を決めて私はふたつのダイスを投げた。


 ダイスの結果……4と2。つまり6だ。

 低めの数字を出すことができた。


「やったぜ! 合計で6になるダイスの料理なんて初めてだ!」

「なかなか強いじゃないか。ここで7以下の数字を出すなんて持ってるな、旅人くん」

「よ、よかったぁ」


 ここでまた変な数字を出していたら神妙な空気になっていた可能性もある。

 うまくいい感じの数字をだせてよかった。


「さて、6の料理だが、そうだな……ここはアレにするか」


 悩みながら厨房に進むマスター。

 油のじゅわっとした音が何回か聞こえて、しばらくしたのち彼は戻って来た。


「フィッシュアンドチップスだ。ちょっとジャンキーな感じがいいだろう?」


 油で揚げた魚とジャガイモが綺麗に盛り付けられた皿が渡される。

 いい油を使っているのだろう。からっとしっかり揚がっているのを感じる。


「おぉ、高級って感じじゃねぇ!」

「よく味わえよ。こういう料理はなかなか協力なしでは提供できんぞ」

「あぁ、しっかり喰う!」


 笑顔でフィッシュアンドチップスを味わう超幸運の男。

 その眩しい笑顔を見て、私は思った。

 最高潮だけが続いていても、なかなか幸せをつかみ切るのは難しい、と。

 大変なこともあるからこそ、最高潮になった時に喜びを感じられる。

 なかなか生きるっていうのは色んな事を考えさせられる。

 そう感じさせる街だった。









「さてと、次はどこに行こうかな」


 街から抜け出し、私は新しい旅に出る。

 次の目的地はまだ決まっていない。

 決まっているのは、旅を楽しみたいという意思位だ。


「そうだ、ダイスで決めてみよう」


 街を出る前にこっそりお土産で買ったふたつのダイスを振って、その結果を確認する。


 6と2。つまり、8。

 やっぱり8が出てきた。

 なんだか数字に愛されているような気もする。


「……鉢合わせるとかを意識して、偶然性でも意識してみよっかな?」


 行動指針が全部運次第かどうかはわからないけれど、私なりに目安を作ってみるのも楽しいのかもしれない。

 のんびり、慌てず、私のペースで前へと進んでいく。

 どんなことがあっても私の旅は自由に続いていくのだ。

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