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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第26話【スイッチの街】

 切り替える心構えみたいなものも時には大切なのかもしれない。

 今日の頭のぼんやりさを感じながらそう思う。


 いざ、旅をしようという気持ちになっていても身体がついていかないとか、逆に休みたいけれども心は元気みたいな不安定な状態が続くと疲労も貯まるもので、こういうのはよろしくないとは考える。


「なにかいい切り替えの手段があるといいけど……」


 こういうとき、気分転換に重宝するのが街を探索することだ。

 何故なら、自分では思い浮かばなかったことだって、街を歩いていると閃いたりすることもあるからだ。

 頭で悩んでどうしようもなくなったときこそ、旅をする。そういう心構えも大切だと思っているのだ。


「っと、いい感じに看板発見」


 ちょうど街道の途中だったのもあって、次の街を案内する看板が置かれていることに気がつくことができた。

 近づいて、街の名前を確認すると、今日もまた風変わりな街を見つけることができた。


「『スイッチの街』かぁ……」


 街の名前はその内面を写し出すことも多い。だからこそ、興味を持つ。

 ……どういうスイッチなのだろうか。


 スイッチという言葉にはいくつか意味があったりする。電機機器……つまり、機械の電源をオンオフする電源にもスイッチはあるし、そこから派生して気持ちとかそういうものを切り替える時にもスイッチという言葉が使われることがある。


 機械仕掛けの街で、メリハリがついているからこそスイッチの街なのだろうか。

 それとも、なにか他に切り替えるものがあるからスイッチという言葉を使っているのだろうか。

 ……純粋に気になる。ただ、こういう時に考えることは自分でも決まっている。


「よし、行ってみよう。スイッチの街」


 興味を持ったら行ってみる。

 それくらいの勢いが旅には大切なのだ。

 私は期待に胸を膨らませながら、足を進めていくのだった。





 スイッチの街に到着して、その様相を確認する。


 外装は全体的に機械仕掛けといってもいいだろう。街のあちこちで歯車が回っていて、一定の周期ごとに回転する方向を入れ換えている。

 街全体の色はグレーが多め。落ち着いた色使いの建物が多い印象だ。

 住民は普通の人もいるけれども、背中にゼンマイが付いているような人もいる。機械人形とかそんな感じの存在なのだろうか。


「結構落ち着いた印象かな」


 街を歩きながら、そう思う。


 道に置かれている街灯には小さなボタンが置かれていて、そこを押すと電灯の明るさを調整できたりする。

 それ以外にも、ボタンによって移動するコンテナといったものもいくつか見つかったりした。それらは確認も兼ねてスイッチで管理しているのだろう。荷台を動かしている人を見ていると、一定量の積み込みがされていなかったからか、ブザー音が鳴って動かないといった姿も見受けられた。


 全体的にな第一印象は、落ち着いていて、真面目そうな感じを受けとっていた。


「この昇降機は手動で動かすやつかな」


 人が数人乗れるリフトに、上下に動かすことができるレバーがある。

 通常の位置は真ん中に置かれていて、これを上に動かすと、リフトは上に移動していった。


「なかなかに本格的」


 ガタンと音を響かせながら上に移動するリフト。やがて街の高所まで到達すると、ガコンと響いたのち、レバーは中央に戻っていった。しっかりと整備されていると感じられる設計だ。


「結構機械的かも?」


 メリハリがある、というべきなのだろうか。機械らしいオンオフの切り替えが街の印象を強くさせる。

 そうなると暮らしている住民もメリハリがあったりするのだろうか。

 そう思いながら、街の高所を歩いていた時だった。


「た、たすけてぇ……」


 元気の無さそうな声でぐったりと座っている少女を見かけた。

 おちついた色合いの白黒ドレスに、背中には大きなゼンマイがある。ただ、そのゼンマイは動きが止まっている。


「どうしたの?」


 私は気になって彼女に尋ねてみる。

 すると少女は顔だけを私に向けて、お願いしてきた。


「いま、ちょっと元気が足りなくて……」

「お腹が空いてるとか? それなら、パンとかあるけど……」


 荷物からパンを取り出そうとしたら、少女は首を力なく横に動かした。


「お腹は平気なの、でも、なんていうか……物理的にやる気がでないみたいな……」

「もしかして、ゼンマイが動いてないから?」

「うん、そう……やる気スイッチが機能してないの……」


 そうなるとゼンマイによってやる気が調整されているということか。

 彼女の状態をよくしてあげたいと思った私は、少女のゼンマイに手を伸ばした。


「これ、回転させればいい?」

「お願い……」

「右回転?」

「うん……」


 確認が取れたので、ゼンマイを回していく。右回転で15回ほどぐるぐる回していく。私が手を離して、ゼンマイが自分から動き出したとき、少女はぴょんと跳ねて、元気になっていた。


「やる気スイッチぜんかーい! 助かったの!」


 先程までの無気力にも近い状態からはうってかわって、かなりの明るい表情になった。これがきっと彼女の本来の姿なのだろう。


「元気になったならなにより」

「ありがとう旅人さん! わたしはスイって言うの!」

「私はリベラ。よろしくね」


 彼女が挨拶をしてきたので、私も返答する。そうしながらも、ふとした疑問をぶつけてみる。


「スイはどうしてここでぐったりしてたの?」

「ちょっと珍しいところに言ってみたくなって、ひとりで冒険してたの」

「珍しいところ?」


 スイは興味がありそうな私に対して、ふふんっと、どや顔になりながらも続ける。


「うん! 街全体が綺麗な色になる特別スイッチがある場所があるの!」

「そこにたどり着きたかったんだ」

「そうなの! ……まぁ、ひとりだと稼働時間の限界で止まっちゃったけど……」


 少し俯きながらも、それでも顔をあげてスイが続ける。


「でも、見てみたいから、行くの! 興味があるから行きたいの!」

「道案内してくれるなら、手伝えるよ」

「本当!?」

「うん、私も興味あるし」


 生真面目な印象の街が別の色になるのは純粋に気になる。それに、困っているのなら助けてあげたいという気持ちもある。

 私の言葉に喜んだスイは、軽く跳び跳ねたのち、前に進んでいった。


「着いてくるの! 案内するの!」


 私は元気な彼女に着いていくことにした。





「昔は友達と一緒によくここに来てたの」


 街の高所、その奥地。

 少し暗いトンネルを進みながらスイが話しかけてくる。


「今はそうでもない?」

「うん……最近は付き合ってくれなくなっちゃったの」


 しゅんと顔を下げたのち、すぐに顔をあげて彼女が続ける。


「でも、付き合いが悪くなってる訳じゃないの、それは本当なの。今でも友達だから、そこは安心して欲しいの」

「付き合わなくなっちゃったのには理由があったりするのかな」


 スイのゼンマイの動きが少しずつ遅くなってきたので、再び巻き直しながら、尋ねる。


「手間に対して、得られるものが少ないかなって前は言われちゃったの」

「得られるものが少ない……」

「わたしたちは、ゼンマイを巻かないとやる気が回復しないから、整備施設がない高所とかだと、ふたりいないと遠くにいけないの」

「だから、その手間が必要と」

「ゼンマイを巻いたらやる気になるはずなのに、友達の子はやる気になってくれないの、付き合ってくれないの」


 その言葉を聞いて、私は考える。

 身体的なやる気と精神的なやる気というのはやはり異なるものではないだろうかと。

 価値観というものは、それぞれの考え方で異なるものなのだと。


「だから、よくわからないの。また光を照らせたらなにかがわかるのかなって思ってたの」

「スイは確認がしたかったんだ」

「うん、色々不安になっちゃってたの……」


 どこか寂しそうな彼女の表情。

 そんなスイに、私は提案する。


「大丈夫、やる気スイッチを新しく用意すればいいから」

「それって、どうするの?」

「ふふっ、それは後でのお楽しみ」


 街の仕組みがある程度把握できれば、少しくらいはその再現はできるはずだ。自分の魔法の準備を整えながら、私はスイと一緒に移動していった。





 街の高所、そのトンネルを抜けた先。

 高所から街を見渡せる場所まで到達した。

 街の様相はまだグレーの落ち着いた色合いのものが多く、静かな印象を感じさせる。


「この色が変わるの?」

「やってみるの!」


 そういって彼女はボタンを押す。

 すると、街全体が色鮮やかなカラフルな色彩に変わっていった。

 青くなったり、赤くなったり、黄色、緑髪、虹と様々な色合いが派手に写っていく。どこか幻想的な色合いだ。

 しばらく色が変化したのち、街の色は元通りになった。


「これが見たかったの!」

「街の雰囲気ががらって変わるね。まさに切り替わったって感じ」

「スイッチの街の特色のひとつなの!」

「うん、私好みかも」

「でも、友達とここから見るのは難しそうなの……」


 別の姿を見せる街。そういうのはとてもいい。文化的だし、なんだかわくわくもしてくる。

 高所まで歩くのは大変だから、人によっては登るまでが大変になってしまうだろうから、そこは何とかしないといけない。なら……


「ちょっと楽できる場所を作ろうか」


 私の魔法を発動するために魔法辞典を用意し、そのページを開く。

 そして、静かに詠唱する。


「ここまでたどり着けるリフトを、街の法のルールに基づき再現する。具現せよ!」


 街のイルミライトswitchが置かれている隣にリフトが完成していく。

 上から下への移動、その逆も可能なレバー式のスイッチが用意されたリフトだ。


「これでよしっと」

「す、凄いの! リベラはいったい何者なのです!?」

「ふふっ、人助けが好きな魔法少女ってことにしといて」


 スイを案内して、リフトに乗る。


「動作についてはこれから色々調整してくから、付き合ってくれる?」

「付き合うの! うまくいったら友達もやる気だしてくれそうなの!」


 笑顔を見せるスイを見て、私もほっとする。

 手軽さというのも時には大切になってくるものだ。目標が高くなりすぎると、やる気もなくなってしまうことがある。ちょっとした気分転換ができるようにするくらいがちょうどいいと私は信じている。


 私たちは動作確認を繰り返し、うまく行くことを確認して、リフトを用意していくのだった。






「リベラ、もう行っちゃうのです?」


 リフトを作り終えた後日。

 街の外に向かう私をスイは見送ってくれていた。


「うん、私は旅人だからね。これからもどこかに行く予定」

「大変そうなのです」

「大変だけど、楽しくもあるよ。知らないこともいっぱい知れるからね」

「……もし、リベラのやる気スイッチがオフになっちゃったらどうするのです?」


 スイが純粋に疑問をぶつけてきたのに対して、私は素直に答える。


「休むかな」

「休むのです?」

「うん、美味しいものを食べたり、温泉に行ってみたり……旅以外のことを考えるかも」

「それで、うまくいくのです?」

「意外となるようになるよ。そういう風にできてるから」


 駄目なときは休む。

 そういう心構えだって時には大切なのだ。やらないといけないと、思うほど心はしんどくなるものなのだから。


「……難しそうなのです」

「大丈夫、自分の心に素直に生きればつまくいくよ」

「そういうもの、なのです……?」

「そうそう、だからスイも大丈夫!」


 笑顔を見せて、彼女を励ます。

 私の言葉を聞いて、スイもまた微笑んだ。


「うん、わたしも友達ともっと仲良くなるの!」

「応援してるね。じゃあ、またいつか!」

「うん、リベラも元気でなの!」


 手を降ってスイッチの街から離れていく。


 人の心は機械のようにパチンとスイッチするのは難しいかもしれない。

 だけど、自分に寄り添うように生きられるのなら、きっとうまく気持ちも切り替えていける。少なくとも私はそう信じている。

 心機一転、私も私なりに頑張ろう。遠くの空を見つめながら私は明日のことを考えていた。

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