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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第25話【疲れない街】

 ある日の朝。

 いつも通り旅を続ける私は、ちょっとした不調を感じていた。


「なんていうか、疲れが取れてないような……」


 しっかり寝ていても次の日に疲労が残っているとか、ちょっと足のクタクタ感が取れていない感じだ。

 普段は平気なんだけれども、最近はどうにも疲れを持ち越している気がする。


「移動距離がちょっと多くなってるからかな」


 街が見つかることがなければ野宿する。それは旅の基本だ。

 しかし、野宿ばっかりになってしまうと、ベッドも恋しくなるものだ。

 定期的に水浴びもしてるから、身体の清潔感も保ててはいる。それでも、お風呂にだって入りたい。

 もしかしたら、そういう欲求不満が溜まっているから疲労が取れないのかもしれない。


「うーん、次の街にたどり着いたらしっかり休んでおこう」


 こってり休みを取るタイミングがないとしんどいところまで来ている可能性は高い。

 そう思った私は、なるべく次の街を探すことに意識を傾けていくのだった。




 色々体のことも考えながら歩き続けていると、大きな街が見えてきた。

 黄色や赤といった活動的な色合いの塗装がされている家。

 逆に緑みたいな落ち着く印象のものは少なめ。

 ……なんだか賑やかな雰囲気を外装からは感じさせられる。


「元気そうな街なのかも?」


 街の入口まで移動してみると、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。

 元気に追いかけっこをしてるのだろう。大きな声で楽しんでいる。

 街そのものもなんだか活気あふれているみたいだ。多種多様な話す声が聞こえてくる。

 こういう活発な街も苦手ではない。むしろ、今の私には必要なのかもしれない。


「よし、さっそく入ってみようかな」


 こういう時は積極的に行くべきだろう。

 そう思った私は、迷うことなく街の中まで入っていくことにした。





 街の内装は基本的には他の場所とさして変わらないみたいだ。

 食事処があって、おもちゃを売ってたりする場所もある。そして、食料品を売っている商人もいる。

 ただ、ちょっと体感違うなと感じる要素はいくつかあった。


「うーん、休憩所が少ないような……?」


 心なしか、ベンチのような座れる場所が少ない気がする。

 休む場所が見つからないというべきなのだろう。外を歩いていても広いスペースは活動的な人々の行動を手伝うような配置になっている気がする。

 例えば、街の商人のひとりは座っていても、ずっと数字を計算するような作業を行っている。

 他にも、外で料理を提供しているお店では、広めの空間に座ることを考慮しないキッチンが置かれている。

 なんだか斬新だ。


「まるで、休むことを考慮してないみたい」


 そういえば、看板とかから街の情報を得ることを忘れていた。

 だから、具体的にどんな特徴がある街なのかもわかっていないのだ。

 気になった私は、宿を確保しながら情報を確保したいという名目で、宿屋に向かうのだった。




 宿は街の片隅にあった。

 外装も整っていて、それなりに整備されているはずなのに、人の気配を感じられない。

 私が疑問を感じていると、店番をしていたスタッフが話しかけてきた。


「気になってるんすか?」

「え? まぁ、そうだね。人が少ないのはなんでかなぁって思ってた」

「理由は簡単っすよ。この街は『疲れない街』っすから」

「疲れない街……」


 疲れないから休憩する必要もないといったところか。

 なるほど。そうなると宿を取るという行動もわざわざ行うみたいな形になるのかもしれない。


「ベッドとかは用意されてるの?」

「旅人用にいくつかあるっすけど、住民用の部屋にはないっすね。基本みんな動きっぱなんでそういうの必要じゃないみたいっす」

「ちょっと信じられないかも」


 つまりベッドも必要ないということか。

 ずっと活動していられる以上、休みを取る必要もないから。


「じゃあ、例えば……一日中仕事した後に、休みの日全部を寝ないで遊びつくすとかもあり得る街ってこと?」

「むしろそれをしてない人の方が珍しいっすね。大抵の人はこういう宿に行くことはないっす」

「それは凄いね」


 一日の全てを遊びつくせるというのはロマンがあるのかもしれない。

 しかし、疲れない状態というのはちょっと考えることができない。


「街に入った旅人とかも疲れない状態になったりするの?」

「それはないっすね。街の人のテンションについていこうとして、見事に疲れ果てて宿に戻ってきた人もいるくらいなんで」

「……ちょっと安心したかも」


 急に疲れないような身体になっても生活リズムが崩れてしまうそうだ。

 街の住民にはそれに準じた生活があって、私には私なりの活動の仕方がある。それでいい。


「ただやっぱり温泉はわりと賑わうっすね。この宿で一番使われてる気がするっす」

「疲れなくてもお風呂に入るのは清潔の為かな?」

「それもあるっすけど、ほら、お風呂場は赤裸々に色々話しやすいじゃないっすか。それが人気なんすよ」

「なるほどね」


 単純にコミュニケーションを円滑にする場として温泉が使われているというのはなんだか斬新だ。

 でも、気の知れた友達とお風呂に入るのは楽しいし、話も弾むからそうなるのも納得はできる。

 私はペンを取り出して、店員さんの前に置かれている用紙に手を伸ばす。


「宿は予約になるっすよ。ここって基本、夜に開いてるんで」

「旅人用に?」

「そうそう、今の時間だとお風呂くらいしか空いてないんすよ」


 その言葉を把握して、用紙を渡して予約を行う。


「ありがとうっす、しっかり受け取ったっすよ」

「なんだか休憩できるような場所ってこの街にはあったりするのかな。疲れが溜まっちゃってて……」


 私の言葉を聞いたスタッフは少し悩んだ様子を見せたのち、私のひとつの提案をしてきた。


「俺の友人がマスターとして運営してる喫茶店がちょうど近くにあるんすよ。そこに行ってみればいいと思うっす」

「街の片隅の喫茶店……意外と静かそうだね」

「実際静かだし、街からの人気はあまりないっす。けど、旅人にはちょうどいい場所かもしれないんでオススメっす」

「ありがとう、ちょっと行ってみるね」


 興味が湧いてきたので、さっそく喫茶店まで行くことにした。


「また後で、案内するっす!」


 スタッフはしっかりと私を見送った後、自身の業務に戻っていった。

 疲れない街。疲労と無縁なのもあって、やっぱり生活習慣も異なっている。






「さてと、ここかな?」


 宿のいつつ隣の建物。そこに喫茶店はあった。

 その中の様子を窓から確認する。

 個人経営しているからか、店の規模は控え目。人も入れて数人が限界だろう。そして今は人がいない。

 椅子はカウンター席としていくつか存在していて、マスターと会話できるような仕組みになっている。

 会話を楽しむのにはもってこいなのかもしれない。

 店の内装はどちらかと言うとシックな印象。エネルギッシュな外とは異なる風貌だ。


「し、失礼します」


 店の扉を叩いて、中に入る。

 私が入って来た時の鈴の音が響くと、奥からマスターが顔を覗かせてきた。


「店に客が入ってくるのは珍しいから誰かと思ったが、旅人だったか」

「見た目でわかるものかな」

「そりゃあ、それなりに旅の荷物を持ってたらわかるさ。座ってくれ。今、水を用意するよ」


 ここのマスターはそれなりに年を取った男性がやっているみたいだ。

 初老というべきなのかもしれない。顎に髭が生えていて、ちょっと大人の余裕を感じさせるような風貌になっている。


「ありがとうございます」


 私は座って、一息つく。

 なんだかようやくしっかり休めるタイミングを得た気がする。


「随分疲れているようだね」

「最近は街にたどり着くこともなかったからね。足もクタクタ」

「ハハハ、そうなるとこの街で動くのも大変だろう。ゆっくりここで英気を養うといい」

「すっごく助かるよ」


 私はマスターが用意した水を受け取り、しっかりと味わう。

 いたってシンプルな冷たい水だ。それが今は凄くありがたい。


「街の中央通り付近だと『疲れなくなる水』みたいなものを提供してる場所もあるけど、僕のところにある水は普通の水だから安心してくれよ」

「疲れなくなるってなんだかそれだけ聞くとオカルトっぽいけど……この街の場合、しっかりと効力あるんだよね。町側の力も相まって」

「そうだね、街の法律が機能している以上、しっかりと旅人側の身体にも疲れない性質を一時的に付与させることができるのさ」

「流石」


 街の法律が持つルールというのはかなりの影響力を与えるものだ。

 だから、うまく向き合っていくことが大切になってくるのだ。


「君は興味ないのかい? 疲れない身体」

「難しい質問かも」


 なにげなく聞かれたその言葉に対して、私は悩みながらも言葉にしていく。


「疲れないなら、ずっと歩いていられるし、眠気も感じられなくなるんだよね」

「あぁ、実際この街の夜は明かりがギンギラで眠る必要すらない」

「で、なにげなく休憩するよりは活動する方が多くなってるって感じかな」

「そうだね。ずっと働いた後に休日にはずっと遊ぶっていうのが基本さ」

「……魅力的ではあるけど、ちょっと疲れない私というのは考えられないのかも」


 そう言葉にしながら、メニューを選んでいく。

 疲れに効果がありそうなコーヒーだ。当然、砂糖は入れる予定だけど。


「毎度あり。でも意外だね。旅人の多くは疲れない身体を試したりするけど」

「なんだか価値観が結構違う体験ができるのはいいかもしれないけど……求めるものでもないかなって思っちゃって」

「ふむ?」


 マスターがコーヒーの機械を動かし、完成したものを私の下に届ける。

 私はそのコーヒーに砂糖をいくつか入れて、味を調整していく。


「自分の限界って理解した方がいい気がしてね」

「かなりおじさんっぽい言葉じゃないか」

「……感性はまだ若いつもりだよ? ただ、疲れなくても体調は崩れたりするものだし、疲れてても身体に負担がかかったりする。だから、自分に優しくしたいなぁって思うんだ」

「まぁ、実際この街でふらっと倒れる人は少なくないからね。ずっと動いていたら風邪だったというのは珍しい話じゃない」

「疲れないのも魅力的だけど、疲れるっていうのもひとつの楽しみに繋がるから」


 出来上がったコーヒーを味わう。

 素直な苦さとそれを中和する砂糖の甘さがいい感じに身体に染み渡る。

 うん、やっぱり疲労が溜まっている時はこれに尽きる。


「僕は旅人が羨ましいって思うことはあるんだ」

「疲れることができるから?」

「そう。疲れた身体に染みる一杯! なかなかロマンがある言葉だろう?」

「今、私が味わってる感触だね」

「それを見たいから僕は喫茶店を営業しているのさ」

「旅人から話を聞く為に?」

「その通り!」


 笑顔でそう言葉にするマスター。

 ふと、気になったので私は彼に聞いてみる。


「そういえば街の法律ってどんな感じかな」

「法律? ええッと確か……『疲れから抜け出し活動的な生を享受せよ』だったな」

「シンプル……ちょっと法律側にちょっかいは出したくないかも」

「何の話だい?」

「プレゼントしたくなって」

「プレゼント?」


 少し悩んで、これならいけるかと思った私はマスターに提案した。


「本来の疲れが可視化されるメーターみたいなのがあったらほしい?」

「どういう意味かな」

「この街の住民であるマスター自身が、普通の人としての疲れを感じる量を測定できるメーターって言えばいいのかな。本来はこれくらい疲れてるよっていう目安。もちろん身体には実害なし」

「それを参考にしながらお酒とか呑むと、疲れがどれだけ回復してるかわかるみたいな感じかい?」

「そうそう、そういうの。街の法律を参考にしながら作るから上手くいくはず」

「興味あるね、やってみてほしい」

「わかった」


 集中して、魔力を込めてひとつの道具を作っていく。


「より街にある法を理解する為に、具現せよ……!」


 その一言で疲れを示すメーターが完成する。

 体温計のように疲れていると赤いものが伸びる仕組みになっている。


「これを持ってみて」


 マスターに手渡してみたところ、メーターの数字は疲れがマックスまで溜まっていた。


「限界迎えてるね」

「ちょっと自分で淹れたコーヒーを飲んでみて」

「わかった」


 手早くコーヒーを作った彼は、そのまましっかりと味わう。

 そうした瞬間、メーターの数字が少しずつ低いものに変化していった。

 もちろん下がりきることはないものの、確かに体感的には疲労が取れていることがわかる。


「なるほど、こうして形になると行動が疲れを癒すっていうのが感じられるよ」

「実際には疲れてないとは思うけど、こういう指標があると旅人とも付き合いやすくなるんじゃないかなって思って」

「ありがとう、大切にするよ」

「こっちこそ、色々話してくれたり、休憩したりしてほっと一息付けたよ」


 疲れること、疲れないこと。

 疲れない方が楽なのは間違いないけれども、時には疲れとも向き合っていきたい。

 そう思えるような瞬間だった。





 夜、疲れない街は賑わいを見せていた。

 宿から見る景色は明るくて、まさに疲れ知らずを感じさせる。

 そんな中、私は眠る準備をしていた。


「疲れたっていうのもきっと大切だからね」


 疲れない日々も充実して楽しいのだろう。

 だからといって疲れる日々も悪いものではない。

 どちらにも魅力があって、悩みもあって、それに向き合いながら生きていくのだ。

 私は疲れたりもする存在として、のんびり生きていく。旅も行っていく。それはこれからも変わらない。


「明日起きたら、旅の続きかな」


 目を閉じて、ゆっくり休憩する。

 きっと足の疲れも、全体的な疲労も取れているはずだ。

 そう思いながら、私はのびのびと睡眠をとっていった。

 明日の旅をよりよく楽しむ為に。

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