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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第24話【不良の街】

 ある夕暮れ時。

 そろそろ宿を考えないといけないと思ったタイミング。

 なにか、いい街がないだろうかと看板を見つめるといかにも怪しい街が案内されていた。


「不良の街、ねぇ」


 不良。どういうところが不良なのだろう。

 悪いことをする人が暮らす街だったりするのだろうか。

 それとも、別の何かがよくないのだろうか。

 ぱっと見で考えるとなかなか行くのが不安になる名前ではある。


「でも、これ以外の街はなさそうだし……」


 看板には他の街は記載されていない。

 周囲を見渡してみても一本道だ。

 戻ったりすることがなければ、行く場所は確定するだろう。

 確かに不安はある。だけれども、旅と言うのは不安定さも楽しむものだ。


「よし、行ってみようか」


 私は覚悟を決めて、不良の街まで赴くことにした。




 不良の街の外装はなかなか他の街では見られないような様相になっていた。

 街に入ってみて、気が付いたのは壁の落書きだ。

 スプレーペンで派手にいくつもの色が加えられた虹が描かれていたり、ドクロが描写されていたりする。

 それらの落書きは丁寧に描かれているわけではなく、殴り書きのような印象を強く感じさせるものになっていて、地面にはペンキの汚れもあったりする。


「素行が悪い人が多いから不良の街、っていうわけじゃなければいいけれど……」


 街にある法律が許してくれるから派手に行動しているというパターンはある。つまり、不良の街では他の街では罪に当たる行為も合法になったりするという可能性だってあり得るだろう。ちょっと警戒しておいた方が良さそうだ。

 多種多様な落書きを見つめていると、街の中央通り布巾に案内を記す矢印がいくつも描かれていた。

 赤、紫、青に黄色。

 ちょっと濃いめの色が多いのは街の特色というものなのだろうか。


「旅人を避ける街、というわけではなさそうかな?」


 案内を示す矢印の方向に進みながら、街の様相をじっくり見ていく。


「おい、今日はタイマンするぞ」

「いいぜ? 降参するまでやろうぜ」


 ガラの悪い青年ふたりが威圧しあっている姿……


「店ん調子がどう?」

「イマイチ」

「やっぱ? そんな感じしてた」

「しゃーなししゃーなし。てゆーか、マジだるいし今日は寝るに限るわ」


 だぼだぼの服を着た店主がお仕事を放棄して眠りだしたり……


「太陽組! 今日こそ月光組に挨拶しにいくぜ!」

「準備完了っす! ぎゃふんと言わせてやりましょう!」

「よし、凸るぜ!」


 大人数の黒い制服を着た人が抗争っぽいことをしていたり。

 リーダーっぽい人は赤いマフラーを羽織っていてまさに組長という感じだ。


「な、なんか凄いこの街」


 エネルギッシュと言うべきなのだろうか、目がギラギラしている人が多い。

 自分の欲望に忠実な印象も受ける。それでいて、どこか活発。やっぱり活動的だ。


「どこか休める場所があればいいけど……」


 夕暮れ時でも活動的なのはいいことだと思うけれど、私が求めているのは宿の存在だ。

 トラブルに遭遇しないことを願いながら、街を歩いていく。


「あ、あれ?」


 人とぶつからないことを意識しながら進んでいたら、路地裏に入ってしまっていた。

 入り組んだ路地裏はまるで迷路のようになっていて、かなり迷ってしまう。

 少なくとも思案しながら歩いていた私は迷子になっている。


「夕食時までには抜けられるかな」


 似たような路地裏を歩きながら壁を見つめる。

 ある程度、目印らしきものは落書きされているような気がするけれど、似たような印が多いのもあってわかりにくい。

 スプレーペンで落書きされた壁には月のマークと数字が書かれているのはなんとなくだけれどもわかった。


「月……月光組ってところと関係があるのかな?」


 そうなると太陽組と月光組の抗争に巻き込まれてしまったりするのだろうか。

 どんなことをするかはわからないけれど、なかなか怖い。

 ……とはいえ、外に出られないのだからお手上げだ。


「こういう時は人に会えたりしたらいいんだけど……」


 思わずぼやいた時だった。

 迷路のような路地裏の一角からひとりの少女が現れた。

 真っ白の髪に、銀色の目をしている。


「もしかして、迷子だったりするのかな?」


 エネルギッシュな街に対して対照的なくらい華奢な印象。

 そんな彼女が首を傾けて聞いてくる。


「そうだね。外に出られなくなって、宿どうするべきか考えてたんだ」

「それならボクのアジトまで案内するよ」

「アジトってどういうこと?」


 私が質問して聞いてみると、彼女は悪戯っぽく笑った。


「ボクこと月光組のリーダーの月光さん、そのアジト。まぁ秘密基地みたいなものだよ」


 そう言葉にし、指を鳴らした時、地面の仕掛けが作動し地下に繋がる階段が出てきた。

 なるほど、ただ歩いているだけだと新しい進展がなかったわけだ。


「おいで、旅人さん」

「あっ、私はリベラって名前。月光さん、よろしく」

「わかったよ、リベラ」


 そうして私は月光さんについていき、地下のアジトに移動していくのであった。




 月光組のアジト。

 そこは不良の街の中央通りとはまた違う様相をみせていた。

 『作業中』と書かれた部屋を窓から見つめてみると、壊れたおもちゃを手に取って調整している人がいる。

 調理室ではなにやら野菜をうまく分別したり、切り分けたりしている人がいる。

 全体的になんだか仕事熱心みたいな印象を受ける。


「リベラは今、不良の街なのに不良っぽくないなぁとか思ったんじゃないかな?」


 興味深く見ていたからか、月光さんにそう指摘される。

 恥ずかしいけれども、それは事実かもしれない。


「そうだね。なんだか真面目って印象が全体的に強いアジトだなぁって感じた」

「なにも素行が悪い人だけがいる街とかじゃないし、不良にだって色んな意味合いがあるからね」

「色んな意味合い……」


 色々聞いてみようとした時だった。

 目の前から心配げな表情で歩いてくる組員が月光さんに声をかけた。


「月光さん! また外に出歩いて……! 体調の方は大丈夫なんですか!?」

「問題ないよ。今日のボクはそこそこ好調だからね」

「ふぅ、よかったぁ……姿が見えなかったし、外で倒れてたらどうしようって思ってましたよ」


 一安心といった感じで胸をなでおろした組員は安否だけを確認して去っていった。

 ……体調不良。なるほど、これも確かに『不良』だ。


「まぁ、駄目なときはダメなんだけどね」


 そう言いながら笑う月光さん。

 華奢なのは身体が丈夫じゃないからかもしれない。


「休まなくても平気?」

「出歩いたりするときの方が気分転換になったりすることもあるから平気だよ。それに風邪とかってわけじゃないからね」

「そっか、ならよかった」

「でもまぁ、座って話はしたいかも。ボクの部屋まで案内するよ」

「ついていくよ」


 アジトの中を歩きながら、会話は弾んでいく。


「不良の街は旅人からはあまり入られることはない街だけど、商人からは実は重宝がられてたりするんだよ」

「それはどうして?」

「不良品を買い取ってくれるからね」

「初期不良があるおもちゃとかを取り扱ったりしてるってことかな」

「そうだね。ある程度修理すれば本来の水準じゃないとはいえ、使うこともできるからね」


 さっきの壊れたおもちゃを調整している人がその作業をやっているのは伺える。

 町独自の特色というものだろう。


「あとは規格外品を取り扱うことも多いんだ」

「形が歪だったりする野菜とかのことだよね」

「そう! そんな感じの野菜を売買することが多いのも不良の街!」

「なるほどね、存在することでありがたいと感じる人も多いわけだ」


 丸く曲がったきゅうりとか、ふたつに割れた人参。そういったものが市場に出回ることは少ない。

 商人によっては安価で売ったりするものの、形の歪さから人気が出るわけではない。

 そういったものを書いとってくれる場所があるというのは商人側からしてもかなり恩恵があるだろう。


「まぁ、不良の街だからといっても許せない人もいるから加工してサラダにしてたりするんだけどね」

「なるほど、大変そう」

「組員みんながしっかり働いてくれてるから、そこまで忙しい感じにはなってないよ。……まぁ、ボクはよく会計とかやってるから疲れるわけだけど」

「お金のやりくりが大変なのは、どの街も同じなんだね」

「それはそうじゃないかな?」


 月光さんの部屋までたどり着き、私と彼女がその部屋の中央にある椅子に座る。

 椅子と椅子の間にはテーブルがあり、そのテーブルクロスは月と夜空が描かれている。

 部屋の奥には本棚や作業用デスクも存在していて様々な用途で使われているのがわかる。

 空間はそれなりに大きく、人が何人か入れるスペースもある。


「宿が取りたいなら、今晩はここで休むといいんじゃないかな。敷布団なら出せるよ」

「いいの?」

「話し相手になってくれたし、せっかくの縁だから」

「ありがとう、助かるよ」

「結構いないんだよね。こうやって話せる相手」


 ふぅ、と一息つきながら月光さんが続ける。


「業務に追われるとなかなか大変で、クタクタになっちゃうこともあるから……こう、羽休めできるタイミングがほしいなぁとか思っちゃうわけで」

「ひとりで管理してるの?」

「うーん、まぁ、組長はボクだけだし副組長みたいなのはいなからね。いまはひとり」

「それは身体に負担がかかりそうかも……」


 仕事関連の話題になるとどうにも私が解決できる糸口はなさそうな気がする。

 とはいえ、身体が強くないという月光さんの負担は少し減らしてあげたい。

 なにかないだろうか……

 考えていた時、ふと思い出した。


「そういえばなんだけど、太陽組っていうところが挨拶しにくるって言ってたんだけど……」

「挨拶? 挨拶って結構物騒だね。でもたどり着くことは基本なさそうだし、大丈夫!」

「入り組んでるから?」

「うん、それに入口はいつも閉じて……あっ」


 そこまで言って彼女がハッとする。

 なんとなく私もその仕草で察することができた。


「入口ひらきっぱだった」

「……『挨拶』されそうだけど、大丈夫?」

「抗争にはならないとは思いたいよ。ボクもそういうの面倒だし」


 そこまで話をしていた時だった。

 突如、閉じていた月光さんの部屋の扉が開いた。

 そしてその先には制服のボタンを外し、目つきが鋭い青年が立っていた。


「よう、てめぇが月光さんだな!」

「君は太陽組のリーダーさんかな?」

「あぁ、おれはみんなから太陽と呼ばれている」

「なるほどね、わかりやすい」


 お互い知らない仲だからか、警戒しながら自己紹介が行われる。


「で、ここにいる人は?」

「旅人さんのリベラ。客人さ」

「よ、よろしく」

「そうか、客人か……まぁいい。折角だから彼女にも聞いてもらうとしよう。椅子に座ってもいいか」

「構わないよ」


 椅子に座った太陽が月光さんと向き合う。

 その鋭い目つきには敵意は感じない。


「ボクのアジトにたどり着きたかったというのには相応の理由があるんだろ? 話してみるといい」

「そうだな。回りくどいことは好きじゃないから、はっきり言うぞ」


 姿勢を整えて彼が言葉にする。


「俺たち太陽組と連携してほしい」

「連携って、どういうことかな」

「そのままの意味だ。俺たち太陽組は素行が悪いやつは多いが活動力がある。お前たちの力になれると思うんだ」

「確かにありがたいけど……気になるところもある」

「なんだ」

「ルールだよ。お互いに嫌な思いをしない為に必要な契約がほしいってこと。トラブルは未然に回避したいからね?」

「なるほど、一理あるな……だが、効力がないと破ってしまうやつもいそうだ」


 ふたりの話を聞いて、ふと自分の力について考える。

 私は法の力を操ることができる。それは街に課せられている法律を動かす能力でもあるわけだけれども契約についてもある程度力を発揮することができるかもしれない。そう思った私は、月光さんと太陽に提案した。


「あの、もしかしたら力になれるかも」


 小さく手を上げて、続ける。


「街に課せられてる法律のようにある程度の契約基盤を用意するんだったら、こうやって……」


 魔力を込めて契約の紙を作り出す。

 そこには取り決めの法を記すことができるようになっている。


「お互いに守るべき法、そしてその罰を取り決めることができるよ」

「すげぇな、お前は一体……」

「魔法少女ってことにしておいてほしいかな」


 とにかく、できるということが大切なのだ。

 出自についてはあまり気にするべきではない。

 お互いに協力をしたそうな姿勢があるからこそ、私は第三者として見守っていきたい。


「流石にキツイ罰については記したくないから、お互いに納得がいくラインを探ってほしいな」

「謹慎処分とかになるかな」

「復帰の時間は反省の余地があれば早めてもいいかもしれないが……そこは合わせていきたいぞ」

「うーん、悩む」


 真剣な会話が繰り広げられていき、次第に法が定まっていく。

 やがて、不良の街の太陽組と月光組の協力を示す契約用紙が完成していった。


『太陽組と月光組は協力関係を結び、互いに友好関係を築きあげる』

『お互いの事業を支え、街の発展に繋げることを誓う』

『もし不義理が生じた場合、契約の力に基づき謹慎処分が下されるだろう』


 完成した契約の紙の『謹慎処分』の下りに魔力を込める。

 そして、さらに説明を加える。


「ふたりの同意があるなら、契約の罰については更新できるようにしておくね。今はこういう形にしておく」

「そこまで大きく変えることはないかもしれないけど、ありがたい配慮だね。ありがとう」

「まさか旅人に助けられるとはな」

「うん、話し相手として考えてたボクもびっくり」

「私も役に立ってたならよかった。……もしよかったらさ、月光さんのこと太陽が支えてくれると嬉しいな。体力に不安があるみたいだし」

「問題ない。俺が挨拶しにきたのは月光組の活躍をいつも感じていたからっていうのも大きいからな。これからは直接協力するさ」

「ありがとね、太陽さん」

「よせよ、照れるじゃねえか」


 きっとこれからも不良の街は発展していくのだろう。

 ふたりのリーダーが導く組の力で、変わっていく街。

 これからも素敵な街になるといいな。警戒を解いて雑談しているふたりを見つめながらそう感じた。






 次の日。

 アジトで休息を取った私は再び旅に赴いていく。

 私は旅人。自由に行動していくのだ。


「これからも応援してるね」

「不良の街はまだまだ成長していくから心配はいらないよ」


 月光さんは今日も体調が良いみたいで、私を外まで見送ってくれた。


「怪我しないようにな!」


 その隣には太陽もいる。

 ふたりの組長に見送られるのはなんだか繋がりを感じてありがたく思える。


「じゃあね! 元気で!」


 手を振りながら移動していく。

 ふたりの姿が見えなくなった時、ふと考える。

 『不良』の意味を。


 昨日眠る前、私が気になって不良の街にある法律について聞いてみた時、こういったものだと教えてくれたのだ。


『不良にも輝く素質があるものである。法に従い各々が理解し寄り添う街であれ』


 規格外品に、不良品。不良と言われる人たちに体調不良。

 様々な不良が言葉として存在する。

 良くないとされているものだって、見方を変えたり、向き合い方を変化させられたらきっと新しい見解に繋がるかもしれない。

 まだまだ知るべきことはたくさんあるだろう。

 そう心から思う。


「もっと、視野を広げていこう!」


 旅は自分の世界を広げることができる。

 より多くのことを知る為に、私は旅を続けていくのだ。

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