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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第20話【ウミネコの街】

 街を巡る旅をしている時によくある出来事に、名前だけで場所を判断できないところと遭遇するということがある。

 そういう街は、名前の由来を考えると納得することもあるけれども外から見るだけだとわからないことも多い。


「ウミネコの街かぁ」


 早朝、移動していた私がみつけた看板。そこに記されている『ウミネコの街』なんかもその部類だろう。

 そもそもウミネコとはなにか。

 一般的には『ミャー』とネコみたいな鳴き声をしている鳥の方が思い浮かぶだろう。私もそっちを考える。

 白い身体に、黒い翼を持っている可愛げのあるカモメの仲間。ちょっぴりちょこんとした感じのシルエットが可愛らしいウミネコ。

 そのウミネコと一緒に過ごす街という可能性もある。


「……鳥だけじゃないのかも?」


 海の猫、ウミネコ。……つまり、海に過ごす猫の街なのかもしれない。

 傍からすると発想の飛躍かもしれない。だけれども、この不思議な世界、何があってもおかしくはないのだ。

 魔力の伴った法律というのは世界に大きな影響を与えるもの。どんなルールが存在していても納得できてしまうものなのだ。

 例えば、猫が二足歩行で歩く街だって存在するものだ。

 海に暮らす猫がいる街はあり得るのだ。


「興味出てきたかも」


 街に入ってみないとわからないこともある。文化というのは触れてみることに意味があるのだ。

 他人の目や噂話を通して得た知識と、自分の体験によって得る知識は印象も変わるもの。

 私自身の見解を広げる為には、やっぱり足を運ぶのが一番だ。


「よし、行ってみよう」


 看板があるということは遠い位置にはないということだ。

 慌てず、のんびり私のペースで歩いて、ウミネコの街まで赴くことにした。





「到着かな?」


 大きな街が眼前に広がってきたので、街の印らしきものがあるかを確認する。

 街の近くにあった、掲示板にはしっかりとウミネコ便りという文字が書かれていた。


 ……うん、大丈夫そうだ。

 無事に到着できたことにほっとする。


 ウミネコの街までは程よい時間に到着することができた。

 ちょうどお昼時のウミネコの街。

 海岸沿いに寄り添うように作られている街になっていて、雰囲気としては港町にも近いのかもしれない。

 海からは波の音が聞こえてきて、空には鳥が行き来している。

 地面で休憩している鳥がふとした拍子に「ミャー」と高い声で鳴いた。


「ウミネコ……!」


 やっぱりウミネコの街は鳥を意識した街なのか。

 気になって近づこうとした時だった。


「にゃあ」


 ……そう言葉にしてウミネコに近づく動物の姿があった。

 見間違えるはずもない、猫だ。


「猫もいる!?」


 のんびりと歩いた猫はウミネコの隣まで移動するとすっと自身も手を丸めて休憩した。

 ウミネコと猫が争いあうことなく、のんびりとお互いに休憩しあう。

 なんだか斬新な光景だ。


「ミャー」

「にゃー」

「か、会話してる?」


 ウミネコと猫がお互いの目を見つめながら、鳴き声をあげる。

 定期的に鳴き声が聞こえるのもあって、会話しているのは間違いないだろう。


「……どういう会話してるかは気になるけど、ちょっとわからないな」


 動物の声がわかる方法をすぐに用意するのは大変だ。

 それに、私がなにか変な行動を起こしたりすることによってのんびりしている二匹を驚かせてしまうのも気まずい。

 そう思った私は、観察していたい気持ちを抑えて、街の方まで移動していくことにした。


「絶対ダブルネーミングな感じの街だ、ここ」


 街の住民が猫とウミネコで、和気あいあいと暮らしてるみたいなノリなのかもしれない。

 そう思いながら、足を進めていく。

 街の中に到達して見かけたのは、賑やかな光景だった。


「君、今日の魚は釣れたかね?」

「今日はイマイチだ。俺から貰うのは諦めといた方がいいぞ」


 ウミネコの鳥人が翼を添えながら会話している。

 相手は猫の獣人。もこもこの毛皮が目立つ、獣の要素が強めの獣人だ。


「ふむ……それは困るな。僕は新鮮な焼き魚が食べたいんだ」

「お店で作ってもらえばいいんじゃないか?」

「いや、それは違うのだよ。友人と食べるという時間が大切なのだ」

「そういうもんかぁ?」


 ゆっくりと歩きながら彼らの話を聞いていく。

 それぞれ違う種族の男性が仲良く話している間にも、彼らとの距離が縮まっていく。

 それもそのはず、真正面から話が聞こえてきていたのだ。私が近くなっても仕方がないというものだろう。


「おい、ウユミ。前に人がいる」

「おっと失礼」


 動きを止めて、ウユミと呼ばれたウミネコの鳥人が足を止める。

 猫の獣人は彼より後ろで歩みを止めていた。


「お嬢さん、怪我はないかい?」

「私は大丈夫。そっちは?」

「問題ないよ。ま、コウネの仕事っぷりがいい加減で魚が食べられないのは悲しいがね」


 そう言いながら後ろに目を向けるウユミ。

 ウミネコの鳥らしい黒い眼光がコウネと言われた猫の獣人に向けられる。

 それに対して、彼は呆れた口調でため息をついた。


「……あのな、勝負は時の運って言葉はあるだろ? まだお昼時だし、夕暮れ時には食べれると思うぞ」

「ふん、僕はお昼に食べたいのさ」

「人に釣らせておいて勝手なこと言う……」

「僕は釣り竿なんて持てないからね」


 そう言いながら両方の翼を広げるウユミ。背中に翼かあるような鳥人ではなく、鳥がそのまま人としての姿を取っているような鳥人だから、普通の人の道具は使えないのだろう。


「……俺が少し人間要素強くてラッキーだったな?」

「猫っぽい手でも使える釣り竿っていうのはありがたい文化だと思いたまえ」


 コウネの手は猫の手っぽいものの、普通の人らしくもある。その為、釣り竿の操作もできるのだろう。

 気楽な感じに会話しているのもあって、友人関係なことがよくわかる。


 ……それにしても、釣りか。

 あんまりやったことはないけれど、興味はある。


「もし魚が釣りたいなら協力しようか? 釣りは初心者だけど……」

「おっ、僕の空腹を満たしてくれるのかい?」

「釣り竿をレンタルする形でいいなら、やっても構わない。俺がレクチャーするよ」

「うん、手伝わせて」

「なら、着いてきてくれ。ウミネコの街の釣りの名所まで案内する」


 困っていたら助けてあげたいという気持ちは、どんな時も変わらない。

 私は彼らの後ろに着いていき、案内に従うことにした。

 街そのものがそれなりに広いのもあって釣り場まで行くのには時間がかかりそうだ。

 そう思った私は、ウユミとコウネのふたりに質問をしてみることにした。


「この街の由来についても聞いていいかな?」

「ウミネコの街は文字通り海と猫、そしてウミネコが賑わう街だな。このあたりで猫が一番多い街でもあるだろう」

「ふふん、ウミネコも負けてないぞ? 彼らの休息所としても成立している空間なのだからな」

「餌が多いとか?」

「そう……豊かな自然、穏やかな気候、そして魚や昆虫といった餌の数々。我々ウミネコにとって楽園のような場所なのさ」


 まるで歌うかのように語るのはウミネコでもあるウユミ。のびのびとした印象を感じるのは本当に幸福を感じているからかもしれない。


「猫にとってはどんな感じ?」

「そうだな……地上にいる猫は日向ぼっこしていたり、やっぱり穏やかに過ごしている奴が多い。ただ、海にいる猫は凄いぞ」

「……海にいる猫?」


 なんだか不思議な言葉が聞こえてきたので、問い直す。

 私の疑問に対して、そうなるのも当然だな、といった態度でコウネは笑った。


「ウミネコの街独特の猫さ。猫が水を恐れないどころか海水と馴染んでいたりするんだよ」

「なんだか凄そう……」

「実際凄い。釣り場からも遠くの風景が見えるだろうから、観察するといい。楽しい気持ちになれるぞ」

「独特の文化って感じでよさそうだね。でも、猫が海水を泳ぐって塩とか大丈夫?」


 猫はあまり塩っけのあるものを食べてはいけない、食べさせてはいけないという話を聞いたことがある。海で活動する以上、そうした要素は忘れてはいけないだろう。

 私の疑問に対して、コウネは真面目な態度で答えた。


「この街の猫は法の力によって海に適応できるようになってるのさ。普通の猫なら危ういことも、俺たちなら大丈夫というわけだな。……ま、俺は塩っけがあるものがあまり好きじゃないから焼き魚も焼くだけで食べるがな」

「なるほど……」

「くれぐれもこの街の猫が泳いでいるからっていって、他の街の猫が海で泳げるなんて思わないでくれよ?」

「そうだね、それはそう思う」


 街によって文化や特色は違うもの。

 だからこそ、間違った知識で文化に触れるのはよくない。しっかりと理解した上で文化を知るのが大切だ。


 街の通りを歩きながら、どんどん景色が変わっていく。

 街の住民はやっぱり猫の獣人とウミネコの鳥人が多い。普通の人は見たことがない。

 お店の内容もかなり風変わりで、ウミネコのお店では虫を食料として売っていたり、生魚を食事する場所があった。

 猫のお店では爪とぎができるスポットがあったり、マタタビ休憩所なんてところもある。

 なんていうか、二つの文化が入り混じっているようで不思議な感じだ。

 歩いている住民の邪魔にならないように、普通に猫が街中をのんびりと散歩していたり、空からウミネコが行儀よく食べ物を待っていたりと生活を阻害することなく、住民との暮らしを楽しんでいるのもこのまちならではなのかもしれない。


「どういう規則の中で成り立ってるんだろう、この街」

「規則とは?」

「え? あぁ、街の法律のこと。ウミネコの街はどういう法があるのかなぁって気になったんだ」

「法律が気になるなんて珍しいな。旅人くんはどういう存在で?」

「えっと……」


 そういえば自己紹介をしていなかった。

 二人の名前は聞いてはいたけれど、改めて言っておいた方がよさそうだ。


「魔の法律と関係がある旅人って感じかな。私の名前はリベラ・マギアロアっていうんだけど、色んな街の法律と文化のことが気になって旅をしてるんだ」

「なるほどな。俺はコウネ。見ての通り猫の獣人だ。生まれも育ちもウミネコの街だ」

「僕はウユミ。ウミネコの鳥人さ。コウネとは幼馴染でね。いつも魚を巡ってもらってるよ」


 それぞれが自己紹介をしたのちに、コウネが改めて説明を行ってくれた。


「この街の法律、それは変わり者の魔術師が作ったというのを聞いたことがあるな」

「変わり者の魔術師?」

「あぁ、魔術師の性別とか、細かい情報はわからないが……その魔術師は疑問に思っていたらしい。『なんでウミネコって直接的に猫と関係ないんだ』ってな」

「猫とウミネコってなかなか違う印象もあるからね、名前に対して」

「だから、こうすると面白いんじゃないかなと思って自身の魔力を使って法を作ったらしい。『ここはウミネコと猫が共存する街。互いを尊重し、知恵を持ち、海に猫が生息していても、地面でウミネコが歩いていても矛盾のない街であることを理解せよ』ってな」

「その魔法の影響はかなり強かったみたいで、僕たちみたいな人の形を取るような存在もできたってわけさ」

「なるほど……疑問と好奇心からできた街って部分も強かったんだ」


 きっかけというのは色々あるからこそ面白いものだ。きっと魔術師も期待を込めて法を作ったに違いない。

 街で楽しそうにしているウミネコと猫を見つめていると、魔術師の法の制定もうまく行っていると感じる。


 会話しながら歩いていると、目の前の視界が広がってきた。

 海岸沿い、釣り場だ。


「よく見ろ、あれが海の猫だ」


 コウネが指を指し、遠くの景色を見つめさせてくる。

 そこにはワイルドに魚とりを行う猫の姿があった。

 ふたつの足を綺麗に泳がせ、両手を使って泳いで魚を捕まえるもの。

 まるでクマのようにひょいっと魚を拾い上げるもの。

 瞬発力を活かして、魚の逃げ道を塞ぎ、確保するもの。

 それぞれが違うやり方で魚を取っている。

 ……なんていうか、凄い。


「ウミネコも頑張ってるんだ……」


 ゆうゆうと泳ぎながらウミネコも食事を求めて行動する。

 猫が仕留めきれなかった魚をぱくりと味わったり、小さい魚を求めて泳ぎまわったりしている。

 猫と競争にならないようにうまく協力しあって魚を求めていて、時に猫の魚とりを移動することでサポートしている。

 両者共々とても器用だ。


「君も泳いだりできたらいいのにねぇコウネくん?」

「この街出身でも泳げないやつがいることくらいは理解してほしいものだがね、ウユミ?」

「はは、それは僕に対しても刺さりそうだからこれ以上は辞めようか」

「そうだな」


 目の前のふたりはどうやら泳げないみたいだ。

 それで、釣りという形で食事を取ろうとしているらしい。


「コウネが釣り担当なら、ウユミは何をしているの?」

「焼き魚の焼き加減担当さ」

「そう、こいつの翼でパタパタしてもらうんだ。意外とうまいぞ」

「なるほどね……」

「あと、色々家計とかは計算してもらってる。頭いいからな、コイツ」

「はは、もっと褒めたまえ」


 他愛もない会話をしながらも釣りの準備を行っていく。

 魚用の釣り餌を用意し、釣り竿の状態を確認する。

 たまに街によっては釣りをしたりするけれども、今日はうまくいくのだろうか。

 緊張しながら釣り竿を持ち、私はコウネと一緒に釣り場に立つことにした。

 後ろでは釣れた魚を焼けるように、火の準備もできている。


「釣れる気満々だな?」

「ふたりもいればなんとかなるはずだからね」

「そういうものか」

「やってみる!」


 思いっきり竿を動かし、釣り堀を海に沈める。

 そこでのんびりかかるのを待つ。

 隣ではコウネも釣りを開始していた。


 少しの時間が経過する。

 魚は釣れない。


「やっぱり狩猟した方が早いのかもしれんな」


 コウネがそうぼやく。


「まぁ、爪で傷つけてしまう可能性もあるから、焼き魚なら釣りの方がいいだろうね」

「そうだな、頑張ってみよう」


 また時間が経過する。

 少しずつお昼時から時間が過ぎ去っていきそうだ。

 それでも魚の気配はなし。

 遠くでは猫とウミネコが祭りのように魚を回収している。


「……あっちで獲り尽くされてるとか?」

「いや、浅瀬の魚じゃなければそろそろ来るはずなんだが」

「うーん、なかなか忍耐が必要だね」

「そういうものさ、釣りっていうのはな」


 そろそろ何か変化が訪れないものか。

 そう思っていた時だった。

 私の釣り竿が大きく揺らいでいった。


「来た!」


 リールを回して、釣り竿を離さないように集中する。

 下手に動かしすぎると魚が逃げてしまう。

 慎重に、それでも丁寧に魚を釣り上げられるようにぐるぐると釣り糸を戻していく。

 集中、集中。

 ゆっくりと引き上げ、ついに一匹釣り上げることができた。

 大きめの魚だ。すぐにバケツの中に入れる。


「おっと、こっちも来たぞ!」


 コウネの方にも魚がやってきたらしく、しっかりと釣り上げていく。

 豪快に、それでも冷静にコウネは魚との戦いに対応していき、私よりも早いペースで釣り上げることができた。

 大きさは私の魚とよりも大きい。

 両手以上の大きさだ。


「ばっちりだ! さぁ焼くぞ!」

「おうよ!」


 魚の準備が整ったのを確認して、即座に火をつけるウユミ。

 意気揚々とコウネはそれを確認して、火が通りやすいように下処理を行っていく。

 えらを切り、可食部分以外を切り取り、串を刺す。手慣れた動きだ。職人技にも思える。

 炭火が準備できたのを確認して、ふたりは串刺しした魚を焼いていく。

 パチパチと音が鳴り、美味しそうに少しずつ焼けていく。


「俺たちは塩は使わない。だからもし必要なら、自分が食べる部分だけ使ってくれ」

「猫に塩は危険だからね……今日はそのままの味わいでもいいよ」


 ゆっくり焼き魚を待つ時間。

 周囲にはどんどんウミネコと猫が集まってきていた。


「ちょっと待ってろ、お前たちの分もちゃんと用意する」

「食べやすい大きさにしてあげるよ。だから、安心してくれたまえ」


 焼きあがった魚の身を少しずつ剥いでいき、皿に盛りつける。

 食べやすい大きさの魚をみんなに渡していく。


「さぁ、味わいたまえ。罪の味、焼きたてだ」

「わざわざ罪っていうか?」

「焼きたては至高だからいいのさ」

「それもそうか。俺たちも食おうぜ」

「ふむ、そうしよう。リベラくんも食べようか」

「うん、いただきますっ」


 身をそれぞれ味わっていく。

 魚の素直な焼きたての味わい。今日は塩なしだけれども、焼きたてのさっぱりした味わいが空腹に効く。

 とても、美味しい。


「美味しいっ」


 周りの猫やウミネコたちも同じ意見みたいだ。

 美味しそうに黙々と味わっている。

 動物に囲まれながら味わう食事。

 とても幸福感を感じる素敵な時間だ。


「まだ食べるなら、釣っていくぞ」

「そうだね、美味しくいただいていこう」


 食べ終わったら次の釣り。

 満腹になるまで頑張ってみるのも悪くはないだろう。

 ちょっと不思議な街の釣り体験。これもまた素敵だと思った。








 街で休憩を取り、しっかりと準備が整ったのち。

 私は再び新しい旅へと出発した。

 次の目的地は考えていない。

 でも、興味は色々湧いている。


「猫とウミネコが仲良くしてる街があるなら、愉快な街もいっぱいありそうかも」


 魔法でできた法律は色んな文化を創り出す。

 街、地域、空間ごとに独特なルールが出来上がるのがこの世界の法の面白いところだ。

 もっと、色んなものを知っていきたい。

 そう思える時間だった。


「さて、次はどこに行こう」


 風のゆくまま、自由に進んでいこう。

 ふと空を見上げると、そこではウミネコが飛び、それを見つめていた茂みの猫は「ニャー」とまったり鳴いていた。のんびりした時間を楽しむかのように。

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