第18話【白い街】
普段通りの旅を続けていた午前。
ゆっくり歩いていた時に、ある違和感に気が付いた。
「色が薄くなってる?」
歩けば歩くほど緑色の草木も、空の青さも少しずつ薄れていく。
最初は私が疲れているだけだと思った。しかし目を閉じて、改めて開いてみても色はなくなっていく一方だ。
前に進むとどんどん色が消えていく。不思議な感覚だ。
「私が影響を受けてるってことは……」
自分の荷物や服を確認する。
黒を基調としたコートを羽織っているから状況がわかりやすいはずだ。
コードの裾の色は真っ黒。つまり私自身には関係ないということだ。
「ないみたい」
そうなると、空間そのものが白くなっているといったところだろう。
きっと魔法の法律の影響が強く出ているに違いない。
「街が近いのかも」
ここまで影響力がある法律の場合、なかなか広い街になっているに違いない。
そう思いながら、私は白くなっていく街道を進んでいった。
しばらくの時間が経過し、全てが真っ白に染まった時、街が姿を現した。
大きな城塞のようなものに囲まれている街。上を見るとお城も見える。
そして開いている門の中からはしっかりとした街の景色が広がっている。
城下町だ。かなり賑わっていて、中には真っ白な人が談笑している。
「……旅人として入っても大丈夫なのかな?」
ふと、自分の恰好が気になってくる。
流石に白い街に黒コートは目立ってしまうのではないか。
どうするべきか悩みながら、ゆっくりと街の門まで到達した時。
「黒い旅人とはなかなか珍しいじゃないか」
帽子をかぶった門番にしっかりと反応された。
彼は黒い色の私をまじまじと見つめてくる。
……今思ったけど、私の髪の色だって黒い。
黒い髪に、黒コート。なんならお気に入りの色だって黒。
そんな私が白い街に入るのは、どうなのだろうか。
「え、えっと入っても大丈夫だったり……?」
念のために聞いてみた。
こういう時は穏便に行くのがいいだろう。
下手にトラブルを引き起こすようなことはしたくない。
私の疑問に門番は少し悩んだのちに、答えてくれた。
「まぁ、問題はないだろう。色々質問攻めされるかもしれないが、その覚悟があるならな」
「質問攻め?」
「ここの住民の多くは色を知らない。だから、旅人が来るとみんな盛り上がるんだ」
「へぇ、ちょっと意外だったかも」
ここまで白いと、黒が混じったりするとよくないと判断されたりするのではないかと思っていた。
むしろ、興味を持って接されるだろうといわれるのはなんだかビックリだ。
「門番さんは色について知ってる?」
「さぁな。俺は他の人より旅人を見てるからある程度はこの色がこうだっていうのはわかるが、それ以上のことはわからん」
「リボンの色とかもわかる?」
そういって私の黒コートの首元に付けてる赤いリボンに指を向ける。
少し考えたのち、門番は言葉にした。
「赤、というものだろう?」
「うん、赤色」
私のお気に入りのリボンだ。
真っ赤な色をしていて、くっきりしているのが好みでいつもワンポイントとして付けている。
「よかった、合ってて。しかし、赤っていってもよくわからないって思うこともあるんだよ」
「よくわからないって?」
「この前、服とかが、色々赤い旅人が来てこう言ったんだ。『これは赤ではない。紅葉色だ』ってな」
あいつはなんだったんだろうな、といいたそうな感じにしみじみと語る門番。
それに対して、私もきょとんとする。
「紅葉色も広義的には赤な気がするけど……」
「だが、そいつからしてみれば気に喰わなかったらしく、ずっと訂正を求めてきた。薔薇、朱、他にも色々言葉にしてな。」
「ちょっと変わった人だね」
「だが、俺たちからすると不思議でしかないんだ」
「不思議、っていうと?」
「なんで真っ白な世界と違って、赤だけでも色んな言葉があるんだろうなってな」
「……説明する為なのかもしれないけど、ちょっと改めて考えると不思議だね」
同じ赤を説明するとしても様々な色合いがあって、異なる表現がある。
改めて疑問としてぶつけられると不思議な感覚だ。
ひとつの概念として説明できない。
「話が反れてしまったな。俺としては入っても問題ないと判断する。ただ、色については拘り過ぎると面倒になるかもな」
「赤い旅人さんみたいにはしないよ、大丈夫」
「そうか、それなら安心だ」
「じゃあ、行ってくるね」
「あぁ、楽しんでくれ。この『白い街』を」
門番に見送られて、街の中に入っていく私。
今日の旅はどんな出来事があるのか、楽しみが膨らんでいた。
「わっ、なんだあれ! すっごい!」
「なんか目立ってる感じ……ねね、それなに?」
街に入った瞬間、私にやってきたのは好奇の目だった。
積極的に話そうとする住民は私の黒コートに特に関心を示していた。
興味を持ったであろうちょっと小さい女の子が私に話しかけてきた。
「コートなのはわかるよね」
「うん、それはわかる。コート、コート。けど、その……なんだろ。変になってるのは一体何かなぁって」
コートの広がっている黒い色に注目しているみたいだ。
しかし、色が存在しないからか、それを説明する言葉が出てこないのかもしれない。
そこで、私は考える。
……その『変な感じ』というのをどう表現するべきか。
(……あれ?)
ゆっくり考えてみて、私の中でも詰まってしまう。
黒い色というのを『黒』という表現を使わずに説明することってできるのだろうか。
白の真逆の色、と説明する? いや、色を知らないなら、真逆と言われてもピンとこないだろう。
一般的な鉛筆の芯の色……というのもこの街では通用しないだろう。きっと白くなっているのだから。
黒が存在しない世界で、黒を表現し、言葉にする。なんて難しいのだろうか。
しばらく考えたのち、私はとりあえず一つの回答をぶつけることにした。
「私が好きな色なんだ。一色に染めやすくて、統一性があるから気に入ってる」
ちょっと具体的な答えから逃げてるかもしれない。
そう思いながら、私なりの回答をぶつけてみる。
黒と一緒に使える色は当然いっぱいある。けど、真っ黒に染めるのならばそれは一色になる。
だから、統一性のある色という言葉をこの場はぶつけてみることにした。
私の返答に対して、街の住民は頷いていはいたものの、まだピンと来ていないところもある様子だった。
「そうなんだ、なるほどね。でも、このコートの色ってなんだかちょっと雰囲気似てる気がする」
「何に似てる?」
「白! そりゃ白だよ! だって、はっきりしてるんだもん!」
白はこの街の中で概念として存在している。だからこそ、会話の中でもしっかりと確立している。色の概念とは違う。
その中で、黒に対して似てるというところで『はっきり』という言葉が出てきたのはいいなと思った。
白黒はっきりさせる、という言葉があるように白と黒は近しい関係にあるように思える。
だから、そうやって似ていると言われるのはなんだか嬉しく思える。
「少しこっちから質問しても?」
「いいよ! なんでも聞いて!」
「私みたいに旅人がやってきたら、やっぱり同じように聞いてる?」
「なにを?」
「色のこと」
私の疑問に対して、少し悩んだのち女の子は答えた。
「うん、いつも尋ねてる。その変なのはなにって」
「赤とか黄色とか、言葉は聞いたことはあるの?」
「うん、まぁ、それは一応かな? 旅人さんから説明されたこともないわけではないよ? でも、どれがどれだっていうのはわかんない! だって頭の中で結びつかないんだもん!」
その言葉で、改めて文化の違いについて考えさせられる。
私たちが当たり前のように認識している色。それは概念が存在しない空間、街においては当たり前にはならないということ。
不思議だけれども、自然なこと。ひとつの文化として存在しているからこそある概念。
……それを、私は素敵なことだと思った。
私が知っている常識だけではないという事実を教えてくれるから。
「新しく色について知りたいって考えたことはある?」
「へ? うーん、正直わかんないかも。だって、わたしはここから出たいって思ったことないし」
「そっか」
「でも、でもね! 旅人さんが来たら気になっちゃうからいつも聞いちゃうかも。それはなにーって!」
「楽しいから?」
「うん! なんだかみんな面白い反応するから、ついつい話しちゃう!」
そこまで言葉にして、女の子はそろそろ友達と遊ぶと言って去っていった。
真っ白な世界で一生を過ごす。
多種多様な色がある世界に生きている私からするとどんな間隔になるかわからない世界だ。
でも、それが生き方のひとつになっているというのは街としての強さを感じさせられた。
「もう少し、歩いてみよう」
色々気になることができた私は、白い街でちょっとした私に対する実験を行ってみることにした。
「実験、そのいち! 色と飲み物の関係性!」
私が試したくなったのはカフェの食べ物による実験だ。
頼むのはコーヒー。当然砂糖はガンガン使う予定。苦いのは苦手だからだ。
カフェでしばらくの時間が経過したのち、白い街のコーヒーが届いた。
当然、コーヒーの色は最初から真っ白!
「さて、確認開始っと」
まず、香りを感じる。
コーヒー豆をしっかり煎じた香ばしい印象。ここは変わらない。
それでも、コーヒーなのにミルクのように白いのだから不思議な感覚だ。
とはいえ白いコーヒーだから、もしかしたら味が違うのかもしれない。そう思いながら一口味わってみる。
「うっ、苦い……!」
見た目はミルクっぽい印象。だけど、味わいとコクはしっかりとしたコーヒーだ。
砂糖もミルクも投入していない時の、あの丁寧な苦さが伝わってくる。
「でも、不思議な感覚」
苦いけれども、頭がコーヒーと完全に認識していない……というべきなのだろうか。
苦さの後にやってきたのは牛乳のような食感だった。
まるでコーヒー牛乳を飲んだかのような感覚。気になってメニューを確認したところ、注文したコーヒーはしっかりとしたものだった。
他に何も入っていない、私が普段は飲まないタイプのコーヒー。
無意識がコーヒー以外のものだと認識してしまっているのだろうか。
「砂糖を入れてみたらどうなるかな」
真っ白なコーヒーに元から白い砂糖が入っていく。
私はそれをかき混ぜて、改めてコーヒーを味わう。
「……今度はちょっと甘いような?」
普段使ってるくらいの量で調整した。それなのにいつも以上にコーヒーが甘く感じる。
白い砂糖の印象を強く認識してるからなのだろうか。
コーヒーの苦みが消えてしまいそうなくらいうっすらに感じる。
「もしかして、コーヒーを色で認識してるからこうなってるのかな」
色々考えながら味わっていると、あっという間にコーヒーはなくなってしまった。
これ以上コーヒーで研究してみても答えは出ないかもしれない。
そう思った私は、カフェで次の実験に進むことにした。
「実験そのに! 色と食べ物! 辛いもの挑戦編!」
少しの時間が立ったのち、私の目の前にあるパスタが運ばれてきた。
辛い、トマトソースと唐辛子が印象的なパスタ、アラビアータだ。
本来はソースの色がトマトの赤に染まっていて、唐辛子も赤い。そんな赤いっぱいの辛いアラビアータ。
今の私の目の前に運ばれてきたそれは、やっぱりすべてが白くなっていた。
パスタの色が白い。
唐辛子だって白。
当然、トマトソースも白だ。
白い街らしい真っ白な仕上がりになっている。
「さて、どんな味なのかな」
スプーンの上でフォークをうまく使い、パスタをうまく絡ませ、口に運んでいく。
しっかりと辛さに注意とメニューに書いてあったので、辛いはずだ。
「……あ、あれ?」
一番最初に感じたのは困惑だった。
今度は頭がトマトを認識していない、というべきなのだろうか。
トマトの独特な酸っぱさを最初に感じることがなかった。
一瞬だけホワイトソースのような食感だった気すらする。
じっくり味わい、目を閉じる。
そうすることによって、ようやくアラビアータらしい酸っぱさと辛さが混じった味わいが戻ってきた。
……目が与える情報による影響というのは、なかなかに大きいのかもしれない。
「美味しいけど、やっぱり不思議」
知ってるのに知らない味だ。
いや、知らない感覚といった方がいいのかもしれない。
色のない世界の食事。ここまで考えさせられるものだったとは。
「ふふっ、目をまんまるにして面白いわね、アナタ」
「だ、誰?」
アラビアータを味わっている私の目の前に優雅なドレスを身に纏った少女が現れた。
ふわふわした長髪にフリルいっぱいのドレス。そのどれもやはり真っ白だった。
「わたしはマリィ。白い街の有識者さん、といったところかしらね?」
「えっと……私はリベラ。よろしく」
自己紹介をすると、彼女は私に興味を持ったのかひとつ提案してきた。
「一緒に座って、少しお話しましょ?」
「ちょうど私も誰かと話がしたかったし、構わないよ」
マリィは私の前の席に座り、少しの注文をした。
優雅な態度からは慣れた雰囲気も感じる。
「不思議ってさっきから繰り返してたけど、どんなことが不思議だったのかしら?」
「なんて言えばいいのかな……目に惑わされてる感覚って言えばいいのかな。実際の味と感じる味が違うみたいな……ズレを感じたんだよね」
「ふふっ、なるほどね。それは知らないからこそ起こる現象だと思うわ」
「知らないから起きる現象?」
「トマトソースのパスタは赤い。コーヒーは黒っぽい色。そういう先入観がない場合、どんな味わいになるか考えたことある?」
「あんまりないかも……」
普段からそれが当たり前のように思ってるからこそ、思いつかなかったのかもしれない。
色のないパスタ、コーヒーといったものを。
「わたしの持論だけどね、そういうのは結構認識に影響を与えると思うの」
「認識に影響を与えるって?」
「そうね……青いカレーライスって食べたこと、あるかしら?」
「噂には聞いたことはあるけどないかな」
街によっては存在しているのは知っている。
普段食べている茶色が強めのカレーとは違い、真っ青なカレーを作っているお店があるというのも耳にしたことがある。
でも、私は食べたことがない。
「それはなんで?」
「なんだか、ひんやりしそうな味がしそうだから、かな」
ある冬の日。青いカレーが売っているお店を見たことがあったけれど、私はその時は挑戦しなかった。
私の記憶を辿るのなら、冷たそうな印象を感じたからだったのを覚えている。
「でもカレーはカレーよ? 青くたって普通の味わいなことが多いわ」
「そうだと思うんだけどね、なんでか別の味わいを感じちゃう」
「それはきっと青に影響されてるのよ」
軽く微笑みながらマリィが説明する。
「青はクールで、爽やか、時に冷徹な印象を感じさせる。その感覚がアナタの認識に影響させる」
「……つまり、色があることによって色々と認識が変わってるってこと?」
「そうとも言えるわね」
話がひと段落したタイミングで、マリィが頼んだ注文が届く。
ホワイトソースのパスタとミルクがふたつ。
「真っ白なミルク、奢ってあげるわ。それから少しだけホワイトソースパスタも食べてみて」
「ありがとう」
彼女から受け取ったミルクを早速味わう。
……しっかりとした風味を感じる美味しいミルクだ。違和感なく味わえる。
「ミルクは不思議じゃないのね」
「元々白いからなのかも」
「ホワイトソースも味わってみて」
小さなお皿に少しのパスタが乗せられ、私はそれを味わっていく。
モチモチしたパスタの食感に、クリームの甘さが交わった素直な味わいが口いっぱいに広がる。美味しい。
「……あれ、これも変な感じがしない」
「それもそのはずよ。だって、元から白いってわかってるんだもの」
元々認識しているものから離れていないから、違和感を覚えないということか。
なんだか無意識の錯覚に翻弄されているのが面白い。
「でも、私たちはこれが普通なの」
「当たり前のように白いアラビアータを食べるから、色がなくたって辛いって感じられる?」
「えぇ、当然、コーヒーだって白いけれど苦いと思える」
「文化の違いって面白いね」
「そう言ってもらえるなら、わたしとしても悪い気分はしないわ」
優雅に食事を味わうマリィ。
そこまで聞いて、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、なんでここって白くなるような法律が出来上がったのかな」
「そうねぇ……私の一族に伝わってる話だと、ゼロの認識を作りたかった魔法使いが白い街を創り上げたって聞いたことがあるわ」
「ゼロの認識?」
「色のない世界で食べる食事はどんな味がする? 色がなくたって人は他人を認識できる? 熱さや寒さは色に関係している? そんな純粋な疑問の答えを見つける為に魔法使いは白い街に独特の法律を作った。『この街では色はなくなり全てが白くなる。街で誕生した存在は色をはじめに知ることはない』ってね。その制約によってこの街だけで一生を過ごせるくらいの土地やエネルギーも得たわけだけど……まぁ、半分くらいは関係のない話ね」
「実際、魔法使いは答えを得たのかな」
「さぁ? もう数百年も前のことだからわからないわ」
「随分長いこと存在してる街なんだ」
「えぇ、歴史も長いわ」
認識の矛盾についての答えはきっとまだ出てこないような気がする。
色を知ることによって味が変わるなんてこと、考えても答えが出ないだろう。
でも、その解答を求めるのは生き方の一つとしては悪くないのかもしれない。どこまでも研究できそうだから。
「わたしは思うの。色を知った人が色のない世界を体験するのも、色を知らない人が色を知るのも人を変えるものだって」
「だから、旅人の私に声を掛けてみた?」
「ふふっ、どうだったかしら、色のない世界は」
考えて、私なりの感想を述べる。
「多分、白に馴染んで暮らすってなったら数年はかかりそうかも」
「それはどうして?」
「様々な色を知ってるから、かな。認識を変えていくのって難しいし、きっと色々悩む気がする」
元々知っている世界から抜け出すのは難しいだろう。
常識を変えないといけないとなると、覚悟だって必要だ。
「逆に色を知らない人が、色を知ったとしてもすぐに感動できるかはわからないはずだからね」
「なんでそう思うの?」
「未知に対しての体験で、みんな感動を覚えたりしても怖いでしょ?」
「……ふふっ、それもそうね」
知らないものに対する印象はそれぞれ別でいいのだ。
好奇心を刺激されてもいい、恐怖を感じてしまっても構わない。困惑したってその人らしい。
だからこそ、私は楽しいと思う。未知を知るというのはそういうことなのだから。
「だから、色についてもこれから悩んだりすると思う」
「色を知ってるのに?」
「むしろ知ってるからかな」
この世界にはまだまだ予想外なことがいっぱいある。
色ひとつとっても全然わからないことがあると思うと、悩みは尽きないだろう。
だけど、そのひとつひとつが思い出とかそういうものになるのなら、悪い気はしない。
「逆に聞いてもいい?」
「どうぞ」
「マリィは色についてどう思う?」
私の問いかけに対して、彼女は優しい表情を浮かべて答えた。
「どんな形であれ、人に影響を与える不思議な概念かしら」
そう言葉にするマリィも未知に対する様々な感情を持っているに違いない。
微笑している彼女を見つめながら、私は静かにそう思った。
「じゃあ、私は行くね」
「えぇ、見送るのは街までにするわ。じゃあね」
街の門。
マリィと手を振って別れていく。
「たまには白いものを食べて思い出したりしてほしいわ」
「この不思議な経験は忘れないと思うけど……白いものを食べたらさらに思い出すかも」
「ふふっ、元気でね」
「マリィも元気で」
白い街から離れていき、ゆっくりと足を進めていく。
真っ白だった世界が少しずつ色を取り戻していく。
やがて、緑色の木々や茶色の道が見えてきた。
「当たり前のことを当たり前だって思えるのって、知ってるからなのかも」
白い街にとっては白い世界が当たり前。
旅をしている私にとっては色とりどりの世界が当たり前。
どちらも自分が生きている世界の常識のままに生活している。
みんな、きっと自分らしく生きる道を考えている。
「……そういえば、マリィって色のこと知ってたのかな」
彼女は例えの中に様々な色を表現していた。
青いカレーなんて表現はきっと、知らないとわからないだろう。
もしかしたら彼女は白い街にいながら、色を知っている存在だったのかもしれない。
旅に出て、街から離れた今では確かめるすべはないけれども。
「そうだ、今度青いカレーも食べてみよう!」
その時も不思議だと思うかもしれないけれど、構わない。
色々楽しみながら旅をするというのは、やっぱり面白いのだから。
天気のいい空は青空を映していて、流れゆく雲は真っ白に浮かんでいた。




