07俺の呼吸は静かなものだ
「意外と生き物に出会わないんだな」
俺は森の中をただひたすらに真っ直ぐ進んでいた。
おどおど、もとい慎重に歩きたいところではあるが、それよりも今は距離を稼いで人に出会いたい。もしくはこの森を早く出たい。
俺の切なる思いがこの歩みを早めていた。
十分も歩かない内に、あの恐ろしい足跡と爪痕は見当たらなくなっていた。
それは心理的に嬉しい事ではあるが、逆に考えればいつあの爪を持った(足跡から想定して恐らく)大きな生き物に出会ってもおかしくないという事だ。
そう考えると本当に走り出したいぐらいの気持ちだ。
「でもこの森がめっちゃ広かったら、今ここで体力削るのは愚策だよな…」
今にも駆け出しそうになる足を、なんとか理性で押さえ込んでいる状態だ。
理性と本能がごっちゃになった俺は今、便意を抑えながら競歩しているみたいな変な歩き方になっているだろう。本当に服着てて良かった。
もしこれが全裸だったら誰にも見られたくない絵面だ。
いや、むしろ全裸でもなんでも誰か見つけてくれるなら早く見つけて欲しい。頼むから…
ガサッ
「ひっ」
ついに来てしまった。俺は前方右側の木陰に動くものを発見した。
ドキドキドキドキ心臓が早鐘を打つが、俺の呼吸は静かなものだ。むしろ息が出来ない。このまま酸欠で死んでしまいそうだ。
しかしそうも言っていられないので、俺はその動くものに目をやり、無理矢理呼吸を再開する。
「スラ…イム…?」
そう、それはプルリンとした小さなスライム。
ただ、俺が今までイメージしていたスライムは水色なのだが、目の前のスライムは鮮やかな赤。
透き通ったそれは、まるでワインゼリーのように見える。
「これって、倒さないで素通りするとかありかな?」
日本では野良猫にエンカウントしたって何もしないを選択出来たのだ。
この世界でもそう言う選択肢があっても良いんじゃないかと思い、スライムの横を素通りすべくゆっくりと体を動かす、が。
ボゥッ
「ひぃぃッ」
スライムは俺に炎の攻撃を仕掛けてきた。
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