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記憶の記録  作者: とも
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6/21

第6話 土曜日

 土曜日。


 午前七時四十八分。


 黒瀬湊は校門の前に立っていた。


「……眠い」


 欠伸が出る。


 平日より起きるのが遅いどころか、早かった。


 学校が休みなのに。


 授業がないのに。


 わざわざ制服ではなくジャージを着て、電車に乗って、学校まで来た。


「何してんだろ」


 入部して初めての土曜練習だった。


 集合は八時。


 昨日、久米先生から言われた。


『土曜は八時集合。遅刻するなよ』


 湊はその場で思った。


 休みの日に八時?


 早すぎる。


 しかし。


 来た。


「黒瀬ー!」


 後ろから聞き慣れた声。


「朝からでけえ声出すな」


 西野大地が走ってくる。


「おはよう!」


「おはよ」


「眠そう」


「眠い」


「昨日何時に寝た?」


「一時」


「何してた?」


「映画」


「何見た?」


「ホラー」


「うわ」


「お前ホラー無理だったな」


「休みの前日にわざわざ怖いもの見る意味が分からん」


「面白いから」


「怖いじゃん」


「そこが面白いんだろ」


「理解できん」


 二人で校門を入る。


 いつもの学校なのに、土曜日は少し違って見えた。


 教室の窓はほとんど閉まっている。


 廊下にも人がいない。


 聞こえるのは、運動部の声。


 野球部。


 サッカー部。


 どこかから吹奏楽器の音もする。


「休日なのに人いるな」


「部活あるからな」


「みんな暇なんかな」


「俺らもだろ」


「俺は暇じゃない」


「じゃあ何で来たの?」


「……」


 返事ができない。


「十二秒六?」


「違う」


「俺に勝ちたいから?」


「違う」


「陸上大好きだから?」


「それは絶対違う」


「じゃあ何?」


「知らん」


 西野が笑った。


「何だそれ」


 湊にも分からなかった。


     *


「黒瀬くん」


 部室の前。


 夏目葵が湊を見るなり言った。


「はい」


「靴」


「靴?」


「それで走るの?」


 湊は自分の足元を見る。


 普通のランニングシューズ。


「ダメなんですか」


「ダメじゃないけど」


 夏目がしゃがむ。


 靴の横を見る。


「体育用?」


「中学のときから使ってます」


「結構削れてるよ」


「まだ履けます」


「黒瀬くんって、物持ちいい?」


「買うの面倒なだけです」


「スパイク持ってないの?」


「持ってるわけないじゃないですか」


「陸上部なのに?」


「入って一週間も経ってないですよ」


「あ、そっか」


 夏目が立ち上がる。


「そのうち買った方がいいかもね」


「高いですか」


「ものによる」


「一万円超えます?」


「普通に」


「……辞めようかな」


「靴で?」


「走るために一万円払うって意味分からないです」


 後ろから笑い声がした。


 一ノ瀬澪奈だった。


「まだそんなこと言ってるの?」


「何がですか」


「走るの嫌い」


「嫌いですよ」


「今日は三千走るよ」


「帰ります」


「まだ始まってない!」


     *


 八時。


 全員集合。


 と言っても、本当に全員なのか湊にはまだ分からなかった。


 二十七人。


 昨日、夏目から聞いた数字。


 目の前には、それくらいいるようにも見える。


「じゃ、出欠取るぞ」


 城戸蓮が名簿を持つ。


 一人ずつ名前が呼ばれる。


「森」


「はい」


「藤原」


「はい」


「小宮」


「はい」


「橘」


「……」


「橘?」


「いるー」


 声はする。


 姿がない。


「どこだ」


「ここー」


 走高跳のマットの後ろから橘美琴が出てきた。


「何してた」


「日陰にいました」


「まだ八時だぞ」


「日焼けしたくないので」


「陸上部入る場所間違えてないか?」


「私も最近思ってます」


「思うな」


 笑いが起こる。


「西野」


「はい!」


「黒瀬」


「はい」


 自分の名前。


 まだ少し違和感があった。


 陸上部の名簿に、自分がいる。


 久米先生が前へ出る。


「今日は種目別。長距離は三千のペース走のあと千一本。短距離は加速走から百二本。跳躍は各自。投擲は城戸中心にやれ」


「先生」


 橘が手を上げる。


「各自って何すればいいですか」


「お前はまずアップをしろ」


「そこから?」


「そこからだ」


「長いなあ」


「まだ何もしてないだろ!」


 また笑い。


 湊も少し笑った。


「黒瀬」


「はい」


「お前は長距離についていけ」


「え」


 笑顔が消えた。


「三千?」


「三千」


「聞いてないです」


「今言った」


「そういう問題じゃなくて」


「入っただろ、陸上部」


「長距離に入った覚えないですけど」


「千五百四分二十六のやつを投擲には置かん」


 城戸が横から言う。


「黒瀬、砲丸やる?」


「やりません」


「じゃあ長距離」


「二択なんですか」


     *


 三千メートル。


 七周半。


 数字で聞くと、それほどでもない気がする。


 実際にトラックへ立つと長かった。


「今日は速く走らなくていいから」


 一ノ瀬が言った。


「一キロ三分五十くらい」


「昨日もそう言って最後上げましたよね」


「昨日は黒瀬が上げた」


「先輩もついてきたじゃないですか」


「今日は本当に上げない」


「信用できない」


「後輩が先輩を信用しなさい」


「信用って強制なんですか」


 一ノ瀬のほかに、長距離部員が五人いた。


 名前を覚えているのは一人だけ。


 三年の藤原。


 眼鏡。


 昨日、夏目に教えてもらった。


「一年の黒瀬だよな」


 藤原が声をかけてくる。


「はい」


「四分二十六」


「もういいです、それ」


「有名人」


「名前よりタイムの方が知られてるのおかしくないですか」


「陸上部だからな」


「そういうもんなんですか」


「たぶん」


 藤原は笑った。


 少し静かな人だった。


「じゃ、行くよー」


 一ノ瀬の声。


 走り始める。


 最初は遅かった。


 本当に遅い。


 湊にとっては。


「これで三分五十?」


「そう」


「楽ですね」


 一ノ瀬が横目で見る。


「最初だけだからね」


「三千くらいなら」


「そういうこと言うと後悔するよ」


 一周。


 二周。


 まだ平気。


 呼吸も乱れない。


 三周。


 少し身体が温まる。


「今日暑くないですか」


「走ってるからでしょ」


「四月なのに」


「黒瀬くん暑がり?」


「夏嫌いです」


「私は好き」


「何がいいんですか」


「大会多いし」


「そこ?」


「陸上部だから」


「休日も陸上のこと考えてそうですね」


「考えるよ」


 即答。


「昨日も動画見てたし」


「何の」


「五千メートル」


「家帰ってまで?」


「うん」


「怖」


「失礼だなあ」


 一ノ瀬は笑う。


 湊は少しだけ不思議だった。


 本当に好きなのだ。


 走ることが。


 見るのも。


 自分で走るのも。


 記録を見るのも。


 湊には、その感覚が分からない。


 三周目。


 四周目。


 前を走っていた二年生が少し離れ始める。


 一ノ瀬が声を飛ばす。


「前、詰めよう!」


「はい!」


 全体の速度が少し上がる。


 湊はついていく。


 まだ苦しくない。


 五周。


 藤原が振り返る。


「黒瀬、余裕?」


「まだ」


「じゃあ最後までそのまま」


「上げちゃダメなんですか」


「今日はペース走だから」


「……はい」


 少しつまらなかった。


 前に人がいる。


 抜ける気がする。


 でも抜かない。


 昨日までなら、そこに意味を感じなかっただろう。


 今日はさらに分からない。


 速く走れるなら速く走ればいい。


 そう思う。


 六周。


 一ノ瀬の呼吸が少し大きくなった。


 湊は横を見る。


 額に汗。


 腕の振りも最初より大きい。


「先輩」


「何」


「大丈夫ですか」


「何が?」


「いや」


「これくらい普通」


「そうですか」


「黒瀬」


「はい」


「余裕そうな顔しないで」


「してませんよ」


「してる」


「生まれつきです」


「腹立つなあ」


 笑っていた。


 でも。


 さっきより少し声が短かった。


 最後の一周。


 藤原が言う。


「このまま」


 湊は頷く。


 前には出ない。


 ゴール。


 止まる。


「十一分二十八!」


 一ノ瀬が時計を見る。


「ちょっと速かった」


 肩で息をしている。


 湊も呼吸は上がっていた。


 ただ。


 まだ走れた。


「黒瀬」


 藤原が聞く。


「どう?」


「まあ」


「余裕?」


「もう少しいけます」


 一ノ瀬が水を飲む手を止めた。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬。


 湊を見る。


「そりゃ四分二十六だもん」


 笑った。


 いつもと同じ声だった。


「じゃ、十分休んで千一本ね」


「まだ走るんですか」


「さっき余裕って言ったじゃん」


「それとこれは別です」


「どっちなの」


     *


 千メートル。


「最後は自由でいいよ」


 その言葉を聞いた瞬間、湊は少しだけ嬉しくなった。


「自由?」


「最初の六百は一緒。残り四百から各自」


「つまり最後は抜いていい?」


 一ノ瀬が呆れる。


「そこしか聞いてないでしょ」


「重要なんで」


「はいはい」


 スタート。


 六百までは集団。


 湊は我慢した。


 前を見る。


 藤原。


 一ノ瀬。


 その前に二年生。


 残り四百。


「ここから!」


 一ノ瀬が言った。


 湊は出た。


「速っ」


 後ろから声。


 一気に前へ。


 腕を振る。


 地面を蹴る。


 視界が少しずつ狭くなる。


 苦しい。


 でも。


 これは嫌いじゃなかった。


 前にいる人を抜く。


 あと一人。


 藤原。


 背中が近づく。


 残り二百。


 藤原も上げる。


「……っ」


 抜けない。


 初めてだった。


 この部に来てから。


 本気で追っているのに、すぐには追いつけない。


 湊の呼吸が荒くなる。


 さらに上げる。


 残り百。


 並ぶ。


「お」


 藤原が笑った。


 そこから、もう一段。


 藤原が加速した。


「は?」


 離された。


 三メートル。


 五メートル。


「待っ――」


 ゴール。


 藤原が先。


 湊が数秒遅れて入る。


 そのまま膝に手をついた。


「はっ……はっ……」


 苦しい。


「……くそ」


 口から出た。


「黒瀬」


 藤原が戻ってくる。


「速いな」


「負けましたけど」


「俺三年だから」


「関係ないでしょ」


「関係あるよ」


 藤原は笑った。


「二年分、俺の方が走ってる」


「……」


「来年は知らないけど」


 湊は顔を上げる。


「もう一本」


「やらない」


「何でですか」


「練習メニュー終わったから」


「一本だけ」


「明日にしろ」


「明日休みだよ」


 一ノ瀬が追いついてきた。


「じゃあ月曜」


「覚えてたらね」


「覚えてます」


「黒瀬」


 一ノ瀬が笑っている。


「何ですか」


「楽しそう」


「どこが」


「今」


「負けたんですよ」


「だから」


「意味分からない」


 湊は立ち上がる。


 まだ悔しい。


 五メートル。


 最後に離された。


「藤原先輩」


「ん?」


「千のベスト何秒ですか」


「ちゃんと測ったことないな」


「じゃあ八百」


「二分三秒くらい」


「千五百は?」


「四分十五」


「……」


 自分より十一秒速い。


「月曜、千やりましょう」


「嫌だよ」


「何でですか!」


「俺は五千メートルの選手だから」


「じゃあ五千」


「黒瀬」


 一ノ瀬が肩を叩いた。


「それはたぶん死ぬよ」


「……やめときます」


「素直だ」


     *


 午前十一時二十分。


 練習終了。


「腹減ったああ!」


「出た」


 西野の声。


「毎回言うね」


 橘が言う。


「今日マジで腹減った」


「何食べる?」


「ラーメン」


「朝から?」


「もう昼だろ」


「十一時だよ」


「昼」


「早い」


「じゃあマック」


「そっちも重い」


「橘は何食いたい?」


「クレープ」


「飯じゃない」


「じゃあクレープ二個」


「そういう問題じゃない」


 湊は部室前のベンチに座り、靴紐を解いていた。


「黒瀬」


 西野が来る。


「飯」


「家帰る」


「えー」


「昨日もファミレス行っただろ」


「昨日は昨日」


「金なくなる」


「じゃあコンビニ」


「家で食えばタダ」


「正論言うなよ」


「正論以外何言うんだよ」


 一ノ瀬がやってくる。


「駅前のパン屋は?」


「高い」


 湊。


「牛丼」


 西野。


「嫌」


 橘。


「ファミレス」


 一ノ瀬。


「昨日行った」


 湊。


「公園」


「何食うんだよ」


「各自買って」


 夏目だった。


 いつの間にか輪の中にいる。


「コンビニで買って、公園で食べれば安いじゃん」


 全員が少し黙る。


「それだ」


 西野が言った。


「天才」


 橘。


「マネージャーなので」


「関係あります?」


 湊が聞いた。


     *


 十二時十分。


 学校近くの公園。


 ベンチが足りず、何人かは芝生に座っていた。


 結局。


 五人のつもりが、八人になった。


 さらに途中で二人増えた。


 湊は名前を知らない先輩二人と一緒に地面へ座っている。


「黒瀬、それだけ?」


 一ノ瀬が聞く。


「おにぎり二個と唐揚げ」


「少なくない?」


「普通でしょ」


「走ったあとだよ?」


「先輩が食いすぎなんですよ」


 一ノ瀬の前。


 おにぎり三個。


 サンドイッチ。


 プリン。


「プリンは別腹」


「まだ本体も食い終わってないじゃないですか」


「予約」


「腹に予約制度あるんですか」


「あるよ」


 橘が横からプリンを見る。


「一口」


「嫌」


「一口」


「嫌」


「先輩」


「嫌」


「澪奈ちゃん」


「気持ち悪いからやめて」


「一口」


「嫌!」


 橘が笑う。


 西野は焼きそばを食べている。


「黒瀬」


「何」


「さっき藤原先輩に負けたんだって?」


「誰から聞いた」


「見てた」


「じゃあ聞くな」


「悔しい?」


「別に」


「嘘」


「別に」


「顔」


「何」


「怖い」


「元からだよ」


 一ノ瀬が頷く。


「それはそう」


「先輩まで乗らないでください」


 みんなが笑った。


「黒瀬」


 藤原本人が少し離れたところから呼ぶ。


「はい」


「月曜千やらないからな」


「まだ何も言ってないです」


「顔に書いてある」


「じゃあ火曜」


「曜日の問題じゃない」


 また笑い。


 湊も笑った。


     *


 食べ終わっても、誰もすぐには帰らなかった。


 西野と知らない二年生がスマホゲームを始めた。


 橘はベンチに寝転がって漫画を読む。


 一ノ瀬と夏目は何か話している。


 藤原はコンビニのコーヒーを飲みながら、スマホを見ている。


 湊は芝生に座ったまま空を見た。


 晴れていた。


「……」


 今日は土曜日。


 本当なら。


 十一時くらいに起きて。


 昼飯を食べて。


 映画でも見て。


 漫画を読んで。


 気が向いたらどこかへ出かけて。


 そんな一日のはずだった。


 実際は。


 六時半に起きた。


 学校へ来た。


 三千メートル走った。


 千メートル走った。


 藤原に負けた。


 コンビニへ行った。


 公園でおにぎりを食べた。


 そして今。


 何もしていない。


「黒瀬」


 夏目が隣に座った。


「何ですか」


「暇そう」


「暇です」


「帰れば?」


「……」


「何?」


「いや」


 帰っていい。


 誰も止めない。


 そもそも練習は終わっている。


「もうちょいいる」


「何で?」


「今帰っても」


 湊は少し考える。


「やることないんで」


「映画見るんじゃないの?」


「何で知ってるんですか」


「西野が言ってた」


「あいつ……」


「ホラー好きなんだって?」


「まあ」


「私無理」


「西野もです」


「じゃあ今度二人で見れば?」


「嫌がらせですか」


 夏目が笑った。


「黒瀬くん」


「はい」


「陸上部、どう?」


 突然だった。


「どうって」


「入ってみて」


 湊は公園を見る。


 西野。


 橘。


 一ノ瀬。


 藤原。


 まだ名前を覚えていない人たち。


「走るのは嫌いです」


「それは知ってる」


「朝早いし」


「うん」


「疲れるし」


「うん」


「金もかかりそうだし」


「スパイクね」


「一万円」


「そこ引きずってるんだ」


「高いですよ」


「で?」


「で?」


「それだけ?」


 湊は少し考えた。


 目の前で、西野がゲームに負けたらしく叫んでいる。


「何してんだよ!」


「西野うるさい!」


 一ノ瀬が怒鳴る。


「ごめんなさーい!」


「近所迷惑!」


「すみませーん!」


「だからうるさい!」


 また笑い声。


 湊も少し笑った。


「……まあ」


「うん」


「思ったよりは」


 そこでやめた。


「何?」


「別に」


「最後まで言いなよ」


「嫌です」


「面倒くさいなあ」


「一ノ瀬先輩にも言われました」


「じゃあ事実なんじゃない?」


「二人しか言ってないですよ」


「そのうち二十七人全員に言われるよ」


「辞めようかな」


「まだ言うんだ」


     *


 午後一時四十三分。


「じゃあ帰るか」


 誰かが言った。


 それをきっかけに、みんなが立ち上がる。


 ゴミを集める。


 ベンチを確認する。


 自転車組。


 電車組。


 徒歩組。


 それぞれ違う方向へ散っていく。


「黒瀬!」


 西野が手を上げる。


「月曜な!」


「おう」


「百!」


「千」


「種目違う!」


「俺もお前の百付き合っただろ」


「じゃあ両方!」


「嫌だよ!」


 駅まで歩く。


 一ノ瀬が前。


 橘が隣。


 夏目が少し後ろ。


 何人かの先輩。


 くだらない話が続いている。


 学校の先生。


 数学の小テスト。


 購買。


 漫画。


 昨日のテレビ。


 陸上の話は、ほとんどしなかった。


 湊はスマホを見る。


 一時五十二分。


 土曜日の半分が終わっていた。


「もったいな」


 小さく呟く。


「何が?」


 西野が聞く。


「休日」


「楽しかったじゃん」


「別に」


「じゃあ来週休む?」


「……」


 湊は少し黙った。


「そのとき決める」


「来るな」


「決めつけんな」


 駅が見えた。


 午前中に走ったタイムは、記録にも残らない。


 公園で何を話したかも、そのうち忘れる。


 今日という一日は、大会でも何でもない。


 ただの土曜日だった。


 それでも。


 来週も同じ時間に目覚ましをかける自分を、


 湊は何となく想像できてしまった。

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