第24話 金曜日
金曜日。
朝。
「黒瀬」
「何」
「九点」
「ついに」
「今日取る」
「昨日八」
「流れ来てる」
「テストで流れとかある?」
「ある」
「どこに」
「俺の中」
「便利」
西野大地は。
英単語帳を。
いつもより。
近くで見ていた。
「黒瀬」
「何」
「この単語」
「どれ」
「effort」
「努力」
「……」
「何」
「嫌い」
「お前が?」
「単語が」
「何で」
「重い」
「英単語に感情持つな」
*
左。
佐伯美咲。
「おはよ」
「おはよ」
「九点の日!」
西野。
「毎日点数で生きてるね」
「今日は九」
「明日は?」
「十」
「小テスト明日ないよ」
「……」
「終わった」
「何が」
「成長曲線」
湊。
「中間で続けろ」
「急に本番」
「そっちが本番だろ」
*
ホームルーム。
「来週から試験期間」
担任。
「今日は金曜だから、土日はちゃんと勉強しろ」
教室。
小さな。
ため息。
「あと」
担任。
「文化祭委員」
「はい」
佐伯。
山下。
「仮の役割表見た。来週クラスで確認する」
山下。
「もう戻ってきた……」
「仕事早いだろ」
「嫌な速さ」
「お前ら陸上部じゃないんだから」
「黒瀬!」
山下。
「何で俺見るの」
「速い代表」
「西野もいる」
「俺短距離!」
「同じだろ」
*
一時間目。
英語。
「小テスト」
西野。
背筋。
伸びる。
「九点」
湊。
「言霊」
「聞き飽きた」
「効いてるから」
「昨日八だったしな」
「だろ?」
教師。
「そこ、始めるぞ」
「はい」
*
十問。
一。
二。
三。
湊。
八問目。
少し。
止まる。
横。
西野。
書いている。
「……」
今日は。
速い。
*
返却。
湊。
八点。
「下がった」
佐伯。
「一個」
「悔しい?」
「少し」
「ほら」
「何」
「西野くん化」
「やめろ」
*
西野。
答案。
見る。
固まる。
「何点」
湊。
「……」
「九?」
西野。
無言。
紙。
見せる。
九。
「おお」
「来た!」
西野。
「九点!」
「声」
「先生!」
「分かってる」
「昨日八!」
「知ってる」
「一個上!」
「そうだな」
「あと一個!」
「本番でもその集中力出せ」
「はい!」
教師。
「ただし」
「はい」
「中間は百点満点だ」
「……」
教室。
笑う。
「十倍……」
「そういう換算じゃない」
湊。
*
西野。
紙。
見る。
「九」
「うん」
「あと一個だった」
「うん」
「悔しい」
「うん」
「でも嬉しい」
「……」
「何」
「忙しいな」
「両方あるだろ」
「そうだな」
*
二時間目。
数学。
教師。
「この問題」
黒板。
「西野」
「はい!」
「珍しく元気だな」
「九点取ったので」
「英語だろ」
「はい」
「数学には関係ない」
「……はい」
「これ解け」
「え」
「さっきの元気は」
「英語に置いてきました」
教室。
笑う。
*
昼休み。
四人。
湊。
西野。
佐伯。
山下。
「明日」
佐伯。
「初バイト」
「お」
湊。
「ついに」
「緊張する」
「何時」
「九時」
「朝?」
「朝」
「早」
「映画館だから」
「休日は朝からやってるでしょ」
「何するの?」
西野。
「最初は研修。制服とか、掃除とか、接客とか」
「ポップコーン作る?」
「たぶん」
「食べ放題?」
「違う」
「余ったら?」
「知らない」
湊。
「そこ調べといて」
「何で」
「重要」
「黒瀬くん、私の仕事に食い込みすぎ」
*
山下。
「映画館って大変そう」
「文化祭より?」
佐伯。
「今のところ文化祭」
「まだ準備始まってないだろ」
「もう書類三枚」
「委員怖」
*
「明日さ」
西野。
「何」
「勉強会しない?」
「また?」
湊。
「大会前なのに?」
「大会来週」
「うん」
「テストも来週」
「そう」
「じゃあ勉強」
「理屈は合ってる」
「午前練習あるけど」
「終わったあと」
「またファミレス?」
「飽きた?」
「少し」
「図書館」
「土曜開いてる?」
「知らん」
「調べろ」
*
「私」
佐伯。
「バイト終わったら合流してもいい?」
「何時終わる」
「三時くらい」
「長」
「六時間」
「初日から?」
「休憩あるって」
西野。
「じゃあ三時から勉強!」
「私、初バイトのあとに?」
「嫌?」
「……」
「顔」
「うるさい」
*
湊。
「映画は?」
佐伯。
「また映画?」
「バイト初日記念」
「何それ」
「社員割」
「まだ社員じゃないし」
「従業員」
「制度使えるかも分からない」
「じゃあ確認」
「だから何で黒瀬くんが一番楽しみにしてるの」
*
午後。
体育。
今日は。
サッカー。
「……」
湊。
「何その顔」
西野。
「普通」
「ordinary」
「まだ使うの?」
「覚えたから」
*
チーム。
湊。
西野。
同じ。
「珍しい」
「今日は味方」
「足引っ張るなよ」
「こっちのセリフ」
「短距離なんだから走れ」
「長距離なんだから走れ」
「どっちも走るじゃん」
「確かに」
*
試合。
湊。
ボール。
足。
ぎこちない。
「黒瀬!」
「無理!」
「パス!」
「どこ!」
「こっち!」
蹴る。
少し。
ずれる。
「下手!」
「うるさい!」
*
西野。
ドリブル。
速い。
でも。
ボールだけ。
前。
「待て!」
湊。
「お前が待て!」
相手。
奪う。
「……」
「短距離」
「言うな」
*
試合終了。
負け。
「悔しい」
西野。
「俺も」
湊。
「サッカー好き?」
「別に」
「俺も」
「でも悔しい」
「うん」
二人。
少し。
見る。
「同じ?」
「……」
「また?」
「認めろ」
「まあ」
*
着替え。
西野。
「黒瀬」
「何」
「好きじゃない競技で負けても悔しい」
「うん」
「じゃあやっぱり」
「何」
「勝ちたいと好きは別」
「そうだな」
「俺、賢くない?」
「九点効果?」
「ある」
*
放課後。
グラウンド。
「今日は」
久米先生。
「大会前最後の少し強い刺激」
「少し?」
湊。
「距離は千、六百、四百」
「少し?」
「本数少ない」
「詐欺」
一ノ瀬。
「黒瀬、最近文句から入るね」
「前からです」
「そうだった」
*
設定。
千。
二分五十五。
六百。
一分四十二。
四百。
六十二。
「全部速い」
湊。
「大会前だから」
安藤。
「藤原先輩」
「千は五十二くらい」
「……」
「追う?」
「追います」
「毎回聞く意味ないな」
*
千。
スタート。
藤原。
安藤。
湊。
一ノ瀬。
他。
四百。
六十九。
六百。
一分四十四。
八百。
二分十九。
「上げろ!」
久米先生。
藤原。
前。
湊。
安藤。
三人。
残り二百。
湊。
少し。
力。
「……」
前。
藤原。
届かない。
ゴール。
「二分五十三!」
「……」
二秒速い。
「黒瀬!」
「はい」
「設定!」
「すみません」
「絶対すみませんと思ってない」
「少し」
*
安藤。
二分五十四。
「また負けた」
「一秒」
湊。
「一秒」
「大会では」
「負けません」
「俺も」
*
休憩。
一ノ瀬。
千。
三分十八。
ゴール。
「……」
タイム。
見る。
湊。
少し。
離れている。
声。
かけるか。
迷う。
でも。
その前に。
久米先生。
「澪奈」
「はい」
「無理に上げるな」
「……はい」
「今は調子落ちてるだけかもしれない」
「はい」
「大会で戻ることもある」
「はい」
短い。
返事。
*
湊。
水。
飲む。
一ノ瀬。
こっちへ。
歩いてくる。
「黒瀬」
「はい」
「何見てるの」
「別に」
「また」
「いや」
「心配?」
「……」
「顔」
「それ禁止」
「当たり?」
「少し」
「大丈夫だよ」
「でも」
「何」
「最近ずっと遅いですよね」
「うん」
「悔しくないんですか」
一ノ瀬。
止まる。
「悔しいよ」
即答。
「……」
「普通に」
「……」
「何」
「笑ってるから」
「笑うでしょ」
「そういうもんですか」
「部活中ずっと暗い顔してても仕方ないじゃん」
「……」
「黒瀬は」
「はい」
「自分が遅かったら?」
「悔しいです」
「笑わない?」
「……」
「どうかな」
「たぶん不機嫌」
「分かりやすいね」
「先輩は」
「私は」
一ノ瀬。
少し。
笑う。
「その場では笑う」
「後で?」
「知らない」
「何ですかそれ」
「私も分かんない」
*
六百。
四百。
終わり。
湊。
息。
荒い。
でも。
身体。
軽い。
「調子いい?」
安藤。
「多分」
「大会楽しみ?」
「……」
「迷った」
「出るからには」
「勝ちたい」
「はい」
「それ以外」
「朝早いの嫌」
「変わらない」
*
短距離。
西野。
今日は。
タイム。
取らない。
スタート。
一本。
二本。
三本。
「西野」
湊。
「何」
「今日測らないの」
「先生が駄目って」
「残念?」
「めっちゃ」
「十二秒一」
「言うな」
「言霊」
「それ俺の!」
*
練習終了。
五時十五分。
「今日図書室?」
西野。
「行く」
湊。
「素直」
「中間あるし」
「陸上より真面目」
「何だそれ」
*
図書室。
今日は。
五人。
湊。
西野。
安藤。
一ノ瀬。
夏目。
「夏目先輩まで」
湊。
「私も学生」
「忘れてた」
「ひど」
*
勉強。
一時間。
静か。
西野。
英語。
湊。
数学。
安藤。
英語。
一ノ瀬。
現代文。
夏目。
世界史。
*
三十分。
西野。
「黒瀬」
「何」
「ここ」
「また?」
「九点男」
「関係ない」
「教えて」
「英語?」
「数学」
「九点どこ行った」
「英語にいる」
*
湊。
教える。
西野。
書く。
「……」
「分かった?」
「多分」
「じゃあやって」
「うん」
*
五分。
「できた」
「見せて」
「……」
正解。
「合ってる」
「お」
西野。
小さく。
拳。
「声出さない」
「学習した」
「成長」
「十点男だから」
「まだ九」
*
向かい。
一ノ瀬。
ぼんやり。
教科書。
見ている。
「先輩」
湊。
「何」
「寝てます?」
「起きてる」
「目止まってる」
「現代文が入ってこない」
「珍しい」
「走ったから」
「いつも走ってる」
「今日は疲れた」
「……」
「何」
「いや」
「また心配」
「違います」
「顔」
「だから禁止」
*
一ノ瀬。
「黒瀬」
「はい」
「私さ」
「はい」
「大会で遅かったら」
「……」
「慰めないで」
「何で」
「嫌だから」
「じゃあ何て言えば」
「何も」
「……」
「普通にしてて」
「それ難しい」
「何で」
「気になるから」
「……」
一ノ瀬。
一瞬。
止まる。
「何ですか」
「いや」
「何」
「そういうの普通に言うんだね」
「何が」
「気になるって」
「タイムが」
「はいはい」
「何ですか」
「何でもない」
*
六時。
「閉館」
司書。
「帰れー」
「今日も」
夏目。
「常連ですね」
「お前らがだ」
*
外。
暗くなり始める。
「明日練習?」
西野。
「午前」
安藤。
「八時」
「また早い」
湊。
「大会前だから軽いぞ」
「でも起きるのが重い」
「意味分かる」
一ノ瀬。
*
駅前。
一ノ瀬。
「黒瀬」
「はい」
「明日」
「はい」
「調子いいからって飛ばしすぎないで」
「分かってます」
「本当?」
「多分」
「不安」
「先輩も」
「何」
「無理しないでください」
「……」
「何ですか」
「黒瀬に言われると腹立つ」
「何で!」
一ノ瀬。
笑う。
「じゃあ明日」
「はい」
*
土曜日。
朝。
七時四十六分。
校門。
「眠い」
湊。
「俺も」
西野。
「昨日早く寝た?」
「十二時」
「遅」
「動画」
「また短距離?」
「今日は違う」
「何」
「勉強」
「え」
「何その反応!」
*
グラウンド。
空。
薄い雲。
風。
少し。
冷たい。
「今日は軽く」
久米先生。
「距離はジョグ二十分、流し四本」
湊。
「神」
「大会近いからな」
「毎日これでいい」
「速くならん」
「それでも」
「何のために入った」
「分かりません」
「まだ言うか」
*
二十分。
ゆっくり。
湊。
安藤。
一ノ瀬。
藤原。
他。
「今日は楽」
湊。
「珍しく走りながら機嫌いい」
安藤。
「ジョグなら」
一ノ瀬。
「好き?」
「嫌いではない」
「進歩!」
「好きとは言ってない」
「面倒」
*
途中。
藤原。
「大会」
「はい」
湊。
「最初から突っ込むなよ」
「どれくらい」
「組にもよる」
「はい」
「四百六十七とかで入ったら終わる」
「……」
「今やりそうって顔」
「顔で判断しないでください」
「全員分かる」
*
安藤。
「予選って」
「はい」
「速い奴についていくか、自分のペース守るか、迷うんだよ」
「先輩は?」
「その日の気分」
「雑」
「でも」
安藤。
「一番嫌なのは」
「何ですか」
「余力残して落ちること」
「……」
「だから最後は出し切る」
「それは分かる」
「黒瀬っぽい」
「便利に使うな」
*
流し。
四本。
湊。
一本目。
軽く。
二本目。
少し。
速い。
三本目。
前。
藤原。
「……」
追う。
「黒瀬!」
一ノ瀬。
「流し!」
「分かってます!」
「分かってない!」
*
四本目。
久米先生。
「黒瀬」
「はい」
「前見るな」
「無理です」
「じゃあ一人で走れ」
「……」
一本。
一人。
「寂しい」
「自業自得」
*
九時半。
練習終了。
「早」
湊。
「これからどうする?」
西野。
「勉強」
「言った!」
「何が」
「黒瀬が自分から」
「テスト前だから」
「成長」
「お前に言われたくない」
*
駅前。
ファミレス。
十時二十分。
今日は。
湊。
西野。
安藤。
三人。
一ノ瀬は。
「家で寝る」
と言って帰った。
*
「先輩来ないんだ」
西野。
「疲れてたんじゃない」
安藤。
「最近調子悪いし」
湊。
「……」
安藤。
少し。
見る。
「気になる?」
「まあ」
「仲いいもんな」
「先輩です」
「それだけ?」
「それ以外何ですか」
「別に」
「その言い方禁止」
*
数学。
英語。
昼。
「安藤先輩」
西野。
「何」
「何で勉強できるんですか」
「授業聞いてるから」
「……」
「終わり?」
「終わり」
「黒瀬」
「何」
「俺も授業聞いてる」
「寝てるじゃん」
「半分」
「それは聞いてない」
*
午後二時五十二分。
湊。
スマホ。
「佐伯」
「終わった?」
西野。
「多分」
通知。
『初バイト終わった』
『生きてる?』
『疲れた』
『ポップコーン』
『最初にそれ聞く?』
『重要』
『作った』
『食べた?』
『食べてない』
『残念』
『研修だからね』
*
続けて。
『今駅』
「来る?」
湊。
「何」
西野。
「佐伯」
「呼べ!」
「疲れてるだろ」
「聞くだけ」
*
『勉強してるけど来る?』
少し。
『どこ』
場所。
『行く』
「来るって」
「おお」
安藤。
「クラスの子?」
「はい」
「映画館の」
「何で知ってるんですか」
「西野」
「俺?」
「昨日話してた」
「みんな知ってる」
「嫌だな」
*
三時十二分。
佐伯。
「疲れたー」
「お疲れ」
湊。
「どうだった」
「足痛い」
「映画館なのに?」
「立ちっぱなし」
「走ってないのに」
「黒瀬くん基準おかしい」
*
制服。
ではなく。
映画館の研修帰り。
私服。
髪。
少し。
乱れている。
「何した?」
西野。
「掃除、発券、フード、挨拶、館内案内」
「多」
「覚えること多い」
「映画見れた?」
湊。
「見てない!」
「六時間いて?」
「働いてたの!」
*
「従業員制度」
湊。
「聞いた」
「お」
「条件あるけど見れるって」
「神」
「黒瀬くんが一番喜んでる」
「友達も?」
「無理」
「即答」
「そこは」
*
佐伯。
「でも」
「何」
「ちょっと楽しかった」
「仕事?」
「うん」
「疲れたのに」
「うん」
「好き?」
「まだ分かんない」
「……」
「何」
「それでも続ける?」
「受かったばっかりだし」
「そうじゃなくて」
「?」
「楽しいのと疲れるのって」
「両方あるでしょ」
「……」
「黒瀬くんも部活そうじゃないの?」
「走るのは楽しくない」
「でも」
「でも?」
「……」
湊。
「それ以外は」
「うん」
「まあ」
「出た」
*
西野。
「黒瀬」
「何」
「映画」
「何」
「今日行く?」
「勉強」
「え」
「明日でも」
「黒瀬が映画断った」
「テスト前」
「成長!」
「うるさい」
*
夕方。
四時半。
佐伯。
教科書。
「私もやる」
「初バイトのあとに?」
湊。
「中間あるし」
「偉」
「黒瀬くんもね」
「俺は朝から」
「自慢?」
「事実」
*
四人。
勉強。
外。
少しずつ。
暗くなる。
映画館。
すぐ近く。
でも。
今日は。
入らない。
*
五時四十分。
「帰る?」
安藤。
「帰ります」
湊。
「俺も」
西野。
「私も」
佐伯。
*
駅。
安藤。
「じゃあ大会」
「まだ一週間あります」
湊。
「でもすぐ」
「先輩は緊張します?」
「もうしてる」
「早」
「黒瀬は?」
「まだ」
「当日来るよ」
「嫌だな」
「楽しみ?」
「少し」
「それ言うようになったんだ」
「勝てるか気になるんで」
「やっぱり黒瀬」
「何ですか」
「面倒」
*
安藤。
別れる。
*
三人。
「佐伯」
西野。
「初バイトおめでとう」
「ありがとう」
「何か奢る?」
「何で西野くんが」
「記念」
「じゃあアイス」
「高い?」
「普通」
「普通」
湊。
「ordinary」
「まだやるの?」
*
コンビニ。
佐伯。
バニラ。
西野。
チョコ。
湊。
いつもの。
ソーダ。
「またそれ」
佐伯。
「安い」
「好き?」
「まあ」
「出た」
「好きだよ」
「言えるじゃん」
「アイスくらい」
*
外。
食べる。
「黒瀬くん」
「何」
「大会」
「うん」
「来週行けたら行く」
「うん」
「絶対じゃないからね」
「分かってる」
「期待しないで」
「してない」
「……」
「何」
「それはそれで腹立つ」
「どっち」
「少しは期待して」
「面倒」
「黒瀬くんに言われたくない」
*
西野。
「俺は期待する!」
「じゃあ西野くん見る」
「黒瀬も!」
「何で」
「友達だから」
「そこで使う?」
「使う」
*
湊。
少し笑う。
「来れば」
佐伯。
「……」
「何」
「今度はちゃんと言った」
「別に」
「はいはい」
*
夜。
机。
今日。
西野。
九点。
サッカー。
負け。
千。
二分五十三。
一ノ瀬。
三分十八。
初バイト。
映画館。
勉強。
アイス。
たくさん。
あった。
湊は。
英語の単語帳を開く。
effort。
努力。
competition。
大会。
record。
記録。
ordinary。
普通の。
「……」
普通。
西野の九点も。
佐伯の初バイトも。
一ノ瀬の調子が悪いことも。
来週の大会も。
全部。
同じ一週間の中にある。
どれか一つだけを。
考えている時間なんて。
案外。
少ない。
スマホ。
西野。
『明日英語ない』
『知ってる』
『十点取れない』
『中間で取れ』
『100点?』
『それは無理』
『言霊』
『100点』
『急に』
*
少しして。
佐伯。
『今日はありがと』
『何が』
『勉強』
『安藤先輩に言え』
『黒瀬くんもいたじゃん』
『いた』
『大会頑張って』
『まだ来週』
『早めに言っとく』
『俺と同じじゃん』
『何が』
『初バイト』
『あ』
『真似』
『違う』
*
湊。
スマホを置く。
問題集。
開く。
大会まで。
まだ。
少し。
時間がある。
だから。
今日は。
今日のことだけ。
終わらせる。
数学。
一問。
正解。
「よし」
次。
間違い。
「……」
消しゴム。
かける。
窓の外。
夜。
来週のことは。
まだ。
来ていなかった。




