第25話 何もない日
日曜日。
朝。
八時三十七分。
湊は。
目を開けた。
「……」
天井。
見る。
今日は。
学校。
なし。
部活。
なし。
バイト。
なし。
文化祭。
なし。
大会。
まだ。
テスト。
近い。
「……」
二度寝。
*
九時十四分。
スマホ。
震える。
『起きてる?』
西野。
「……」
『寝てる』
『またそれ』
『今日は本当に寝る』
『勉強』
『午後』
『今』
『午後』
『大会来週』
『知ってる』
『テストも来週』
『知ってる』
『じゃあ今』
『午後』
『頑固』
『うるさい』
*
スマホ。
伏せる。
目。
閉じる。
*
九時二十六分。
もう一度。
震える。
「……」
『黒瀬くん起きてる?』
佐伯。
「何で」
『起きてる』
『西野くんに勉強誘われた?』
『誘われた』
『私も』
『断った?』
『午後って言った』
『同じ』
「……」
『お前も?』
『午前は寝たい』
『仲間』
『西野くん元気すぎ』
『九点男だから』
『何それ笑』
*
少し。
目が覚めた。
*
十時。
朝食。
食パン。
卵。
母親。
「今日部活ないの?」
「ない」
「珍しい」
「日曜だし」
「前の日曜行ってなかった?」
「映画」
「部活じゃないじゃん」
「部活の人と」
「最近よく一緒にいるね」
「……」
「何」
「いや」
湊。
ジャム。
塗る。
「そうかも」
*
「中学の時もそんな感じだった?」
「何が」
「部活の子と休日遊ぶの」
「……」
少し。
止まる。
「まあ」
「バスケ?」
「うん」
「よく公園行ってたよね」
「行ってた」
「一日中」
「うん」
「今は走ってるのね」
「……」
「何その顔」
「別に」
*
食パン。
かじる。
バスケ。
公園。
夏。
冬。
ボール。
リング。
学校が終わって。
部活が終わって。
それでも。
また。
ボールを持って。
外に出た。
あの頃は。
誰かに言われなくても。
勝手にやっていた。
*
「今日何するの?」
「勉強」
「偉い」
「午後から」
「午前は?」
「何もしない」
「それもいいんじゃない」
「……」
湊。
「そう?」
「日曜なんだから」
「……」
*
十時四十分。
自室。
漫画。
一冊。
開く。
十ページ。
スマホ。
見る。
閉じる。
漫画。
読む。
十五ページ。
また。
スマホ。
「……」
何も。
来ていない。
「何見てんだ」
*
十一時十二分。
ベッド。
寝転ぶ。
動画。
映画予告。
新作。
「これ見たいな」
上映時間。
十三時十分。
「……」
行ける。
でも。
今日は。
午後。
勉強。
「……」
スマホ。
閉じる。
「偉」
誰も。
褒めない。
*
十一時四十七分。
西野。
『昼食ってから駅前の図書館』
『何時』
『13時』
『早』
『午後』
『確かに』
『佐伯も来る』
『バイトは』
『今日は休みだって』
「……」
『山下は?』
『文化祭の資料作るから来る』
『何で全員』
『勉強会』
『違うもの混ざってる』
*
十二時五十分。
駅前。
市立図書館。
「遅い!」
西野。
「五分前」
「俺十五分前」
「お前が早い」
佐伯。
「おはよ」
「もう昼」
「じゃあこんにちは」
「真面目」
「何それ」
*
山下颯太。
大きなファイル。
「助けて」
「何」
湊。
「文化祭」
「今日?」
「委員会の資料」
「日曜まで?」
「先生が金曜に送ってきた」
「怖」
「佐伯は?」
「昨日バイトだったから」
「裏切り者!」
「ちゃんとやるって」
*
四人。
席。
教科書。
問題集。
ノート。
山下だけ。
文化祭資料。
「一人だけ違う」
西野。
「俺もテストあるんだよ!」
「じゃあ先にやれば」
「文化祭終わらせないと気になる」
「分かる」
佐伯。
「でしょ?」
湊。
少し。
「そういうもん?」
「黒瀬くんも大会前に大会のこと気になるでしょ」
「……」
「気にならない?」
「少し」
「同じ」
「文化祭と大会?」
「やることが残ってる感じ」
「……」
「そういう意味なら」
*
一時十分。
勉強。
開始。
*
一時二十五分。
西野。
「黒瀬」
「何」
「ここ」
「早い」
「分からない」
「まだ十五分」
「十五分も考えた」
「嘘」
「三分」
「短」
*
数学。
一次。
二次。
式。
「ここ」
湊。
「移項」
「うん」
「ここ割る」
「うん」
「で」
「……」
「何」
「分かった気がする」
「気だけ?」
「やる」
*
西野。
書く。
消す。
書く。
「……」
「できた」
「見せて」
湊。
見る。
「合ってる」
「っしゃ」
小声。
「学習したな」
「昨日怒られたから」
*
二時。
佐伯。
「黒瀬くん」
「何」
「英語」
「俺?」
「西野くんに聞く?」
「やめて」
西野。
「九点だぞ」
「小テストね」
「九割」
「十問だから」
「九割は九割」
山下。
「強い」
「山下まで」
*
佐伯。
「ここ」
「……」
湊。
読む。
「これなら」
「分かる?」
「多分」
「多分多い」
「英語得意じゃないし」
「でも私よりは」
「何点くらい」
「前回六十二」
「普通」
「出た」
「何」
「普通好き」
「一ノ瀬先輩に言え」
*
西野。
反応。
「一ノ瀬先輩今日来ないの?」
「何で来ると思った」
「最近勉強会いるから」
「日曜まで呼ぶなよ」
「黒瀬は連絡してない?」
「何で俺」
「仲いいじゃん」
「先輩後輩」
「それ便利」
「お前も使うな」
佐伯。
少し。
湊を見る。
「一ノ瀬先輩って、どんな人?」
「普通」
「出た!」
西野。
「いや」
湊。
「普通っていうか」
「速い?」
佐伯。
「俺よりは遅い」
「言い方」
「でも長距離ずっとやってる」
「陸上好き?」
「めちゃくちゃ」
「へえ」
「多分俺よりずっと」
「それは分かる」
「何で」
「黒瀬くん走るの嫌いだもん」
「そう」
*
二時四十分。
休憩。
「腹減った」
西野。
「昼食っただろ」
「頭使った」
「毎回それ」
「外の自販機」
「飲み物?」
「甘いやつ」
*
図書館。
外。
ベンチ。
四人。
西野。
ココア。
佐伯。
ミルクティー。
山下。
炭酸。
湊。
水。
「水?」
佐伯。
「安い」
「アイスはソーダなのに」
「それは好き」
「今日素直」
「何が」
*
山下。
「黒瀬」
「何」
「中学バスケだったんだよね」
「うん」
「強かった?」
「……」
湊。
水。
飲む。
「俺?」
「チーム」
「どっちも」
「……」
西野が。
黙る。
前に。
聞いた。
でも。
途中で。
やめた話。
*
「俺は」
湊。
「そこそこ」
「そこそこって」
「普通よりは上手かったと思う」
「自分で言うんだ」
「そこは」
「チームは?」
「……」
少し。
風。
木。
葉。
揺れる。
「強くなかった」
「そうなんだ」
「二個上は強かった」
「うん」
「一個下も強かった」
「へえ」
「俺らだけ」
湊。
少し。
笑う。
「何もなかった」
*
西野。
ココア。
持ったまま。
黙っている。
*
山下。
「何も?」
「都大会とか」
「ああ」
「行けなかった」
「でも黒瀬は上手かったんでしょ」
「まあ」
「じゃあ悔しかった?」
「……」
湊。
即答。
しなかった。
*
「めちゃくちゃ」
やっと。
言う。
*
佐伯。
少し。
表情。
変わる。
でも。
何も言わない。
*
「練習した?」
山下。
「した」
「どれくらい」
「部活終わって」
「うん」
「公園」
「毎日?」
「結構」
「休みの日も?」
「朝から夕方までとか」
「……」
西野。
「好きだったんだ」
「好きだったよ」
今度は。
すぐ。
答えた。
*
「じゃあ」
西野。
「何で高校でやらなかったの」
「……」
前にも。
聞かれた。
好きだからって。
ずっとやるとは限らない。
そう。
答えた。
でも。
今日は。
少し。
違うところまで。
*
「疲れたんだと思う」
「バスケに?」
「いや」
「じゃあ」
「結果出ないのに」
湊。
ペットボトル。
指。
回す。
「ずっと本気でやるのに」
「……」
「疲れた」
*
西野。
「でも好き?」
「好き」
「今も?」
「うん」
「……」
「変?」
「いや」
西野。
少し。
考える。
「分かんない」
「俺も」
*
山下。
「高校でまたやればよかったのに」
「そうかも」
「後悔?」
「……」
「してない?」
湊。
遠く。
道路。
見る。
「分からん」
*
「体育でやると楽しい」
「うん」
「見てるのも好き」
「うん」
「でも部活入るかって言われたら」
「入らない?」
「多分」
「何で」
「だから分からん」
山下。
「難しいな」
「自分でも」
*
佐伯。
「結果出なかったから嫌いになったわけじゃないんだ」
「ならない」
「そっか」
「逆に」
「何」
「陸上は結果出るけど」
「好きじゃない」
「そう」
「……」
佐伯。
「ほんと変」
「知ってる」
*
西野。
「でもさ」
「何」
「陸上でも結果出なくなったら」
「……」
「どうする?」
湊。
止まる。
*
四分二十六。
四分十九。
千。
二分五十二。
四百。
六十。
今は。
出る。
走れば。
数字が。
変わる。
速くなる。
*
「知らん」
「そうだよな」
「まだ出てるし」
「うん」
「その時考える」
「黒瀬っぽい」
「それ便利に使うな」
*
西野。
「俺は」
「何」
「結果出なくてもやると思う」
「陸上?」
「うん」
「何で」
「好きだから」
即答。
*
湊。
少し。
笑う。
「やっぱすげえな」
「何が」
「それ」
「好き?」
「うん」
「黒瀬もバスケなら言えるじゃん」
「……」
「同じじゃない?」
「でもやってない」
「そうだった」
*
「じゃあ」
佐伯。
「好きだから続ける人もいるし」
「うん」
「好きでもやめる人もいるし」
「うん」
「好きじゃなくても続ける人もいる」
三人。
湊を見る。
「何で俺」
「最後」
「……」
「全部いるね」
「そうだな」
*
西野。
「山下は?」
「何」
「好きなもの」
「ゲーム」
「部活は?」
「帰宅部」
「好きだから帰ってる?」
「意味分かんねえ」
四人。
笑う。
*
三時十分。
「戻る?」
佐伯。
「うん」
「勉強」
西野。
「現実」
*
図書館。
机。
戻る。
*
三時四十分。
西野。
眠い。
「寝るな」
湊。
「五分」
「駄目」
「昨日黒瀬昼まで寝てた?」
「何で知ってる」
「返信遅かった」
「監視?」
「友達」
「怖」
*
四時。
山下。
「終わった!」
「何」
佐伯。
「文化祭の仮資料」
「見せて」
「席数、机、椅子、紙コップ、メニュー案」
「結構やったね」
「俺今日文化祭しかしてない」
「テスト」
「……」
「顔」
「終わった」
「今からやれ」
*
四時二十分。
佐伯。
スマホ。
「映画館から」
「何」
湊。
「来週のシフト」
「いつ」
「水曜と土曜」
「平日?」
「学校のあと」
「何時から」
「五時半」
「大変」
「でもちょっと楽しみ」
「もう?」
「昨日楽しかったから」
「……」
「何」
「早いなって」
「何が」
「好きになるの」
「好きってまだ言ってない」
「楽しいって」
「黒瀬くんは楽しいだけじゃ好きじゃないんでしょ」
「……」
「陸上」
「それ言われると」
「ね」
*
五時。
「帰る?」
西野。
「映画」
湊。
「え」
「何」
「今日行く?」
「上映時間」
スマホ。
見る。
「五時二十分」
「間に合う」
佐伯。
「テスト前」
「……」
「黒瀬くんが昨日言った」
「今日は日曜」
「関係ある?」
「ある」
「何」
「気持ち」
「便利」
*
西野。
「俺行きたい」
「何見る」
「怖くないやつ」
「基準」
「黒瀬選んで」
「じゃあこれ」
「何」
「家族もの」
「泣く?」
「多分」
「黒瀬が?」
「作品が」
「意味分からん」
*
山下。
「俺帰る」
「何で」
「テスト勉強してない」
「偉い」
「今さら」
「佐伯は?」
「私も帰る」
「バイト?」
「明日学校」
「普通」
「ordinary」
「まだやってる」
*
結局。
湊。
西野。
二人。
*
映画館。
五時十四分。
「黒瀬」
「何」
「佐伯ここで働いてるんだよな」
「昨日」
「変な感じ」
「分かる」
「学校の人が」
「学校の外」
「そう」
「俺も思った」
*
券。
買う。
端。
二席。
「また端」
西野。
「落ち着く」
「俺隣?」
「嫌なら離れる?」
「それも変」
「じゃあ隣」
*
上映。
*
父親。
息子。
小さな町。
野球。
進学。
喧嘩。
仲直り。
でも。
最後。
息子は。
野球を。
やめる。
*
父。
「好きだったんじゃないのか」
息子。
「好きだったよ」
*
湊。
少し。
目。
細める。
*
エンドロール。
*
明るくなる。
西野。
湊。
見る。
「泣いた?」
「泣いてない」
「今日は俺も泣いた」
「じゃあ見るな」
「何で」
「お互い」
「協定?」
「うん」
*
映画館。
外。
七時二十二分。
「黒瀬」
「何」
「さっきの」
「うん」
「好きだったのにやめるやつ」
「うん」
「バスケみたい?」
「……」
「ごめん」
「いや」
湊。
歩く。
「ちょっと」
「……」
「でも違う」
「何が」
「俺は」
少し。
考える。
「別にあんな綺麗な理由ない」
「そう?」
「うん」
「疲れたから?」
「多分」
*
「でも」
西野。
「今日話してよかった」
「何が」
「黒瀬の中学」
「そんな面白くない」
「面白いとかじゃなくて」
「じゃあ」
「分かった」
「何が」
「前に聞いた時」
「うん」
「なんか聞いちゃ駄目な感じした」
「……」
「今日は話した」
「まあ」
「だから」
「何」
「ちょっと分かった」
「何を」
「黒瀬」
「気持ち悪」
「何で!」
*
「でも」
湊。
「ありがと」
「え」
「前」
「何」
「聞かなかったじゃん」
「……」
「途中で」
「ああ」
「別に」
西野。
少し。
前を見る。
「嫌そうだったから」
「うん」
「それだけ」
「そっか」
*
駅。
「明日」
西野。
「学校」
「うん」
「小テストない」
「残念」
「十点取れない」
「中間」
「百点」
「無理」
「言霊」
「百点」
「急」
二人。
笑う。
*
夜。
九時。
湊。
机。
問題集。
映画の半券。
横。
置く。
*
中学。
バスケ。
結果。
出なかった。
高校。
陸上。
今のところ。
出ている。
*
でも。
好きなのは。
バスケ。
*
そこだけは。
変わらない。
*
スマホ。
西野。
『今日ありがとな』
湊。
少し。
止まる。
『何が』
『映画』
『お前が行きたいって言った』
『中学の話も』
「……」
『別に』
『また聞く』
『長いぞ』
『いいよ』
*
湊。
スマホ。
置く。
*
今日。
朝。
何もない日だと。
思った。
学校も。
部活も。
大会も。
なかった。
それでも。
昼から。
勉強して。
文化祭の話をして。
バスケの話をして。
映画を見た。
*
明日になれば。
また。
学校。
*
大会は。
少し近づく。
テストも。
少し近づく。
*
でも。
今夜は。
まだ。
どちらでもない。
*
湊は。
数学の問題を。
一問。
解く。
間違える。
「……」
消す。
もう一度。
*
今度は。
合っていた。




