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記憶の記録  作者: とも
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22/25

第22話 水曜日

 水曜日。


 朝。


「黒瀬」


「何」


「七点」


「まだ言ってるの?」


「今日こそ」


「昨日六だったな」


「だから七」


「一個ずつ?」


「積み重ね」


「陸上みたいに言うな」


「何でも陸上にするの黒瀬じゃん」


「してない」


「十二秒二」


「それはお前」


「四分十九」


「それは俺」


「ほら」


「何が」


「陸上」


「朝から面倒くさい」


 西野大地は。


 英単語帳を開いた。


「ordinary」


「普通の」


「competition」


「大会」


「record」


「記録」


「pass」


「合格する」


「……」


 湊。


「それ今覚えろ」


「何で」


「テスト」


「そっち?」


「他に何が」


「大会の予選」


「英語で考えるな」


     *


 佐伯美咲が。


 席につく。


「おはよ」


「おはよ」


「おはよう!」


 西野だけ。


 声が大きい。


「朝から元気」


「七点取るから」


「何の宣言?」


「英語」


「低くない?」


「昨日も言われた」


「誰に」


「黒瀬」


「普通に低い」


「普通って言った!」


「そこ拾うな」


     *


 ホームルーム。


「中間考査まで一週間を切った」


 担任。


「放課後残って遊ぶなよ」


 教室。


 少し笑う。


「文化祭委員は別。企画決定したから、必要物品の仮リストを今週中」


「また!?」


 山下颯太。


「委員は忙しいぞ」


「聞いてない!」


「最初に言った」


「覚えてない!」


「西野と同じタイプだな」


「何で俺!?」


 教室。


 笑い。


 佐伯。


 横で。


 小さくため息。


「大変そう」


 湊。


「でもちょっと楽しい」


「まだ何もしてないのに?」


「始まってる感じがする」


「……」


「何」


「いや」


「また分からない顔」


「そういうの分かるんだなって」


「普通に分かるよ」


「普通」


「そこ拾わないで」


     *


 一時間目。


 現代文。


 教師。


「試験範囲ここまで」


 ページ。


 増える。


 西野。


 小声。


「終わった」


「始まってない」


「量」


「今までやったところだろ」


「覚えてない」


「何しに授業出てたの」


「学校生活」


「広すぎる」


     *


 二時間目。


 英語。


 小テスト。


「始め」


 西野。


 真剣。


 湊。


 横目。


「……」


 昨日より。


 迷ってない。


     *


「返すぞ」


 教師。


 湊。


 九点。


「また九」


「一個落とした?」


 佐伯。


「うん」


「何」


「スペル」


「意外」


「人間だから」


「急に」


     *


 西野。


 答案。


「……」


「何点」


 湊。


「……」


「七?」


「……」


 西野。


 ゆっくり。


 見せる。


 七。


「おお」


 湊。


「出た!」


 西野。


「七点!」


「声」


「先生!」


「何だ」


「七点!」


「見れば分かる」


「昨日六!」


「知ってる」


「一個上がりました!」


「よかったな」


「はい!」


「次は八だ」


「はい!」


 教室。


 笑う。


 湊も。


 少し笑った。


     *


「西野」


 湊。


「何」


「嬉しい?」


「うん」


「七点で?」


「七点で」


「……」


「何」


「別に」


「馬鹿にした?」


「してない」


「顔」


「本当にしてない」


「じゃあ何」


「一個上がっただけでも嬉しいんだなって」


「そりゃ」


「……」


「黒瀬だって四分十八出たら嬉しいだろ」


「嬉しい」


「同じ」


「……」


「な?」


「まあ」


「出た」


     *


 昼。


 購買。


「今日は行く?」


 佐伯。


「弁当」


 湊。


「西野くんは?」


「もういない」


 廊下。


 遠く。


「待ってろ焼きそばパーン!」


「……」


 佐伯。


「本当に元気だね」


「七点効果」


「そんな効く?」


「知らん」


     *


 机。


 二人。


「黒瀬くん」


「何」


「大会」


「うん」


「何日?」


「金曜」


「今週?」


「……」


「え」


「今週?」


「自分で聞き返さないで」


 湊。


 スマホ。


 日程。


「……来週だ」


「危な」


「曜日しか見てなかった」


「大会出る人?」


「出ます」


「大丈夫?」


「走る時間は覚えてる」


「何時」


「十時五十分くらい」


「くらい?」


「十一時前」


「雑」


     *


「見に行こうかな」


 佐伯。


「本当に?」


「暇なら」


「遠いよ」


「どこ?」


 湊が伝える。


「……」


「何」


「思ったより遠い」


「でしょ」


「朝早い?」


「俺ら七時集合」


「無理」


「即答」


「十時くらいに行く」


「来るんだ」


「予定なかったら」


「バイトは」


「その日はない」


「じゃあ」


 湊。


 少し。


「来れば」


「……」


「何」


「珍しい」


「何が」


「来てって言うんだ」


「言ってない」


「来ればって」


「選択肢」


「はいはい」


     *


 西野。


 戻る。


「取った!」


「今日は何個残ってた」


 湊。


「一個!」


「危な」


「俺のために残ってた」


「違う」


「運命」


「焼きそばパンと?」


「うん」


「幸せそうだね」


 佐伯。


「今日は七点も取ったし!」


「よかったね」


「おう!」


「今日人生ピーク?」


 湊。


「まだ早い!」


     *


 午後。


 体育。


 今日は。


 持久走。


「……」


 湊。


 固まる。


「黒瀬」


 西野。


「何」


「好きなやつ」


「嫌い」


「得意なやつ」


「それも嫌」


「でも勝つ?」


「勝てるなら」


「ほら」


「何」


「扱いやすい」


「誰の真似だよ」


     *


 男子。


 千五百。


「また?」


 湊。


 体育教師。


「黒瀬は陸上部だから楽しみだろ」


「嫌です」


「何で入った」


「分かりません」


「毎回答え変わらんな」


     *


 スタート。


 クラス男子。


 二十人。


 西野。


 湊。


 他。


「黒瀬」


「何」


「競争」


「お前短距離だろ」


「でも負けたくない」


「知らん」


     *


 最初。


 遅い。


 湊。


 周りに合わせる。


 西野。


 前。


「……」


 湊。


 見る。


 百。


 二百。


 西野。


 結構速い。


「おい」


「何!」


「飛ばしすぎ!」


「勝つ!」


「最後死ぬぞ!」


「大丈夫!」


「短距離脳!」


     *


 一周。


 西野。


 先頭。


 湊。


 三番目。


 教師。


「一周七十八!」


「遅」


 湊。


 つぶやく。


「聞こえたぞ黒瀬!」


「すみません!」


     *


 二周目。


 西野。


 落ちる。


「……」


 湊。


 横。


「ほら」


「まだ!」


「息上がってる」


「うるさい!」


     *


 残り四百。


 湊。


 前へ。


「黒瀬!」


 西野。


「何」


「待て!」


「競争だろ」


「そうだけど!」


「じゃあ」


 湊。


 上げる。


     *


 ゴール。


「四分三十八!」


 体育教師。


「黒瀬!」


「……」


 湊。


「遅」


「体育でそれ言うな」


「はい」


     *


 西野。


 四分五十一。


「死ぬ」


「だから言った」


「長距離無理」


「俺も」


「黒瀬はできるだろ!」


「できるのと好きは別」


「もう知ってる!」


     *


 クラスメイト。


「黒瀬速」


「陸上部だし」


「四分十九だっけ」


「うん」


「今日流した?」


「まあ」


「余裕あるのムカつく」


「知らん」


     *


 着替え。


「黒瀬」


 西野。


「何」


「四分五十一」


「うん」


「普通?」


「陸上部なら遅い」


「体育なら?」


「速いんじゃない」


「……」


「何」


「立場で変わるんだな」


「何が」


「速い遅い」


「そりゃ」


「七点も」


「何」


「テスト全体なら微妙」


「うん」


「俺には嬉しい」


「……」


「何」


「今日のお前ちょっと賢い」


「七点取ったから」


「それは関係ない」


     *


 放課後。


 グラウンド。


「今日は短縮」


 久米先生。


「距離はジョグと四百二本」


「楽」


 湊。


「お前昼千五百走っただろ」


「体育です」


「走ったことに変わりない」


「ゆっくりだったんで」


「四分三十八」


「何で知ってるんですか」


「体育の先生」


「情報共有やめてください」


「学校だぞ」


     *


 ジョグ。


 一ノ瀬。


「四分三十八」


「言わないでください」


「体育で?」


「はい」


「速いじゃん」


「遅いです」


「体育なら速い」


「……」


「何」


「西野も同じこと言ってた」


「へえ」


「立場で変わるって」


「何が」


「速い遅い」


「そりゃ変わるよ」


「先輩の四分四十七も」


 一ノ瀬。


 少し。


「うん」


「普通って言うけど」


「うん」


「体育ならめちゃくちゃ速い」


「そうだね」


「でも陸上だと」


「普通」


「……」


「何」


「難しいですね」


「何が」


「数字」


 一ノ瀬が。


 少し笑う。


「黒瀬がそれ言う?」


「何で」


「一番数字好きそうなのに」


「好きですけど」


「ほら」


「でも」


 湊。


 少し考える。


「同じ数字でも意味変わるんだなって」


「……」


 一ノ瀬。


 少しだけ。


 前を見る。


「そうだね」


     *


 四百。


 二本。


 設定。


 六十七。


 一本目。


 六十六。


「速い」


 久米先生。


「一秒」


「その一秒抑えろ」


「はい」


     *


 二本目。


 六十七。


「よし」


 久米先生。


「珍しくぴったり」


「成長」


 安藤。


「何ですか」


「我慢」


「犬みたいに言うな」


「前いたら追う犬」


「まだ言う」


     *


 練習。


 終わり。


 午後五時一分。


「早い」


 西野。


「図書室?」


 安藤。


「今日も?」


 湊。


「テスト前」


 一ノ瀬。


「帰りたい」


「帰って勉強する?」


「……」


「顔」


「行きます」


     *


 図書室。


 今日は。


 昨日より人が多い。


 テスト前。


 机。


 埋まっている。


「席ない」


 西野。


「四人並びは無理だな」


 安藤。


「二人ずつ?」


 一ノ瀬。


「じゃ」


 西野。


「黒瀬」


「何」


「俺と」


「嫌」


「即答!」


「安藤先輩に教えてもらえ」


「黒瀬は?」


「一人」


「駄目」


「何で」


「逃げる」


「何から」


「教えるの」


「お前の勉強だろ」


     *


 結局。


 湊。


 西野。


 同じ机。


 向かい。


 安藤。


 一ノ瀬。


「黒瀬」


「静かに」


「まだ何も」


「先に言っとく」


     *


 三十分。


「黒瀬」


「何」


「ここ」


「……」


「分かる?」


「分かる」


「教えて」


「まず」


 湊。


 紙。


 書く。


 西野。


 見る。


 珍しく。


 口を挟まない。


「ここを移項」


「うん」


「で」


「うん」


「これ」


「……」


「分かった?」


「ちょっと」


「じゃあ次自分で」


     *


 五分。


「……」


 西野。


 書く。


 消す。


 書く。


「できた」


「見せて」


「……」


 湊。


 見る。


「合ってる」


「マジ?」


「うん」


「っしゃ」


「声」


「すみません」


 司書。


 遠くから。


「静かに」


「すみません……」


     *


 湊。


 笑う。


「何」


 西野。


「いや」


「何だよ」


「昨日と同じ」


「でも今日は一回だけ」


「成長」


「だろ」


     *


 向かい。


 一ノ瀬。


 英語。


 安藤。


 数学。


「安藤」


「何」


「ここ」


「どれ」


 一ノ瀬。


 問題。


「……」


 安藤。


「これ」


「何で」


「この形だから」


「……」


「分かった?」


「分かった」


「本当?」


「多分」


「黒瀬みたい」


「聞こえてますよ」


     *


 午後六時。


 図書室。


 閉館。


「帰れー」


 司書。


「先生雑」


 一ノ瀬。


「毎日残るな」


「テスト前です」


「偉い」


「褒められた」


     *


 外。


「コンビニ?」


 西野。


「今日は帰る」


 湊。


「珍しい」


「飯」


「俺も」


 安藤。


「じゃあ駅まで」


     *


 四人。


 歩く。


 夕方。


 少し。


 涼しい。


「西野」


 一ノ瀬。


「七点おめでとう」


「何で知ってるんですか」


「黒瀬」


「言ってない」


「部室で本人が言ってた」


「俺か」


「自分じゃん」


     *


「次八点」


 安藤。


「はい」


「十点まで行ったら」


 湊。


「どうする」


「焼きそばパン二個」


「ご褒美しょぼ」


「二個だぞ!」


「大会で予選通ったら?」


「高いアイス」


「それ俺との勝負」


「じゃあ両方」


「食いすぎ」


     *


 一ノ瀬。


「黒瀬は?」


「何ですか」


「テストで百点取ったら」


「取れません」


「九十」


「別に」


「ご褒美」


「映画」


「いつも行ってる」


「じゃあ映画二本」


「増えただけ」


「いいじゃないですか」


「本当に映画好きだね」


「はい」


 即答。


「……」


 一ノ瀬が。


 少し笑う。


「何ですか」


「いや」


「何」


「やっぱちゃんとあるじゃん」


「何が」


「好きなもの」


「ありますよ」


「陸上以外」


「それはない」


「はいはい」


     *


 駅。


「じゃあ」


 安藤。


「明日」


「はい」


 一ノ瀬。


「勉強ね」


「部活じゃなく?」


「両方」


「嫌だな」


「どっちが」


「勉強」


「走る方は?」


「嫌い」


「全部嫌じゃん」


「でも行く」


「面倒」


「先輩に言われたくない」


     *


 夜。


 机。


 湊。


 問題集。


 今日。


 西野。


 七点。


 体育。


 四分三十八。


 練習。


 四百六十七秒。


 図書室。


 一問正解。


 数字。


 また。


 多い。


「……」


 スマホ。


 佐伯。


『今日文化祭の買うもの考えた』


『早』


『紙コップとか』


『もう?』


『仮リスト』


『大変そう』


『手伝う?』


『暇なら』


『またそれ』


『何』


『素直じゃない』


『普通』


『ordinary』


『西野くん?』


『今日覚えた』


『仲良し』


『違う』


     *


 少しして。


 西野。


『七点』


「まだ言う」


『知ってる』


『明日八』


『言霊』


『言霊』


     *


 湊。


 机。


 数学。


 一問。


 正解。


 二問。


 不正解。


「……」


 消す。


 今日。


 西野は。


 七点で。


 あれだけ喜んだ。


 一点。


 上がっただけ。


 でも。


 本人には。


 大きい。


 自分も。


 四分十九から。


 十八になれば。


 多分。


 同じように。


 喜ぶ。


 たった一秒。


 でも。


 その一秒を。


 大きいと思う人間の中に。


 少しずつ。


 自分も入っている。


「……」


 湊は。


 シャーペンを置く。


「別に陸上好きじゃないけど」


 誰も聞いていない。


 また。


 言った。


 それから。


 次の問題を。


 解き始めた。

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