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記憶の記録  作者: とも
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21/25

第21話 昼休み

 火曜日。


 朝。


「黒瀬」


「何」


「七点」


「まだテスト受けてないだろ」


「目標」


「昨日六点だったじゃん」


「上がった」


「受ける前から成長するな」


「言霊」


「便利だなそれ」


 西野大地は、英単語帳を机に立てた。


「competition」


「大会」


「record」


「記録」


「improve」


「上達する」


「ordinary」


「普通の」


「……」


 西野が止まる。


「何」


「これ」


「ordinary?」


「うん」


「普通の」


「陸上部で一番よく聞く英単語」


「誰のせいだよ」


「一ノ瀬先輩」


「本人に言え」


「怒られそう」


「怒るだろ」


 左。


 佐伯美咲が笑う。


「朝から勉強してる」


「佐伯」


 西野。


「見直した?」


「少し」


「俺、七点取る」


「十点満点で?」


「うん」


「普通じゃない?」


「……」


 西野が湊を見る。


「黒瀬」


「何」


「ordinary」


「やめろ」


     *


 ホームルーム。


「文化祭企画」


 担任。


「委員、三案出たか」


「はい」


 佐伯。


「一応」


 山下颯太。


「一応って何だ」


「映画上映会」


「お化け屋敷」


「喫茶店」


 担任が黒板に書く。


「映画上映会は権利関係確認」


 湊。


 小声。


「やっぱり」


「予想してた?」


 佐伯。


「うん」


「詳しいね」


「映画好きだから」


「そこ即答なんだ」


「そこは」


 西野。


「黒瀬、好きなものには素直」


「うるさい」


     *


 クラス。


 企画投票。


 黒板。


 一。


 映画上映会。


 二。


 お化け屋敷。


 三。


 喫茶店。


「一人一票」


 担任。


「はい」


 紙。


 湊。


 少し考える。


 映画。


 でも。


 権利。


 機材。


 暗幕。


 教室。


「……」


 喫茶店。


 書く。


     *


 集計。


 映画上映会。


 七票。


 お化け屋敷。


 十四票。


 喫茶店。


 十六票。


「喫茶店に決定」


「えー!」


 西野。


「お化け屋敷惜しい!」


「お前受付しかやらないくせに」


 湊。


「受付も大事!」


「黒瀬何入れた?」


「喫茶店」


「映画じゃないの!?」


「現実的に」


「裏切った!」


「何を」


 佐伯。


「私は映画」


「え」


 湊。


「何」


「佐伯そっち?」


「面白そうだったし」


「でも権利とか」


「そこは委員が考える」


「自分じゃん」


「あ」


 佐伯が笑った。


「危なかった」


     *


 一時間目。


 数学。


「試験に出るぞ」


 教師。


 黒板。


 公式。


 西野。


 書く。


 珍しく。


 真面目。


 湊。


 横を見る。


「何」


 西野。


「いや」


「何だよ」


「ちゃんとやってる」


「失礼」


「昨日まで公式忘れてたのに」


「俺は変わった」


「一日で?」


「人間は変われる」


「テスト終わったら戻るだろ」


「それは未来の俺」


「責任押しつけんな」


     *


 二時間目。


 英語。


 小テスト。


「始め」


 紙。


 十問。


 湊。


 一。


 二。


 三。


 八問目。


 少し迷う。


 九。


 十。


 終わり。


 横。


 西野。


 真剣。


 いつもより。


 本当に。


 真剣。


     *


「返すぞ」


 教師。


 湊。


 九点。


「お」


 西野。


「……」


 答案。


「何点」


 湊。


「……」


「西野」


「……」


「顔」


「言うな」


「六?」


「……」


「六だ」


「何で分かる!」


「やったじゃん」


「七狙った」


「前四だろ」


「でも!」


「二点上がってる」


「……」


 西野。


 答案を見る。


 少し。


 口元が緩む。


「六」


「うん」


「六か」


「嬉しい?」


「まあ」


「出た」


「何が」


「ordinary」


「使い方違う!」


     *


 昼休み。


「今日購買行かないの?」


 佐伯。


「弁当」


 湊。


「西野くんは?」


「行った」


「また焼きそばパン?」


「多分」


「好きだね」


「競技だから」


「購買が?」


「本人いわく」


     *


 窓側。


 昼。


 少し風。


 佐伯。


 湊。


 二人。


 机。


「バイト」


 湊。


「来週土曜から」


「研修?」


「最初は説明だけだって」


「映画見れる?」


「そればっかり」


「重要」


「制度あるって」


「何本?」


「知らない」


「使い放題?」


「たぶん違う」


「調べて」


「私のバイトなのに」


「友達として」


「そこだけ友達使うんだ」


「有効活用」


「最低」


 佐伯は笑う。


     *


「黒瀬くんって」


「何」


「バイトしないの?」


「今は」


「何で」


「面倒」


「即答」


「部活あるし」


「陸上嫌いなのに?」


「部活は行く」


「そこ不思議」


「俺も」


「映画館なら?」


「……」


「やる?」


「無料で見れるなら」


「やっぱり」


「でも接客嫌」


「向いてなさそう」


「何で」


「お客さんに『何でですか』って言いそう」


「言わないよ」


「本当に?」


「多分」


「怖」


     *


 西野。


 戻る。


「取った!」


「何」


 湊。


「焼きそばパン!」


「また」


「ラスト二個!」


「今日は余裕じゃん」


「一個は知らんやつに取られた」


「知らんやつって同じ学校だろ」


「戦場では敵」


「購買だけ世界観違う」


     *


 三人。


 昼。


「佐伯」


 西野。


「何」


「初バイト怖い?」


「ちょっと」


「俺大会」


「何」


「怖くない」


「聞いてない」


「言いたかった」


「西野くん今日ずっと大会のこと考えてる?」


「うん」


「テストは?」


「それも」


「頭大丈夫?」


「両方入ってる」


 湊。


「容量少なそう」


「黒瀬!」


     *


「大会さ」


 佐伯。


「何」


「見に行けるの?」


「一般?」


 湊。


「多分」


「行こうかな」


 西野。


「マジ!?」


「予定なかったら」


「来て!」


「西野くんの百メートル?」


「うん!」


「黒瀬くんは?」


「千五百」


「何時?」


「知らない」


「え」


「十一時くらいだった気がする」


「自分の大会なのに」


「開始時刻だけ覚えてない」


「何覚えてるの」


「集合七時」


「それ一番嫌なやつじゃん」


「だから覚えてる」


     *


「応援したら」


 佐伯。


「速くなる?」


「ならない」


 湊。


「冷た」


 西野。


「なる!」


「なるの?」


「気持ち」


「タイムは」


「気持ちで〇・一」


「科学的根拠」


「ない!」


「堂々と言うな」


     *


 五時間目。


 体育。


 バレーボール。


「また?」


 湊。


「苦手?」


 西野。


「普通」


「出た」


「お前も使うな」


     *


 試合。


 湊。


 サーブ。


 ネット。


「……」


 西野。


 向こう。


「黒瀬!」


「何」


「ordinary!」


「うるせえ!」


 クラスが笑う。


     *


 次。


 西野。


 レシーブ。


 真上。


 自分の顔。


「危な!」


 湊。


「ordinary!」


「黙れ!」


     *


 放課後。


 グラウンド。


 中間一週間前。


 一時間。


「今日は楽?」


 湊。


「お前の楽の基準が分からん」


 久米先生。


「短い」


「短いぞ」


「よし」


「ただし」


「嫌な接続詞」


「千二百一本」


「タイム」


「三分二十二」


「……」


「昨日千が二分五十二だったろ」


「はい」


「余裕持って」


「それなら」


 一ノ瀬。


「顔明るい」


「楽そうなんで」


「走るの嫌いなのに」


「短いなら」


「条件つきで好き」


「違います」


     *


 アップ。


 安藤。


「黒瀬」


「はい」


「今日は抑えろよ」


「分かってます」


「昨日同着だったから」


「はい」


「今日も競争しそう」


「しません」


「本当?」


「設定あるんで」


「偉い」


「俺を何だと思ってるんですか」


「前に人いたら追う犬」


「まだ言う」


     *


 千二百。


 スタート。


 藤原。


 安藤。


 湊。


 一ノ瀬。


 他。


 四百。


 六八。


「速い」


 湊。


 久米先生。


「落とせ!」


 六百。


 一分四十三。


「また速い!」


 安藤。


「藤原先輩が!」


「また人のせい!」


     *


 八百。


 少し落ちる。


 二分十七。


 残り四百。


「そのまま!」


 久米先生。


 湊。


 我慢。


 前。


 安藤。


 その前。


 藤原。


 抜きたい。


 でも。


「……」


 今日は。


 我慢。


 最後。


 ゴール。


「三分二十一!」


「お」


 湊。


「ほぼ設定」


「やればできる」


 久米先生。


「褒め方」


     *


 安藤。


 三分二十。


 湊。


「一秒」


「勝った」


 安藤。


「今日は設定です」


「そう」


「競争じゃない」


「そう」


「……」


「悔しい?」


「少し」


「ほら」


「でも競争じゃない」


「自分に言い聞かせてる」


「うるさいです」


     *


 一ノ瀬。


 三分二十二。


 ゴール。


「……」


 時計。


 見る。


 久米先生。


「澪奈」


「はい」


「今日はいい」


「……はい」


 湊。


 少し。


 見る。


 昨日より。


 表情。


 普通。


 でも。


 時計を。


 もう一度。


 見ていた。


     *


 練習後。


 午後五時三分。


「早」


 湊。


「今日どうする?」


 西野。


「帰る」


「勉強」


「家」


「ファミレス」


「昨日も」


「一昨日も」


「じゃあ今日は」


 西野。


 考える。


「図書館」


「お」


「静かにできる?」


「できる」


「本当に?」


「俺を何だと」


「うるさい人」


「ひど」


     *


 学校の図書室。


 放課後。


 意外と。


 空いている。


 湊。


 西野。


 安藤。


 なぜか。


 一ノ瀬。


「何で先輩たちも」


 湊。


「勉強」


 一ノ瀬。


「家だと寝る」


 安藤。


「俺も」


「普通の理由」


「何を期待してたの」


     *


 図書室。


 静か。


 ページ。


 めくる音。


 シャーペン。


 遠く。


 吹奏楽。


 窓の外。


 運動部。


 声。


 でも。


 ここだけ。


 少し。


 別の学校みたい。


     *


「黒瀬」


 西野。


 小声。


「何」


「ここ」


「声でかい」


「小声だろ」


「存在がでかい」


「何それ」


「問題どこ」


「これ」


 数学。


「……」


 湊。


 見る。


「分かる?」


「……」


「黒瀬?」


「安藤先輩」


「逃げた!」


「静かに」


 司書。


「すみません」


     *


 一時間。


 西野。


 珍しく。


 集中。


 一ノ瀬。


 英語。


 安藤。


 理科。


 湊。


 数学。


 ふと。


 顔を上げる。


 いつも。


 グラウンドにいる人間が。


 今日は。


 全員。


 机に向かっている。


 一ノ瀬が。


 単語帳。


 安藤が。


 計算。


 西野が。


 眉間にしわ。


「……」


 変な感じ。


     *


「何」


 一ノ瀬。


 気づく。


「いや」


「見てた」


「別に」


「何」


「陸上部の人も勉強するんだなって」


「当たり前でしょ」


「グラウンド以外で見ると違和感」


「映画行ってるじゃん」


「それは遊び」


「勉強は人間じゃない?」


「そういう意味じゃないです」


 安藤が。


 笑いをこらえる。


     *


 午後六時十八分。


「帰る?」


 一ノ瀬。


「帰ります」


 湊。


「西野」


「あと一問」


「珍しい」


「ここまでやる」


「成長」


「言うな」


     *


 五分。


「できた!」


 西野。


 声。


「静かに」


 司書。


「すみません!」


 また。


「静かに」


「すみません……」


 湊。


 肩。


 震える。


「笑うな」


「無理」


     *


 外。


 夕方。


「腹減った」


 西野。


「また」


 湊。


「頭使った」


「毎日何か理由つけてる」


「コンビニ」


「行く?」


 一ノ瀬。


「先輩も?」


「お腹空いた」


「ordinary」


 湊。


「何それ」


「普通」


「使い方おかしい」


     *


 コンビニ。


 湊。


 ソーダアイス。


 西野。


 肉まん。


「暑くない?」


 湊。


「食いたかった」


「季節感」


「コンビニに売ってた」


 安藤。


 おにぎり。


 一ノ瀬。


 プリン。


「先輩またプリン」


「好き」


「即答」


「何」


「何でもないです」


     *


 外。


「黒瀬」


 一ノ瀬。


「はい」


「大会」


「何ですか」


「佐伯さん来るの?」


「かも」


「へえ」


「何ですか」


「別に」


「その言い方禁止」


「黒瀬も使うじゃん」


「俺はいいです」


「ずる」


 安藤。


「クラスの子?」


「はい」


「応援?」


「多分」


「いいじゃん」


「何が」


「知ってる人いると」


「速くなる?」


「西野みたいなこと言うな」


     *


「でも」


 安藤。


「俺はちょっと速くなる気する」


「本当に?」


「気持ち」


「〇・一?」


「長距離だから一秒」


「雑」


「じゃあ二秒」


「増えた」


     *


 帰り道。


 湊。


 西野。


 二人。


「黒瀬」


「何」


「今日六点」


「うん」


「昨日四」


「うん」


「二点伸びた」


「すごい」


「百なら?」


「換算するな」


「十二秒二から」


「十秒二」


「速!」


「世界行くじゃん」


「勉強すげえ」


「違う」


 二人。


 笑う。


     *


 夜。


 湊。


 机。


 今日。


 文化祭。


 英語九点。


 西野六点。


 バレー。


 千二百。


 図書室。


 アイス。


 大会。


 全部。


 同じ日。


「……」


 スマホ。


 佐伯。


『文化祭、喫茶店になった』


『知ってる』


『そうだった』


『俺いた』


『忘れてた』


『最低』


『ごめん笑』


『バイト受かったから文化祭準備遅れる日あるかも』


『委員大丈夫?』


『山下くんに頑張ってもらう』


『かわいそう』


『黒瀬くんも手伝って』


『嫌』


『即答』


『映画なら手伝った』


『喫茶店でも』


『何するの』


『机運ぶ』


『それなら』


『やるの?』


 湊。


 少し止まる。


『暇なら』


『出た』


『何』


『理由つけないと手伝えない人』


「……」


 湊は。


 少し笑う。


     *


 数学。


 教科書。


 大会表。


 文化祭。


 全部。


 先の話。


 でも。


 今日一番覚えているのは。


 図書室で。


 西野が一問解けて。


 大声を出して。


 司書に二回怒られたことだった。


 湊は。


 問題集を閉じる。


 明日も。


 たぶん。


 何かある。


 大会までは。


 まだ。


 数日あった。

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