第19話 日曜日
日曜日。
午前九時十二分。
湊は。
ベッドの上。
スマホを見ていた。
「……」
通知。
西野。
『起きてる?』
『寝てる』
『返信してる』
『寝言』
『十時な』
『何が』
『勉強』
『知らない』
『昨日決めた』
『お前が』
『黒瀬も返事した』
『したっけ』
『した』
『証拠』
数秒。
スクリーンショット。
昨日。
『午前勉強午後映画』
その下。
湊。
『何見る』
「……」
『勉強するとは言ってない』
『屁理屈』
『映画の話に反応しただけ』
『十時』
『嫌』
『九時半』
『早くなってる』
『じゃあ十時』
『戻った』
湊はスマホを伏せた。
時計。
九時十三分。
「……」
起きる。
*
午前九時五十八分。
駅前。
「来た!」
西野。
「うるさい」
「二分前!」
「普通」
「絶対来ないと思ってた」
「映画見るから」
「勉強は?」
「ついで」
「逆だろ!」
*
「どこ行く」
湊。
「ファミレス」
「また?」
「ドリンクバー」
「金かかる」
「図書館」
「喋れない」
「勉強する場所だろ!」
「分からないところ聞けない」
「じゃあファミレス」
「結局」
*
駅前。
歩く。
「今日誰来るの」
湊。
「俺と黒瀬」
「二人?」
「あと」
「あと?」
西野がスマホを見る。
「安藤先輩」
「何で」
「昨日頼んだ」
「いつ」
「帰ってから」
「俺聞いてない」
「今言った」
「そういう問題じゃない」
「あと一ノ瀬先輩」
「増えてる」
「夏目先輩も来るかも」
「勉強会って何人まで増えるの」
「多い方が楽しい」
「それ勉強会の発想じゃない」
*
ファミレス。
十時十分。
すでに。
安藤直人。
一ノ瀬澪奈。
いた。
「遅い」
一ノ瀬。
「二分です」
湊。
「集合十時」
「西野と駅集合が十時」
「言い訳」
「先輩たち何時に来たんですか」
「九時五十分」
「早」
「普通」
「出た」
*
テーブル。
教科書。
ノート。
筆箱。
ドリンク。
「西野」
安藤。
「昨日の公式」
「はい」
「言って」
「……」
「忘れた?」
「忘れてないです」
「じゃあ」
「今、喉まで出てます」
「出して」
「……」
「喉詰まってる?」
一ノ瀬。
「助けてください」
「黒瀬」
「何」
「言ってやって」
「嫌」
「友達だろ」
「こういう時だけ使うな」
*
湊。
数学。
一ノ瀬。
英語。
安藤。
数学と理科。
西野。
全部。
「何で全部分からないの」
湊。
「全部は分かる」
「じゃあどこ」
「問題文」
「全部じゃん」
*
三十分。
「黒瀬」
一ノ瀬。
「はい」
「これ」
「英語?」
「うん」
「俺に?」
「分かる?」
「多少」
「ここ」
湊が見る。
「……」
「何」
「先輩」
「うん」
「これ中学範囲じゃないですか」
「うるさい」
「え」
「うるさい」
「何で怒るんですか」
「分かんなかったから!」
「普通に言えばいいのに」
「黒瀬にだけは言われたくない」
「何で」
「すぐ煽る」
「煽ってないです」
「今の顔」
「顔で判断しないでください」
*
十時五十二分。
入口。
「おはよー」
夏目葵。
「増えた」
湊。
「何その反応」
「いや」
「嫌?」
「嫌じゃないです」
「じゃあいいじゃん」
「その理論最近多くないですか」
「便利だから」
*
夏目。
席。
「みんな何やってる?」
「数学」
西野。
「死んでます」
湊。
「俺も数学」
安藤。
「英語」
一ノ瀬。
「黒瀬は?」
「数学」
「得意?」
「普通」
一ノ瀬。
「また」
「何ですか」
「普通好きだね」
「好きじゃないです」
「口癖?」
「先輩の方が言ってます」
*
十一時二十分。
「休憩!」
西野。
「早い」
安藤。
「一時間以上やりました」
「お前半分喋ってた」
湊。
「頭使うと腹減る」
「まだ昼前」
「ポテト」
「頼むの?」
「みんなで」
「勝手に人数で割るな」
*
結局。
ポテト。
一皿。
「黒瀬」
西野。
「何」
「一本何円くらい?」
「知らん」
「数学」
「そういう数学じゃない」
「総額三百九十九円」
「本数数えろって?」
「うん」
「嫌」
一ノ瀬が。
「数える?」
「先輩も乗らないでください」
*
ポテト。
一ノ瀬。
二本。
夏目。
三本。
安藤。
一本。
西野。
五本。
「お前取りすぎ」
湊。
「早い者勝ち」
「陸上部だな」
夏目。
「短距離有利」
「食事に競技性持ち込むな」
*
十一時四十七分。
湊のスマホ。
通知。
佐伯美咲。
『今なにしてる?』
「……」
一ノ瀬。
「誰?」
「何で覗くんですか」
「見えてないよ」
「じゃあ聞かないでください」
「顔」
「また!」
西野が。
「佐伯?」
「お前は何で分かる」
「日曜にLINE来そうなの佐伯くらい」
「偏見」
「当たり?」
「……」
「当たり」
「ほら」
*
『勉強』
湊。
『え』
『何』
『日曜に?』
『失礼』
『誰と』
「……」
湊。
少し止まる。
『西野と先輩たち』
『へえ』
『佐伯は』
『今から買い物』
『面接の結果まだ?』
『まだ』
『遅いな』
『昨日受けたばっか』
『そうだった』
『忘れてた?』
『少し』
『最低』
『覚えてたから聞いた』
『じゃあ許す』
「……」
湊はスマホを置く。
「何にやけてんの」
西野。
「にやけてない」
「顔」
「全員顔やめろ!」
*
十二時。
「飯」
西野。
「さっきポテト食った」
湊。
「ポテトは前菜」
「高校生怖」
「ハンバーグ」
「俺は軽いのでいい」
「何」
「パスタ」
「軽い?」
「気持ち」
「量じゃないの?」
*
注文。
待つ。
安藤。
「映画何見るの?」
「まだ」
湊。
「決めてないの?」
「選ぶのも楽しいんで」
「何でも見る?」
「だいたい」
「恋愛映画も?」
一ノ瀬。
「見ますよ」
「へえ」
「何ですか」
「もっと嫌いそう」
「偏見」
「泣く?」
「作品による」
「泣くんだ」
「前も見たでしょ」
「確認」
「何の」
「今日も泣くかなって」
「泣きません」
「まだ作品決まってないのに」
「……」
夏目が笑う。
*
「じゃあさ」
西野。
「今日全員映画行けば?」
湊。
「全員?」
「勉強終わったら」
一ノ瀬。
「いいね」
夏目。
「私も行ける」
安藤。
「俺も別に」
「……」
湊が見る。
「また増えた」
「嫌?」
一ノ瀬。
「嫌じゃないです」
「じゃあ決まり」
「それ昨日もやった気がする」
*
十二時五十分。
昼食。
「大会の前の週に映画」
安藤。
「いいんですかね」
湊。
「何が」
「もっと集中とか」
「黒瀬がそれ言う?」
一ノ瀬。
「何ですか」
「大会楽しみになってる」
「別に」
「でも気にしてる」
「出るからには」
「勝ちたい?」
「はい」
「即答」
「そこは」
「好きじゃないけど勝ちたい」
安藤。
「一番面倒なタイプ」
「何でですか」
「負けると悔しいのに、好きだから頑張れるって逃げ道がない」
「……」
湊。
少し考える。
「逃げ道?」
「俺はさ」
安藤。
「遅くても、好きだから続けるって言える」
「はい」
「一ノ瀬も」
「うん」
「でも黒瀬って」
「はい」
「嫌いなのに負けたら悔しいんだろ」
「……」
「大変そう」
湊は。
フォークでパスタを巻く。
「別に」
「顔」
「やめてください」
*
一時半。
再開。
「あと三十分」
湊。
「短」
西野。
「映画時間調べる」
「もう勉強終わる気?」
「終わる」
「俺まだ数学」
「家でやれ」
「黒瀬が言うな」
*
上映時間。
十四時四十分。
「これ」
湊。
「何」
一ノ瀬。
「人間ドラマ」
「暗い?」
「ちょっと」
西野。
「怖くない?」
「怖くない」
「本当に?」
「幽霊出ない」
「じゃあいい」
「基準そこなんだ」
*
二時十四分。
ファミレスを出る。
「結局四時間」
湊。
「勉強二時間半」
安藤。
「十分じゃん」
「西野は?」
「成長した」
「何点」
「五十」
「また上がった」
「すげえだろ」
「予定だけな」
*
映画館。
券売機。
「黒瀬」
一ノ瀬。
「はい」
「また端?」
「端」
「毎回」
「落ち着く」
「じゃあ隣誰」
「誰でも」
「……」
「何ですか」
「別に」
「その言い方最近多いですよ」
*
席。
端から。
湊。
一ノ瀬。
西野。
安藤。
夏目。
「何で俺真ん中」
西野。
「嫌なの?」
安藤。
「両側人いる」
「知ってる人だろ」
「何か圧迫感」
「映画館向いてない」
*
上映。
始まる。
*
高校生の兄妹。
父親。
古い家。
夏。
引っ越し。
特別な事件は。
ほとんど起きない。
食卓。
駅。
自転車。
夕立。
少しずつ。
家族が。
離れていく。
*
終盤。
兄。
大学進学。
家を出る日。
妹が。
駅まで送る。
特に。
泣かない。
大げさな別れもない。
「じゃあね」
「うん」
それだけ。
電車。
走る。
妹。
帰る。
翌日。
普通に。
学校へ行く。
*
エンドロール。
「……」
湊。
動かない。
一ノ瀬。
横。
何も言わない。
*
明るくなる。
「黒瀬」
「何ですか」
「泣いた?」
「泣いてない」
「今回は泣いてた」
「泣いてない」
「目赤い」
「暗かったから」
「それ前も」
「今回は乾燥」
「映画館で?」
「空調」
「強い」
安藤。
「黒瀬、映画館では毎回何かのせいにするの?」
「泣いてないから」
夏目。
「私は泣いたよ」
「ですよね」
「何で夏目には素直なの」
一ノ瀬。
「先輩が絡んでくるから」
「何それ」
*
映画館を出る。
午後四時五十一分。
「どこがよかった?」
一ノ瀬。
「……」
湊。
「最後」
「また?」
「何が」
「前の映画も最後って言ってた」
「違う最後」
「どこ」
「妹が次の日普通に学校行くところ」
「そこ?」
西野。
「兄が出てくところじゃなくて?」
「そこもだけど」
「何で次の日」
「……」
湊。
少し考える。
「何かあっても」
「うん」
「次の日って来るじゃん」
「まあ」
「それがいい」
「……」
安藤。
少し笑う。
「黒瀬っぽい」
「それ最近便利に使われすぎ」
*
「このあと?」
夏目。
「帰る」
湊。
「早」
「今日は勉強した」
「映画も見た」
「十分」
一ノ瀬。
「アイス」
「また?」
「映画の後は」
「いつからそのルール」
「今」
「適当」
*
コンビニ。
五人。
「黒瀬」
西野。
「何」
「高いやつ買わないの」
「大会で勝ったら」
「まだ続いてた」
「お前との約束だろ」
「俺も?」
「お前も上まで行った方が勝ち」
「忘れてなかった」
「何で忘れるんだよ」
「黒瀬そういうの覚えるんだ」
「勝負だから」
「やっぱり」
*
アイス。
食べる。
「大会さ」
西野。
「うん」
「俺、予選通りたい」
「うん」
「でも」
「何」
「十二秒二だと厳しい」
「そうなの」
「多分」
「じゃあ十二秒一」
「簡単に言うな」
「お前が毎日言ってる」
「それは言霊」
「便利だな」
*
「黒瀬は?」
安藤。
「何ですか」
「四分十九」
「はい」
「予選」
「通ります」
「また言い切る」
「言うだけなら」
「それ昨日も聞いた」
「便利なんで」
「じゃあ俺も」
「何を」
「通る」
「……」
「決勝で会おう」
安藤。
笑う。
湊も。
「はい」
*
帰り。
電車。
今日は。
一人ではない。
一ノ瀬。
途中まで同じ。
「黒瀬」
「はい」
「今日楽しかった?」
「映画?」
「全部」
「全部?」
「勉強会から」
「……」
電車。
揺れる。
「まあ」
「出た」
「何ですか」
「好き寄り」
「違います」
「じゃあ楽しくなかった?」
「楽しかったです」
「ほら」
「それとこれ別でしょ」
「何と何」
「部活」
「今日ほぼ部活してないけど」
「……」
「勉強して、映画見て、アイス食べただけ」
「でも部活の人と」
「そう」
「……」
湊。
窓を見る。
「変ですね」
「何が」
「まだ入って一か月くらいなのに」
「うん」
「日曜までいる」
「嫌?」
「……」
「また考える」
「嫌じゃないです」
「ならいいじゃん」
「先輩それ好きですね」
「便利だから」
*
駅。
一ノ瀬。
「じゃあ明日」
「学校ですね」
「部活も」
「はい」
「走るね」
「嫌です」
「でも来る」
「行きます」
「ふふ」
「何ですか」
「別に」
「それ禁止」
*
夜。
机。
教科書。
大会表。
映画の半券。
ソーダアイスの棒。
「……」
湊。
棒を見る。
「何で持ってきたんだ」
捨てる。
数学。
開く。
一問。
解く。
正解。
「お」
次。
正解。
「……」
少し。
気持ちいい。
スマホ。
西野。
『数学分かってきた』
『よかったな』
『勉強ちょっと面白い』
湊。
止まる。
『好き?』
『嫌い』
『同類』
『違う』
「……」
笑う。
*
今日。
勉強した。
映画を見た。
アイスを食べた。
大会の話をした。
でも。
一歩も。
本気では走っていない。
それでも。
陸上部の人間と。
一日の半分以上を過ごした。
湊は。
その事実を。
少しだけ不思議に思った。
陸上が好きだから。
一緒にいるわけではない。
速くなりたいから。
映画を見るわけでもない。
大会で勝ちたいから。
数学を教えるわけでもない。
「……」
そういうものが。
少しずつ。
別々に。
増えている。
翌日は。
月曜日。
学校。
授業。
部活。
また。
いつもの一週間が始まる。
湊は。
目覚ましをセットした。
六時四十分。
「早」
それでも。
解除はしなかった。




