第18話 五時半
金曜日。
「黒瀬くん」
「何」
「今日」
「面接」
「……覚えてた」
「昨日言ってただろ」
朝。
佐伯美咲は、いつもより少しだけ早く教室に来ていた。
制服。
髪。
鞄。
何も。
普段と変わらない。
でも。
机に座ってから。
何度もスマホの画面を確認している。
「何時?」
「五時半」
「学校終わってから結構あるな」
「一回家帰る」
「制服で行くんでしょ?」
「うん」
「じゃあ何で帰るの」
「髪直したいし」
「今と何が違うの」
「黒瀬くんには分からない」
「何で」
「分からなそうだから」
「偏見」
後ろから。
「佐伯!」
西野大地。
「何」
「今日だろ!」
「うん」
「頑張れ!」
「ありがとう」
「受かったら映画無料!」
「私がね」
「俺らは?」
「有料」
「意味ないじゃん!」
「何で西野くんのために働くの」
「友達割」
「ない」
「黒瀬も昨日言ってた」
佐伯が言う。
「言ってない」
「言いそう」
「それは分かる」
「西野」
「何」
「俺を勝手に使うな」
*
朝のホームルーム。
「来週から中間考査一週間前だ」
担任が言った。
一瞬。
教室が静かになる。
次の瞬間。
「うわ」
「忘れてた」
「終わった」
「早い」
ざわざわ。
「終わってない。始まってもない」
担任。
「部活動は原則短縮。大会のある部は顧問の指示に従え」
西野が湊を見る。
「黒瀬」
「嫌」
「まだ何も言ってない」
「勉強教えて、だろ」
「何で分かった」
「顔」
「最近みんな顔で判断しすぎじゃない?」
「お前が分かりやすい」
「日曜」
「映画」
「また?」
「まだ何見るか決めてないけど」
「じゃあ午前勉強」
「午後映画」
「俺も行く」
「何で」
「勉強したご褒美」
「お前のご褒美に俺を巻き込むな」
*
二時間目。
数学。
「ここ」
教師が黒板を叩く。
「試験に出す」
一斉に。
ノート。
「先生」
西野。
「何だ」
「どこからどこまでですか」
「今説明した」
「もう一回」
「聞いてろ」
「聞いてました!」
「じゃあ答えろ」
「……」
「聞いてないな?」
「聞いてましたけど、頭に残りませんでした」
教室が笑う。
教師がため息。
「西野」
「はい」
「試験範囲表を後で配る」
「ありがとうございます!」
「最初からそれ待ってただろ」
「はい」
「正直だな」
*
プリント。
数学。
英語。
現代文。
古典。
理科。
社会。
ずらり。
「多」
西野。
「普通だろ」
湊。
「普通って便利だな」
「一ノ瀬先輩がよく言う」
「また先輩」
「何」
「黒瀬最近一ノ瀬先輩の話するよな」
「部活一緒だから」
「へえ」
「何だよ」
「別に」
「その顔やめろ」
*
昼休み。
四人。
湊。
西野。
佐伯。
山下颯太。
「今日さ」
山下。
「文化祭委員の集まりある」
「ご愁傷さま」
湊。
「他人事みたいに言うな」
「他人事だから」
「お前推薦されてたんだぞ」
「回避した」
「ずるい」
「運」
「俺じゃんけん負けたんだぞ」
「運」
「腹立つ!」
佐伯が笑う。
「私も行くから」
「佐伯は自分からやったじゃん」
「うん」
「理解できない」
湊。
「そんな?」
「放課後潰れる」
「別にいいよ」
「何で」
「文化祭楽しそうだし」
「本番?」
「準備も」
「……」
湊が少し止まる。
「準備?」
「うん」
「まだ何やるかも決まってないのに」
「だからじゃない?」
「何が」
「決めるところから楽しいんじゃん」
湊は。
少しだけ考える。
中学。
文化祭。
段ボール。
ガムテープ。
遅くまで残った教室。
何をやったのか。
本番の細かいことは。
あまり覚えていない。
でも。
床に散った段ボールだけは。
妙に覚えている。
「……まあ」
「何」
「分からなくはない」
「珍しい」
「何が」
「黒瀬くんが学校行事に肯定的」
「学校行事嫌いとは言ってない」
「体育祭とか本気出しそう」
山下。
「出す」
「即答」
「リレーなら」
「やっぱ勝負になると違う」
佐伯。
「勝つならちゃんとやる」
「陸上好きじゃないのに?」
「それ関係ない」
「本当にそこだけ一貫してるな」
西野。
*
「そういえば」
山下。
「黒瀬、陸上の大会出るんだろ?」
「うん」
「何走るの」
「千五百」
「長」
「俺もそう思う」
「何分?」
「四分十九」
「え」
「何」
「速いの?」
「……」
湊が止まる。
「高校の陸上部なら」
少し考える。
「まあまあ?」
「曖昧」
「俺もまだ分からん」
「西野は?」
「百」
「何秒」
「十二秒二!」
即答。
「おお」
山下。
「速そう」
「だろ!」
西野の顔が。
明らかに明るくなる。
「昨日出た!」
「マジ?」
「うん!」
「黒瀬には昨日から何回も言ってる」
「多分十三回くらい」
「数えてたの?」
「途中から」
「黒瀬、四分十九は?」
山下。
「一回でいい」
「何で西野と違うの」
「こいつが異常」
「記録出たら嬉しいだろ!」
「嬉しいよ」
「じゃあ言え!」
「四分十九」
「棒読み!」
*
午後。
五時間目。
現代文。
眠い。
暖かい。
教室。
教師の声。
チョーク。
窓の外。
体育館から。
バスケットボールの音。
ダン。
ダン。
きゅっ。
湊の目が。
ほんの少しだけ。
窓へ向く。
「黒瀬」
「はい」
「読め」
「どこですか」
「聞いてなかったな」
「……はい」
教室が笑う。
「正直でよろしい」
*
放課後。
佐伯が鞄を持つ。
「じゃあ」
「面接?」
西野。
「うん」
「頑張れ!」
「ありがとう」
「映画無料!」
「だから私だけ!」
佐伯が笑う。
「黒瀬くん」
「何」
「何かないの」
「何か?」
「最後に」
「……」
湊は少し考える。
「質問されたら、映画無料か聞いてきて」
「それ今聞く!?」
「重要」
「落ちたら黒瀬くんのせいね」
「聞かなきゃいいじゃん」
「じゃあ聞かない」
「そこは聞いてよ」
「どっち!」
「頑張れ」
「……」
「何」
「言えるじゃん」
「言えるよ」
「じゃあ最初から言って」
「今言った」
「遅い」
「面接はまだだろ」
「そういうことじゃない」
佐伯は。
少し笑って。
「行ってきます」
「うん」
*
グラウンド。
中間前。
短縮。
「今日は軽く」
久米先生。
「長距離は三十分ジョグと流し。短距離も調整」
「いい部活」
湊。
「大会前だからな」
「毎日これなら」
「速くならんぞ」
「じゃあ駄目」
一ノ瀬澪奈が。
隣で笑う。
「速くなりたいんじゃん」
「速くはなりたいです」
「走るのは?」
「嫌い」
「もう聞かなくても答え分かる」
「じゃあ聞かないでください」
*
三十分。
ゆっくり。
藤原。
安藤。
一ノ瀬。
湊。
他。
トラック。
話せる速度。
「黒瀬」
安藤直人。
「はい」
「テストどう?」
「まだ」
「得意?」
「普通」
一ノ瀬が。
「出た」
「何ですか」
「普通」
「先輩に言われたくない」
「私は本当に普通」
「俺もです」
「数学何点取れそう?」
安藤。
「八十くらい」
「普通じゃないじゃん」
「いや普通でしょ」
「西野は?」
「三十」
一ノ瀬。
「何で先輩が知ってるんですか」
「さっき本人が言ってた」
「情報広まるの速いな」
「陸上部二十七人いるから」
「関係ないでしょ」
*
一周。
二周。
「安藤先輩」
「何」
「勉強得意ですか」
「まあまあ」
「何点くらい」
「数学九十前後」
「……」
「何」
「意外」
「失礼だな」
「もっと陸上一筋かと」
「どういう偏見?」
一ノ瀬。
「安藤、学年十位くらいだよ」
「マジですか」
「うん」
「すご」
「一ノ瀬は?」
安藤。
「聞かなくていい」
「何位」
「聞かなくていい」
「何位ですか」
湊。
「……四十」
「普通」
「言うな!」
*
三十分。
終わり。
流し。
百メートル。
軽く。
一ノ瀬。
安藤。
湊。
「競争じゃないぞ」
藤原。
「分かってます」
「黒瀬」
「はい」
「お前に言ってる」
「分かってますって」
スタート。
軽く。
五十。
安藤。
少し前。
「……」
湊。
速度。
上がる。
「黒瀬!」
久米先生。
「流し!」
「はい!」
「上げるな!」
「安藤先輩が!」
「また俺!?」
安藤が笑う。
*
短距離。
西野。
今日は計測なし。
「十二秒一出したい」
「昨日二出したばっかだろ」
湊。
「だから」
「一日くらい喜べよ」
「喜んだ」
「もう終わり?」
「次」
「早いな」
「黒瀬も四分十八だろ?」
「……」
「ほら」
「まあ」
「同類」
「違う」
「何が」
湊は少し考えた。
「分からん」
「認めろ!」
*
午後五時十二分。
練習終了。
早い。
「まだ明る」
湊。
「いつもこれくらいならいいのに」
「試験前だけ」
夏目葵。
「テスト最高」
「点数取ってから言って」
「それは別」
*
部室。
「黒瀬」
西野。
「何」
「勉強」
「今日?」
「ファミレス」
「嫌」
「明日土曜」
「明日も部活」
「終わったあと」
「それなら明日でいいだろ」
「今日も」
「何時間やる気だよ」
「一時間」
「絶対一時間で終わらない」
「じゃあ四十五分」
「短くするな」
*
結局。
駅前。
ファミレス。
湊。
西野。
そこへ。
「勉強?」
安藤。
「はい」
「俺もいい?」
「お願いします!」
西野が即答。
「黒瀬より頭いいらしいです!」
「お前それ本人に言うな」
「何で」
「俺が馬鹿みたいだろ」
「黒瀬も八十取るじゃん」
「予定な」
「俺三十」
「予定でも低いな」
*
三人。
テーブル。
数学。
「西野」
安藤。
「ここ」
「はい」
「まず公式」
「はい」
「覚えてる?」
「……」
「そこから?」
湊。
「黒瀬うるさい」
「だって」
「じゃあ黒瀬はこれ」
安藤。
「何ですか」
「解いて」
「いいですよ」
五分。
「……」
湊の手が止まる。
「先輩」
「何」
「分かりません」
「ほら」
西野。
「仲間!」
「お前と一緒にすんな」
「分からないんだろ!」
「一問だけ!」
「俺は全部!」
「誇るな!」
安藤が笑う。
*
三十分。
一時間。
「もう帰らない?」
湊。
「まだ」
西野。
「お前が一番言うんだ」
「ちょっと分かってきた」
「珍しい」
「黒瀬」
「何」
「勉強って」
「うん」
「分かるとちょっと面白い」
「……」
「何その顔」
「陸上と同じこと言ってる」
「え」
「記録伸びると面白い」
「……」
「点取れると面白い」
「……」
二人。
黙る。
「勉強好き?」
湊。
「嫌い」
「俺も」
「同類じゃん」
「違う」
「一緒だろ!」
安藤が笑いすぎて。
水を飲んだ。
*
午後六時七分。
スマホ。
震える。
湊。
画面。
佐伯。
『終わった』
「……」
「佐伯?」
西野。
「何で分かった」
「顔」
「また顔」
「どうだったって聞いて!」
「自分で送れよ」
「今数学中」
「俺もだよ」
湊。
『どうだった』
送る。
一分。
『たぶん普通』
「普通」
「何?」
安藤。
「面接」
「誰の?」
「クラスの子」
西野。
「映画館」
「へえ」
湊。
『何聞かれた』
『志望動機とか、週何回入れるかとか』
少しして。
『あと』
『何』
『最後に映画無料で見れますかって聞いた』
「……」
湊。
笑う。
「何!?」
西野。
「聞いたって」
「何を」
「無料で映画見れるか」
「マジ!?」
「強い」
安藤。
「受かるのかな」
西野。
「そこ重要じゃない?」
湊。
「お前もそっちかよ」
*
『笑ったでしょ』
『少し』
『最低』
『でも大事』
『でしょ』
『何て言われた』
『福利厚生で鑑賞制度あるって』
「……」
「黒瀬」
西野。
「何」
「顔」
「何」
「嬉しそう」
「制度あるって」
「お前関係ない!」
「友達割」
『友達無料?』
送る。
即。
『ない』
「……」
「なかった?」
「ない」
「残念」
*
『結果は後日連絡だって』
『そっか』
『落ちたらどうしよう』
湊の指。
少し止まる。
『また別探せば』
送る。
数秒。
『慰める気ゼロ』
『映画一本』
『奢り?』
『自腹』
『最低』
「……」
湊が笑う。
「何だよ」
西野。
「別に」
「怪しい」
「数学やれ」
「逃げた」
*
午後七時。
店を出る。
「結局二時間」
湊。
「俺、今日成長した」
西野。
「数学?」
「うん」
「何点取れそう」
「四十」
「十点上がった」
「すごいだろ」
「低いところからだと成長率高いな」
「黒瀬ムカつく」
安藤。
「でもその考え方、陸上でもあるよ」
「何が」
「始めたばっかの時は伸びやすい」
「……」
「俺じゃん」
湊。
「そう」
「じゃあそのうち止まる?」
「たぶん」
「嫌だな」
「その時からが長いんだよ」
「……」
安藤は。
何でもないように言った。
「一年で一秒縮めるのに必死になる」
「一秒?」
「うん」
「長距離で?」
「長距離でも」
「……」
湊は。
少し。
その言葉を考えた。
今。
七秒。
簡単に。
ではない。
でも。
短い期間で。
縮んだ。
四分二十六。
四分十九。
次。
十八。
十七。
十五。
その先。
ずっと。
同じように。
縮むわけではない。
*
駅。
安藤。
「じゃあ明日」
「はい」
「西野、公式忘れるなよ」
「はい!」
「黒瀬」
「何ですか」
「お前も」
「俺も?」
「一問間違えてた」
「……」
「仲間」
西野。
「違う!」
*
電車。
湊。
一人。
窓。
暗くなった街。
スマホ。
グループチャット。
一ノ瀬。
『明日8時集合ね』
橘。
『雨?』
夏目。
『晴れ』
橘。
『UNOできない』
城戸。
『練習しろ』
橘。
『はい』
その直後。
『UNO持っていく?』
城戸。
『持ってくるな』
「……」
湊は笑う。
*
土曜日。
午前七時四十九分。
校門。
「眠い」
湊。
「おはよ!」
西野。
「元気だな」
「数学四十点男」
「まだ取ってないだろ」
「予定」
「低い目標を誇るな」
「黒瀬は?」
「八十」
「四分十八」
「何で混ぜる」
「どっちも目標」
「まあ」
*
グラウンド。
今日は。
大会を意識した練習。
長距離。
千五百メートル。
一本。
「マジ?」
湊。
「マジ」
久米先生。
「昨日軽かったじゃないですか」
「だから今日」
「騙された」
「何も騙してない」
「何分設定?」
「今日はタイム狙わない」
「……」
「何その顔」
「じゃあ何するんですか」
「レースの練習」
「レースの?」
「ペースじゃなく、位置取り」
「……」
少し。
湊の顔が変わる。
久米先生が笑う。
「そういうの好きそうだな」
「走るだけより」
「ほら」
一ノ瀬。
「陸上好き」
「違う」
*
六人。
藤原。
安藤。
湊。
二年。
一年。
もう一人。
「最初から前出るなよ」
久米先生。
「今日は集団で走れ」
「はい」
スタート。
最初。
遅い。
七十二。
七十三。
湊。
違和感。
いつもなら。
前。
追う。
今日は。
人。
前。
横。
後ろ。
足。
腕。
息。
近い。
「……」
走りにくい。
三百。
前の二人が並ぶ。
隙間。
ない。
湊。
外へ。
「黒瀬、外回りすぎ!」
久米先生。
「はい!」
でも。
入れない。
五百。
安藤が前。
藤原。
その後ろ。
二人。
湊。
五番目。
「……」
遅い。
でも。
抜けない。
六百。
少し。
苛立つ。
外。
また。
「黒瀬!」
「分かってます!」
*
八百。
安藤。
突然。
少し上げる。
「!」
集団。
伸びる。
湊。
一人抜く。
もう一人。
残り五百。
藤原。
安藤。
湊。
三人。
残り三百。
藤原が外。
湊。
その後ろ。
安藤。
「……」
残り二百。
全員。
上がる。
湊。
藤原を追う。
安藤も。
横。
「っ!」
最後。
藤原。
湊。
安藤。
ゴール。
「四分二十四」
久米先生。
「……」
湊は時計を見る。
遅い。
四分二十四。
でも。
息は。
かなり。
上がっている。
「何これ」
湊。
「レース」
藤原。
「走りづら」
「それが普通」
「一人で走る方が楽」
「大会は一人じゃない」
「……」
*
久米先生。
「黒瀬」
「はい」
「最初外回りすぎ」
「入れませんでした」
「そこ」
「はい」
「速いだけじゃ駄目」
「……」
「自分より遅いペースでも、前塞がれたら走れない」
「はい」
「焦って外から抜くと距離も増える」
「はい」
「大会で覚えろ」
「今日じゃ駄目なんですか」
「今日で全部覚えられるなら誰も苦労しない」
安藤が。
少し笑った。
「黒瀬」
「はい」
「大会、面倒だろ」
「ちょっと」
「でも」
「何ですか」
「こういうのも面白いよ」
「……」
「抜く場所とか」
「それは」
湊。
少し考える。
「まあ」
一ノ瀬。
「出た」
「何」
「まあ」
「だから何ですか」
「黒瀬の『まあ』、結構好き寄り」
「勝手に翻訳しないでください」
*
練習後。
十一時。
「今日ファミレス?」
西野。
「昨日行った」
湊。
「じゃあコンビニ」
「毎日何か食うな」
「腹減るだろ」
「まあ」
「出た」
一ノ瀬。
「先輩まで!」
*
コンビニ。
今日は。
湊。
西野。
安藤。
一ノ瀬。
橘。
「黒瀬」
橘。
「何」
「これ」
新刊漫画。
「買うの?」
「うん」
「練習帰りに?」
「練習帰りだから」
「どういう理屈」
「頑張ったご褒美」
西野。
「俺もアイス」
「昨日十二秒二記念?」
湊。
「今日は数学頑張った記念」
「何でも記念にするな」
「黒瀬は?」
「ソーダアイス」
「また?」
「安い」
「好きなんじゃん」
「味も好き」
「最初からそう言え」
*
店の前。
五人。
食べる。
「安藤先輩」
湊。
「何」
「さっき」
「うん」
「安藤先輩が上げたところ」
「八百?」
「はい」
「何で」
「黒瀬が後ろでイライラしてたから」
「は?」
一ノ瀬が笑う。
「見抜かれてる」
「わざと?」
「うん」
「性格悪」
「レースってそういうもんだよ」
「……」
「相手が嫌がるところで動く」
「へえ」
湊。
アイス。
一口。
「面白い」
一瞬。
全員。
止まる。
「何」
「黒瀬」
一ノ瀬。
「今」
「何ですか」
「面白いって」
「戦い方が」
「陸上」
「戦い方!」
「はいはい」
「違いますって!」
*
帰宅。
午後。
机。
試験範囲表。
数学。
英語。
大会。
そして。
スマホ。
佐伯。
『昨日ありがと』
「……」
『何が』
『頑張れって』
『それだけ』
『それが』
湊。
少し。
画面を見る。
『受かるといいな』
送る。
数秒。
『珍しく優しい』
『取り消す』
『もう見た』
『じゃあ忘れて』
『嫌』
「……」
湊は笑った。
*
数学。
一問。
二問。
三問。
途中。
大会のことを思い出す。
集団。
前。
外。
隙間。
安藤が上げた場所。
「……」
面白い。
確かに。
そう思った。
でも。
走るのが好きなのか。
と言われれば。
「違う」
誰も聞いていない部屋で。
わざわざ言う。
そして。
また数学。
数分。
スマホ。
西野。
『日曜勉強な』
『映画』
『午前勉強午後映画』
『何見る』
『ホラー以外』
『じゃあホラー』
『嫌』
『短距離なのに』
『関係ない』
湊は。
机に突っ伏して。
笑った。
大会。
テスト。
映画。
面接。
文化祭。
今はまだ。
どれも途中だった。
だから。
明日も。
やることがあった。




