第9話 家計の会議
「それでは第1回、家計会議を始めまーす!」
「おー!」
「おー?」
「がんばってね、シュリ」
シュリの第一声に、アイリスは元気に、ボクは戸惑いつつ、リアは温かく反応した。
お金がすぐに無くなりそうだから、就職しないといけない、とシュリに相談したは良いものの。
家計会議って何?
で、なんでアイリスはそんなにテンション高いの?
『家計』会議っていうくらいだから、難しい話になるはずだよね?
アイリスが一番苦手だと思うんだが……?
まあ、シュリが企画してくれたことだし、シュリの話に、ボクも積極的に意見を出そう。
「じゃあプリムラちゃん、後よろしくねー!」
「え!?」
嘘!? 丸投げ!?
シュリが何か話すと思ってたから、話すこと何も決めてないよ!?
っていうかニヤニヤ見てくるリアは本当に何!?
……1回落ち付こう。
元々、ボクも何か話し合いの場を持とうとは思ってた。
それが突然すぎたからびっくりしたけど、いつかが今になっただけ。
むしろ好都合と言えるかも知れない。
「え、えっと……まず現状から話そうか」
「昨日路銀を使い切ったから、手元にあるのはエキナセア様からいただいた60万ライト。3人で使ったら1ヶ月でなくなるくらい」
「悪魔を倒すには、はじめにこの大量の人口の中から潜伏している悪魔を見つけ出さないといけない。だから、少なく見積もっても2ヶ月はかかる」
「食費を削ればもう少し長く持つけど、精神の回復にお金を惜しみたくはない」
「だから、ボク達はお金を稼ぎつつ、潜伏している悪魔の正体を暴く。ここまでで質問は?」
「はい! お腹すいた!」
なぜ今!?
なぜ今それを言う!?
ボクの話聞いてた!?
「……昨日のカバンから、りんごを取って食べな」
「やったー!」
……こいつ本当に天齢17歳か……?
もう少し、空気を読んで……。……。
……まあ、いつものことか。
「……アイリスには説明しても分からないと思うから、続けるね」
シュリは苦笑するようにはにかみ、「うん」と続きを促してくる。
「1ヶ月あたり3人で60万ライトの支出があるとして、ボク達はそれ以上の額を稼がないといけない。
それと並行して、悪魔が誰か突き止めないとだから、職場はなるべく情報が入って来やすい場所がいいかな」
「なるほどー。確かにそうだね」
「でもほら、ボク達、外見年齢低いでしょ? だからそんな都合の良い仕事にこぎつけられるかどうか……」
働くのに年齢制限は基本的にないとは言え、たまに子どもの従業員を規制しているところもある。
そういう例外を無視しても、ボク達みたいな子どもは舐められかねないし、採用もしてもらいにくいような気がする。
そもそも就職できるかどうかさえ怪しいんだよな……。
「まあでも、そこは考えても仕方ないんじゃないかなー?」
「……それもそうだね」
シュリの言う通り、もう外見年齢に関しては、変えられるものじゃないんだから仕方ない。
けど、何か採用の確率を上げられる要因がないかな……。
法の穴を付くような方法でも良いから、何か……。
ん? 法?
「あ」
「どーしたの? 何か気づいた?」
「そうだ、ロステルでは猶予採用制を取ってるんだった」
失念してた。
猶予採用制取ってる都市なんて、ロステルくらいしかないから、すっかり……。
「あの、猶予採用制って……?」
「あ、ごめんごめん、しっかり説明しとくね」
ボクは前、本で読んだことがあるから知ってるけど、確かに、ロステルの外の人だったらあんまり知らないか。
『バベルの図書館』でボクだけが知ってて、他の人も知ってると思って、一人で話を進めてしまうのは、ボクの悪い癖だな。
「猶予採用制っていうのは、簡単に言うと、一週間お試しで仕事をしてみて、その後に採用するかどうか決めるっていう制度なんだよね。まあ、業種によって期間が違ったり、期間中に給与が渡されたりもするんだけど、それは置いといて。……とにかく、子どもだからって理由で、即日門前払いみたいなことはないってこと」
「あ、じゃあシュリみたいな、ちっちゃい女の子でも採用されやすいかもー、ってこと!?」
「そう!」
シュリは理解が速くて助かるな。
アイリスとは性格が似てるようで、大違いだ。
「外見年齢が低い分、体験期間中に評価を稼いで、なんとか採用してもらおうか」
「うん! 頑張ろー!」
さて、とりあえず、向こうでヘタと種ごとりんごを食べて苦い顔をしているアイリスにも、情報は共有しておこう。
アイリスにも、働いてもらわないといけないからね。
アイリスには、できる限り要点を絞って説明しないと、脳みそには入り切らない。
「就職」と言えば「チーター?」って返してくるし、「採用」と言えば「さいの角がどうしたの?」と返ってくる。
サバンナの奥地に追放してやろうかと思った。
まともに伝えても分からないし、むしろこっちが疲れるだけだ。
だから伝えるのは2文だけ。働いてください、と、猶予があるから頑張ってください、だ。
何度かサバンナに追放しそうになったが、最後には理解してくれて、説明する時間を半刻だけにすることができた。
たった半刻、これは快挙だ。
いつもならその倍はかかる。
シュリはその間に、昨日買い出しにいった時の食材で、簡単にご飯を作ってくれた。
ご飯ができても説明してたけど、シュリは説明が終わるまで待ってくれた。
本当に優しい子だ。
こんな子にまで、疲れた顔をさせるのが申し訳ない。
それなのに、アイリスは人の気持ちも知らず……。
なぜ無邪気に笑ってる……?
能天気な顔を見るだけで、無性にイライラしてくる。
……まあ、精神生命体のボクにとって、ストレスを溜め込むのは非常に良くない。
切り替えて、外に出る準備をしよう。
これから仕事先を探しに行かないといけないんだから。
変装用の服の中でも、なるべくきれいな服に着替え、ボク達は住宅地区を歩く。
拠点から出ると、ちょうど向かいの家の扉が開き、近所のおばあちゃんが出てきた。
リアは喋ったらまずいから、一旦黙っててもらって、ボク達は一斉に挨拶をする。
するとおばあちゃんは目を細めて挨拶をし返してくれた。
「引っ越してきたばかりなのに、挨拶の品が用意できなくて申し訳ない」と伝えると、「みんなみたいな子どもの笑顔が、一番うれしいよ」と言ってくれた。
天使として、一市民として、このおばあちゃんとは仲良くしたい。
就職以前に、ご近所付き合いは大事だと再認識した。
そして道中、男に絡まれた。
「家に遊びに来ない?」の時点で、ロリコンと断定。
来た道では真っ先に拠点に向かうため、こういう輩からは逃げていたが、今は時間もある。
シュリが問答無用でゼロ距離更生ビームを叩き込んだ。
いつもならこれで、我に返ってくれるんだけど……。
男は気持ち悪い笑みを浮かべ、「お触りしてくれてありがとうねえ、はあはあ」と言う始末。
当たらなかったのかと思って、シュリは何度も撃ってたけど、まるで効いていなかった。
あれ、クレ姉は更生ビームなら、結界を張ってても効くって言ってたけど……?
理由は分からないけど、とにかく、このままでは襲われてしまう。
ボク達は一目散にその場から逃げ、なんとか難を逃れた。
他にも数人、そういう輩が居て、同じく先制更生ビームを撃つんだけど、やっぱり効かない。
とにかく逃げるしかなくて、大変だった。
結局迂回しまくって、なんとか目的の地に着いたけど、もうその時には家を出て半刻は経っていた。
まっすぐ行けば家を20戸隔てたくらいの、結構近いところにあったはずなんだけどな……。
疲れにくいはずの体も、もうへとへとだ。
そうこうしてなんとかたどり着いた場所は、『リゲルの宮』
商業地区に比べれば見劣りするかも知れないが、住宅地区の中ではかなり大きいカフェだ。
ここで、シュリとアイリスを働かせよう。




