第7話 間話の緩和
ロステルはサフォーク王国の王都だ。
入ったことはないけど、見たことならある。
アイリスといっしょに見て、雰囲気に圧倒されて、ここは入るべきじゃないな、って引き返した覚えがある。
ともかく、見たことがあれば、もちろん場所もわかる。
方角も教えられてるから、迷いようはない。
クレ姉がいなくなってから、すぐにでも出発しようかと思ったけど、念には念を。
ボクは『バベルの図書館』で、サフォーク王国周辺の地図帳を取り出した。
クレ姉を疑うわけじゃないけど、確認はした方が良い。
結果として頭痛に苛まれたのは言うまでもないけど、必要なことだからしょうがない。
サフォーク王国は、オーベスト大陸の南東にある。
オーベスト大陸は、ずんぐりむっくりした数字の7みたいな形をしてて、サフォーク王国はちょうど、7の折れ曲がったあたりのところにある。
サフォーク王国には中央大陸への港もあって、オーベスト大陸で一番大きな国だ。
ボク達が奴隷として囚われていたのは、サフォーク王国の南部の、サウスダウンという街。
屋敷の付近は栄えていたけど、田舎寄りの町だった。
クレ姉さんに言われた通り、王都ロステルは東北東にまっすぐ。
クレ姉の話に間違いないがなかったことを確認して、ボク達はいよいよ出発した。
ロステルまでは、道が整備されているわけではない。
人間なら、少し迂回はしても、迷わず街道を使うんだろう。
まっすぐ、なんて案はまず出ない。
けど、ボク達は空という移動手段がある。
街道がないなら、むしろ目立たないから好都合なくらいだ。
気候は温暖湿潤で、何もない平原と耕された田んぼや畑が交互に来るだけ。
険しい道があっても、空なら何も関係ない。
道中には色々な自然があった。
不思議な形をした木だったり、地平線に沈んでく太陽だったり、山にかかる分厚い雲だったり。
獣が一つとしていない、のどかな平原が続いていた。
そんな光景を見るたびにアイリスとシュリは騒ぎ、普段は静かなリアも楽しそうだった。
ボクは大自然を感じるたびに、自分のちっぽけさを知った。
同時にサウスダウンでも感じたように、ちっぽけな存在にも大きな物が内包されてるんだよな、とも思う。
自分はどうなんだろうと思ったときに、ボクはそんな大した天使じゃないな、と再認識する。
いつかは、誇りある天使になる。
ボクはそんな決意をさせてくれた大自然、ひいては自然の父 モクレン様に感謝した。
人間の村には、ロリコンが少なからず居た。
田舎も田舎とはいえ、ロリの侵食は進んでいたのだ。
見かけた瞬間、先制更生ビーム……といきたいとこだけど、そうはいかない。
なぜなら、シュリの更生ビームはノーコンだから。
1回何もないところで試し撃ちをさせてみたところ、それはそれは酷いものだった。
適当な木に、適当な円を描いて的を作り、それに向かって撃ってもらって、大体どれくらい当たるのか数える。
まあ10回に1回当たれば良い方くらいかな、みたいなそんなふうに予想してた。
いざやるってなったとき、シュリは目をキラキラさせて、がんばると意気込んでた。
「1発で当てるよー!」と。
1発目、空に打ち上がる。
2発目、地面に刺さる。
3発目、自分に被弾する。
300発以上やって、やっと木に命中させることができていた。
大体、ボクが屋敷に居たときに、一日中怒られずにいられるくらいの確率だ。
……うん、自分で言ってて悲しくなってきた。
そんなシュリがどうやって更生ビームを当てるかっていうと、方法は一つ。
ゼロ距離で撃つのである。
シュリは男を見かけると、まず物陰で様子見に徹する。
「最近調子はどうだい?」
「まあまあってところ」
「畑でキャベツが採れすぎたんだ、今度あげるよ」
「ありがとう」
まあここまでは、だいたいどこでも同じ会話だ。
「息子さんがめずらしい虫を見せてくれてね、お礼を言っといてくれないか」
と続いたら、まあ大丈夫。
「娘さんの調子はどう? 庭で育てた花にボクの髪の毛を詰めて送るから、今から家に行くよ」
と来たら、シュリは飛び出していって腰のあたりに人差し指を突き刺し、「気持ち悪い」宣言をしながら先制更生ビーム。
そこまですれば、たとえノーコンでも、何があっても当たる。
……たまに2回以上「更生ビーム」と言ってるのは気のせいなはずだ。
そうやってシュリは浄化活動を続けている。
ただ、そんな七面倒臭いことするくらいなら、手当たり次第更生ビームをめり込ませたり、大規模魔法を使えば良いんじゃないかと思う。
実際に聞いてみたら、シュリは、「気持ち悪いって思うのが重要なんだよ!」と元気に教えてくれた。
魔法の発動が感情に起因することがあるっていうのは、確かにどこかで聞いたことがある。
情報源は本だったか、エキナセア様だったか……。
ともかく、もしシュリの話が本当なら、シュリが人間に丁重に接しないのは、魔法の発動に必要だからなのかもしれない。
気持ち悪いと思った相手にしかビームが撃てないなら、この発動条件も、ある意味弱点と言えるかもしれない。
ま、300回試し撃ちできてた時点で眉唾だけど。
シュリがそれで良いのなら、世界が浄化されるなら、それで良いんだろう。
もちろん、ボクとアイリスも負けちゃいない。
世界浄化以外にも、天使としての使命はまだあるから。
ボクの使命は、人間に正しい知識を伝えること。
奴隷になる前、『バベルの図書館』で農作に関する知識は結構つけたから、それを教えることにした。
田舎の村ともなると、都会の最新情報が流れてこない。
独自の方法で農作して作物を死なせてしまったり、効率の良い水の引き方が分かってなかったりと、一目で分かるくらい問題が山積みだった。
一番問題だったのは、器械を使っていなかったこと。
別に、使い方が村に伝わっていないわけではない。
村長に使い方を教え、村に持ち帰って教えるという形を取っていた。
ただ、その村長が新しいものを嫌う、「これまでできてたんならそれで良い」主義だったので、器械は蔵の奥に押しやってたらしい。
長く滞在できるわけでもないしと思って、とりあえず器械の使い方を教えた。
すると脱穀のスピードが爆速になり、すごく感謝された。
村長は交代するかもしれない。
他にもできるかぎりの知識は伝えると、その知識一つ一つに涙をながして喜んでくれた。
やっぱりロリコンさえ居なければ、ボクも楽しく活動できる。
ボクは久しぶりにやりがいというものを感じた。
奴隷時代のストレスも、少しずつ緩和してくるといいな。
アイリスは主に力仕事で人助けをしていた。
でも、アイリスの魔法はごく短時間。
長時間畑仕事を手伝うとなると、素の体力が必要になる。
いくら精神生命体とは言え、ない筋肉から力は生まれない。
アイリスは奴隷生活で体力がなまったのか、力が弱くなっていて、重い道具を持てないことも見受けられた。
……力のアイリスのクセに。
ただ、アイリスは体を動かすこと自体も好きらしくて、喜んで畑作業を手伝っていた。
魔法もたまに使って、大量の作物を一気に運んだり、人間竜巻をしたりもしていた。
魔法を使うたびにレインボーに光るから子どもにも人気だった。
アイリスも子どもみたいなものだしね。
……ボクが大人にしか好かれなくたって、別にいいんだから。
そんなこんなで、2日間夜通しで飛んで、人間の村で食料を買って人助けをし、次の平原で食べる、ということを繰り返して移動していった。
ボク達は、街道沿いに進んで1ヶ月はかかる距離を、10日で踏破した。




